16、魔域に吹き荒れる一陣の嵐・・・そして
16、魔域に吹き荒れる一陣の嵐・・・そして
ポリア達は、見た。
「はあ、はあ、居たわっ!!!」
そこは、開けた一帯だ。 木々がなぎ倒され、辺りの視界の開けた林の切れ間。 たどり着いた一行のずーっと先、Kがユラユラとコートの裾をはためかせて立っていた・・・。
そして、Kの先には・・・、一つ目の巨人サイクロプスが居る。 高い・・・背の高さはオウガの三倍は有るだろう。 林の木々より高くて、頭や肩が見えてしまう。 長い牙が口からはみ出して、ギョロギョロとした一つ目の大きいこと。 しかも、そのおぞましき鬼気迫る顔も、異常にギョロギョロ動く眼も、何もかもが見る者に畏怖を与える。
ポリア達は、此処にもモンスターの倒された無数の死体を見る。
「怪我・・・無いみたい・・」
見るKは、一番長い刃渡り五十センチどうかという短剣を持っている。 あの短剣、見たところに刃毀れも歪みも無い。 コレだけのモンスターを斬り払って、有り得ない。
「おい、動き出したぞっ!!!」
“ズシーーン!!! ズシーーーン!!!”、地響きを起こして、サイクロプスがKに向かって歩き出す。 巨体故に、Kを見下ろす様はもう子猫を人間の大人が見るようなモノだろう。
「ああっ」
「消えたああっ!!」
サイクロプスの影がKに掛かった時、走り出したKの姿は消えていた。
―オウウオオ・・・・―
サイクロプスが動きを止めた時、
「ああああああっ!!!」
「足元っ」
サイクロプスの足元に、ユラ~リとKの姿が見えた。
―ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!―
大地を揺るがす程の雄たけびを上げて、サイクロプスがKに掴みかかって行く。
ポリア達は、あまりの大声に動けない。 耳を塞いで、屈んで見るしかなかった。
しかし、Kを掴んだかに見えたサイクロプスだが・・・。
―ウガガ・・・―
開いたサイクロプスの手には、Kの姿など無い。
そして、サイクロプスはそのままの体勢で動かなくなった。
「?」
「どうした?」
「う・・動かない・・・ぞ?」
と、皆が見た中で、ポリアは・・。
「巨人の・・・肩に・・・ケイが・・」
そう、太陽に照らされて、巨人の肩に佇むKの姿が見えた。
そして、・・・・・・・・・・皆は息を呑んだ。 小石を転がすかのように微風にて落ちるサイクロプスの首が地面に転がった。 遅れてグラリと傾いた巨体の身体が首の前にのめるように崩れる。
「・・・・」
Kは、落ちる前に飛び退いて、地面に着地した。
それからだ。 サイクロプスの落ちた頭の目がギョっとして、身体がもがいて転がって動かなくなったのは。 ドバッと噴出した青緑色の血が、サイクロプスの死を物語る。
全員は、夢を見ているような気分だった。
Kが、ポリア達の目の前に歩いて来て、
「おい、何固まってんだ」
誰も、声など・・・出ない。
Kは、辺りを見てから、
「行くぞ、モンスター共が寄ってくる前にな」
ポリアは、震える声で。
「ね・・ねえ・・アレだけ斬って・・・何で刃毀れも無いの・・・?」
歩き出すKは、
「剣で斬ってないからだ」
コールドは、理由が解らずに畏怖と恐怖に怯えて。
「有り得ないだろうがっ!!!」
と、上ずった叫び声の様な声を上げた。
するとKは、ピタリと立ち止まると。 振り向かないままに。
「足手纏いのヒヨコが、無駄口か。 なら・・・教えてやる」
空気が張り詰めた。 先ほどの戦闘の緊張感など、生温く感じるくらいの緊張度だ。 誰もが生唾を飲み、黙りこくった。
Kは、向かう先に、亀、獅子、山羊の大きな顔を持ち、トラの様な姿の十メートル近い巨体を有するモンスターが歩いて来るのを見て。
「いいか、アレがキマイラだ。 魔法の暴走によって生み出された魔界の凶獣。 異常にデカイ顔は、火炎と、酸の霧のブレスを吐く。 ま、ポリアやゲイラー達には敵わない難敵だ」
Kは、ゆったりとした歩調で歩き出す。
「だが、あんなのは俺には雑魚、剣なんてのは斬るから刃毀れする。 剣で斬らなきゃいいんだ。 こんな風にな」
Kに近寄ったキマイラの獅子の顔が、カッと開けた口。 灼熱の炎が沸き立ち、火炎の波が吐き出された。 火炎のブレスがKに届きそうになった瞬間。 Kの剣を持つ左手が掬いに振り上がっていた。
「あ゛っ」
一斉に皆が声を上げたのは、斬ったKの剣の動きは見えなかったが。 斬った剣の剣圧なのか、キマイラの噴出した火炎のブレスが真っ二つに斬り裂かれて行く。 しかも、斬られるブレスはキマイラの元まで地走る衝撃波を伴って斬り裂かれて行き・・・。
―ズバアアアっ―
丸で、大木を上から唐竹割りのように真っ二つに斬り裂く音が轟音を上げて、キマイラは二つに斬られた。
ドスンと地響きを伴い、キマイラは左右に倒れる。
鮮やかで、恐ろしい手練だ。 ゲイラーもダグラスも言葉が出ない。
Kは、皆を見ると。
「剣圧で斬れば、剣は傷など付かない。 解ったか?」
コールドは、怯えや恐れ多いながらに必死で頷いた。
「なら、行くぞ」
言うKの声が・・・さっきの林の中に消える前より、低くて心に刺さるような響きに変わっている。 これが、彼の本領なんだと思った。
歩き出した一行は、Kの恐ろしい手練と夥しいモンスターに対する緊張で麻痺していたが、疲労は溜まってきていた。 汗が滲み、黙る一同。
Kは、歩く林の中でモンスターの気配を先読みして、ポリア達に手の余るモンスターは瞬く間の一撃で斬り倒す。
そして、だ。 明らかに樹齢の異なる一際大きい二股に分かれた幹を持つ大樹の前に来る。
Kは、此処で止まった。
「リーダー、どうした?」
聞くボンドスに、合わせてKは振り向くと。
「いいか、この木の後ろ真直ぐに祠がある」
ゲイラーは頷いて、
「どうした、問題があるのか?」
「ああ、大問題」
フェレックは、オドついた表情で。
「な・・何だ?」
Kは、ピースサインの右手で。
「問題は、二つ。 一つ、祠の中に人の気配がしてる」
ポリアは、驚いて。
「生きてるのねっ?」
「ああ、だがモンスターが人の匂いを嗅ぎつけて祠の周りに屯ってる。 問題の二つ目。 こっちに、サイクロプスが一匹と大型モンスターが向かって来てる」
「な!!!!!」
全員が驚いた。
マルヴェリータは、気付いた。
「手分けね」
頷くKは、
「ただ、祠の前にモンスターの死体を残すのは不味い。 だから、なるべくおびき寄せないと」
その時、
―ウガアアアアアアーーーーーーーーっ!!!!!―
全員が、声のした西側の方角を向いた。 サイクロプスの雄叫びの様な声が・・・。
ポリアは、険しい顔で。
「そんなに遠く無いわ・・・」
ダグラスは、ここ一番の真剣な顔で、
「祠のモンスターは? 規模は?」
「オウガが1匹いるな。 ・・・あとは、倒せるモンスターばかりだ。 数は、ざっと四十匹前後。 戦う間に、嗅ぎつけて来るモンスターも含めて五十と思っていい」
ゲイラーとダグラス、見合って頷く。
ゲイラーは、Kに。
「行ってくれ、祠のモンスターは俺達が。 せめて、ちょっとは格好つけたいからな。 リーダーが帰って来るまで、救世主気取りにさせてくれや」
Kは、口元を微笑ませると、
「解った、任せる。 祠には、モンスターは入れない。 怪我したら、無理はするな。 僧侶は皆、祠に急いでくれ。 どうも、重体の奴がいる。 死に掛けの感じだ。」
マクムスも、薄っすらと人の気配を感じるのか。
「任せて下さい。 貴方が戻るまでには、手当ては怠りません」
Kは、斜め左の林の方に歩み出して。
「いいか、協力すれば、オウガでも勝てる戦力だ。 無理や無駄をするのではなく。 上手に分断して戦え。 死ぬなよ」
と、言った瞬間に、フワリと消えた。
「はっ・・・」
皆、Kが飛んだ気がした。 跳躍したのだと、ようやく解った。
直ぐに、ポリアは。
「じゃ、私が行くわ」
ダグラスは、驚いて。
「おいおい、何をっ」
ポリアは、ダグラスや皆を見ると。
「多分、オークが居るはずよ。 オークは、女性の匂い・・・言うの恥かしいけど。 月に一回来る生理の匂いを感じて色めき立ってるみたい」
男性陣は、ピタリと全員固まった。
ポリアは、その雰囲気が気に入らなかったが。 続けて、
「マルタじゃ、走ったら疲れるから。 アタシがおびき寄せてみる。 Kは、今、上手く分断しろって言うから、オウガをソロに出来れば十分に勝機あるわ。 システィやマクムス様、そしてハクレイさんが、モンスターと入れ換わるように祠に向かえばいいでしょ?」
イルガは、困った顔で。
「しかし、お嬢様・・・」
「イルガ、Kの話を思い出して。 オークは鼻がいいから、ギリギリまで近づく必要無いハズ。 オークが動けば、他のモンスターも動く。 迎え撃つ形でやった方が、群れに飛び込むよりマシだわ」
マルヴェリータは、ポリアを見て。
「オークの花嫁になるとこ、見てみたいわね」
「ウッサイっ」
と、ポリアは言ってから、額に汗で付く髪を指で避けて。
「とにかく行くから、システィやマクムス様も祠に第一で行ってね」
「解りました」
「は~い」
ポリアは、そっと大樹の陰から向こうに回った。 Kの言う事が間違いなく、今までのモンスターの群れを見て、祠の周りに居るモンスターの大半がオークだと悟ったのだ。
そして、木の陰になるように、林の中を歩いて行く。 まだ夕方まで時間があり、林の木々に降り注ぐ日の光が木漏れ日となって、視界はハッキリしていた。
ポリア、木を伝いに七本ぐらい先に行けば、遠く見える所に切り立った崖が見えて、穴がポッカリ開いていた。
(あった・・・しかも・・居るわ~)
祠の周りには、オーク達がウロウロしているし。 ドラコエディアが木々の木陰にとぐろを巻いて休んでいるのも見える。 祠の周りの絶壁には、ウネウネとタコのエビルオクトパスが何体も徘徊している。
そして・・・、緊張した。
(い・・・・居る)
祠に近い大樹の幹に寄りかかり、グースカと大きな身体の怪物が寝ている。 オウガだ。 しかも、昨日の夜に見かけたオウガに似ている。 ポリアは、今日。 モンスターを沢山見て、初めてモンスターでもそれなりに“顔”と云うべき微妙な違いがあるのだと知った。
寝ているオウガは、耳の伸びた先が折れ曲がっていて、しかも口から伸びる牙の右側の牙の先が虫歯のように黒ずんでいる。
(昨日見たオウガだわ・・・大きい・・・ゲイラーの二倍強はありそう・・・)
ポリアが窺っている時、緩やかに風が南風に変わりつつあった。
―グゲ・・ゲググー
ポリアに最も近い、五メートル程先のオークが、頻りに匂いを嗅ぎだした。
(あ・・気付いた・・・・)
ポリアは、木の陰に成る様に、ソロソロと後ろに後退して行く。
―ゲグググっ。 ゲグゲグ・・・。 ッゲゲグゲ―
何体かのオークがなにやら言い合っているような素振りになり、ポリアの居た方に歩いて行く。 ポリアが、ある程度の距離でまた木の幹に隠れて窺う中、オークはポリアの居た木の根元まで来て、また執拗に匂いを嗅ぎだした。
見ているポリアは、オークの口から透明な粘液が垂れたのを見て。
(うえええ~汚いっ。 でも、アレは興奮して気付いたっぽいね。 下がろう・・・)
ポリアの見方は、的中。
―グゲグゲグゲエエーーーーーっ!!!!!―
オークの一匹は、大声を上げる。
祠の周りのオーク達が一斉に声を上げたオークを見て、途端に走り出した。
ポリアを追い駆けるオークは総勢三十近く。 オークの姿を見たエビルオクトパス・ドラコエディアも起きて動き出す。
一方、皆の待つ大樹の元に走り寄ったポリアは、
「オークが来るわっ!!! みんな出てきてっ!!!!」
ダグラスは、もう気が悶々としていたので、イルガより先に飛び出して。
「ポリアっ、でかしたっ!!!!」
と、見た瞬間。 わらわらと来ているオークの群れに。
「うげえ、フェロモン有り過ぎじゃね?」
イルガは、真顔で。
「お嬢様の美しさは、世界共通と云う訳だ」
と、迎え撃ちに走った。
ゲイラーは、マクムスやシスティアナ、ハクレイを守りつつ出た。
マルヴェリータは、ポリアの後ろにオウガが見えなくて。
「ポリアっ、オウガは?」
皆に合流したポリアは、オークに向かって、
「向こうでまだ寝てるわ。 そのうち起き出すわよっ!!!!」
フェレックは、杖を振り上げて。
「よし、雑魚だけ片付けちまおうぜっ!!!!」
と、無数の鎌を呼び出して、先手とばかりにオークに薙ぎ払った。
レックの矢が、次々とオークの手に刺さり棍棒を落とせば、デーベのトゲ棍棒が唸りを上げてオークをブっ飛ばす。 イクシオの生きているような鞭に打たれて、オークはもんどりうったり、ひっくり返ったり。 ポリア・ダグラス・コールドが次々と止めを。
「いくぜえっ」
「助太刀する」
「よしっ」
ボンドスの切り込みに、イルガが参戦。 脇には、セレイドの姿も。
全力の応戦は、オークには不意打ちにも似た混乱を呼んだ。 しかし、オークが八割ほどやられた所で、後から来たタコやドラコエディアの集団で大混戦に。
「ウオりゃーーーーっ!!!!」
ゲイラーがタコと互角に戦えば、ドラコエディアの立て続けの火炎ブレスにイクシオやコールドはタジタジになって逃げ回る。
「せいやっ!!」
ポリアが跳躍して飛び込み、ドラコエディアの頭に剣を突き立てて倒せば。 そのポリアを掻っ攫おうとオークが飛び掛って押し倒す。
「きゃああっ、ちょっとっ!!!!!」
鎧の上から、胸を掴まれたポリアは、もがく。
「・・・」
ヘルダーが走りより、鋭い蹴りでオークの股間を蹴り上げた。
―グオオオオオオオオォォォ・・・・―
オークは股間を押さえて、悶えるように転がっている。
「ありがとう」
起こされたポリアはヘルダーに笑って言うと、転がってるオークを見て。
「キサマああああっ、無礼を償う覚悟は出来ておろうなぁぁっ!!!!!!」
と、貴族言葉をむき出しにして斬り掛かった。
ヘルダーは、変わったポリアの余りにも激しい言葉に、
「・・・・」
キョトンと。
ダグラスは、弱点の解っているタコの相手をしながら、
「レックっ、タコは後ろの白い足が弱点だあっ」
レックは、スッと矢を番える。
その横には、キーラが居て。
「助太刀します」
キーラの顔を見たレックは、その真剣な眼差しに。
「成長したじゃないか、よろしく頼む」
と、矢を放った。
「魔想の力よ、その多き飛礫で我が敵を討て」
キーラの頭上に、マルヴェリータが先ほど放ったのと同じ小石の集まりが現れる。 マルヴェリータに比べると、数は少ないが。 集中してるのか、形はしっかりと成している。
「行けっ」
キーラの魔法は、タコの急所を狙ったり、イクシオやコールドに向かうデラコエディスの火の玉を粉砕したり、ゲイラーに襲い掛かるタコの触手を攻撃したり。 攻撃を補助に上手く使い始めている。
実は、Kが先ほど合流してから、キーラに言ったのだ。
“魔法は、相手を攻撃するだけに見えるが。 使い方次第では、防御も出来る。 どう上手く使ってチームを支えるか。 本人の目の付け所が、使い方に繋がる。 覚えておけ”
キーラは、マクムスやシスティアナが祠に助けに行けば、癒し手が減ると認識し。 仲間を守る魔法の遣い方に切り替えてみた。 だが、これはとても神経を使う。
「はぁ、・・・次は」
周りを見るキーラの額は、汗で濡れていた。
レックは、キーラを気にしつつ。
「いいか、無理はするな」
と、またタコの急所に矢を放ち、直ぐに番えた二の矢でオークの背中を射た。
さて。
オークやタコなどの背後にようやく回ったマクムスやシスティアナ達。 一緒にいるのは、マルヴェリータと、道を切り開いたヘルダー。
「はっ・・・」
マルヴェリータは、祠に向かう前方にオウガが来ているのを見た。
「うわわ~、きょじんさんです~」
「なんと、今来たか」
システィアナもマクムスも慌てた。
ヘルダーが、向かおうとした瞬間。
「待って」
マルヴェリータが留める。
「・・・・」
ヘルダーが、麗しき美女を見た。
「私が、アイツの動きを止めるから。 ヘルダーは後ろから敵が来ないようにして」
マルヴェリータは、マクムスやシスティアナやハクレイを見て。
「いい、魔法が成功したら。 オウガは一時的にね、眼が見えなくなるわ。 その隙に、祠に走って。 チャンスは、この一回よ」
マルヴェリータは、ジョイスのような大魔導師では無い。 だから、オウガ相手にも放てる魔法に限りがある。 モタモタして仲間にオウガが当たれば、怪我人は必死なのだ。 だから、ワンランク上の魔法に挑戦しようというのであった。
マクムスは、緊張して。
「マルヴェリータさん、一体何を?」
マルヴェリータは答えずに、オウガの方に向いた。 瞳を閉じて、両腕を交差させて小指と中指だけ立てて神経を集中する。
(確か、ジョイスさまの得意分野・・・魔想魔術の真髄の入り口の魔法は・・・幻想呪術・・・・)
マルヴェリータの気持ちが、グッと一点に集中する。 そして、カァっと見開いた。
「創造せし幻惑の力は、想像されし意思の力。 彼の者に魔想の幻を魅せよ。 “ミラージュミラー・カレイドスコープ”」
マルヴェリータの周りに一瞬紫色の電流が光り、マルヴェリータの瞳が紫色に染まる。 そして、マルヴェリータが杖をオウガに振り向けた。
刹那・・・・。
「うわっ」
ハクレイが驚いた。
マルヴェリータの杖から、紫色の蛇が現れ。 空をうねって走り、オウガの両目に向かって飛びついたではないか。
―グオオオっ!! オオガガアアアっ!!―
オウガは、俄に唸り声を上げて眼を擦ったり、目蓋を腕で拭ってみる仕草をし出した。
マルヴェリータはその場にガクリと膝を着く。 大粒の汗を噴出して、脱力してしまう。
「はあ、はあ、はあ・・・い・・行って・・・」
「しかしっ、キミも動けないだろう。 あんな高等魔術を使って。 さ・・」
マクムスは、マルヴェリータの遣った魔法は見た事がある。 だけに知っていた・・・その難しさを。
「ハクレイ、彼女と一緒に祠に向かいます」
ハクレイは、慌てて驚き。
「あ・・あっ、は・ハイ」
システィアナは、直ぐに。
「では~さきにアナさんにいきます~」
システィアナに、マクムスは頷く。
マクムスは、ヘルダー以下皆に。
「マルヴェリータさんが、幻視の術でオウガを止めていますっ!!! 早く他のモンスターを倒してっ!!!! 先に祠に向かっています」
「おう!!」
男達が合図を。
ポリアが、マルヴェリータとマクムスのところに来て、
「祠まで着いて行くわ。 マルタ無茶したわね」
マルヴェリータは、朦朧としていたが。
「フッ・・・」
口元を微笑ませた。
こうしてオウガの脅威が去った訳では無いが。 足止めは出来た。 オウガは、見えない事に恐怖を感じたのか暴れだした。 見当違いの方向に暴れだしたからいいが。 逆に言えば近づけない。
―ウガアアアっ―
殴った先の木の幹がへし折れて、蹴っ飛ばす岩を転がした。
「・・・」
ヘルダーは、近づき難い暴れるオウガを捨てて、他のモンスターに斬って掛かった。
さて、祠に近づいたシスティアナは、横の木の陰から現れたオークに驚いた。
「わわわわ~ブーさんだぁ~」
オークは、システィアナに飛びつくも、かわされる。
「やっぱり居たっ」
ポリアは、システィアナに向いて背中を見せるオークをバッサリ。
「あやや~ポリアあ~り~がと」
「早く行ってっ」
「は~い」
祠の方に、システィアナが走る。
マルヴェリータを抱えたハクレイとマクムスも、ポリアに見守られて祠の中に。
「あ~あ~あ~いきてましゅ~」
祠に入ったシスティアナは、祠の中に横たわってる冒険者達を見つけたのだった。
「あっ・・・・・だ・・だれ?」
祠の入り口から入って降りの先。 大きい洞窟の壁に、汚れた白いローブの女性が凭れて座っていた。 声に気付いて、システィアナを見て言った声はか細い物だった。
「オリビアさま~、助けにきましたよ~」
システィアナは、大人びた女性を覗き込む。
「ああ・・あああ・・・たっ・・助けが・・・」
埃と汚れでローブを黒くしている女性が喜びの声をあげた。
そこに、マルヴェリータを連れ込んでマクムスとハクレイが入って来る。
「皆、生きているかっ?! 助けに来たぞっ!!!」
マクムスの声。
奥の寝かされた冒険者達の中で、汚れた黒っぽいのローブ姿の男が掠れた声で。
「と・・とう・・さ・・ん・・」
と、呟く。
壁に凭れ座らされたマルヴェリータは、腰の布袋にソロソロと手を伸ばして。 袋の上から。
「ふ・・ふうじられし・・・ちから・よ・・あ・・明かりを・・・・」
Kから貰っていた、あの明かりの魔法を閉じ込めた小石程の水晶だ。 マルヴェリータの袋が急激に光り、気付いたハクレイが近寄ると。
「ふく・ろ・・に、あ・・明かりの・・・」
頷くハクレイは、
「解った。 ありがとう、もうやすみなさい」
マルヴェリータは、頷いて気を失った。
さて、ハクレイとシスティアナとマクムスが見て、驚くべき事に全員が生きていた。
ただ・・・。
「うぬ、リーダーの男が居ない・・・・」
ハクレイが、言った・・・・。 赤い鎧を着た大剣遣いのリーダーがサーウェルスの姿が見えなかった。
さて、ポリアは、皆が祠に入ったのを見届けて、戦いの中に戻った。
「あ・危ないっ」
戦いの騒ぎに、またオークやら蜘蛛のモンスターが新たに現れていた。 大きさが五メートル近い、毒々しい赤紫色の大蜘蛛である。
ポリアは、ゲイラーの背後に回った蜘蛛に近寄って、
「はっ、えいっ」
水平の斬りから、回し斬りにて足の一本を切断して、飛び退いた。
最後のオーク二匹を撫で斬りにしたゲイラーは、ポリアに気づいて。
「ありがとよっ、戻ったか」
「ええ、マクムス様達は祠に辿り着いたわ」
頷くゲイラーは、蜘蛛を見て。
「よし、さっさと片付けよう」
すると、ポリアは。
「コイツはダメよっ。 ケイの話に有った毒蜘蛛だわ」
「あ・・どうする?」
そこに、フェレックが。
「俺に任せろ、向こうでオジン共が苦戦してるぜ」
二人の見たフェレックは、やや息の上がった疲労に滲む顔。
ゲイラーは、蜘蛛を牽制して、足をまた一本斬り落としてから離れて。
「疲れてるな~大将」
すると、フェレックは杖を振り上げて、
「うるせえっ」
と、魔法を。 頭上に幾つもの魔法で出来た剣を生み出して、動きの鈍った蜘蛛に突き刺した。
だが、蜘蛛の体液が猛毒なのだ。 ゲイラーは距離を置いたが。 フェレックは魔法に集中しすぎて、距離が幾分近かった。 魔法が炸裂して、蜘蛛の身体を突き破る。 その飛び散った赤紫色の体液が、フェレックの腕に。
見ていたのは、ポリアだ。
「あわわわバカっ!!!!」
「あ?」
フラフラのフェレックに近寄ったポリアは。
「体液が毒だってケイが言ってたでしょっ!!!!!!」
「あ・・・やべえ」
フェレックは、もう力の無い様子で座り込む。
「おいおいっ」
ゲイラーも近寄って、二人でローブを切り裂いて捨てたのだが・・・・。
「あ゛あ゛・・・いでえええええっ!!!!!」
フェレックが絶叫を上げた。 毒は強烈な酸も含む。 皮膚に付着してしまったから、皮膚の表面を溶かし始めたのだ。
ポリアは、ゲイラーに直ぐ顔を向けて。
「セレイドさんを呼んでっ」
ゲイラーは、痛みに苦しみ出したフェレックに驚いて狼狽した。
ポリアは、もう一度。
「早くううううっ!!!!!!!!」
「ああっ」
ゲイラーが立ち上がり、最後のオウガ以外のモンスターと戦うセレイドを呼ぶ。
ポリアは、セレイドが気付いたのを見て、
「ゲイラー、セレイドさんと代わって。 オウガもそろそろ魔法が解けるわ。 見て、闇雲に暴れていたのが、変わって来てる」
「何?」
ゲイラーは、見る。
オウガが、また眼を擦ったり、拭ったりしては戦う者達を見て、また眼を擦る。
「チッ、もうか」
ゲイラーは、大剣を手にオウガに走って行こうと・・。
其処にポリアは、ゲイラーの気持ちに気付いて鋭く激しく。
「一人で戦っちゃだめっ!!!!!! ケイの言う事を思い出してっ!!!!」
ゲイラーは、その場に立ち止まった。
「そんな今更っ、じゃどうするんだっ!!!!」
「私に考えあるからっ、後二匹のモンスターを排除してっ」
セレイドが、ポリアやゲイラーを見ながら。
「どうした、何が?」
と、やってきた。 腕を押さえて痛がるフェレックを見る。
ポリアは、もう時間がないので。 腰からナイフを取り出して、
「痛いけど、最善の方法でいくからね」
フェレックは、痛がりながら頷き、セレイドは二人を見る。
いきなり、ポリアはフェレックを斬った・・・。
「うぎゃあああああっ!!!!!!!」
フェレックの大絶叫。
「なんだ?」
「あ?」
皆が、見る。
「おいっ、なにするんだっ!!!!」
セレイドも、驚いた。
地面には、薄皮のフェレックの皮膚が切り取られて落ちている。 薄っすらと、肉も・・・。
ポリアは、セレイドを鋭く見て。
「毒よっ、触れた皮膚を剥いだの。 直ぐに魔法で傷を塞いで」
セレイドは、頷きつつも事態を理解するのに戸惑った。
ポリアは、剣を手に立つ。
(力を合わせれば、オウガでも勝てる戦力だ)
心の中でKの言葉を反芻した。
―シギャーーっ!!!―
イクシオが鞭で絡めたドラコエディアの動きを封じて、ボンドスとゲイラーが斬って倒し。
最後のタコのモンスターのエビルオクトパスは、ダグラスとヘルダーが倒した。
遣って来たポリアは、イルガとコールドが怪我だらけで、キーラがもう失神寸前。 デーベが、棍棒を杖代わりにしているのを見て。
「戦える者だけで、オウガをやりましょう」
ボンドスは、大きく息をしながら。 引き摺る足と、肩を抑える。 骨折していたのに、無理したのだ。
レックが、掠り傷のある顔で。
「どうやって、みんなで束になってか?」
ポリアは、先ずレックに。
「レックさんっ、オウガの眼を射抜いて」
レックは、驚いてポリア見るが・・・・頷く。
ポリアは、ヘルダーとダグラスに近寄って。
「オウガが眼をやられたら、足を私と一緒に斬って」
そして、ゲイラーに向くと。
「ゲイラーっ、オウガの体勢が崩れたら心臓を狙って。 大剣で一気に」
ゲイラーは、オウガを見て頷く。
「お・・俺は?」
顔や足に切り傷のあるイクシオが、肩で息しながらポリアに声を掛けた。
「出来れば、オウガを尻餅つかせたいの。 ゲイラーが心臓を突き刺せるように・・」
イクシオは、汗と汚れの混じる汗を流しながら頷いて。
「オーケー、それならやれるかもしれん」
ポリアは、オウガを見て。
「ケイは、もっと凄いモンスター倒してる。 せめて、オウガくらいは倒さないと、チーム名に箔がついても格好つかないわ」
ダグラスは、最後の気力を込めて息を整えながら。
「ああ、やってやるさっ」
ポリアは、レックを見て。
「やってっ」
レックは、
「解ったっ、行くぞっ」
と、踏み込んで矢を番えた。
一気に、ゲイラー以外が動いた。
イクシオは、オウガの後ろに回るように走り。 ポリアとダグラスは、オウガの右に。 ヘルダーは、オウガの左へ。
この時オウガが、目を擦るのを止めてゲイラーとレックを見た。 見えたのだ。
―ウガア・・・―
同時に、“ヒュっ”っとレックの矢が放たれ、向いたオウガの左眼にグサリと刺さる。
―アガアアアアっ!!!!―
オウガは、いきなり事に驚いた。 左目に刺さった矢を引き抜くと、不気味な色の青く黒ずんだ血が流れ出た。
レックが、更に右目を狙う中。 ポリア・ダグラスと、ヘルダーが頷き合って左右からオウガの足に襲い掛かった。 大きいオウガだ。 ポリアの背丈は、まだ膝にも達しないくらい。
「うおりゃああっ!!!」
ダグラスが脹脛に斬り込めば、青緑色の血飛沫が飛ぶ。
―ウガアアっ!! ウガッ!!!―
オウガが痛みに怒り、もう闇雲に暴れ出す。
ポリアが向こう脛を斬る時、ヘルダーがオウガの地面に着こうした左のアキレス腱辺りを斬った。 グラッとオウガの巨体が揺らいのだが、直ぐにオウガの跳ね上げた左足の踵がヘルダーに当たり、蹴飛ばされる形で吹っ飛ばされてしまう。
「ヘルダーっ!! チキショウめっこのっ!!!!」
ダグラスが、右のアキレス腱に全力の突きで剣を深深と差し込んだ。 ポリアも、走り抜ける形で、ヘルダーの斬った左のアキレス腱の血の出ている所を再度斬る。
オウガが、バランスを崩して両膝を地面に着こうとした時。
「そっちじゃねえ!!!!」
イクシオが、オウガの首に鞭を絡めた。
「うおおおおおおおおおっ」
渾身の力で引くイクシオに、
「加勢するっ」
と、セレイドが加わった。
「一気にひくぜえええええっ」
二人掛りで、オウガをグィっと引っ張った。
―アガアっ!!―
バランスを崩したオウガは、ドスンと後ろに尻餅を着いた。
ポリアは、全身の力を振り絞って、
「ゲイラアアアアアーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」
そのタイミングは、正にドンピシャだった。
「解ってらああああああああああああーーーーーーー!!!!!!!」
やや大剣を上向きの脇構えの体勢のままに、怒声の咆哮を上げてゲイラーは、オウガの心臓目掛けて渾身の突進突きで飛び込んだ。
“ドサっ!!!”
辺りに、突き刺さる音が響いた。
オウガは、まだ見える右目をこれ以上開けないほどに開いて、
―ギギャアアアアアアアアアーーーーーーっ!!!!!!!!!!―
と、凄まじい大声を爆発させる。
誰もが、オウガとゲイラーを見た。
・・・・・・・グラリと、オウガの身体が後ろに倒れた。 “ドスン”と地響きをさせて、最後のモンスターは倒された。
「は・・・はあああああああ・・・・」
ポリアは、膝を崩して脱力した。 限界を超えて緊張したのが緩み、疲労が津波のように襲ってきたのだ。
「やったあああああっ!!!!!!!」
ダグラスが、大声で喜んだ。
ポリアの横に、ヘルダーが来た。 見上げて、
「大丈夫?」
ヘルダーは、腹を抑えているが頷いて。 そして、遣っていた鉄扇子を見せる。
「あああ・・・凄い・・・」
ポリアは、二枚重ねてオウガの蹴りを防いだ鉄扇子が、ボコンと凹んでいるのに驚いた。
ゲイラーは、剣を引き抜いて。
「良く倒せたもんだ・・・、ポリア。 いい作戦だった」
ポリアは、ボンドスがよろめいて居るのを見て、立ち上がり。
「祠に行きましょう。 みんなで、出来る者が手当てを。 ボンドス、肩を貸すわ」
すると、ゲイラーが。
「いや、俺で十分だ。 不細工に、美人の肩は身体に悪い。」
と、ボンドスの身体を支えた。
ボンドスは、苦痛に歪ませながらも笑って、
「ちぇ・・・せっかくの・・・チャンスなのに・・・馬鹿リーダー。 あはは・・いでで・・」
ポリアは、腕を押さえて来るフェレックに、
「ゴメン、いきなり斬って」
フェレックは、イライラした顔で。
「ウルセエっ!!! いきなりで死ぬかと思ったぜっ!!! フン、まあ毒で死ぬよりマシだから感謝してやるぜえっ!!!! いでででで・・・チッ」
イクシオは、フラフラの身体ながら。
「おうおう、無駄口出るだけマシだぜ。 フェレック」
ポリアは、イルガとコールドの間に入って、祠についていく。
「イルガ・・大丈夫?」
片腕、片足に肋骨も折れているイルガ。 コールドもデーベもボンドスも、皆がイルガに庇われたのだ。 イルガは、人を守る事に徹していた。
「大丈夫です・・お嬢様・・・お嬢様さえ無事なら、このイルガは・・・」
すると、ポリアは優しい顔で。
「バカ。 イルガ、私が老後を看るんだからね。 死じゃ駄目よ。 それにまだまだ冒険するんだからねっ」
イルガは、ポリアを見て。
「は・はあっ、有り難き幸せです・・」
全員、ポリアには内心驚いていた。 気品、優しさも然ることながら、リーダーシップがこんなにしっかりしているとは。
さて、やっとK以外の全員で祠に入った。
「おお、これはみなさん仕事を増やしましたな」
マクムスが、怪我だらけの皆を見て、嬉しそうに言った。 皆、生きていたからだ。
ゲイラーは、“グランディス・レイヴン”のリーダーのサーウェルス以外が生きているに驚いた。
どうも、騎龍です^^
さて、K編ももう少しで一部終了ですね^^
一気に駆け抜けさせますよ^>^
ご愛読、いつもありがとうございます^人^
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