15、魔域
15、魔域
Kは、のんびりとした足取りでポリア達の方に歩いて来ていた。
フェレックが緊張しながら確かめる様に、間近に来た包帯男に。
「何が・・あった?」
Kは、包帯から覗ける鋭い瞳で、ゲイラーやフェレックを見て。
「いや、別に。 いくら祠でも人の匂いまでは消せるわけ無いから、モンスターが集まっていたって所さ。 18人もいれば、ま・・・当たり前か」
ダグラスは、モンスターの転がった先を指差して。
「だから・・・倒したと?」
「ああ。 それもあるな。 だが、理由の大半は別」
「別?」
「今、モンスターの死体をああして転がしておけば、腹を空かせたモンスターが喰いに来る。 死臭の方が強いから、いい眼くらましになるだろう。 さ、皆起きたなら、手早く食事を済ませて出発しよう」
Kは、簡単に震えの来そうな事を平然と言って祠へ。
見るKの姿に怪我した雰囲気も無ければ、疲れた様子も無い。
ダグラスは、急いで倒されたモンスターの姿を見に行った。 後には、ゲイラーも、フェレックも着いて行く。
坂の上から見下ろした三人の眼下には、今倒された大きな黒い犬のモンスターの他に、あの昨日現れた“オウガ”と呼ばれた怪物や。 風も無いのに枝や根をクネクネと動かしている倒れた木があったり、一角のトラの様なモンスターなど、五・六体のモンスターが倒されていた。
三人の横には、ポリアも来た。
「やっぱり・・・」
四人は、最後にKが倒した黒い犬のモンスターの倒され方を肉眼で見れなかったが。 転がった死体は、キレイなまでに真っ二つだった。
震えるダグラスは、
「リーダー・・・剣なんて、あの短いショートソードだけ・・・だよな?」
ゲイラーも、信じられる光景じゃない。
「ああ、どうやって斬ったのか・・・解らねえ・・・」
フェレックは、Kを見返して。
「つーか、斬る所も、移動も見えなかった・・・レベルが違いすぎる・・・」
Kが戻った祠では、急速に出発の準備を皆が整えた。 時折、外にモンスターの足音や、唸り声が聞こえてくる。
だが皆はなにより、急にKが怖くなった。 慣れているのは、元からの面々ポリア達とマクムスぐらいだろう。
準備が終えた。 Kは、外に一人出て、辺りを窺ってから。
「よし、行くぞ」
と、声を掛ける。
外に出た一行。 しかし、モンスターの転がっていった坂の下からは、モンスターの唸り声や、いがみ争う声がしている。 見たくも無いが、食べ物を巡って争っているのだろうか。
Kと一行は、祠を出て右の東側に向かって歩き始めた。 祠の穴が開いた岩壁に沿って東回りに行くと。 右側のマニュエルの森の木々が、徐々に眼下に見えるようになっていく。 標高が上がっているのだ。
歩いて、半刻(1時間)もしない所で、Kが止まった。
ゲイラーは、緊張して。
「モンスターか?」
Kは、前を指差して。
「ああ、面倒な奴だ」
と。
全員が前を見ると、何か蠢く塊が・・・・。 近くまで来て、それがヘドロの塊のようなモンスターだと解った。 こげ茶色のドロドロした身体が波打っている。 形は、高さも幅も一メートル半ぐらいの岩のような姿。 地面に付着する身体がモゾモゾと動く。
「“スライミー”の一種だが、弱点の核が四つもある。 一気に行かないと面倒な奴だ」
すると、フェレックが前に進み出て。
「一気に終わらせてやらああっ!!!」
と、杖を振り上げると。
「創造の力は、想像にあり、我が敵を滅する刃となれっ!!」
フェレックの頭上に、半透明で乳白色の鎌が無数に現れて、
「ゆけっ!」
と、フェレックが杖を振り込めば、驚くべきスピードで飛んでいくのだ。
「終わるかな?」
ダグラスが呟く時、 鎌がスライミーのゼリー状の波打つ身体に突き刺さって炸裂するように衝撃波を生み出す。 モンスターの体液が飛び散り、スライミーはその場でどんどん小さくなっていった。
最後の鎌が突き刺さって、黒い石ころの様な核を壊して、スライミーは跡形も無く消えた。
「フン、私の力を持ってすれば、こんなもんだ」
フェレックは、不敵に笑った。
Kは、フェレックの肩に手をやって。
「上出来」
と、歩き出す。
ダグラスや、ゲイラーも。
「流石だね」
「魔法は楽だな」
と。
しかし、マルヴェリータだけは、ポツリと。
「あれじゃ、次の祠までは持たないわ」
横に居たキーラが、
「え? 今・・・なんて?」
マルヴェリータは、真剣な眼差しでフェレックを見て。
「無駄に魔力を使い過ぎてる・・・。 フェレックの実力からするなら、今の五分の一の魔力で同じ威力の魔法が撃てるわ」
と、歩き出す。
「? 何って?」
キーラは、マルヴェリータの言ってる意味がサッパリ解らない。
さて、歩き始めたのもつかの間。 今度は、崖の上からモンスターの群れが現れた。
まず、長い触手をクネクネさせるのは山に棲むタコのモンスターで、毒々しい紫色の“エビルオクトパス”。 身体の大きさは、ゲイラーよりやや高く、足が9本ある。 足の一本一本が太く、ゲイラーの太股並みにある上に三メートル位の長さがある。
次に、トカゲの様な大きい五メートルくらいのモンスターは、“ドラゴエディア”。 名前の通り、頭部に二本の角を持ち、鼻脇には一メートルぐらいの髭もある龍なのだ。 深いグリーンの身体ながら、獰猛な瞳は炯炯と白く光る。
そして、人の十二・三歳の子供ぐらいの大きさをした、猪と人の間のような姿をしているのは、“オーク”だ。 非常に好色で、人間の女性を攫っていく性格だとか。 毛むくじゃらの裸で、手には木の棒を武器に持っている。 四体で群れて現れた。
Kは、直ぐに。
「オークを全員で倒せ。 後の二匹は俺が引き受ける」
と、先に歩いて来るオーク達に走りこむ。
「おっおいっ」
ゲイラーが言う時。 Kは、オークの頭上を飛び越えて、一匹の頭を蹴飛ばして前のめりに転ばした。
ダグラスが、隙だらけのオークに向かって、
「行くぜええっ!!」
と、抜刀して戦闘に入った。
―グゲェ、グゲェ―
オークも、また人間を敵視している魔界の住人だ。 木の棍棒を片手に襲い掛かってきた。
ポリアも、先頭で戦う。
「このっ」
剣を振り込んだポリアは、オークの棍棒と打ち合い力比べに。 流石に怪物だけあって、腕力は強く、ポリアはグイグイ押された。 しかも、女のポリア相手だからか、鼻息荒く興奮して涎を垂らし始めた。
マルヴェリータが、
「ポリアっ、行くわっ」
と、鋭く言うのに合わせて、ポリアはサッとオークの棍棒から剣を外してしまう。
―ゲッゲ!!―
バランスを崩したオークの脇腹に、
「魔想の力よ、衝撃の鉄槌となれっ!!」
マルヴェリータの声に応じて現れた魔法の大金槌が振り込まれ。
―グギャアアアアアアアっ―
ぶっ飛ばされたオークは、そのままマニュエルの森へと落下して行く。
見ていたマクムスが、
「ほう・・・成る程」
と、眉を寄せた。
震えていたキーラは、良く見えていなかっただろうが。 フェレックには、その意味が解った。 マルヴェリータは、暫く見ない間に驚くべき成長を遂げていたのである。
(な・なんて無駄が無い・・・マルヴェリータはこんなに集中出来たのか?)
魔法を扱う者なら、魔法を放つ時に見えないながらに魔力が身体の表面に浮き出る気配を感じれる。 無駄に魔力を使ったり、強力な魔法を遣えば、その魔力は大きく収縮する。 逆に、集中して魔力のコントロールが出来れば、収縮の幅は小さい。 それは、遣う時に直ぐに解るのだ。
マルヴェリータは、前のクォシカの事件の時。 大量のモンスター相手に戦って、限界ギリギリの戦いにおいて、集中の仕方を会得したのだ。 Kから言わせれば、今のマルヴェリータですら中途半端なのだが、進歩の度合いは目覚しい物が有ると言える。
「マルタっ、サンキュー!」
ポリアは、そう言ってゲイラー・ダグラス・ヘルダーにそれぞれ倒されたオークの上を越えて、Kの方に向かったのだが・・。
「あ」
先に向かったゲイラー達が立ち尽くす。 Kは、モンスター二体をもう倒していた。
「早い・・・」
ポリアは、呟く。
エビルオクトパスは、丸で“骨抜き”のように地面に潰れてドロドロした汚泥の様になり。 ドラコエディアは、三枚に卸されていた。
Kは、皆を見て。
「どんどん進むぞ。 休憩は歩きながらだ」
ダグラスは、Kを見ながら呆気に取られて。
「だって・・・さ」
「ああ」
ゲイラーは、そのまま歩き出した。
草原のような短い草と、まばらな木の生えるなだらかな坂道は、変わることが無く続く。 それから暫くは、モンスターとの遭遇は、オークなどばかり。
戦いが終われば、怪我のある者が居る時だけ止まり。 そうで無ければ、歩く。 水も、歩きながら飲むし、腹が空いても歩いて何かを。
さて、それは昼を前にしての事。 今まで、マニュエルの森を見下ろせる崖を脇に歩いて来たのを、Kが祠に向かう為にと、左の崖を上ろうと言った。 南の祠が有った所では、崖の高さは十メートル近かったのに。 今は一メートルぐらい、ポリアなら一人で上れるくらいだ。
崖を上って直ぐ先の林を手前にした大岩の幾つも転がる影で。
「もう、後歩くのは半分も無いな。 休憩しよう」
と、 Kが言う。
「お~、やっと休める」
「うん、緊張するな・・」
と、皆に会話が出た。
Kを囲んで離れずに皆座った。
ポリアが、Kに。
「あと、どれくらい?」
「そうだな、もう三分の二は来た」
「もう一踏ん張りね」
「ああ・・・だが、気になる事がある・・」
全員が、Kを見た。
ダグラスは、齧り掛けのパンを片手に探るように。
「な・なんか悪い感じで?」
「ん~、さっきから気に成っていたんだが・・・。 普通、オークって奴は、単独行動なんだよな~。 それが、今日は何匹も纏まってる。 もしかして、なんか探してるんじゃないか・・とな」
「なんかって・・・何?」
「オークは、凄い好色で、人間の女性に眼がない。 雄しか生まれないからな、この世界じゃ。 魔界ならどっちも生まれるそうだが。 それで、人間の世界だと人や動物をを攫って繁殖する・・・。」
男一同は、ポリアやマルヴェリータを見る。 勿論、ゲイラーはシスティアナを。
「モンスターの変態ヤローね」
と、冷めたポリア。
「全く、好かれるのも辛いわ」
と、艶やかにマルヴェリータ。
システィアナに居たっては・・・。
「ブーさんと結婚したくないです~」
と、イヤイヤしていた。
(可愛い・・・・俺が・・・結婚したい・・・・)
不毛な男の顔は、ふと見たKが呆れたほどだ。
(コイツ、気持ち悪いな・・・)
Kは、ゲイラーから眼を剃らして。
「思うに、行方不明のチームのも二・三人女性いたよな」
ダグラスは、頷く。 指折りしながら、
「ああ。 斡旋所のマスターの娘で、シスターの“オリビア”。 気の強い元盗賊の“アリューファ”、それから学者でムーンワッシャー(三日月のブーメラン)を持つ“ミュウ”の三人」
Kは、腕組して。
「もしかしたら・・・・ま、その匂いがオーク達を元気にさせてるのかもな。 もう月末だし」
ポリアもマルヴェリータもKを見て。 ポリアが、
「女性の匂いは増えたものね、なら色めき立つかも」
と、呆れるのに対して、マルヴェリータは困惑した。
(まさか・・・アレ?)
Kが口にハッキリ出さないのは、出さなくてもいい事か。 出すに出すのも控えたい事か。
Kは、皆が食事を終えたのを見計らって、
「じゃ、行こうか」
と声を掛ける。
立ち上がるイクシオは、
「しかし、これから先は、林の中か」
鞭が使いづらい。
デーベは、棍棒を振るって、
「気合入れよう」
と、声を掛け合った。
だが、Kは、歩き始めて林に入った所直ぐにて。
「ん? 不味い・・・かな?」
と、立ち止まる。
間隔の広い林の中に入った所で、止まったK。 済まして、何かを感じているようだ。
ダグラスは、もう剣を抜いている。
「どうした? モンスターか?」
Kは、森の奥を見ながら、
「かなりの数のモンスターが、こっちに向かって進路を変えた。 四・五十は居る」
「何だってっ!!!!」
驚くハクレイに、フェレックが。
「声デケえー」
と、釘を刺した。
「どうする、やるのか?」
ゲイラーは、大剣を背中から取った。
Kは、頷いて。
「やるしかないみたいだ・・・が」
と、全員を見ると。
「気配からして、大半はオークや人食いダコだ。 みんなが強力すれば倒せる。 問題は無い。 だが、中に“オウガ”や“キマイラ”の気配もある。 俺が一人先行して、危険な奴等を倒しに掛かるから。 皆は、モンスターが見えたら戦い、俺の行った方に進行してくれ。 最悪な事に、祠の有る方から来てる。 逃げれないし、オークが鼻の鋭い奴だから隠れきれない。 戦って切り抜けるしかないな」
ポリアは、昨日の“オウガ”には遭いたくなかった。
「ケイ・・・大丈夫よね・・・」
「ああ、この面子なら、十分に勝てる相手だ。 数が多いだけ」
Kは、そう言って林の奥に走り出した。 木々の間に入って、姿が消えた。
「消えた・・・」
驚く、コールドやイクシオ。 遠くに消えたのでは無く、離れて行く途中で見えなくなる。
「見てる前だから、凄いわよね・・・」
ポリアも、言葉はそれくらい。 驚きしかない。 そこに、マルヴェリータが来て。
「ねえ、ポリア・・・」
と、耳打ち。
ポリアは、こんな所で言う話では無い内容に。
「マルタっ、一体何を聞くのよっ」
と、赤面した。
マルヴェリータは、いたって真面目な顔で、
「ヘンな意味じゃないわよ。 Kのモンスターの話・・・女性の匂いって・・・」
ポリアも、パッと気付いて。
「あ・・ああ・・・アタシ、トルトの村で・・・」
マルヴェリータも頷いて。
「私も、着いた夜よ」
ポリアは、パッと頷いて。
「生きてる? もしかして・・・」
マルヴェリータも頷いて。
「かも」
ダグラスは、そんな二人に向かって。
「どうしたよ・・・何の話?」
男性陣も、興味津々の顔。
ポリアは、女性の話なだけに。
「男はウルサイっ!!!」
切れるように言うので、全員が驚いて。
「ハイっ」
と、姿を正す。
ポリアは、林の向こうが揺れだしたのを見て。
「来たわっ、ヘンタイ共をボッコボコにしてやるんだからっ!! 行くわよっ!!!」
と、号令を掛ける。
勢いに釣られて、男達は一斉に。
「おーーっ!!!!」
と、声を上げた。
―グゲグエグエ―
林の奥からオークの一団、五・六匹が姿を見せた。
マルヴェリータは、みんなの前に出て。
「蹴散らすわっ!!」
と、美しい黒髪を靡かせた。
「魔想の力よっ、無数の飛礫となりて我が敵を撃ち抜いてっ!!」
杖を振り上げたマルヴェリータの頭上に、夥しい小石の粒のような飛礫が現れる。 やはり、半透明で乳白色ながら、姿形はしっかりと小石のようだ。
「行ってっ」
杖を振り込めば、数十と云う飛礫がオークに飛ぶ。 マルヴェリータは、次々と飛礫をオークに向けて飛ばした。
―グギャ!!! ギュギョオオオ!!!―
オーク達は、飛礫を受けてもんどりうって転び。 弾ける飛礫の衝撃に沈んで行く。 現れた最初のオーク達は、マルヴェリータの魔法で倒された。
ポリアは、新たに林の中から、さっきも現れたタコのモンスターエビルオクトパス二体が右に、ドラコエディアが左から。 正面には、オークが数匹来たのを見て、
「やるわよっ!!」
と、タコに向かう。
「よっしゃ!!」
ダグラスも、タコに。
「おう!!」
イクシオと、デーベと、コールドがドラコエディアへ向かい。
「向こうは我々が」
オークを見たイルガの声に、ボンドスとセレイドとレックが頷いた。
ゲイラーは、フェレックに。
「タコに行くっ、魔法支援を期待してるぜっ!!!」
ヘルダーも、タコに向かった。
「フン、言われなくても」
フェレックは、不敵に返した。
マクムスは、
「みなさん、無理はいけませんよっ!!!」
と。
Kは、助ける一行の生存も視野に入れ、激戦の予想から僧侶には攻撃魔法の抑制を言っておいた。 だから、システィアナもハクレイもマクムスも支援に徹している。
マルヴェリータは、ポリアのタコ二体に注意を。 フェレックは、ドラコエディアとオークに気を傾けた。
(こ・・怖い・・・)
キーラは、怯えて足が竦んでしまっていた。 戦わなければいけないのは解っていたが、ゲイラー達と旅してモンスターと戦った回数はまだ片手の指ぐらい。 しかも、殆どがゲイラーなどが倒して、自分は戦っていないのが現状だった。
フェレックは、怯えて動けないそれに気付いて。 キーラを睨んだ。
「なんだ、お前怖いのか? 使えない奴だ」
そしてフェレックは、鼻で笑って歩きながら。
「ゲイラーも可愛そうな、仲間がこんなんじゃな」
キーラは、震える身体のままに下を向いた。
(くそ・・う・動かないよお・・・か・身体が・・動かない・・・)
さて、戦い始めた皆。
「そらああっ!!」
イルガの槍がオークを突いて、引き抜き様に横のオークの背中に振り当てる。 バランスを崩したオークに、ボンドスの両手の斧が襲い掛かった。
一方、
「そらそらっ!」
イクシオの鞭を、身体をくねらせて交わすドラコエディアの動きは、トカゲより蛇に近い。
―シャアアア―
威嚇の音と共に、長い髭をしならせてイクシオの鞭に逆に絡める。
「オッとっ」
コールドは、牽制して動く尻尾と格闘していて。 デーベは、新たに現れたオークの一匹に注意を削がれた。
イクシオとドラコエディアが引っ張り合いでイクシオが引き摺られ出す中で、ドラコエディアの口が俄に煙出す。
それを見ていたマクムスが、
「いけないっ、火炎ブレスだっ!!!」
と、叫んだ時だ。 マルヴェリータもフェレックも、他何人かも声に驚いてイクシオを見た。 フェレックは、マルヴェリータに注意が行っていて、イクシオを見ていなかった。
だが、誰より先に動いたのは・・・・。
(魔力を、どう使うかだ・・)
キーラがKの言葉を思い出し、自分の中で葛藤していた怯えとの鎖を断ち切るように眼を開いた。
「イクシオさんっ、避けてええっ!!!!」
キーラの声が飛ぶ。
「うおおっ」
驚くイクシオの前でドラコエディアの口が開いた時、口の中は燃え滾る炎の海で、拳大ほどの火の玉が湧き上がる。
「やべえっ!!」
イクシオは、吐き出される火の玉を避けようと仰けに反るようにして後ろに倒れた。
そこに、
「剣の刃と化し魔想の力よっ、我が敵を貫けええええ!!!!!!」
と、一瞬早く魔法を発したキーラの創りし魔法の剣が放たれた。 剣の大きさは、然程に大きくはないが、しっかりと具現化されていた。
―シギャアアアアっ!!!―
火の玉を吐き出したドラコエディアだが、飛び出した火の玉を空宙でキーラの魔法の剣が次々と粉砕して散らす。 そして、ドラコエディアの開いた口の中に魔法の剣が飛び込んだ。
―シィ!!!―
叫ぶ声と共に、ドラコエディアは剣を飲み込んだ。
「?」
イクシオが、コールドが。 そして、ドラコエディアがピタリと止まる。 刹那・・・魔法が炸裂する衝撃音がドラコエディアの体内で鳴り響くのと同時に、
―シギャァァーーー!!!!―
ドラコエディアの絶叫が上がった。
「うおおおっ」
「のわああっ」
イクシオ、コールドは暴れだしたドラコエディアから離れた。 とぐろを巻く様に激しく悶えるドラコエディアは、ぐったりして動かなくなった。
イクシオは、落としたテンガロンハットを拾うと。 キーラに。
「助かった、サンキュー」
頷いたキーラだが、自分の手を見て。
「思わず・・・動いた・・・」
と、呟いた。
さて、次々と現れるオークに、コールドやイクシオも加勢に向かう。
問題は、エビルオクトパス。 長い触手を振り回し、中々身体に切り込めない。
「このおおっ!!!」
ポリアが、斬り込みから、掬いに斬り返して二本の足を切断したのに、直ぐに斬った足は生えてくる。
ポリアに襲い掛かった残りの足を、ダグラスとヘルダーがさせじと斬り払った。
「ありがとうっ」
ヘルダーは、頷き返す。
ゲイラーは、一人で一匹を相手にしつつ。
「全く、なんて身体してやがるっ。 先に行ったリーダーは良く瞬殺できたもんだっ、ちきしょうめっ!!!」
長い大剣で、足四本を一気に斬った。 飛んだ足が、辺りでバタバタと動く。
しかし、残った足の二本が襲い掛かって来て、剣で防いだがゲイラーは弾き飛ばされる。
「うおおおおおっ」
なんとか、転がって受身を取る。
その時、ポリアはダグラスに斬り込まれても、なんとも無い様に動く足の中で。 大きな頭がムクムクと揺れて居る背後に、筒の様な白い九本目の足が一本だけ動いているのが見えた。
(そういえば・・Kって・・・さっき倒した時、後ろに回りこんで立ってた・・・まさかっ!!)
気付いたポリアは、ダグラスとヘルダーがタコ一匹に襲い掛かっている中で、ゲイラーにノソノソと向かうもう一匹のタコが見えている。 白い九本目の足が細くチロチロとゲイラーに向く身体の裏側で動いているのが見えた。
(よしっ)
ポリアは、マルヴェリータを見て、眼が合った時。
(魔法、アイツに)
目配せを。
頷くマルヴェリータは、
「魔想の力よ・・剣の姿で我が敵を撃てっ!!」
と、放つ。 先ほどから、何回もブヨブヨの身体に撃ち込んでいるが、直ぐに破れた身体が修復されてしまうので、マルヴェリータは様子を見ていたのだ。
マルヴェリータが放った魔法の剣は、ゲイラーに向かうタコの丸い頭に突き刺さり、衝撃と共に炸裂して頭に穴を開けた。 空洞の頭の中が丸見えだった。
そこに走り込んだポリアは、ゲイラーに気を取られて、魔法で動きの鈍ったタコの目の反対側に回り込み、地面に着く身体の内側より伸びた白い足を斬り払った。
「えいっ!!」
斬って直ぐパッと飛び退いたポリアと、迫られたゲイラーの間で、タコは急激にブルブルと痙攣したように震え出す。
「ん? どうしたんだっ?!!!」
驚くゲイラーの前で、タコは先ほどKに倒されたようにベタ~っと地面に伸びて潰れていく。
ポリアは、ダグラスとヘルダーに。
「背後の白い足っ!!! コイツの急所だわっ!!!」
ダグラスは、ニヤリと笑って。
「オーケーっ」
ヘルダーも、微笑んで頷いた。
ポリアも、一気に加勢し。 三人で三方から斬り込まれて、ヘルダーがタコの頭上を飛び越えて背後に回って白い足を斬った。
「終わったど!!!」
ボンドスが、オークを倒しきって、声を上げると。
ポリアは、
「怪我の手当てを急いで、ケイの後を急ぎましょう」
マクムスやシスティアナ、ハクレイが怪我の手当てに回った。
イルガは、デーベを庇ってオークの棍棒にて腕の骨を折り。 イクシオは、さっきのドラコエディアの火の玉を粉砕した時に顔や腕に火傷を。
キーラは、イクシオに謝った。
だが、イクシオは。
「いやいや、火の玉食らってたら動けなかったろう。 コレなら、動ける。 格段の違いさ」
マクムスの魔法で、完全に腕の骨がくっ付いたイルガも、
「流石に、流石に。 痛みまで引いた」
マクムスは、
「無理に動かせば、また離れます。 無理をしないで下さい」
と、イルガに言った。
ポリアは、自分達以上にモンスターを相手にしているKを案じて。
「行きましょう」
皆、頷いた。
林を行けば、またオークとスライミーの纏まりに遭う。
「しつけえぞお前等っ!!!」
オークにゲイラー達がかかり、マルヴェリータの代わりに、キーラが前に出て。
「僕がスライミーをやります。 お二人は、休んで下さい」
フェレックは、呆れ笑いで。
「ほ~、そいつは」
すると、マルヴェリータは頷き返してキーラを見て。
「解ったわ。 いい、強引に唱えちゃダメよ。 しっかりと集中して、一念を持って」
キーラは、杖を握り締めて。
「ハイ、遣ってみます」
スライミーは二体。 キーラは、モゾモゾと寄ってくる前に立ち。 大きく深呼吸をして、睨んだ。
(怖くない・・・怖くない・・・・? 怖い・・・怖いさ・・・でも、逃げたくないんだ・・)
自分の心を認めて受け入れる事で自然と震えが緩まり、キーラも集中した。 ス~っと杖が持ち上がり、
「魔想の力は、創造する想像の力・・・我が魔力にて具現化せよ。 敵を撃ち抜く無数の矢よっ!!」
しっかりとした詠唱で、ハッキリとした声が魔法に力を与える。 キーラの頭上に、何十の矢が。 コールドの細剣と同じ大きさ位で現れる。
フェレックは見て。 嘲笑うように
「フン、数は多いが。 小さい矢だ」
だが、マルヴェリータは、
「違うわ。 コントロールされた大きさよ。 大きく作っても、小さく作っても、魔力に比例するだけだから威力は変わらないわ」
と、否定する。
「ゆけっ!!!」
キーラが、鋭く命じれば、段階的に幾つかの矢は空を走ってスライミーに襲い掛かった。 モゾモゾ動くスライミーの身体に深く刺さった矢は光りに似た煌きで炸裂して衝撃波を生み出す。 次々と矢は突き刺さり、スライミーのゼリー状の身体を弾け飛ばし、一つ・・・また一つと黒い核を壊してスライミーの身体を削っていく。
「・・・」
キーラは、しっかり集中していて、スライミーが倒されるまでコントロールして矢を放ち続けた。
ポリアやゲイラー達がオークを倒しきる前に、スライミーは倒されて原型は留めていなかった。
「チ・・・」
フェレックは、無駄が少なく魔法を放ったキーラに舌打ちする。
マルヴェリータは、フェレックに。
「無駄、多いのはアナタのほうかもね。 新人に先越されるんじゃない?」
「フン、無駄が多いか少ないかで全部決まるかよ」
「そう、じゃ疲れて倒れても知らないわ」
マルヴェリータは、キーラの方に向かった。
(チキショウ・・・何でマルヴェリータが・・・あんなに魔法に長けたんだ・・・包帯野郎か)
フェレックは、木に凭れてキーラに声を掛けるマルヴェリータを見る。
「お疲れさま、ポリア達も終わったみたい。 先を急がないと」
マルヴェリータに声を掛けられたキーラは、集中した後に来る疲労感にて汗を掻きつつ。
「そうですね、リーダーは一人で大丈夫か心配です」
マルヴェリータは、微笑んで。
「大丈夫よ。 ケイは尋常じゃないくらいに強いから」
「そう・・ですか」
キーラがまだ今一つ、Kの事を飲み込めて無い素振りの顔をした時だった。
―グアアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!!!!!!!―
「うわああっ」
「なっ何だああっ?!!」
「キャっ」
「こわ~いいい」
空気を振動させる程の唸り声が林の先から響いて来た。 皆驚き、フェレックは後ろに倒れて尻餅を着いた。
全員が、声の方に注目していると・・・。 “ズシーーーン!!!!”という振動が地面を伝って来た。 何かが、倒れたのか・・・もしくは落ちたのか・・・何れにせよ、大きなモノであると思えた。
「ケイ・・・」
ポリアが、走り始めた。
「おっお嬢様っ!!」
「ポリアっ」
イルガとダグラスが走り出したポリアを追って走る。 後に、皆も続いた。
林の中を走り抜けた一同。 まだ、空気を揺らした大きな唸り声は何度も響いて来る。 どんどんと走れば・・・。
「わっ!!」
ポリアは、倒されたオウガの首の無い死体や、真っ二つにされたヘルバウンド・・・亀・獅子・山羊の頭を持った、十メートル以上の巨体を誇るモンスターの死体がゴロゴロ転がっている場所に出た。
「すげえ・・・何匹倒してるんだ・・」
ダグラスは、オークやエビルオクトパスなどの倒された夥しい数に驚く。
ゲイラーは、その倒されたモンスターの斬り口を見て。
「凄い・・・斬り口が鮮やか過ぎる・・・何の抵抗も無く斬られているんだ・・・」
ゲイラーを含め武器を扱う皆、こんなに鮮やかな倒し方は初めて見る。
更に唸り声が近くなる林の先に歩けば、
「どわわわっ!!!! なななな・なんだあっ?!!!!」
ダグラスが、大岩のように転がっていたのが、一つ目の巨人の頭だと気付いて度肝を抜かれた。
マクムスが、そのモンスターの顔を見て驚愕といった顔で。
「コレは・・・サイクロプスっ!!!!!」
フェレックは、その有名過ぎる名前に、
「何だとおおっ?!!! 魔界の一つ目巨人じゃないかっ!!!!」
巨人の名前で、これ程に有名な物は無い。 オウガよりも数倍大きく、凶暴で、冒険者の間で語られる魔界の暴徒の有名株だ。 青い肌に、黒い一つ目、前頭部には角を生やして、肉を求めて彷徨う地獄の巨人とも伝えられるのだが・・・。
何かを見つけて走ったポリアは、木々をなぎ倒し倒れている身体を見つけて。
「向こうに身体があるわっ!!!」
集まった皆は、動かない巨人を見る。
「・・な・・なな・・こ・コレも・・・ウチのリーダーが・・・倒したの・・か?」
イクシオは、震える声で喋る。
デーベも、冷汗を手で拭って。
「死んだのは・・今みたいだ。 多分・・・そうじゃないか・・・」
倒れた身体の長さは、オウガの遺体の長さよりもずっと大きい。 無くなった首元から、夥しい青い血がダラダラと垂れている。
その時、またもや。
―グオオオオオオアアアアァァァーーーーーッッッ!!!!!!!!!!―
凄い近い先から、爆音の様な唸り声が響いて来て耳を劈く。
「うああああっ!!!」
「キャアアっ!!!」
全員がその場に身体を竦めて耳を塞いだ。
“ズシーン!! ズシーーン!!!” と、何か巨大な歩く音がする。
見上げたゲイラーが、林の木の先に一つ目の巨人を見て、
「向こうにまだ居るぞおっ!!!!」
ポリアは、頷いて。
「ケイもそこよっ!!!」
と、走り始める。
「おいっ、ポリアーーーっ!!!」
「チョット待てええっ!!!」
「行く気かよっ!!!!」
男達は、驚いて躊躇った。
だが、皆の気持ちの中に、“本当にこのモンスターの群れを倒せる者が居るのか?”という疑問が湧いて、自然と向かって行くのだった。 衝動に突き動かされ身体が動いていた。
どうも、騎龍です^^
遂に、Kの本領の発揮ですね^^
この先、いかに進展するか、こうご期待^^
ご愛読ありがとう御座います^^
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