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14、森から山へ。 激闘の幕開け。
14、森から山へ。 激闘の幕開け。



「うおおおらァァァっ!!!」

ゲイラーの大剣が唸りを上げて、シーカーを斬り倒した。

両サイドには、ボンドスと、デーベが居る。

ポリアは、ダグラスとヘルダーの間に。

イルガは、ボンドスと、コールドの間に。

灰色の体毛に、太やかな尻尾。 青白い凶暴な瞳で、二十センチは伸びた長い犬歯。 シーカーと云われる“ストレイフ・ウルフ”の斥候は、次々と森から現れる。

「それっ、だああっ!!」

イルガの槍が、コールドに斬り付けられて、避けまわるシーカーを倒した。

「サンキュー」

コールドは、言って次のシーカーに向かう。

乱戦の中で、ピュっと走った弓矢が、ポリアと戦うシーカーの背中に刺さって動きを止めた所に、

「たああっ!!」

ポリアが踏み込んで斬りかかった。

倒れたシーカーを見てから、

「助かるわっ!!」

と、声を。

その前に、三匹のシーカーが飛び出してきた。

「ハッ」

ポリアが驚いた時、“ドン”と鈍い衝撃音がして、シーカーの一匹がナイフを眉間に刺して森に戻し飛ばされた。

「礼は後だっ!! 前を見ていろっ!!!!」

と、Kの声。

ポリアは、一匹のシーカーに向かう。 

もう一匹は、ヘルダーが向かった。

Kの後ろでは、背後に回りこんで来たシーカー一匹を、イクシオと、セレイドが迎え撃っている。

「そら、そら、そらァっ」

鞭で、動きを制して、本気の振込みで右足を絡め取るイクシオ。

「フン!!!」

セレイドが、鉄の大型ハンマーで薙ぎ払った。 シーカーは、森に飛ばされた。

シーカーが、二十匹以上は倒された時。 一匹のシーカーが、

―ウオォォォォーーーーーーーーッ―

と、遠吠えを上げる。

それを見たKが、

「さぁ、ファイターが来るぞっ!」

シーカーの生き残りが、森に逃げて行く。

―ガオオオオオーーーーーン!!!―

威圧感の有る雄たけびと共に、森の茂みを破り割るような勢いで大きな黒い塊が飛び出して来る。

「うわっ」

「デカいっ」

「マジだ」

前線の者から声が上がった。

「・・・こ・・怖い・・・」

対峙したポリアが、ファイターを見て漏らす。 大きな身体と凶暴な瞳に恐ろしさが先行してしまった。

黒く汚い体毛は色濃く、身体の高さがポリアの胸部と近い。 ギラギラした瞳は異常に残虐性が強く。 犬歯の長さは、五十センチを超える。 

ピュッと、レックの弓矢が走って体に刺さったが、突き刺さらないまま地面に落ちる。

「硬いな」

レックは、目を細めて呟いた。

現れたファイターは、四匹。

ゲイラーが、一匹を引き受けつつ。

「組んで戦えっ」

ダグラスが、ポリアに寄り、ヘルダーが一匹。 ボンドスは、ゲイラーを気にしつつコールドとイルガに寄った。 デーベは、ゲイラーとヘルダーの間で、二人の間合いに合わせてファイターと牽制する。

「どりゃああああ!!! そらああっ!!!」

ゲイラーは、流石に恐怖は克服しているからか。 直ぐに斬りかかり、一刀避けられても、かわしたファイターの方へ更に剣を薙ぎ払う。

ヘルダーも、ポリアに二匹を近くさせない様に、我先に躍り掛かり。 ファイターを森手前に押し込んで距離を離し、一気に肉薄して戦扇子の先で耳を斬った。

「耳と、眼と、口と、喉は柔らかい」

と、K。 レックに助言して、イルガの前のファイターに投げナイフを投げつけた。

イルガと、ボンドスの間をナイフが走り、ファイターの眉間に“ドン”と突き刺さる。

―ギャオンっ!!!!―

ファイターの身体が、その衝撃で後ろにもんどりうって反って行く。

ハッとして驚くボンドスやイルガ達三人に、Kが。

「次々来るぞっ!! 気を抜くなぁっ!!! 更に四匹だっ!!」

また、ポリア、ゲイラー、イルガ達の前にファイターが四匹現れた。

「負けてられっかああああっ!!!!」

ボンドスが、両手にした片手斧二振りでファイターに向かう。 イルガとコールドも続いた。

「そらっ、たああああっ!!!」

ダグラスが、ポリアに気の取られたファイターの喉笛を二振りで切断した。

ポリアは、全力の突き込みで、

「えいいい!!!」

と、ファイターの眉間を突いた。 ファイターの瞳の焦点が、合わなくなった。

その時、

「危ないぞっ!! ポリア殿っ」

と、声が。

「ハッ」

ポリアの左に、ファイターが回り込んでいたのだ。

レックの放った矢が、そのファイターの耳に刺さった為に、ポリアが剣を引き抜く時間は出来たが。 気にせずに襲って来たファイターだった。

「うわああっ!!」

ポリアは、目の前に鋭い牙が襲って来るように見えて、無我夢中で剣で受け止めた。

「うぐ・・」

呻くポリア。

「ポリアっ!!!」

マルヴェリータと、ダグラスの声が交錯する。

鋭い牙で噛み付いて来たファイターの長い牙を受け止めたポリアだったが、下あごの犬歯に腕を薄く斬られた。 ポリアの顔の正面には、生臭いファイターの口の中が見えている。

ダグラスが助けようとした時、前に新たなファイターが飛び出して来て。 行く手を塞がれた。

「どけええええええっ!!!!!!!」

ダグラスが、何振り構わずに斬り込んだ時。

「ハッ」

イルガも、このときにポリアを見た。

―ウガアアアア!!!―

ファイターが、一気に暴れて力でポリアを押し倒そうと伸び上がった時。

(殺られるっ!!!!)

と、思ったポリア。

だが、“ドスっ”っと自分にも伝わる程の衝撃と、鈍い音がした。

「え?」

ポリアに圧し掛かろうと伸び上がったファイターの力と体重が、スゥ~っと抜けて行き。 ファイターの身体がポリアの右側へと流れて行く。 ポリアも、崩された体勢のままに尻餅を着く様に倒れてしまう。

「あ・・・・」

ポリアが、ファイターの頭部を確認できた時、側頭部にナイフが刺さっていた。

ファイターは、その一撃で絶命したのだ。

魔法遣い一同は、Kを見た。

「・・・」

包帯男は、もうダグラスやゲイラーに視線を移している。

ポリアは、地面に崩れた時にKを見たが。

(なんて強さなのよっ!!!)

と、自分の不甲斐無さに悔しくて、直ぐに立ち上がり。 ダグラスの戦っているファイターに向かって、剣を握り直して走り込んだ。

Kは、レックの横で、ポリアを見ずして。

「フッ、ようやく恐怖に勝ったかな?」

と、呟いた。

(態とやってるっ?)

マルヴェリータは、Kが態とギリギリで助けていると解った。 見ていてKは、余裕すら持って戦いを監視している。

「ゲイラーっ、ヘルダーっ、ボンドスっ、前から一匹づつ来るっ」

Kは、声で次のファイターの出現を言い。 戦況を見ているのだ。

正直な話。 魔法遣い達は、Kも見ているのだが、ナイフを投げる一瞬は素早すぎて見えない。

そして、ゲイラーが三匹目のファイターに向かった。 流石に、相手に攻撃のチャンスを与えずに、デーベの動きも把握して大剣の圧力で斬り倒す。 更に噛み付かれても、その長い犬歯の間に態と剣を挟ませて、自慢の怪力で振り飛ばすのだ。

デーベは、ゲイラーとヘルダー間で、二人の補助に回りながら、ファイターの狙いを集中させない。 時には、注意の削がれたファイターの身体に棍棒を振るい込む。

ヘルダーも、新たに現れた三匹目のファイターに向かう。 ヘルダーは、ゲイラーとは対照的。 素早く動いて、ファイターの照準から外れて、足や喉を斬り裂いて行く。 丸で、ヘルダーが踊っているかのようにして、ファイターは倒れていくのだ。

この時だ。

「うごおおおっ?!!!」

「だああっ?!!!」

「げっ?!!」

いきなり、驚きの声が上がる。 森から現れて突進してきたファイターに不意を突かれたボンドス・イルガ・コールドは、倒していないファイターから離れたり、飛び退いたり。 Kの声が、動き回っていて聞こえていなかったのだ。

所が、この飛び出したファイターがそのまま魔法遣い達の方に、向きを変えた。

「あっ」

「まずいっ」

「ちィィっ!!」

三人が、驚いて動き出した。

しかしだった。

Kが、なんと低い大勢に踏み込んでアンダースロウの投げ方でもってナイフを投げた。

ポリアに加勢して矢を放った後、ゲイラーに加勢したリックは、次の矢を背中の矢筒から抜く時に、その不思議な行動のKを見た。

「?」

もう、背後がら来たシーカーを倒しきったセレイドもイクシオも、マルヴェリータやシスティアナ達と共にKの行動を見ていた。 二人も、Kの前に出ようかと動き始めたのだが・・・。

地面すれすれに横の回転で飛んで行ったナイフは、Kに向かって走り始めたファイターの顔下まできた所で、なんとクイッと天に向けて飛び上がったではないか。

「え゛っ?」

「何ィィっ」

誰もが、息を呑んだ。

走り始めたファイターの身体は、直ぐに歩くように止まる・・・・。 そして、徐に顔は下に落ち、身体は左に傾いて倒れた。 

「ダ・・・ダンシング・・・・・ダガーの・・妙技!!」

マクムスは、Kを見て鳥肌が湧き立つ。 畏怖は隠せ無い・・神業に感歎したのだ。

ボンドスが、いきなり現れたファイターが倒されたのを見て。

「コイツに掛かれっ!!!」

と、倒していないファイターに襲い掛かった。

「おううっ!!!」

イルガも、応じて突進に入った。

コールドは、一人で残ったファイターを牽制していたが、二人の声に勇躍してファイターに斬りかかった。

「このおおおーーーっ!!!」

ポリアの全力の斬り抜けが、ダグラスに襲い掛かろうと伸び上がったファイターの心臓を斬り裂いて倒し。

「ナイスっ、ポリアっ!!」

ダグラスの声が上がる。

ゲイラーが突進からの斬り上げで、ファイターを斬り裂いて森に飛ばしてしまえば。 ヘルダーの両手の扇子がファイターを地に沈め。

ボンドス・イルガ・コールドの三人が、ファイターを倒した。

それ以上、ファイターは出てこない。

Kは、森の中の気配を探って。

「どうやら、諦めたようだ。 一番デカイ気配が遠ざかって行く」

との声に、ポリアはドッと緊張から開放されて、膝をクタクタと崩した。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・終わった・・・・」

ポリアは、死に物狂いの気持ちだった。

Kは、システィアナを見て。

「怪我は直ぐに塞いで貰え。 黴菌が入る」

マクムス・システィアナ・ハクレイにセレイドが、戦った者達の所に行った。

見ているKに、フェレックが近寄った。

「お・お前・・何者なんだ? ダンシング・ダガーなんて、なんで扱えるんだっ?」

Kは、詰まらなそうにフェレックを見返すと。

「お前より、努力してるから」

と。

「大丈夫? ポリア~?」

魔法を遣う時に成ると、妙に口調がハッキリするシスティアナは、ポリアの怪我を治す。

「あ・・ありがとう・・システィ・・」

腕、顔、太股に切り傷があり、長袖、長ズボンが裂けていた。

「ポリア、随分と気合が入ったなぁ~」

ダグラスが、言う。

「はぁ、・・・・まあね・・」

ポリアは、Kを見た。 包帯男は、フェレックからも離れて、のんびりと荷物の前に居る。

(凄かった・・・あのナイフの衝撃・・・)

戦っていた誰もが、Kを見ずには居られなかった。 

「・・・」

ヘルダーが、使えるナイフを抜いて行こうとしたが。 どれも安物で、深深と刺さっていながら衝撃で壊れていた。 だが、幾ら安物であっても、成りに耐久性はあるのだ。 突き刺さって壊れるのは、ファイターの皮膚が硬い為に、ナイフが強烈な衝撃でぶつかった証。 

ヘルダーに、ゲイラーが寄って。

「どうやら、リーダーの能力の片鱗が現れたかな?」

ヘルダーは、抜けないナイフを持って、頷いた。

近寄ってきたマクムスが、二人の怪我を診ながらに。

「最後の一匹を倒す時、ダンシング・ダガーの技を・・・並の手練ではありませんね」

ゲイラーは、ポカーンとして。

「・・あの・・・、投げるダガーが生きてるみたいに飛び上がる方向を変えるという?」

マクムスも、今だ見ていて信じられないといった表情だ。

「ええ。 私が扱える者の噂を聞いたのは、もう三十年以上前の事です。 大盗賊の頭だった女性が使えたと聞きましたが・・・。 まさか、この歳で語り草の妙技を眼にするとは・・・世界は広いですな~。 さ、傷はありませんかな?」

Kは、少し皆が休む時間を無言で設けていた。

ダグラスや、ポリアは、改めて近づいてきたレックに挨拶とお礼を言いに。

紳士のレックは、微笑んで。

「いやいや、無事でなによりだ。 しかし、森でこんなに激戦とはな。 明日はどうなるやら、少し怖いな」

ポリアは、Kを見て。

「多分、益々ケイが凄くなりますよ。 まだ、前線に来てないし・・」

レックは、包帯男を見てから、

「彼も剣術が?」

ポリアは、頷いて。

「斡旋所で、フェレックが斬られそうになったのを見たでしょ?」

「ああ」

「ケイは、剣も格闘も、魔法も一部使えます」

「ふむ・・・なんと万能な・・・」

Kは、頃合だと思い。 夕日に染まる丘の中。

「そろそろ出発しよう。 あと少しで、祠だ」

皆が、疲れながらも準備した。

さて、森に入って直ぐになだらかな下りになる。 倒木などが無くなり、木々の間隔も幾分か広がった。 だが、祠手前で、急角度の上り坂に変わって、K以外は這って歩くようになる。

ポリアは、余りの角度に驚いた。

「ケ・ケイっ、この道って、あり~?!!」

包帯男は、頷いて。

「ありあり、上れば祠」

「お坂さんです~こ~んなきゅうきゅうなのは~はじめてですぅ~」

ゼ~ハ~言いながら暢気なシスティアナに、ポリアは睨んで。

「ピクニックじゃね~んだよぉぉ~!!!」

左のゲイラーは、大汗掻いてるのに、顔が幸せそうだ。

コールドは、場違いな笑みの大男を見て。

(恋は盲目か・・・いや、アホか・・・)

ようやく上った時は、もう星が空に輝き。 西の空に赤い色が残るだけだった。

暗くなった中、ゼーハー言って、全員が上った上の林の中で空気を貪る。

Kは、

「正面に、祠がある。 どれ」

と、ズボンのポケットから何かを出した。

ダグラスが、横に居て。

「今度は、な・なんだ?」

Kは、小さく何かを呟くと・・・・。

「おあっ、な・なんだよっ!!」

いきなり、Kの手の中が光り始めた。

フェレックが、それを見て。

「あ・明かりの魔法・・・」

Kは、手の平を開くと。

「明かりの魔法を閉じ込めた水晶の粒だ。 一つ、持っててくれ」

Kは、ダグラスにマメ粒くらいの光る水晶の粒を渡した。 そして、Kは、全員を見て。

「これから、虫除けを祠で焚くから、合図したら全員入って匂いを服に付けてくれ。 モンスターは入れないが、吸血生物は別話だ」

Kは、そう言うと前に歩いて行った。 ダグラスが、手の中の明かりで辺りを照らせば、切り立った崖の壁があり、そこにぽっかりと洞窟の入り口がある。 

「あれが、祠か・・・」

呟くゲイラーに、マクムスが。

「素晴らしい力だ。 フィリアーナ様の息吹を感じるようです」

ゲイラーは、マクムスを見てから、また祠を見て。

「ふ~ん、そうなのかね~」

すると、システィアナが横に来て。

「ど~くつのなかから~、やさしい~ちからがあふれてますぅ~。 フィリア~ナ様の、むねにいだかれるかんじですぅ~」

ゲイラーは、システィアナを見て。

「む・・胸に・・い・抱かれる・・・で~ありますか?」

と、敬礼。

「そ~ですぅ~」

ゲイラー、システィアナの胸を見て固まっている。

ポリアは、その光景を見て、

「あのバカデカ男、モンスターの餌にしたろうか」

マルヴェリータは、呆れて。

「男も色々ねぇ~」

ダグラスは、祠からモクモクと煙が上がってきたのを見て。

「お、どうやら焚いたみたいだな。 行こう」

と、洞窟に向かう。

フェレックは、虫除けの煙の匂いくらいは知っている。

「ケ、なんだってあんな煙たいのを身体に浴びないといけね~んだよ」

と。

Kの声が、洞窟から。

「もういいぞ。 少し息苦しいが、我慢しろ」

洞窟に近寄った一行で、最初に入ったのはマルヴェリータなど、女性三人。

マルヴェリータが、

「ケイの言う事だから仕方無いわね。 帰ったら、思いっきり温泉浸かりたいわ」

と、入り。

ポリアも、

「だわね。 ま、虫に刺されて死ぬよりマシだわ」

と。 

システィアナに居たっては。

「けむけむもくもくしてます~。 くんせいさんができます~」

と、喜んで入る始末。

ダグラスは、流石にゲイラーを見て。

「アレが良い訳?」

しかし、ゲイラーは、頷いて。

「なんて純真なんだ・・・やはり女神・・・」

と、入って行く。

ダグラスは、ボンドスやイルガと見合って、

「盲目?」

ボンドスは、呆れて。

「只のバカ」

イルガは、

「似合い過ぎじゃわい」

と、三人揃って中に。

マクムスと、セレイド、ハクレイは苦笑し合って入る。

イクシオなども、咳き込みながら中に。

結局、大人三人は手を横にして並べる程の祠の入り口にて、入らないのはフェレックのみ。

「ケ、入れっかよ」

と、煙が無くなるのを待とうとしたとき。

―ブーン、ブーン―

なにか、聞き覚えのある音が・・・。

「ん?」

森の方に振り返ると、向こうから空中を浮んで何か黒い影が近づいてくる。

「なんだあ?」

眼を凝らすと、そこら中に黒い物体が浮んでいる。

「我が思い、昼間の如き明かりを」

と、魔法を唱えた。 フェレックの杖の先のレリーフから、パーっと明るい光が出て・・・。

「うわわわっ!!! なっ・なんだあああああっ!!!!!!」

フェレックは、その空中に浮ぶモノを見て驚いた。 なんと、自分の顔と同じか以上の大きさの蚊が居た。 しかも、もう辺りに十匹くらい集まっている。

「わっ、わっ、くっくるなああっ!!」

光る杖を振り回す。 集中が切れて、杖の光が消えた。

そこに、

「おい、何してるんだ? 早く入れよ」

と、Kが明るい光の粒を持って現れる。 後ろには、ゲイラーとシスティアナも、顔が見えている。

「こっ、コイツ等なああなんだあああっ?」

Kは、集まって来た蚊を見て。

「“病運び”って渾名の蚊だ。 何種類もの病気持ってる。 村人が死に掛けたのも、コイツに刺されたからだ」

「うううわわわわっ、早く言えぇぇーーーっ」

フェレックは、大急ぎで祠に駆け込んで行く。

Kは、周りを見る。 寄ってきたのは、蚊だけでは無い。 地面には、拳くらいのダニも来ている。

「チッ、普通は冬に入るモンなのによ・・・一番虫が腹減ってる時期に入るなんざ~アホだぜ」

と、ダニを踏み潰してから祠に戻った。

システィアナは、大きい蚊を見て。

「ホ~ントにおおきいですぅ~。 コレゾ、“デッ蚊”です~」

と、キャッキャ言ってKの後を戻る。

ゲイラーは、真顔で。

「“デッカ”・・・”デッ蚊”・・・面白い」

と、祠の中に。

さて、煙が静まってから。 皆、改めて洞窟の中を見た。

祠の中は、蒼い宝石を鏤めたような壁で囲まれていた。 中の構造は大きい洞窟と、奥の小さい洞窟の二間があり。 小さい洞窟の中には、優愛・慈愛・博愛の女神フィリアーナの像が安置されていて、その力で清められた水が湧く泉が水溜り程度にある。

「おお、フィリアーナ様」

マクムス、システィアナ、ハクレイが祈りを捧げ。 他神信者ながら、セレイドも礼儀正しく祈りを捧げる。

マルヴェリータが、祠を見回して。 青白い仄かな光りを放つ壁を見てウットリした。

「キレイね・・・宝石みたい・・・」

ポリアも、

「サファイアとかだったりして・・・」

すると、Kが。

「水晶だ。 ただ、特殊な技術が使われているがな」

イクシオは、天井などを見上げながら。

「“特殊”? どう、特殊なんだ?」

Kは、竈代わりの焚き火に、持ってきた枯れ木をくべて。

「この壁の淡い光は、光り苔だ。 魔法技術が隆盛を極めた三百年以上前の“超魔法時代”、水晶の中に光り苔を閉じ込めて、時間の経過をも閉じ込める技術があってな。 こうして、今でも夜になると、苔が光りを放つ。 もう、今は失われた技術だ。 コイツは、古い古い建築物には良く残ってるポピュラーなものだから、冒険続けてればまた見るかもな」

マクムスが、戻ってきて。

「この壁なら、魔法学院の地下や、西のフィリアーナ様の都“クルスラーゲ”に行けば見られますな」

と。

マルヴェリータは、

「流石ですね。 学院の地下に入られたのですか?」

「はい、まだ若い頃ですが」

今居るこの大陸から海を渡って、東の大陸の北部に位置するのが、魔法学院自治領国、“カクトノーズ”。 魔法を扱う全ての修行をした者の学び舎と言える。 入学は、何歳でもいい。 ただ、十年で卒業する。 魔法を遣えるかどうかは、本人次第である。 マルヴェリータやフェレックは勿論、システィアナもマクムスも卒業している。

このカクトノーズの学院地下は、学院の運営部や政治の中枢であって、生徒は入れない。 マクムスは、この国の寺院の責任者に成る時の任命で入ったのだろう。 学院に勤める先生は、教師でもあり、政府としての役人でもあるのだ。

もう一つ。

この、ホーチト王国の在る大陸は、世界で一番大きい大陸であり。 六カ国が分割する。 ホーチト王国は、丁度中央に位置し。 西に、宗教王国“クルスラーゲ”、北には、スタムスト自治国、東には世界最大の国土面積を持つフラストマド大王国がある。

クルスラーゲは、国教をフィリアンタ教としている宗教国家だ。 だが、他宗教でも住めるし信教の自由もある。 マクムス達司祭達の総括責任者が居る国で、フィリアンタ教の総本山といえばいいか。

ゲイラーは、天井の淡い光の壁を見て。

「あ~、早く世界に渡り歩けるチームになりたい」

ダグラスも。

「んだな~」

それぞれが食事や、休む準備をする。

Kは、ゲイラーに。

「この仕事が終われば、チーム名に箔が付く。 成功すればの話だがな」

と、言ってから。

「じゃ、薪代わりになる物探してくる。 いいか、モンスターが来ても刺激するなよ。 朝まで入り口に待たれても面倒だ」

マクムスは、

「お一人で?」

Kは、頷いて。

「薪探しまで足手纏いは要らないさ、みんな歩くので疲れたろう」

フェレックは、苦虫噛み潰した顔で。

「クタクタだぜ」

Kは、黙って外に出て行った。

皆、食事をしたり、語り合ったり。 食事も、遣りようによっては楽しめる物で。 野菜は、ジャムや乾燥させた物をスープに入れたり。 肉は、干し肉や燻製。 他、チーズや焼き米などで、雑炊なども出来る。 乾燥麺(パスタが主流)もあるし、凝る人間は、作ったりもする。

「ん~、チーズ最高おお~」

ダグラスは、実は無類のチーズ好きで、旅にチーズは欠かさないらしい。 ゲイラーもダグラスも、牧場や農家の次男や三男などで、家を継ぐに値しないから冒険者になったようなものだ。

コールドと、ボンドスが孤児で、流れているうちに冒険者になったとか。 少しだけ持ってきた酒を飲んでいる二人。

みな、それぞれの生き様がある。

見たままに近いのがフェレックで。 貴族の出身なのだ。

さて、Kが出て行って暫く。 疲れた一同が横になったり、もう寝そうな者も居た。

ふと、ダグラスが耳慣れない振動に似た音を感じて。

「ん? 外になんか居るか?」

と、祠に入り口を見れば、全員が身を起こしたり。 振り向いて入り口を見た。

「モンスターか?」

と、言ったフェレックの横をヘルダーが通り過ぎて、入り口に壁伝いに近づこうとしたとき。

―ドスン・ドスン・ドスン―

と、何かの音が近づいてきて、振動が伝わってきた。

「シー・・」

ゲイラーが口に指を立ててから、ヘルダーに“近づきすぎるな”とジェスチャーをした。

近づく音は、振動にリンクしているから足音だと解った。 祠前まで来た足音が止まり、影が入り口に差した。

そして、いきなりヌ~っと大きくおぞましい顔をしたモンスターが現れた。

「っ!!!!!!」

叫び声を上げそうになったハクレイの口を、イクシオが抑える。

(ポリア~っ!!!!)

システィアナが、怖くてポリアにしがみ付く。

(大丈夫・・・)

ポリアは、そう思って抱きとめるも、内心自分がビビッた。

ゲイラーの体格に匹敵する顔は、青黒い皮膚で、眼は瞳孔が開いた狂人のような異常の光りに満ちている。 口は耳元まで裂けていて、鼻はつぶれた感じ。 そして、口からは上下に鋭い刃の様な牙が・・・。

フェレックが、杖を構えた。

(止めろ、向こうは見えてない)

と、ダグラスが杖を抑えた。

現れたバケモノは、入り口でクンクンを匂いを嗅ぎつつ、中を見回すのだが見えていないようだ。 そして、スッと顔を引いた。

足音が、次第に遠退いていく。

「ふ~」

ダグラスがため息一つ。

「離せ」

フェレックが掴まれていた杖から、ダグラスの手を振り解こうと動かせば、ダグラスは手を先に放した。

ゲイラーが、緊張で噴出した汗を拭って。

「本当に見えてないんだな~。 顔を見たときは、流石に驚いたぜ」

イクシオは、戻って来たヘルダーを見て。

「大きかったな・・・我々の三倍以上は有るんじゃないか?」

「・・・・」

頷くヘルダー。

マクムスは、また外への入り口を見て。

「ケイさんは大丈夫でしょうか・・・。 アレほどの大型相手では、些か一人では難しいかと」

フェレックは、鼻先で笑い。

「フン。 マクムス様が心配する必要も無いですよ。 自分で行ってるんですから」

そこに、

「その通りだ」

と、Kの声。

ハッと全員が入り口を見れば、Kが入って来ていた。

「ケイ、今、でかい奴が・・」

ポリアの声に、Kは、頷いて。

「ああ、見た。 あれが、いわゆる“オウガ”だ」

「なんですとっ?!!」

マクムスの驚きの声に、

「あ・・あれが・・」

と、驚くダグラス。

Kは、持ってきた薪を火にくべて、腰を降ろす。

「太古の古代戦争時代から居る、巨人族の一種。 肉食で、凶暴で、知能が低く。 巨人族の中では比較的小さい部類だが、最も凶暴な種族。 限られた地域にて生息している闇の狂人族とも云えるな」

ダグラスは、外に指差して。

「かなりデカかったせ?」

「だろうな。 成人のオウガは、大体ゲイラーの二.五倍から、四倍はある」

「よっ四倍っ?!!!」

数人が大きな声で驚く。

Kは、続けて。

「だが、オウガですら山に生息するモンスターの中では中級だ。 更に、異なる生き物の三つの顔を持つ凶獣キマイラや、地獄の狂犬ヘルバウンドも居る。 上に行けば・・・」

と、皆を見る。

“ゴクリ”・・生唾を飲む音が、幾つも・・・。

フェレックは、怯えながらもカラ意地張って。

「な・何が・・居るんだ?」

「ああ。 “屍渓谷”には、ポリア達と前に受けた仕事で出遭ったレベルの“アビレイス・インフェルノ”や“ジェノサイス・ホロウ”の様な亡霊・死霊の最高位モンスター。 “デュラハーン・ロード”や“デス・スカルノ”などの不死系の最強モンスターも居る。 山の上の洞穴の魔王の居た場所に行けば、“カオス・デーモン”なんかの、大悪魔すらな・・・」

全てのモンスターの名前は、伝説的に伝わる最凶にして最悪のモンスター。 一体、どれだけの冒険者が命を落とした話があるか解らない。

ボンドスやリックは、恐ろしさに冷汗が流れて、手で拭いたのにまた流れる。

マクムスは、己の持ち込んだ仕事の無謀さを思い知って・・クタクタとその場に崩れた。

「な・・なんと云う事だ・・私は・・私はそんなモンスターの棲む場に・・・皆さんを招いたのか・・」

Kは、皆を見ると。

「ま、最悪の奴と戦う気は更々無い。 最小限のリスクでやるつもりだ。 予想して、半数の奴等が半殺し手前で帰れる様には考えてる。 死なれちゃ面倒だから」

だが、こう言うこの包帯男が、誰もが余裕に見えるのは、何故だろう。

ゲイラーは、水を水筒から飲んで。

「ま、明日で決着付けてえ~な」

ダグラスも、震える声を宥めつつ。

「だな・・死ぬのは無しだぜ・・みんな纏めて」

Kは、一人ゴロンと横になり。

「さ、明日が本番だ。 さっさと寝ろ。 寝る前に、誘眠効果のあるお茶でも飲んどけ。 ビビッても寝られるぞ」

と言ってからKは、マクムスを見て。

「山のモンスターの恐ろしさは説明はしたハズだ。 悩むのは後回しにしてくれ」

誰もが、包帯男の指示に従って寝た。

ポリアやマルヴェリータも、寝たかったからお茶は飲んだ。

さて、朝は何時もと変わらない様に、普通に遣って来た。

晴れた朝日が、入り口から祠に漏れ込んでいる。

「ん・・ん? 朝?」

ポリアは、身を起こした。

見れば、まだ皆が寝ていた。

「? アレ? ケイが居ない・・・」

起きて、祠を見回せどKの姿は無い。

「ううん・・」

色っぽい声で、マルヴェリータも起きた。

「ポリア・・お早う」

「マルタ、おはよ。 ケイが居ないわ」

「え・・?」

その時だ。

―グアアアアアアーーーーーーっ!!!!!!!―

いきなり、空気を爆発させたような轟音を上げて、獣の雄たけびが上がった。

「うわっ」

「何だっ?!!!!!」

誰もが飛び起きた。

ポリアが、いち早く。

「外だわっ」

と、剣だけ手に祠の外に。

外に出てみると、

「あっ!!! ケイっ!!!!」

祠の前から離れた先で、坂の斜面手前にKが立ち。 その少し離れた前方に、大型の像の様な大きさのモンスターが居る。

―グルルル―

唸るモンスターは、黒い身体は墨のように黒く。 身体の高さがポリアよりもず~っと高い犬のような姿であった。 瞳は真っ赤に燃えるような光沢を放っていて、口からはモクモクと煙が上がっている。

「おいっ!!! なんだあのモンスターっ!!!!」

驚くデーベに、ゲイラーやフェレックが、

「言ってる場合かよっ!!!!」

と、走り出した。

その時である。 モンスターが、グッと身を屈めるようにしたあと、いきなり轟音の吠え声と共に口を開いて、火の玉を吐き出した。

―グアアアアアアアアーーーーッ!!!!!―

火の玉はKを飲み込みそうな大きさで、かなりのスピードで佇むKに向かっていく。

動かないKに、ポリアは驚いて。

「ケェェェェェーーーーイッ!!!!!!!」

と叫び上げて走り出した。

(ぶつかるぅっ!!!!)

見ていた全員が思った時、フッとKの姿が霧の様に消えた。

「何だとォっ?!!」

走ったダグラス、ゲイラー、フェレック、ヘルダーは、Kが見えなくなったのに驚いて立ち止まる。

「嘘っ?!!」

ポリアも、途中で止まった。

刹那。

―ギャァァァァーーーーーッ!!!!!!!!・・・・・・―

断末魔の悲鳴と思える声が上がり、

「うおっ」

「なぬっ」

声の方であるモンスターの方に、皆向いた・・・・。

巨体をグラリと横に倒して、黒い大きなモンスターは坂道の下に転げて消えた。

そして・・・Kは、モンスターの居た場所に立っていた・・・・。
どうも、騎龍です^^

もう14話になりました^^

もうあと4・5話くらいで、K編の初めも終わります^^

宜しく、お付き合いください^^


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