13、デビルフォレスト
13、デビルフォレスト
朝、東の空に太陽が大分に見えてから、全員が起きた。
「おはよう、ポリア」
「おはよう、ダグラス。 今日から、頼むわよ」
「任せとけ」
食堂に来た面々が、お互いで挨拶をしている。 朝食になり、冒険者達は、お互いで気のついた者に水を汲み合う。 これは、冒険者達の“杯交わし”で、滅多にやらない行為だ。
さて、Kは、黙って食事をしている・・・。 その横で。
「お前と組むなんざ~何年ぶりか。 死ぬときは一人で逝けよ」
と、ゲイラー。 言われたフェレックは、鼻先で笑い。
「ケッ、図体ばかりデカくても、剣の腕は進歩してんのか? お前が殺されたなら、涙なしで語ってやるぜ」
「口は、変わんね~な」
「そっちこそ」
この二人、駆け出しの頃に一緒のチームだったのだ。 しかし、フェレックとゲイラーの冒険者としての姿勢の違いが1ヶ月で表面化して、チームが決裂した。
今もこの二人には、お互いで歩み寄らない姿勢が見受けられた。
一方、ダグラスやポリア達は殆ど全員から水を受けて、また返している。 コミュニケーションを取る気構えは、確かなようだ。
さて、Kが食事を終えた頃を見計らかって
「よし、準備してくれ。 直ぐに出立する」
全員が、直ぐに部屋に帰り、支度をして出てきた。
Kですら、背負う袋が重みを見せて膨らんでいる。 魔術師の面々には、ちょっと重い荷物である。 Kや心得のある者は、ベルトにサイドポケットなどを着けて、重さのバランスを上手く均等化するのだ。
村の外れから、森に続く山道へとKが誘導して行く。 森に囲まれた野道の入り口で止まり。 Kは、後ろの全員に言った。
「これから隊列を組む。 魔法遣いは、中心に居てくれ。 今日は、魔法遣いの前面の魔法使用は避ける。 敵の撃退は、全て肉弾戦を中心とする」
と、人員配置を行った。
ポリアは、ダグラスと、マルヴェリータやマクムス達の右に。
ゲイラーとフェレックのチームの細剣士コールドと左に。
最後尾の後ろには、イルガ・ボンドスにフェレックのチームの学者イクシオがついて。
Kの後ろには、フェレックのチームにて、全く口の利かないヘルダーと、大型棍棒を持つデーベとハンマーを操る神官戦士の紅いローブのセレイドが。
弓遣いのレックが、
「俺は?」
Kは、頷いて。
「魔法遣いと真ん中に、意味はいずれ解る」
レックは、頷いて文句も無く従う。
Kは、移動が終わると全員を見て。
「いいか。 人数が多い分、狭い道は窮屈になる。 また、森の奥に入れば、もう道は無い。 近くに居る相手は、絶えず目で確認しておけ。 森に入る」
Kを先頭に、森に入った。 軽い雑談を交える皆の行く道が、最初はやや間隔の広い道であったのに。 野道が次第に獣道に変わって行く。 周りは、最初は林のように木々に空間が広く周りを見渡せたが。 徐々に空間は狭まり、蔦や蔓などが密集した森の木々を縛りあい、鬱蒼とした密林地帯に変わった。
「妙に涼しいな・・・」
レックは、元は狩人として森に暮らしていたとか。 陽が出ているのに、風も無くしてヒンヤリしているのが不気味に見えた。
ポリアが周りを見ながら、全く喋らない自分と似た背のヘルダーの横に居て。
「武器、持たないのね」
と。
ヘルダーは、手にも腰にも武器らしい物を持っていなかった。 耳が隠れる程の髪に、細い眼。 口は開かないし、のっぺり顔の細身の男。 これが、ヘルダーの印象である。 服は、腰から下の前後の前掛けが付いている繋ぎのような黒い全身服で、厚手の物だ。 胸には、鋼鉄の細いチェーンで作られた胸当てを。 背筋がピッシッとして、重い荷物にも全く動じていない。
「・・・」
拳を見せるヘルダー。
ヘルダーの横から、棘の付いた鉄の棍棒を持ったデーベが。
「ヘルダーは、格闘術の使い手だ。 戦いになれば、得物が解る」
デーベの持つ黒い鉄の棍棒は、持つ柄の先辺りから太くなり始め、途中から太い男の太股ぐらいに。 長さも一メートル半ぐらいで、太く成り切った真ん中から先の所には、無数のギザギザした棘を持っている。 こんな物で殴られるのは、モンスターでも真っ平御免だろう。 デーベは、若くてごっついアニキみたいな風貌だ。 バンダナを頭に巻いて、Kよりやや高い身長のガッチリした体格である。
ポリアは納得して、
「へぇ~。 格闘遣いは、ケイ以外は初めて見るわ」
ヘルダーは、直ぐにKを見た。 先頭を行く包帯男は、丸で気配も隠さないし格闘のプロとは思わない。 ただ・・・やはり足音がしない。 枝を踏もうが砂利を踏もうが、枯葉を踏んでも出ない。
「・・・・」
ヘルダーは、Kを不思議に思った。
Kが、ポリアに、
「ポリア、その男は“オシ”だ。 口が利けないのさ」
ポリアはヘルダーを見ると、頷くヘルダー。
「だが、武術の腕前はキミより格段に上だ。 いざ戦闘になったら、迷わずにダグラスとヘルダーの間に入れ。 二人が、ポリアに助太刀に入りやすいようにな」
後ろを見ないで、Kは、淡々と言う。
その言い方は、まだポリアを未熟視しているものだ。 聞いていたフェレックやダグラスは、ポリアの性格からして怒りそうな印象を抱いたのだが。
「はいはい、アタシより強そうだから、そうします~」
ポリアは、以外に素直に返す。
ダグラスが不思議に思って、ポリアに小声で。
「珍しく怒らないな」
ポリアは、笑って。
「ケイのああゆう助言に間違いは無いわ。 第一、私の先走りはみんなの迷惑でしょ?」
ダグラスは、好意を持つ分だけにポリアの気性は理解しているつもりだった。 前なら、怒って意地になっている。
(少し見ない間に、成長しとる・・・リーダーの影響か?)
ダグラスもまた、Kを見た。
だが、これは、マルヴェリータにも同様の事が言える。 以前のマルヴェリータは、尊敬出来る人や信じる人意外に会話を交わす事を嫌う素振りが有ったが。 今は、キースやハクレイなどが傾ける雑談に、素直に応じている。 見ているフェレックには、信じられない光景だった。
さて、そろそろ太陽が昼に近づいた頃、Kが。
「そろそろ、道が無くなる。 森の中を行くからな。 足元には気をつけろ」
Kは、そのうちに獣道を外れて森の中へ。
背の高い針葉樹林が多く。 倒木や、傾いた木々が見受けられる。 上に伸びた背の高い木々が日差しを遮り、奇妙に薄暗い。 丸で、どんよりと曇った日の朝方のように。
「すんげ~暗いな」
ゲイラーの方にいるコールドが言う。 碧い眼の中年オヤジのような風貌で、上半身には鉄の鎧を着ている男だ。 不思議なのは、右の腰には細剣を、左にはポリアやダグラスと同じ中剣を佩いている事だ。
後ろでは、テンガロンハットに皮のベストを着て、左の腰に棘付きの金属鉄線の鞭をぶら下げるイクシオも同様の事を。
「不気味な暗さだな・・・」
Kは、歩きながら上を指差して。
「この辺一帯は、“マクシムチンパンジー”っていう動物の縄張りだ。 奴等は、寝る時に木の上の枝を結んだり、折り重ねてベットを作る。 だから、枝が密集して光が来なくなる。 そして、ここは奴等の狩場でもある」
全員が、ハッとして辺りを見る。 すると少し離れた所で、“ボオオ~”と云う唸り声が。
ポリアは、警戒しつつ。
「ケイ、狩りって・・・人間?」
「ま、含むな。 腹が減ってれば」
どんどん森の間を歩いて行くに従って、“ボオオ~”という唸り声は数を増して、どんどん膨張するようなイメージを受ける。
「なんか・・数が増えてないか? 声の・・・」
コールドが言うのに対して。 Kは、上を見て。
「随分向こうも警戒して数を集めてるな~。 そろそろ襲ってきてもいい頃なんだが」
「戦いか?」
ゲイラーが、緊張の見える顔で聞いた。
「ああ・・・。 でも、襲って来る気配が無い。 面倒臭い事考えてるかな?」
「“面倒臭い”?」
「奴等、群れを作るんだがな。 かなり腹が減ってる上に相手が強い見ると。 他の群れや、大型猿の“イビルコング”を呼びやがる。 “マクシムチンパンジー”は、体長50センチぐらいだが。 “イビルコング”は、一メートル近い大型の肉食サルだ」
「そりゃ面倒だ」
ポリアは、普通に。
「ムカツク相手だけど、協力してるのね」
すると、Kは、軽く笑って。
「ハハッ、とんでもない」
「え?」
「マクシムチンパンジーは、何時もは襲われて食われる側なんだが。 態と声でコングを呼び寄せて相手を殺させるのさ。 お零れに預かる為にな」
「うわ、汚ァ~い」
「生死の世界だからな~」
Kは、そこで言うのを止めて立ち止まった。
「どうした?」
聞くダグラスに、
「どうやら、コングのお出ましだ」
Kが、前を指差す。
全員に緊張が走った。
―ウウウウウオオオ~~~~~ゥ!!!―
丸で、凶暴な人の声のような吼え声で、暗がりの中にこげ茶色の毛をしたゴリラが数匹現れた。 口元が犬のように突き出て、太い腕に短い足。 だが、身体の高さはポリアの腰ぐらいは完全にある。
明らかにゴリラの様な姿だが、その瞳は狂った人の様で、見ていて背筋に悪寒が走る。
Kは、鋭い口調で。
「奴等は、もうモンスターの領域にいるバケモノだ。 魔界の瘴気で生態が変わってる。 手加減は要らない。 倒せ」
「オーケーっ!!!」
「おしゃ!」
ダグラスと、ゲイラーが声を出して応じた。
Kは、すぐさまにリックを見て。
「上に注意しろ、濁った黄色に光る両目がマクシムチンパンジーだ。 居るなら、直ぐに射落としてしまえっ」
「承知した」
リックは、素早く弓に矢を番えた。
Kの脇や前で、散開したポリアやダグラスが襲って来たコングと戦い始めた。
「そりゃあああっ」
ダグラスは、素早い剣の振込みでコングを早々と斬り倒し。 ポリアと力争いをしているコングに向かう。
「この・・・」
剣で向かえ撃ったのに、短いが鋭いツメで受け止められて、押し合いになったポリア。
一方で、コング二匹を自分にた向かわせたヘルダーは、サッと腰に両手を回すと、ス~っと何かを取り出した。 持つのは、一本づつの短剣の様な棒・・・だと思った瞬間。 パッとその棒が扇型に開いた。
堕ちていた木の枝の先を短剣で斬って先を尖らせて、投げナイフ代わりにしていたKは。
「ほう、戦扇子か。 珍しい」
と、言って、上で隙を窺うサルに投げつける。
フェレックが、偉そうに。
「ヘルダーは、その辺の剣士より強いぜ」
と、言った時だ。 イルガの後ろに、“ドサッ”と何かが落ちた。
「ムっ」
イクシオと、コングに向かったイルガは、小刻み動いている動物を見た。
(なんと・・・これが)
濁った乳白色の黄色い眼をして、赤黒い体毛に細く鋭い牙を持った小型のサルがソレだった。
Kとレックは、自分達の頭上に来たサルを打ち落とす。 暗い森の枝に、静かに忍び寄っているのが小型のサルだ。 炯炯と光る黄色い眼が、かなり凶暴な印象を受ける。
ポリアは、ダグラスの加勢を受けて、一気にコングを突き倒した。
「残りはっ」
と、見た先で。 二匹のコングを華麗に動いて喰らい付きをかわし、擦れ違い様にその喉笛を斬り裂いて倒したヘルダーを見た。
「わぁ~お」
と、ダグラスが言い。
「凄い」
ポリアも驚いた。
しかし、やはり豪快なのはゲイラーだ。
「おおおりゃーっ!!!」
気合一閃、コングを真っ二つに切り倒し。 近くに居たコングもなで斬りにして、奥から来ていたコングに向かいつつ。
「まだやるかあああっ!!!!!」
と、咆哮を上げる。
「わっ」
と、近くにいた棍棒を構えていたデーベが驚くほど。 ビリビリっと、威圧を覚える。 足元には、動かなくなったコングが・・・・。
コング達は、それに怯えたのか戸惑った。
Kは、頭上のサルが見えなくなったので、
「ゲイラー、もういい。 無用に殺すな」
ゲイラーは、じりじりと後退するコングを見つつ。
「いいのか?」
「ああ、遣りすぎると必死になって疲れる。 撃退すれば、もう帰りも襲って来ない」
「解った」
倒したコングは、総十体。
Kとレックが打ち落としたサルは、十五匹くらいだ。
Kは、出発を号して。
「もう少しで、川原に行く。 そこで、少し休憩だ」
隊列を直して、出発する。
屍骸を見たフェレックは、Kに。
「おいおい、リーダーさんは前面で戦わないのかよ」
Kは、アッサリと頷く。
「面倒」
ポリアも、続けて。
「こんだけ人数いて、のっけからKに出張られたらこっちが恥だわ。 せめて、森抜けるくらいはKが居なくても行けるぐらいじゃないと」
マルヴェリータも。
「だわね・・・私達が只のお荷物で終始終わるんだもの・・・」
ゲイラーは、意気揚々と、
「任せろ、山でも出番無くしてやるさ」
しかし、レックは違った。 先に行くKを見ながら、
「だが、凄い技術だ・・・あの木の枝でサルを倒すなんて・・」
フェレックは、レックが真剣に言うので、
「そんなモンか?」
「当たり前だ。 じゃ、お前が木の枝を投げて木の上のサルを落としてみろ」
後ろから、ボンドスが。
「確かに、見てて簡単にしてのけてた・・・。 狙いも正確で、急所を確実に突いてある。 そして・・・あんな耐久性の無い枝が、しっかりと刺さってた。 その辺の木に枝を投げて、抜けないぐらいまで刺せる奴が此処に居るか?」
フェレックは、此処まで言われてようやくKの手練を理解し始めた。
マルヴェリータは、フェレックに向かって。
「理解の出来ないフェレックは、確かに頭悪いわよね」
「うグ・・・」
悔しくなったフェレック。 マルヴェリータに言われるのが一番プライドに響く。
その時だ、マクムスが。(チーム行動になったので、氏を外します)
「その辺でいいでしょう。 無駄話も体力を使いますよ」
と、笑って嗜める。
マルヴェリータも、ペロっと舌を出して前を向いた。
イルガは、前の仕事のKも見ているだけに。
「ま、あんな芸当はケイの実力に一片に過ぎぬ」
さて、歩き出す中でダグラスはポリアに。
「ポリア、腕が少し上がったな」
ポリアは、呆れて。
「助けられちゃ意味ないわ。 ソレより」
と、ヘルダーに寄って、
「バトルファンって、初めて見たわ。 凄い切れ味ね」
口の利けないヘルダーは、二度頷いた。
一方、ゲイラーに細剣遣いのコールドは。
「御宅、さすがに凄い手並みだな。 大ザルを一刀両断とは」
ゲイラーは、素直に。
「大剣は攻撃が遅いからな、一撃一撃が勝負なんだ。 次の一撃より、この一撃が全てなんだよ」
初めてのチームの実践は、お互いの力量を推し量るにはまだまだな内容だった。
さて、Kの後を行くこと、半刻(約一時間)程で川のせせらぎが聞こえてきた。
ポリアが、
「水の音がするわ」
と、言えば。
レックが。
「先ほどから、水の匂いがしていた。 川幅は大して大きくないが。 綺麗な水のようだ」
見ても無いのにと、フェレックがレックを見返し。
「ンなこと解るのか?」
「ああ、森に二十歳まで居た。 モンスターに森を襲われるまでは、平穏で水の匂いが何時もしている所に居たんだ」
Kは、横目にレックを見て。
「出身は、スタムスト自治国かい?」
レックは、微笑み頷いた。
「ああ、良く解ったな」
Kは、皆に。
「右手に川原がある。 休憩だ」
と、言ってからレックと並ぶようになって。
「スタムストは、このホーチト王国に北に位置し。 国の左を“魔の温床・ダロダト平原”に面し、南西にマニュエルの森を持つ。 昔、大規模なモンスターの暴走が有ったらしいし・・・。 アナタの訛りが、な」
レックは微笑み。
「祖国の証さ。 もう直る物じゃない」
「直す必要ないさ」
Kも、口元を微笑ませる。
日の光が嬉しい程に、川原には明るい日差しが注がれていた。 川幅は三・四メートル程だが、流れている。 大小の小石や岩が転がっている川縁で、昼食の支度に入った。
レックが、火を起こす為に簡易的な竈をゲイラーと作った。
水を金の柄杓で掬ったポリアは、水が赤いので。
「ケイ、水が赤いわ」
Kは、水を飲みつつ。
「レックに説明して貰え、飲める」
ポリアは、ナイスミドルの紳士狩人を見た。
レックは、頷いて。
「赤いのは、草の成分だ。 ちと渋みがあるがしっかり飲める。 少し沸かしてあげよう」
「解ったわ。 じゃ、汲んで持っていくわ」
レックは、ゲイラーの横で、岩に座るKを見て。
「ほんに、良く出来た男だわい」
ゲイラーが。
「リーダーか?」
「ああ。 誰も持たない知識は言うが、誰かが知った知識は任せる。 チームのバランスを考えて、ああして交流の機会や接点を持たせてるんだろう。 これがフェレック辺りなら、親の仇を取ったみたいに言い触らすわい」
「な~る。 まだ若そうなのにな~」
レックは、ゲイラーを悪戯っぽく見て。
「負けて居れないな、“ウチ”のリーダー」
「んだ」
そこに、システィアナが遣って来た。
もう、ゲイラーに人権は無い。 敬礼して出迎える。
さて、疲れてきた一行には、いい休憩になっていた。 ま、マルヴェリータがフェレックの自慢話にイライラしていたのは別にして。
Kとマクムスが二人で語り合っていた所に、キーラが遣って来た。 緑色のローブ姿のキーラは、Kの前に立った。
「あ・・あの、少しいいですか・・・」
Kは、キーラを見て頷いた。
「座りな」
右の岩の上を薦めたKに、頷いたキーラは岩に凭れて。
「ありがとう御座います」
「どうした?」
キーラは、そう言われて躊躇いの表情を見せる。
「あ・・あの・・僕・・怖いです。 正直・・・フェレックさんみたいに・・・戦えないかもしれません。 もし・・南の祠に誰か居たら・・・僕、残ります」
Kは、マクムスとチラリと見合った。
マクムスは、仕方の無い事だと思った。
「なら、仕方ありませんね。 無理強いはしません」
だが、Kは。
「言う意味は解った。 だが、誰を残すかは、その時に決める」
キーラは、怪訝にKを見た。
Kは、水の入った金のカップを手にして、
「大怪我してる奴等がいて、魔術師残してどうするんだ? それなら、システィアナみたいな僧侶を残す。 キミが残るべきか、否かは。 その現場の判断だ。 言ったはずだ、この全員がチームだと」
キーラは、自分の判断が勝手な判断だと悟った。
「す・・すいません」
Kは、頷いて。
「解ればいい。 それから、もう一つ」
「はい?」
「フェレックを手本にするな。 あんなのは、魔術師のクソだ」
キーラも、マクムスもKを見て驚いた。
キーラは、さも凄い様に。
「でも、フェレックさんは凄い魔力ですよ。 それに、高位の魔法も・・」
だがKは、鼻先で笑った。
「はっ、あんなの凄くもなんともない。 あれぐらいの魔術師なんか、世界にゴロゴロしてる。 第一、魔力だって、マルヴェリータやシスティアナの方が潜在的に上だぜ。 ただ、ああして長年遣ってるから慣れて、魔力がまあまあ高いから扱えてるだけ。 普通、あれぐらいの魔力あるなら、もう世界に渡り出てるさ」
「で・でも・・もう・・世界に」
キーラは、そろそろ世界に出ようとしているフェレックは、順調のように思える。
Kは、マルヴェリータの自慢話をしているフェレックを遠くに見て。
「世界に出るのに、もう十年掛かってるんだろう? ゲイラーは、あれはいいリーダーに恵まれないだけだが、フェレックは違う。 仕事の対する姿勢も、魔法をどう扱うかも、眼に見えない所で判断されてるんだ」
キーラは、良く解らなかった。
「ゲイラーさんも、フェレックさんも、違いがあるんでしょうか?」
Kは、キッパリと。
「対極だね」
聞いていたマクムスが、Kに。
「そんなに違うんでしょうか?」
「ああ。 ゲイラーは、長く流れながらあっちこっちのチームに入っていた。 それに比べて、聞く処のフェレックは、チームのリーダーであり続けている。 今回でもう4度目のチームと云うんだから、奴がチームの決裂を生んでる元凶・本体だろう。 自分がチーム成長を妨げてるんだ。 こんなに滑稽な話も少ないぜ」
「なるほど・・・それは確かに違いがハッキリしていますな」
「フェレックの魔法がどんなものかは、見てみないとなんとも言えないが。 あの魔力をしてこれだけ時間が掛かって居る所を見る限り、今のままじゃもう頭打ちだろう。 マルヴェリータが、そのうち一番解るはずだ」
Kは、そう言うと腰を上げた。
「そろそろ出立だ。 ハンターが偵察隊を向けてきたしな」
全員、パッと立ち上がって、身構えた。
「相手は何所っ?」
と、ポリアが聞く。
Kは、荷物を背負いつつ。
「川の向こうだ。 森の中に“ストレイフ・ウルフ”の斥候が来た。 先を急いで、迎撃出来る所に出よう」
ゲイラーは、川の向こうの森を見て、
「戦わないのか?」
Kは、対岸の川原を見もしない。
「斥候は沢山いる。 道に反れて倒しに行くほど時間は無いし、無駄。 逆に距離を取って向こうが逃げる。 群れの本体に誘い込む為にな」
弓を取って矢を番えたレックは、その言葉に構えを解いた。
「ふう、もう出発かよ、って・・・あ」
フェレックがため息。
マルヴェリータは、ハクレイやシスティアナと先に行ってしまった。
さて、一同は森に戻る。
森の中は、更に倒木などが増え、もう避けては通れない。 だから、乗り越えるしかない。 凄い湿気が辺りを包み、倒れた木の根や、枝などが露を滴らせているし。 歩く地面も、枯れ草とコケ生して柔らかい。
「なんだよこの道はっ!!!」
フェレックが、文句を。
レックが、
「恐らく、先ほどの川の本流は、この下の浅い所を細かく分かれて通っているのだろう。 地面が水分を多く含み過ぎるから、大きな木が根腐れをおこして倒れてしまうのだろう」
と、説明してやると。
「んなことどうでもいいっ!!! はあ、はあ、全く・・魔法遣いに・・こんな体力を使わせやがってっ!!!」
と、文句ばかり。
マルヴェリータは、横で白い手袋を汚して進むシスティアナやハクレイにマクムスを見る中で。
「うるさいわね・・じゃ帰ればっ」
と、怒った。
「う゛」
余りの迫力に、フェレックもビックリ。 Kと行動を共にしているマルヴェリータは、こう強くなった気がする。
「はぁ、はぁ・・」
システィアナも、大粒の汗を流して行く。
ゲイラーは、負ぶって遣りたいが、
「みなさんも~おんなじです~」
と、さっき言われたから、もう言えない。
(大汗のシスティ・・・可愛い・・負ぶってあげたい・・・ハッ!! ・・・システィを・・・負んぶ・・・? そしたら・・・あの・・可愛らしい胸が・・・おお俺の背中に・・・)
ゲイラーが、違う方向にフラフラと反れて行きそうで。
「おういっ!!!」
何事かと、Kが声掛ければ。
「あ?」
ゲイラーが、Kの方を向いて。
「あ、そっちか」
Kは、戻って来たゲイラーを見て、
「お前さん、何で鼻の下が伸びてるんだ?」
ゲイラーは、ハッとして。
「な、何を言ってんだっ、い・イクぞ」
おめでたい方だ。 鼻血が出てないだけマシかもしれん。
さて、太陽の傾きが如実に夕方だと解る頃、森の切れ間に有る丘のような野原に出た。 森と森の間が、百メートルも無い。
「うわわ、川だ」
ダグラスが、左手に“ゴウゴウ”と水の流れる音を見に行ったら、断崖絶壁の下はさっきの川の三倍は激しい流れの川だった。
Kは、休憩を言い渡し。 近くの岩に寄り掛かる。
「これから、ここで“ストレイフ・ウルフ”を待つ。 向こうも、動かない我々に向かって来るだろう」
やはり、体力の差か、ハクレイやシスティアナなどは、もう肩で息をするほどに疲れていた。 座って休む者も多いし。 フェレックなどはゴロンと横になっていた。
レックは、森の向こうを見て。
「何か、嫌な殺気を覚える・・・獲物を窺う獣の気配だ・・」
ゲイラーは、Kに。
「その狼は、モンスターなのか?」
「ああ。 元々は、魔界との結びつきの強い処に居たモンスターの成れの果てだ。 一匹の“シルバーデビル”と呼ばれるボスと、“ファイター”と云う戦闘部隊と、“シーカー”と呼ばれる斥候部隊からなる群れを作っている」
フェレックは、身を起こして水を飲みつつ。
「数は?」
「百から二百くらいか」
「ぶっ!!! ・・・おい!!!! そんなに相手出来るかっ!!!」
マルヴェリータも、困った顔になって。
「凄い数ね」
Kは、以外にも短絡的に頷く。
「ま~な」
マクムスは、疲れる皆を見てから。
「全滅まで、やるのですか?」
「いや、二十か三十で大丈夫。 奴等は、何よりも嫌うのが、群れの絶対数が減る事。 何故なら、奴等もこの森や山では頂点に君臨するバケモノの餌に過ぎない。 群れて勢力を守っているから、全滅までは決して遣らない。 短時間でシーカーとファイターを倒してしまえば、シルバーデビルは出てこないさ」
イルガは、険しい顔つきで。
「大きさは?」
「シーカーが一メートルぐらい、ファイターは三メートル近くかな。 シルバーデビルに居たっては、七・八メートルから、それ以上か」
「でっ・デカイな・・・」
学者のイクシオは、更に興味が湧いて。
「ボスは倒さなくていいのか?」
「一回撃退してしまえば、帰りも襲って来ない。 この森の奴等は、山のモンスターの餌的存在だから、一度でもやられた相手には向かって来ない。 寧ろ、ボスを倒すと散り散りに為って統率を失い凶暴化する」
レックは、頷いて。
「なるほど、習性が故に対処も利くという処か・・・全部を相手にするのは流石にの・・」
すると、Kは。
「ま~そんな処だな。 だが、二百を相手にするならやり方を変えるだけ。 別に、今回は普通でやるだけさ」
と、森と森の中間の所に歩いて行く。
「どうした?」
座って水を飲んでいたコールドが、立ち上がる。
Kは、先の森を見て、
「集まってきた、ボスも居る。 ざっと、今は50くらいか・・・そろそろ来るな」
Kの声に、全員が森を見る。
Kは、森を不敵な笑みの口元にして見ながら。
「来るぞ、さあ・・・今日の大一番だぜ」
ポリアも、ヘルダーも身構えた。
Kが、動く森の気配を察知し。
「ストレイフ・ウルフは、通称が“森の門番”。 コイツ等潰せないなら森に入る資格は無いぜ。 魔法遣いは、俺の後ろに。 イクシオと、セレイドは、魔法遣いの後ろを守れ。 三匹回り込んでる。 出てきたら倒せ。 他は、俺より二十歩以上前で迎え撃て。 レックは、俺と後方支援だ。 さ、くるぞっ!!」
鋭く、早く、聴き易いトーンで言うK。
ポリア達が前衛に走り込んだ時だ、前の森の中から鈍く青白い光が見えた。
「来いっ!!」
ダグラスの剣を抜いて言う一言で、全員が武器を構えた。
ーワオオオオーーーーンンー
森より、六匹の灰色の毛をした狼が飛び出して来たのであった。
どうも、騎龍です^^
遂に、森の突入編です^^
いやいや、天気の悪い日には偏頭痛に悩まされて、ちょっとグロッキーしてます^^;
いよいよ、後半編の中盤に来ました。^^
お楽しみ頂ければ、うれしいです^^
でわ、読んでいただいてありがとうございます^^
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