10、突発の仕事
10、突発の仕事。
深夜の霧雨の中、Kを呼びに来た斡旋所の使い。 食堂の一角のバーカウンターで呑んでいたポリア達を見るなり。
「居たっ、おいっ!! 包帯男は居るかっ?!!」
全身ずぶ濡れで、かなり焦った様子の使いに、ポリア達が驚いて。
「ええ・・上で寝てるわ・・」
と、言うポリア。
マルヴェリータは、グラス片手に。
「どうしたの?」
「なんかあったのか?」
イルガも続く。
使いの男は、案内してきた従業員に向かって。
「おいっ、部屋を教えてくれ」
かなり焦って切羽詰まっている。
使いの男はロビーに戻って、階段の下で上がって行った従業員を目で追った。
ポリアやマルヴェリータは意味が解らない。
「何よ・・・説明なし?」
「ポリア、一緒に行く?」
「ん~。 K次第・・・じゃない?」
まだ、食堂にも数名遅く来た客が食事中で、慌しいこっちを見ていた。
さて、少しして・・・。
「おいおい、寝てるのに何事だ?」
と、包帯男Kが、黒い襟の高いコートに黒皮のズボン姿で現れた。 髪はやや前髪が長く。 眼、鼻、口、耳以外は包帯で巻かれた顔。 一目で怪しき人物のように見える。 現実、冒険者としての知識・剣や武術の腕前・経験の幅広さは底なしで、ポリア達もKの実像を把握しきれない。
使いの男は、Kが来るなり近づいて。
「・・・・・」
耳打ちをした。
Kは、ずっと見ているポリアを見た。
ポリアは、
「行くの?」
Kは、使いを見てから。
「どうやら、マズイ事態らしいな。 行ったほうがいい」
「私達は?」
「いや、いい。 それより、明日にチームから俺を外しておいてくれ」
ポリアは、頷く。
「お願いします」
使いは、Kに頭を下げた。
「ま、話しを聞いてからだ。 行こう」
Kを連れ立って、使いの男は外に出た。
ポリアは、ワイングラスを持って。
「Kにだけ用事って訳ね。 今回の仕事に関してじゃ無いみたい・・・。 でも、なんだろう」
マルヴェリータは、黙っていた・・・・。 なにか、嫌な感じがしたのである。
その時、システィアナがカウンターに凭れこんだ。
「シっシスティ・・・・」
驚いたポリアだか、寝落ちた様子である。 システィアナが、寝息を立てていた・・・。
その夜、Kは宿へは戻ってこなかった・・・。
朝、いや、昼前に起きたポリア達。 お腹を満たそうと降りて来れば、宿の主人がやって来て。
「なあ、包帯男の荷物はどうするんだ? バック一つだが、今日中には取りに来て欲しいんだがな」
40過ぎの太った男だが、どうも目つきも言動もあまりいい響きに聞こえない。
ポリアは、以前にも泊まった時。 女好きのこの主人にえらい絡まれた経験があり。 一度、口論をしたから、向こうも随分と強気な言い方だった。
ポリアは、起き抜けで言われたものだから、ムスっとして。
「あ、そう。 食事終わったら引き払うときに持って行くわよ」
と、ぶっきら棒に。
イルガも、主人の言い草に棘を感じた。
いざ、広い食堂の一角に座ったら。
「あ、帰ってきた・・」
従業員の男がポリア達に水を出そうとしていた所で、そう言うものだから。 ポリア達も、ロビーの方を見れば、Kが二階に上がって行く所である。
「ケイが帰ってきたわ」
「真っ先に上ですな、お嬢様」
「うん」
注文を従業員に言う間に、Kは荷物一つで下に降りてきた。 そして、ポリア達の元に従業員と入れ替わりで来る。 衣服が濡れていて、包帯もかなり濡れていた。
「お帰り・・で?・・行くの?」
Kは、ポリアに頷き。
「ああ、ちと急な仕事になりそうだ。 俺は、今日は協力会の館に泊まる」
というなり、踵をかえして。
「みんな」
「ん?」
「もう逢う事もあるかどうか解らんが。 ま、元気でやれ」
Kは、ロビーへ消えた。
「え?」
ポリア達は、ポカ~ンだった。 昨夜は、急がずにラキームの事件がどうなるのかを見守ると言っていたKだったのに。 気の抜けた食事になった。
Kのメンバー外しを行う為に、宿を後にする昼下がりの雨の午後。 直ぐ隣の店先で傘を手に入れて、【蒼海の天窓】に向かう。 ポリアは、今日は寒いし風も冷たいので、何時ものスカートの下に薄い青のタイトな長ズボンを穿き、マントも身体を包むように纏っていた。
イルガも、上に紺のマントを纏い。 マルヴェリータは、衣服の上から厚手の紫のローブにフードまでしている。
さて、遣って来たのは港を一望出来るカーブの高台にある冒険者協力会依頼斡旋施設=通称:“斡旋所”、“協力会の館”と呼ばれる所。 要は、仕事を請け負える場所である訳だ。
用事は、Kをメンバーから外す。 次の仕事は、まだいいような気がしている。 それだけ、数日前のクォシカの一件が衝撃的だったのだ。
中に入るなり、館の広い一階の壁に貼って有る仕事の張り紙を見ている他の冒険者の数名が、ポリア達に気付いた。
「おい・・アレだろ?」
「ああ、この間の話しの奴ら」
「ポリア達だぜ・・・本当の話か?」
ヒソヒソ話が起こっていた。 中央の円形カウンターに向かうポリア。
(うわぁ~、なんか見られてる・・・)
と、マルヴェリータに言えば。
(でしょうね。 事件を解決するまで、私達が向こうに居た側だもの)
ポリアは、Kが抜けた後の事が心配になった。
「おう、どうした? 主人の話しを聴く気になったって訳か?」
いきなり、カウンターに行くなり、バンダナを巻いた男がカウンターの内側から声を掛けてくる。 館の主人の代理であり。 一階の壁に貼ってある仕事の請負から報酬の支払いもする。
ポリアは、Kのチームからの除名を頼んだ。
すると、また後から来た冒険者チームが居たようで、ドアが開いた。 雨の音が入り足音がする。
「お~、ポリアじゃないか。 やっぱりマスターに呼ばれたのか?」
いきなりのドスの効いた低くしゃがれた声がする。 ポリアはその声に聞き覚えが有った。
「ん?」
ポリア達が見返ると、そこにはかなり大きなガタイの男性を先頭に、五・六人の男達が立っていた。 顔に見覚えはある。
ポリアが、先に。
「ゲイラー」
と、筋骨隆々とした大男に呼びかけた。
「おう、元気そうだな。 聞いたぜ、オガートで活躍したそうじゃないか」
筋骨隆々とした男を先頭に、男達がやってくる。
ポリアは、“ゲイラー”と呼んだ男に疲れた顔をして。
「解決したのは、私じゃないよ。 今、奥に居る包帯男よ」
黒い頑強な作りの上半身鎧を身に着け、背中には自分の背と同じ長さの大きな大剣を背負う。 ゲイラーの筋肉の素晴らしさには、イルガはただの子供のようだ。
「おう、ソイツさ。 こんどのヤマ(仕事)のリーダーなんだよ。」
ポリア達は、意味が解らずに仲間の皆で見合う中。 システィアナが、ゲイラーの前に進み出て。
「ゲ~イラ~さん、こんにちわ~」
すると、厳つい顔のゲイラーが起立をするかのように立ち。
「システィ、こ・・こんにちわ」
と、緊張した顔になる。
「ゲ~イラ~さん、ケイさんは~チ~ムは作ってませんよ~」
すると、ゲイラーは緊張した声のままに。
「ち・違うで~あります。 今回のヤマは、合同チームのよ~であります」
ゲイラーの後ろに立つ、小型の斧を背負う中年のテッペン剥げオヤジが。
「おいおい、ゲイラー。 いい加減に慣れろや」
すると、ゲイラーは後ろを向き。
「ウルセエ・・・俺にとってはシスティの愛らしさは神と一緒だ」
呆れるゲイラーの仲間。 ポリアですら呆れて。
(アンタのバカさも神レベルだと思う)
このゲイラーという男は、背中の剣を扱う腕は確かなモノで。 この街にいる冒険者の中でも、三本の指に入れてもいいのだが。 システィアナに怪我を治された一年前から、彼女に惚れ続けている。 しかも、晩熟で、この通りだ。
ポリアは、ラチが明かないから、システィアナのフードを手繰り寄せて、前に立つと。
「話しがサッパリよ。 どうゆう事?」
ゲイラーは、普通に戻り。
「それはこっちもだ。 マスターが、お前の所の包帯男をリーダーにして、俺のチームとフェレックのチームとの合同で仕事をやって欲しいなんて言い出しやがる。 文句の一つも言いたくてな。 こうして来た訳よ」
マルヴェリ−タは、腕組みして。
「あのフェレックにですってっ?!! ・・・まさか、マスターの気が触れたのかしら?」
ポリアは、両手を挙げて。
「さあ、それだけ凄い仕事なのかも」
マルヴェリータは続けて。
「ま、一つ言える事は、Kのリーダーなら文句は言えないわね。 実力がこの場にいる誰よりも上で違い過ぎるわ。 フェレックにKのリーダーなんてもったいないわ」
ポリアも。
「まぁね~。 出来すぎだもん」
ゲイラーは、二人の会話に割って入った。
「おいおい、随分だな」
その後、ゲイラーの後ろに居た若い男が前に出てきて。
「ちょっと、言い方が酷くないか? フェレックは、性格は悪いが腕は一人前だぞ」
グレーがかった髪は長く耳を隠すほどで、見開かれた眼は柔らかいが身のこなしはしっかりした剣士である。 ポリアと同じサイズの中型剣を左に佩いている。 皮の軽量鎧を膝まで身に着けている、なかなかの顔立ちの整ったいい青年である。
ポリアがその男性を薄目に見返し。
「ダグラス、言い過ぎじゃないわ。 知らないからそう思うだけよ。 もし一緒にチーム組んだら、誰も頭が上がらなくなっちゃうわよ」
“ダグラス”と呼ばれた若い男は、ややキョトンとした顔で。
「マジかよ?」
その時だ、二階から主人の声がする。
「おいっ! 上に上がって来い。 フェレック達はもう待ってるぞ」
ゲイラーは、上を見て。 剥げた大男のマスターが何時もよりも声が強く、言い方が険しいのに気を奪われた。
「ん? 怒ってるのか?」
ダグラスも。
「珍しいな」
ポリアは、毎度の事。
「アタシなんか、毎回怒られるか、どやされてるからな~んも思わない」
ゲイラーのチームにも、笑いが起こった。
ゲイラーのチームが、一階の右奥に在る“く”の字階段に向かった。 ポリアも、カウンターで自分達の事を言っていたので。
「着いていってみようか?」
と、仲間に。
マルヴェリータは、呆れて。
「Kが抜けたら用は無いんじゃない?」
「ま、怒られたら。 降りよう」
「ポリアも、ホ~ントにオバカチャンね」
「う゛っ、それは言わないでよ」
ポリアは、ゲイラーのチームの一番後ろから着いていった。
【蒼海の天窓】に限った事では無いが。 大きい都市の斡旋所には、前部屋と、本部屋と呼ばれる場所で区別される。 ここで言うなら、一階はさほどの難事件と思われない仕事の依頼が中心であり。 二階で受ける仕事は、難易度の高い仕事なのだ。 二階の仕事は、駆け出しのチームなどには決して回らない。 実力差で失敗されても、協力会に非難が出るだけだし。 死人が出るのは協力会としても意味の無い仕事の遣らせ方なのだから。
ポリア達は、二階を見るのは初めてだ。 黒い木の床は光沢が栄えている。 一階の三分の一程の広さの間取りに、向かい合って座れる長椅子と長いテーブルは四列ほど。 観葉植物の植木蜂に囲まれた、バーのようなカウンタ−の向こうにあの剥げた大男の主人が居た。
主人は、壁に灯されたランプの明かりでポリア達を見るなり。
「おい、ポリア達の来たのか? 呼んで無いぞ」
と。 その声は鋭い。
「あは・・・やっぱり・・・ダメ?」
ポリアが言う。
すると、一番カウンターに近い右側のテーブルに座っていた男達の一人が立ち上がった。
「マスター、ポリア達もいいじゃないか。 こっちは、アンタのふざけた呼び出しに来てやってるんだ。 眼の保養ぐらいさせろ」
そのテーブルの男達がドッと笑った。 言った男は、マルヴェリータと同じ魔法遣いなのか、蒼いローブ姿で杖を持っている。 長い金髪で、ローブの背中に流れてフードを隠すほどであった。
ゲイラーが、その男達のテーブルと通りの隙間を挟んだ左のテーブルに座りながら。
「マスター、今回の仕事のリーダーになるのは、ポリアのチームに居る男なんだから、ポリア達も聞く権利が有ると思うが」
すると、マスターは。
「もう、今、除名作業をしたんだろう? ポリア達に用は無い。 聞かせるだけ無駄な話だ」
と、怒る言い方で突っぱねる。
(ポリア・・ヤバくない?)
マルヴェリータも、今日の主人の怒りようは何時もの叱りとは明らかに違っていたのが解る。
(だね、退散しよう)
ポリアが言うと。 また、右のテーブルの魔法遣いの姿の男が、
「マスター、ポリア達は来ないのか? なら、俺等は行かないぞ」
その我儘な態度に、遂に主人がその男に向かって怒鳴る。
「フェレックっ!! ふざけるなよ! 今回の仕事はポリア達はおろか、貴様等束でも当たれるかどうかの大仕事なんだぁっ!!!!! この館の主人の俺を本気で起こらせたいのかぁっ!!!!」
凄まじい怒声である。 “フェレック”と呼ばれた男は、声の大きさと云うより、主人の気構えに驚いて黙った。
その時である。
「マスター、いい。 今ので、判断出来た」
と、声が上がった。
ポリアは、Kの声にハッとした。 嫌、ポリアだけでは無い。 マスター以外の居た全員がハッとして、カウンターの横の三人掛けのソファーを見た。 包帯を顔に巻いた男が、優雅に足を組み、背もたれに左腕を預けて座っていたのだ。
(ゲイラーっ!!!)
ダグラスが瞬時に、小声で言う。
(ああ・・・見えなかった・・・)
ゲイラーは、それ以上言えなかった。 二人の居たチームの、正に目の前にこの男が居たのだ。 なのに、声が聞こえるまで見えていなかったのである。
「お・おい・・お前、誰だ?」
フェレックも、今までいたこの場に、包帯男が居たと認識していない。
まさに、誰もKの姿が見えていなかったのであった。
「おい、ケイ・・・」
主人は、包帯男に声で縋るような素振りだ。
Kは、静かに。
「いいか、マスター。 合同の仕事なんて、矢鱈滅多等あるものじゃない。 二つ以上のチームを用意する意味は、一つのチームでは到底手に負えない仕事だからだ。 それは、それだけの危険と、仕事に対するチームの実力評価に差があるのだが、緊急を要するから組む遣り方なんだよ」
と言ってから、フェレックを見ると。
「こっちのリーダーの男は、そこが解ってない。 しかも、マスコット代わりに実力伴わないポリア達を巻き込もうと考える態度を見る限り。 仕事に向かっても使えない、ポリア達以上に無駄な奴らだ」
ポリアは、フェレックを見た。 自信家で、魔法の力が強いことを自負して止まない男・・・。 そして、マルヴェリータに熱を上げる一人である。
フェレックと呼ばれた男は、まだ30ぐらいのインテリ然とした長身の男性だった。 鋭い眼を尖らせて、Kに怒った。
「キサマ何さまだっ!! この俺様を無駄呼ばわりをするだとっ!!!」
Kは、軽く笑ってから。
「要らんと云う事を前提に話してやる。 今回の仕事は、此処から北北西にある魔の森“マニュエル”を抜けて、モンスターの巣窟と化した山“アンダルラルクル”に入り。 行方不明になったチーム“グランディス・レイブン”の僧侶、オリビアを救出しろと云う内容だ」
「え゛っっ?!!!!!!」
「なんだとっ?!!!!」
「・・・」
一斉に声が上がり、誰もが驚いた。
Kは、更に続けて。
「ま、知ってる奴も居るだろうが。 オリビアとは、この主人の一人娘だ。 親馬鹿の甚だしい依頼を持ってきやがった訳さ。 あの山に入る事自体が命懸けなのに、ふざけた気持ちの馬鹿を連れて行ける訳ないだろう?」
ポリアは、Kに。
「ケイっ、私達見てる・・・。 Kを紹介された日・・・そのチームを見てる」
そう、あの日。 呼び出されて此処に来た時、紅い鎧を着た男をリーダーとしたチームの一団を見ているのであった。
主人は、唸るように。
「そうだ。 丁度、ポリア達と入れ替わりだったな」
ポリアは、主人に向かって。
「じゃっ、サーウェルス達がしくじったの?」
「・・・・」
主人は黙る。
剣士“サーウェルス=オフネリット”率いるチーム“グランディス・レイブン”は、このホーチト王国のチームでは、現役最強のチームだ。 もう陸続きで、左右の国三ヵ国を跨いで冒険をしている勇名高いチームで、去年は王に謁見までしている。
このチームの女僧侶“オリビア”は、サーウェルスとは恋仲で、主人の一人娘なのだ。
主人曰く。 あの日、ポリア達とKが出会う時、席を外していた主人の居ない間にサーウェルス達が仕事の依頼を持ってきた村人と現れた。 内容がただの薬草探しで、悪名高い魔の森である“マニュエル”に行くのだ。 サーウェルス達は、今は森に行けるチームは自分達しか居ないと自己判断し。 今下に居るカウンターの男に請け負いさせたのである。
「全く。 本来なら俺が取り仕切る仕事だってのに、あのバカサーウェルスの奴が内容の誤報を村人に持ちかけたんだろう。 薬草探しだからとウチのオリビアも人助けで請け負いたがったもんだから、易々と請けさせちまった訳だ」
ポリアは、驚いて。
「それって、不正じゃないっ!!!!」
だがKは、冷静に。
「いや、不正でもなんでもない。 他にやれるチームが居ないから回しただけだろう。 俺も下の奴に聞いたが。 右から左に受け流しをやってしまっただけさ。 この主人は、娘を寝取られたから、そのリーダーの男に嫉妬してるだけ」
「ケッ!!」
主人は、唾すら吐きそうに言う。 この主人が、サーウェルスを好んでいないのは、有名な話である。
Kは、全員を見て。
「お前達じゃ、この仕事は無理だ。 ご苦労様、前金は用意させるから持って行け」
と言うと、主人に。
「マスター、俺一人で行く」
「えええええっ?!!!」
主人は、驚くが。
「足手纏いが居ないなら、女一人連れるぐらいは出来る」
「ほ・・本気か?」
「ああ、死人出す真似など出来るか。 大体な、そのサーウェルスって奴のチームと、この二チームを足した比較で同レベルの実力が在ると思ってるのか?」
「いや・・・それは・・・」
主人は、口ごもった。
Kは、フェレックやゲイラー達を見て。
「遊び気分で仕事やってる奴らなんかは、子供と同じだ。 少しは出来ると聞いたが、剣や魔法を振り回してる曲芸軍団で、あの魔の森、魔界地獄なんて言われる山に入れる訳が無い。 眼球が娘の事で鈍ってるんだろう? とにかく、こいつ等を帰してしまえ。 一人で、準備してくる」
Kが、斬り付けるような鋭い言い方で、主人に言う。
その言い方に、遂に怒ったフェレックが。
「貴様ぁぁっ!!!! 言わせておけばコケにしやがってぇっ!!!!!」
と、魔法を遣おうと、杖を振り上げた一瞬だ。
「なっ!!」
カウンターの前からKの姿が陽炎のように消えた。 驚きの声を上げて、フェレックの振り上げた杖はそこで止まった。
そして、刹那。
「死にたいのか?」
声がした。
「あ・ああ・・・」
怯え出すフェレックの後ろに、Kの姿が。
「ケイ・・・」
声で向いた皆に眼の中、ポリアの横のフェレックの後ろに包帯男が居たのである。 しかも、フェレックの喉元に剣を突きつけていた。
「あ゛っ・・俺の剣・・・」
フェレックの右隣に居た男の剣が鞘から抜かれていた。
薄暗い部屋だが、主人のいるカウンター周りにはランプが幾つも有ったのに。 誰にもKの動きが見えなかった。 今度こそ、本当に緊張が走る。
(ダグラス・・・解るか?)
ゲイラーが、震えた声で言う。
(いや・・・この男の殺気が・・・身体から感じられねええ)
冷汗が出始めたゲイラーやダグラス。 Kの殺気が部屋全部の四方八方から感じられて、見えているKから感じられないのだ。
Kは、そのままに。
「テメエみたいな奴は、俺から言わせればポリア以下の駆け出しだ。 物事の考え方も出来てない、自分の力や気性を抑える節度も知らない。 チームに組むだけ、リスクが増えるだけだ。 解るか?」
ガタガタと、フェレックが震えていた。
ポリアは、前に仕事でラキームの警護をしていたガロンが、どうしてKを恐れたか。 今、その理由を垣間見た気がする。
「お・おい、此処で殺生は止めてくれ」
主人が、苦い思いを声に滲ませる。
Kは、剣を喉から離して、横の剣士の前のテーブルに置く。
「フッ、殺す価値すらない。 黙らせただけだ」
―ガタッ―
フェレックが、力が抜けて椅子に崩れた。
その時だ。 Kは、主人に顔を鋭く向けて。
「所で、この場の人間以外にも、呼んだ人間がいるのか?」
「あ? そんなの居ねえよ」
主人が言うと、Kは階段を指差した。
全員が、一階に行く階段を見る。 そこに、丁度白いシスティアナと同じローブを着た男性が来ていた。
「あっ!!!」
驚く全員。
そして、主人が。
「マクムス大司祭様っ!!!」
と。
現れたのは、50半ばくらいの年齢と見受けられる男性だ。 持っている杖は金色で、先の装飾には、女神“フィリアーナ”の姿が。 背丈は、ポリアと同じくらいで、パッと見ても行動に至らなさの無いしっかりした人物に見えた。
「みなさん、失礼いたします」
マクムスと呼ばれた男が、全員に挨拶を。 システィアナと、フェレックのチームの太った僧侶男と、ゲイラーのチームの紅い神官服を着た男が、立ち上がって神の祈りの様な挨拶を。
主人が、態々カウンターから出てきて。
「大司祭様。 一体、どうされました?」
すると、Kが。
「おいおい、マスター。 話の用件は、アンタと一緒だよ」
「え?」
と、聞き返すのに。
マルヴェリータが。
「そうだわっ、サーウェルスの所の魔法遣いデルモントは、大司祭さまの甥よ」
主人は、ハッとして。
「そうか・・・甥子さんの・・・」
マクムス氏は、主人の前まで来ると頭を下げた。
「良く、お解かりで。 そう、その事をお頼みに参りました」
マクムス大司祭は、一万シフォンという大金を持って、ここに依頼に来たのであった。 サーウェルスのチームの全員の生死の確認と、遺体・怪我人の回収である。
全員が席に着き。 Kは、ソファーに座って、主人とマクムス氏の話を聞くだけであった。
主人とマクムス大司祭は、後ろのテーブルに着き。 ゲイラーやフェレック達に囲まれて依頼を話した。
主人は、マクムス氏に現状の難しさを語り。
「大司祭さま、今やサーウェルス達に敵うチームはこの国には居りませぬ。 しかし、事態は猶予が御座いません」
「はい・・・誠に・・」
「本来なら、冒険の仕事で死んだものは致し方なしとするのが慣わしですが・・・、私も娘の身の上があります故、そうゆう訳に行かせられません。 今、このケイという人物に頼んでいます」
「ほぉう」
マクムス氏が、眼を瞑る包帯男を見た。
「彼なら、それが出来ると?」
「はい。 今や、彼だけが森に行った経験のある人物。 合同チームを組織して、彼にリーダーを任せる以外に、方法は無いと思っています」
すると、マクムス氏は立ち上がった。 そして、Kの前まで歩いて来ると。
「私は、神官の身ながら甥を亡き妹より引き受け、育ててまいりました。 恥ずかしながら、これでも父性としての情もある一人の人間です。 どうか、私の甥を助けてくださいませんでしょうか。 せめて、遺体だけでも・・・息子をモンスターにはしたくは有りません。 例え、今の職を離れる事になっても構いません。 もし、手が足りぬのなら、及ばずながら私も行かせていただきます」
と、見も知らぬKに、この街最大の寺院の最高長官である男が土下座をしたのである。
「マクムスさま~・・・おいたわしや・・・」
システィアナが、涙ぐんでKの前に。
「ケイさ~ん、私からも~おねがいします~」
そこに、太った僧侶と、紅い神官服を着た男も来て。
「私からもお願いいたします。 この仕事のためなら、チームから離れることも謗りも受けまする。 どうか・・どうか・・・お力を」
「信ずる神は違えど、私もお供いたします。 この身、使ってください」
Kは、眼を瞑ったままに。
「この仕事のリスクは、人生の終焉すらも含む。 つまりは、“死”だ。 その辺のモンスターと戦う危険の百倍の危険を覚悟して貰わないと・・・出来ない」
すると、ゲイラーは。
「俺は、行っていいぞ。 チームを解体して、来る奴だけでもいいと思う。 俺は、アンタの実力を見たい。 どうせ、今まで命懸けだったからな。 覚悟は出来てる。 アンタみたいな人がリーダーなら、俺は文句は無い」
フェレックや、みんながゲイラーを見る。
「ゲイラー、本気か? 此処まで来て?」
フェレックが、気違いを見るように言う。 二人のチームは、もうこの国では有名だ。 もうそろそろ、他国にどんどん出て行こうと考えているチームなのだ。 チームを解散すれば、今に受けているレベルの仕事を回してもらえる可能性は、激減するだろう。
ダグラスが、
「俺も行く。 人生懸けて冒険者になったんだ。 死ぬことは厭わない。 ま、死ぬ気も無いけどね」
そして、Kがサッと瞳を開いた瞬間。
(?!!)
全員に風が駆けた感覚が走った。 風は起こりえないが、身体を貫く電流のような衝撃だった。 誰もが黙り、生唾を飲んだ。
Kは、静かに。
「全員立て」
皆が、その場に立った。 それを見て、Kはまた喋った。
「では、チームを合同で組織する。 参加意思の有る者は此処に残れ。 実力、経験を問わない。 命を懸けれる気持ちの有る者だけ残れ。 気持ちの有る者は席に、無い者は即刻去れ」
その言葉に、即座に反応した者が・・・。
「おっお嬢様っ!!!」
「あら、さき越された?」
と、マルヴェリータも席に着く。
イルガの驚く声も二人には聞こえていないのか、真っ先に席に着いた二人。
システィアナも、トコトコと席に。 続いて、二人の神官の男性も。
マクムス氏も、ゲイラーも、ダグラスも、席に着く。
ゲイラーのチームの、剥げた斧を背負う男も座り。 その同時に、フェレックのチームの武器も杖も持たない無口の男性が座った。
フェレックは、
「俺様の実力が子供騙しかどうか見せてやる」
と、席に。
結局、全員が座った。
Kは、座った一同を見て、
「もう、二度と意思の確かめはしない。 マスター、紙と筆を用意してくれ」
いきなり、Kはそう言う。
「え? 紙? 筆? なんだ? 制約でも書くのか?」
Kは、首を傾げて。
「阿呆、お勉強だ」
「はあ?」
全員が驚いた。
Kは、皆の前に立つと。
「いいか、これから言う物は必ず持ち込むようにして欲しい。 森はまだいいが、山に入ると危険が多い。 中でも、持ち込みの道具で防げる危険は、毒や病気だ。 モンスターの三割が毒を持ち。 山に住む吸血生物の全てが何らかの病気を媒介している。 これから言う物は、それに関わる物だ」
全員が、Kが言う事をメモった。
「これからは、仕事が終わるまでは一つのチームになってもらう。 持ち寄った物の効能や使用説明をするから、仲間、自分のいざと云う時の対処にしろ。 中には、食して免疫を高める物もあるから、しっかり覚えろ」
ポリアは、Kの説明が手際よく。 上手いのに驚いた。
(まったく、どんな頭してんのよ・・・冒険者育成学校とかつくったらどう?)
僻みであった。
説明を終えたKは、
「先に、前金を報酬として配る。 各自で買い物の身銭の足しにしてくれ。 明日の早朝に、北北西の村、トルトに出発する。 村までは二日。 着いて一日は休養してから、四日目に森に入る。 焦り、勝手は厳禁。 仕事の計画は、休養日の夜に話す。 以上、解散」
主人は、一日の休養が気になった。
「おい、一日休むのか?」
Kは、腕組みして。
「当たり前だ。 トルトに二日で行くには、馬車で全力だ。 揺れる荷台で休むに休めんし、緊張もある。 強引に行けば、体調不良も起こし事態が悪くなる。 俺がリーダーである以上、無駄な無理。 必要のない行動はさせない。 ミイラとりがミイラになれるか」
主人は、この降る雨がまだ続きそうな現状も踏まえて、この包帯男は、全てを含んで考えて居る事が薄々解りだす。
(任せるしかないな・・・焦ってダメなら全滅だ。 助けに行く側の万全がなによりだ・・)
マクムス氏も、
「流石ですね、なんとか落ち着いてきましたよ。 冒険はもう二十年は遣っていませんが息子共々宜しくお願い致します」
と、頭を下げて、引き返して行った。
ダグラスは、メモの内容を見て。
「リーダー、良く全部覚えてるな・・・忘れそうだ・・・俺」
ゲイラーが、ダグラスに向かって。
「お前の頭は、筋肉で出来てるんだろう? 俺でも、覚えられるぞ」
「ち、筋肉バカに言われちまった」
と、笑いを取る。 講義に引き締まりに、もう微々たる一体感が現れ始めていた。
ポリアやマルヴェリータは、あのジョイス氏が此処に居たら何というか見てみたかった。
今や、インフルエンザっちで、半死シテマスター(;;)
なんとか、頑張って生きて書きます。 後半は、主に冒険内容ですが、お付き合いください^^
この“K”の連載が1部終了を持って、違う冒険者の話に移行し、“セカンド”として別話にして、“K”の話は間隔連載で続けます。
本編が長いので、ホントすいません。
読んでいただき、ありがとう御座います。
蒼雲 騎龍
+注意+
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