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その男、伝説に消えた者
                  【エターナル・ワールド・ストーリー】


0,ファースト・プロローグ


ポリアンヌ、それが私の名前。

実家は貴族で由緒あるの。 ま、お嬢様ってとこね。

でも、2年前に家出したの。 剣と魔法が謳歌するこの世界で、冒険遣らなくちゃお話になんないわよ。

でも、ね・・・あの人・・・Kとの出会いは、私を変えた。 この冒険者と云う道の難しさや悲しさを教えてくれた。 多分、私・・おばあちゃんになっても忘れないわね。 Kの事・・・。




1.Kと云う男



海からの風が、穏やかに晴れた街を吹きぬける。 春の風が、温かく優しい。 

古代王国ホーチト

王制が数千年も続く古い国。 今はもう王が国の経済政権を大臣などに渡した政治になっている。  農業が最も盛んな国であり、野菜や果物を買いに世界から船が押し寄せる。

王都でもあり、国内最大の街マルタンは、商業の中心都市でもある。 今日も、船で運ばれてきた大量の物資が港に降ろされる光景が広がって、港から街を賑わせる。

海を渡る唯一の手段の船だ、様々なものを運んでくる。 人・物・・・船から降ろされる荷物とは別に、港に停泊する数々の船より、旅客も降りる。 その中には、様々な姿の人達が居る。 黒い礼服やドレスなどの正装をした男女や、旅人の様な姿のもの・・・。 しかし、その中に混じり、全身を鎧など纏い武装した者や、ステッキや杖を持つ者達。  一般の者とは明らかに異質な姿。 彼らは、[冒険者]と呼ばれる。 冒険者は世界を旅するだけの旅人とは違い、その持つ武器や、魔法という力をつかって、冒険をする者達だ。

しかし、辺りの人々は彼らを特別な視線で見ることは無い。 この世界で冒険者は、特別な存在ではない。  むしろ、駆け出しの冒険者など世に溢れているし、普通に働いている人の中にも、元冒険者などたくさん居るだろう。 そう、彼等もまた唯の人なのだ。

冒険者という職業がこの地に生まれてから、遥かなる悠久の月日がながれた・・・。

しかし、まだ彼等がいるという事、それは意味があるのだと云う事かもしれない。 

冒険者と見られる人々を含めて、船から降りる者、船に乗り込む者様々。 幾多の者達が、船という足に身を委ね旅を続けているのだろう。



さて、街に目を移せば、このマルタンの街の中心を東西南北に貫くレンガを敷いた大通りは、この首都の大動脈だ。

日々、港に着いた物資が国内外の交易都市に運ばれたり、国内外の交易都市から来た物資を積み込む為、都市の中は荷馬車が犇めいてる。 無論、街の中の網の目の様な通りの脇道や通りは、荷馬車以上に人が動いている訳だが。


大道路から枝分かれした繁華街へ向かう大通りを行く人々の中に、ちょっと人目を惹く二人が居た。

「なんで、いきなり呼ばれんのよ」

不機嫌に言うのは、百合の絵の装飾が美しい白銀製の上半身鎧を着たうら若い美女だ。 腰には、刃渡り90センチ前後の柄の紅い長剣を佩き、白いマントが潮風に靡いている。 凛とした美顔に細く切れ長い眉が、切れ長の瞳に似合っている。 髪は白銀色で、長い後ろ髪をリボンにて螺旋巻きに固定して、長く垂らしている。 白い肌は肌理が細やかで透き通っているかの様だ。 スリットの入った白いスカートから覗ける素足の太股や脹ら脛は、真珠が体に成った様で、足には深紅の鉄靴を履いていた。

「ポリア様、館の主人に呼ばれたのですから、悪い話では在りますまい」

そう言ったのは、“ポリア”と呼ばれた美女と並び歩く背の低い男である。 屈強な筋肉の鎧の様な体で、日焼けした黒い肌。 ポリアより頭一つ低い体には似遣わなく長い戟槍を持っている。 男の身長の二倍は長さが有ろうか。 見た目は、船着場にて働く40過ぎた船乗りのような厳しい顔だが。 ポリアに対しては臣下のように言葉を選んで接して居た。

「解ってるわ。 でもイルガ、昨日あれだけコケにされてよ。 んで、今日いきなり“来い”ってさ…」

二人は、往来で行過ぎる人や馬車を避けながら、

「確かに…。 ですが、仕事の斡旋は館の主人の気持ち一つです。 呼ばれたら行きませぬと」

「解ってるわよ、あ゛~。 こんな事なら、二人も連れてくれば良かった」

ポリアは、軽く頭を振った。 ポリアとイルガが泊まっていた宿には、魔法遣いのマルヴェリータと僧侶システィアナが居る。

昨日、仕事を探しに行って、報酬の大きい仕事を受けようとしたのだが。 仕事に対する実力差を問われ、刃向かった言い方をしたポリアは、斡旋主に散々罵られた訳だ。

昨夜は、仲間内で大酒飲み浴びてしまった。 だから、宿の残った二人は飲み過ぎて二日酔いに…。

しかし今日の朝になって、いきなり斡旋主から呼び出しを受けたという訳である。

街の中心地の少し外れには、冒険者達へ仕事を斡旋する館が有る。

【蒼海の天窓】

が、館の呼び名。 海が広がる港の風景を一望出来る高台の曲がり道。 それを前にして館が建っている。 古めかしいが、黒くどっしりとした大きい館であった。

ポリアが館の前に遣って来た時、館の前の通りにて。

「じゃ、行こうか」

低音の声をした若い冒険者が、5・6人の仲間に声を掛けていた。 リーダーらしき若い男は、赤い上半身鎧が春の日差しに照らされて、光沢が目映い。

イルガは、その一団を見て。

「お嬢様、あれは“グランディス・レイヴン”の一行ですな」

「そうね、この国生まれのチームじゃ、現役一番のチームだわね・・・。 はぁ~、なんか次の仕事を請けたみたい。 いいわね~、実力の違いだわ」

若い男を先頭に行く一団を見たポリアは、羨望の眼差しを向ける。 

先頭で歩き出した赤い上半身鎧を着た若い男の後に、白いローブと云われる全身を包む服に身を包む清楚感溢れる女性や、大木を一撃で斬り倒しそうな大きい両刃の戦斧を背負う戦士風の大男が後に続く。 

さて。 冒険者の世界にも色々と掟が有る。 例えば、仕事を斡旋してもらう為には、幾つかの条件がある。


1.二人以上のチームであること

2.仕事は、実力に似合うチームに、館の主人が選別して行うこと

3.モンスターなどの怪物や化け物以外に武器を使用することは極力避け、止む終えない場合にしても。 被害は最小限に抑えること


などなどだ。

仕事は、簡単な探し物から、遺跡調査や刑事活動まで多種に渉る。 伝説に語られる冒険者の話には、国難を救ったり、夥しい数のモンスターの討伐。 果てまたは、稀少な遺跡発掘や、剣豪伝など様々に・・・。 

駆け出しの冒険者達は、そんな話に憧れたりして有名になることを望んでいる訳だ。 

此処だけではなく、世界の主要都市や、大きい町には館や建物としての斡旋所が有り。 腕に相応みあった仕事しか請けられない。 仕事の成果や、仕事をこなした行動は、関わる人により噂や情報として伝えられる。 嘘や作り事など、直ぐに殆どが露呈する。 仕事の成否が一番の重要だが、その成功の導き方なども加味して主が冒険者達の実力を判断する。 その印象が反映して、チームの名前が館の主によって広めて貰えるなら、世界を渡り歩いても、色々な仕事を請けられる事になり。 難易度の高い、高額な報酬を示される仕事なども回して貰える様に為る訳だ。

さて、ポリア達は、1年半ほど前に“ホールグラス”(砂時計)という名前でチームを結成したが、今のところは駆け出しチームなワケで。 お世辞にも有名とは言えない。 ま、ポリアと、宿に残った魔法を操るマルヴェリータと云う女性の美貌だけで、微妙な有名度がちょっと有る程度だ。

「イルガ、中に入ろう」

「はい、お嬢様。 良い話だといいですな」

「だね」

黒いガッシリとした館の扉。 イルガは、ポリアより先に扉を開いて中に。 “リーーン”と、呼び鈴が涼やかな音色を発した。

中に入ると、館の面前である高台通りに面した壁側はガラス窓で、外からの日差しが入って中は明るい。 百人ぐらいでダンスパーティーでも開けそうなだだっ広いロビーが広がり。 ロビーの中央には、人が3・4人くらい内側に就ける広さの円卓があるだけ。 ほかに目立った物は右手の奥に、二階へ行く、“く”の字階段が見える程度、家具もテーブルも椅子も無い。

だが、外の通りに面した窓側の壁以外、奥と左右の壁に向かって様々な姿をした冒険者達が食い入るように向いている。 壁には、冒険者に依頼された数々の雑務や仕事が張り紙として掲示されている訳だ。

簡単な物では、農作業の手伝いを数日とか。 面倒な仕事では、迷い犬の捜索などもある。

「あら、今日は多いわね」

ざっと、館内にて仕事を探している人達は4・50人は居る。 何時もは20人くらいなのだが。 見る限り、新米か、それとも他から来た見かけない冒険者達がチラホラ。

「イルガ、どうもライバルが増えたみたい」

「ですな」

ポリアが先頭になって、中央の円卓に向かった。

円卓の内側には、立っている背の高い30才くらいのバンダナを巻いた男性と、どっかりとチェアーに座った固太りの中年大男が居る。 大男の方が明らかに偉そうに見えるし、態度もデカイ。 丸坊主なくせに、モミアゲから顎にかけて態と残した髭がラインを引いている。

ポリアは、円卓に近寄ると。 

「マスター、来たわよ。 話ってなに?」

ぶっきら棒で、ツンケンした言い方だ。 ポリアは、男性に恐怖症に近いコンプレックスがある。 だから、一度でも警戒したり言い争いをした男性には、キツイ言い方を見せる傾向があるのだ。 しかも、領家のお嬢様育ちから、他人に対しても礼節は払うが謙りはしない。

「ん~?」

チェアーに座った大男はポリアを座りながら見た。

「おう、来たか」

「話ってなによ」

「おいおい、いきなりツンケンすんなってよ」

座ったままに、大男は笑い顔で言って来る。

ポリアは、プイっと顔を横に向いて。

「昨日、あんだけコケにされたらツンケンもするわよ」

大男は、顎をポリポリ掻いて。

「当たり前だろう。 腕に合わない仕事を請け様とするし、俺の判定に“ケチ”呼ばわりしたろうが」

なるべく穏便に事を考えるイルガは、ポリアに寄っては見上げ小声で。

「お嬢様、冷静に」

聞いたポリアは頷いて、主に顔を戻す。

「で? 話してよ。 今日は、宿に二人を残して来たから、お叱りなら手短にお願いしたいのよ」

すると、大男はポリアに近づくように卓上に腕を伸ばして身体を寄せると。

「お叱りじゃない。 ポリア、一つ相談が有って呼んだんだ」

この主人が、まだ中途半端の駆け出しチームのポリアに“頼み”とは珍しい話である。 ポリアは、主人である大男を見て、

「“頼み”・・・ね? 昨日の今日でどうゆう風の吹き回し?」

「うん。 実はな、昨日の夕方に一人で来た冒険者が居る。 その人物は、お前さんが昨日に遣りたがった仕事について訊ねて来た。 だから気に成って、俺もその男に色々と尋ね返した。 するとなぁ、その男の話を聞くと、ど~うもあの仕事には理解の行かない部分が出てきたんだ」

主人の話は、どうもポリアやイルガはピンと来ない。

「だから・・・何?」

「ポリア・・・あの仕事、遣ってみる気はないか?」

「えっ? ・・・昨日、散々に“無理”って言ってたのに?」

「嫌、“条件付き”でってところだが」

「“条件”?」

「おう。 その昨日の冒険者を、ポリアのチームに一時的に加える事が条件だ。 それが出来るなら、あの仕事はお前さん等に任せてみよう」

ポリアは、眉間に皴を寄せて腕組みした。

「ちょ・ちょっと待ってよ。 “流れ狼”を加えろってこと? 相手のことも知らないで、いきなりそんなこと・・」

ポリアの言葉には、いかにも“拒否”と受け取れるニュアンスが含まれた。

だが、これは珍しい事でもない。 チームに人を新たに加えるのは、チームの全員の承諾が必要に成る。 一時なりとも知らない者を易々と加入することは、稀なことだ。 新たに加入した人物によって、チームの分裂も間々あることだ。

それと。 もう一つ。

ポリアの口走った“流れ狼”。 冒険者の中には、一人でいる一匹狼が居る。 仕事を探す時だけチームを作ったり、何処かのチームに入ったりする流れ者なのだが。 これがまた、いい噂や話の少ない者が大半である。 分け前に煩く、自分勝手に行動したりする自分主義だの。 チームワークもなく、酷い話には仕事を台無しにさせて一人で逃げた・・・なんて話もある。 “流れ”・“流れ狼”は、どこに行ってむ敬遠される。

しかし、主人の大男は、腕を組んで身を背もたれに戻すと。

「ポリア、俺はバカじゃないぞ。 その辺の“流れ狼”と同じヤツをポリアのような駆け出しチームに入れたら面倒になるくらいの事は解ってる。 そんな面倒を、こっちがやらかすかよ」

「じゃ、一体なんでそんな事を条件にするのよ」

「決まってるじゃないか。 あの男に任せたいが、一人だし。 多分、ポリアのチームに一番足りないモノを持ってる気がしたからさ。 話を聞けば、その男は病気で冒険が出来なくなっていただけで、前は普通にチームに入っていたらしいし。 学者としての知識は随分と広そうだ。 悪いヤツではなさそうだし、ポリアにとってもプラスになる相手だと思うぞ」

「・・・」

主人の話にポリアは、腕組みしたままに悩んだ。

(新たに人を入れるなんて・・・)

しかしながら、ポリアにしても悩みの種が知識だ。 ポリアのチームは、ブレインという存在が居ない。 お陰で、頭を使う仕事や、知識を必要とする仕事の成功率は、全くの“0”と言ってもいい。 

「マスター、その人ってどんな人なのよ」

ポリアが不安げに思わずと聞いた。 いきなりの話だから、無理のないことである。

「あ~、それがな。 まだ若い男だと思う、顔が解らんからなんとも言えないがな」

「え? 顔が解らないの?」

「あぁ、『包帯で隠れている』んだ」

主人の声に、いきなり何者かの声が被さった。 『包帯で隠れている』に、誰かの声がダブる。

「え?」

と、ポリアもイルガも別の声がした主人の横を見る。

「あっ」

「ぬっ」

驚くポリアとイルガの顔が一瞬強張る。

「なぬっ?!」

驚いたのは、主人も一緒だ。 声のした左を見る。

そこには、スラリとした背の高い男性が立っている。 やや痩せ型で、黒の皮ズボンに黒い襟のあるロングコートを着ていた。 問題は、その顔・・・目・鼻・口を除いて、額から首まで包帯にて巻かれている。 仮面を着ける者はたまにいるが、こんな人物はその辺にいるものではない。

主人は、急なことに冷や汗を掻く。

「おお・・居たのか」

だが、その内心は酷く乱れていた。

(全く気配が無かった・・・この場にいる者の気配くらいは感じていたつもりなのに・・)

この主人も、元は冒険者として中々の仕事をしてきた男だ。 数年前に、冒険者を辞めた時にこの仕事にスカウトされたというところ。 やはり、冒険者の力量を有る程度は見極めなければならない職だ。 主人は、いつもだらけているような素振りで居るが、来た冒険者の気配から仕事を選ぶまでの姿は必ず見ている。 そんな男が、後ろから来たとはいえ、気配すらも感じられないとは・・・。

ポリアとイルガが、その包帯顔の男の姿に目を奪われている中で、包帯男先にが喋った。

「マスターさん、俺を入れてくれそうなチームは在ったかい?」

「あ? あぁ・・今、このチームに交渉中だ。 昨日の昼に、あの仕事を請けようとしていたんだがな、ちょいと力量不足だから断った。 ま、アンタが加わるなら行けると思うし・・」

黒い姿の包帯男は、ポリアとイルガを見て、

「見た目変だが、怪しい者じゃない。 ちょっと病気でこんなに成っちまったが、オツムは普通に使える。 学者が職業だが、そこそこ薬の調合なんかもいける。 良ければ、チームに一時加えてくれないか」

ポリアは、困ってイルガを見たりして。

「え・・・えぇ・・・あのね、私のチームの仲間二人が、まだ宿に残ってるの。 リーダーは私だけど・・・ねぇ・・聞いていい?」

「なんだ?」

「あ~・・・なんで、あの仕事をやりたいなんて言う訳?」

「簡単な事だよ。 あの事件はタダの失踪事件じゃない」

「言ってる意味が解らないわ」

「俺は、依頼の事件が起こった町から流れて来た。 失踪の話を聞いて、少し町中で聞き込みをしたのさ。 行方不明の人物が、噂のような失踪をするとは思えない。 この事件には、裏が在る」

ポリアは、この男が何を言ってるかよく解らない。 請けようとしていたのは、失踪した女性を探すこと。 婚約者が、その女性を探して欲しいと、この館に依頼の遣いをよこした訳だ。

「どう・・・おかしいのよ」

ポリアが問う。

「どうと言うより、全てだな」

包帯男は、円卓に寄りかかり腕を組んだ。

この間に、一組のチームがバンダナを巻いた男に頼んで仕事を請けては出て行ったし。 10人くらいの館に居た者が仕事も請けずに出ていっていた。

主人は、ポリアに向かって。

「興味があるなら請けてみたらどうだ? 別に、解決できなくても今回は評価はしない。 俺の独断で頼むわけだからな」

ポリアは、ちょっと考えてから。

「解ったわ。 それなら、この仕事中だけ加えてもいいわ」

主人は、手を叩いて笑うと。

「よし、それは助かる」

そこに、包帯男は口を挟み。

「俺は、(ケイ)と呼んでくれればいい」

「解った、ケイな。 ポリアのチームの【ホール・グラス】に、ケイを加える」

ポリアは、仕事の内容を確認した。

―北の町オガートにて、行方不明となった女性のクォシカという女性を探す。 発見の報告は、町の町史ちょうしのラキーム氏に報告のこと。―



こうして、Kは私のチームに入った・・・・。





繁華街の道を、来た道の逆に戻るポリアとイルガ。 その二人の後ろには、Kが静かに歩いて続く。 やや長い前髪が、包帯の隙間に覗ける眼を隠す。 腰の辺りの服が膨らんでいるのは、サイドバックをベルトに通して付けているからだろう。 

人の多い繁華街は、昼間は商店などに客が来て賑う。 こんな人通りの多い通りでは、Kは目立って仕方ない。 ジロジロとKを見る通行人や、店前に態々立つ店の主。

ポリアは、Kに。

「ねぇ、その顔は病気でって言ってたけど、なんの病気だったの?」

「ん~、“パタリ病”さ。 別名は、“剣士殺し”っても言うな」

「え゛、あの死病の“パタリ病”?」

「ああ、マジで死に掛けた」

Kは、あっけらかんと言い切る。

“パタリ病”は、大酒を飲む冒険者の特に剣士に罹る稀な病気と云われている。 言われる通り、急にパタリと倒れて、高熱を発して苦しんで死ぬとか。 生きた人間の話など聞いたことが無い。

イルガは、Kを改めて観て。

「生きれるのか・・・初めて聞いたわい」

Kは、顔を左手で擦り。

「生還率は、5分(5%)位らしいな。 俺は、丁度いい所に寺院が在った場所で倒れてさ、そこに厄介になった・・・。 高熱が半年続いて、身体中が滅茶苦茶に痛くなったままに一年。 いやいや、最悪だよ。 そのときの苦しみで、顔が歪んじまった訳」

ポリアは、生じ酒に強いだけに。

「うわわわ、ちょっとは控えようかしら」

と、お腹の辺りを、鎧の上から摩った。

「健康が一番さ、美貌を維持するのも少しの節制からだ」

Kはそう言って、周りの人の目など気にしておらず。 売っている店の品物を見回していた。

ポリアもイルガも、Kから邪気のような気配が感じられなく。 言葉のやり取りも少なく、ポツポツと・・。 気が付けば、昨夜から泊まっていた宿の近くに来ていた。

「あれ、みんなの泊まってる宿」

ポリアから聞いて、Kは立ち止まると。

「じゃ、どうする? 中に俺も入るか? チェックアウトするんだろ?」

ポリアも立ち止まり、イルガも同様。

「待ってて、呼んでくるわ。 お近づきと仕事の話は、お昼で食べながらしましょ」

「OK、任せる」

Kは、そう言って宿屋が立ち並ぶ宿屋街の道脇に留まった。

ポリアは、一人で中に。 イルガは、Kの横に来た。

「ケイ、御主・・・得物は?」

「大丈夫だ、心配要らない。 今は、ダガー(短剣)を遣ってる」

イルガは、Kより頭二つは小さい。 彼が見上げるKはコートを捲ると、腰に刺してある長さの違う短剣を見せてきた。

「ふむ、一番長いのは45センチは有りそうだな」

「ざっと、50センチ強かな」

イルガはKを観て、

「元から学者だったのか?」

Kは、口元を微笑ませて。

「前は・・・格好つけて鞭を振るっていたが、もうそれも面倒になった」

「ふん、病気で筋力が落ちたか」

「そんなとこかな」

二人で話していると、ポリアの声がして宿から3人ほどの女性が出てきた。 イルガは、見て。

「出てきたわい」

「みたいね」

二人の前に、ポリアが二人の女性と共にやって来た。

「ケイ、僧侶のシスティアナ」

「よろしくで~す」

トロ~ンとした言葉の幼い感じする可愛らしい女の子だった。 背はイルガと同じくらいで、右手には木目が真新しい杖を持ち、フードの付いた純白の全身を包むローブに身を包んでいた。 背中には、金の刺繍にて、金髪の穏やかで慈しみ深い顔の女神が羽を開いて描かれる。

「こんにちわ」

Kが、頭を屈めて挨拶を。

ポリアは、もう一人の女性を紹介する。

「ケイ、こっちが魔法遣いのマルヴェリータよ」

「こんにちわ、よろしく頼むわね」

マルヴェリータと云う女性の声は大人びた物だった。

「よろしく、美人が多いな」

Kがそう言うのも頷ける。

蒼い胸開きのドレスに身を包み。 ポリアより少し背の高いマルヴェリータは、艶やかさ溢れる絶世の美女だ。 黒い髪が緩いウェーブで身体を纏うように腰辺りまで伸びている。 胸も男なら目が行ってしまいそうな張りがあり、括れた身体とのバランスは完璧であった。 右手には、純白のステッキが握られており。 ステッキの先端には、炎の鳥を模るオブジェが子供の握り拳ぐらいの大きさで付いている。

「ありがとう」

微笑するマルヴェリータは、その赤い唇を優雅に動かす。 薄めに見開かれている瞳は、男の大半が釘付けになってしまうだろう。

しかし、Kという人物はマルヴェリータにさして気も誘われない様子で。

「で? どうする?」

ポリアは、マルヴェリータを見て、

「マルヴェリータが、美味しい店に行くって言うから。 そこで、ご飯食べながら話しよ」

「この町で、一番の店に案内するわ」

と、マルヴェリータが言えば。

「ほ~、それは豪勢なことで」

Kは、軽くそう返すだけだった。

マルヴェリータは、全員を連れて街の飲食店街の南にある5階建ての店に向かった。 アクアマリン色の外装で、壁には赴きを醸し出すためか蔦が這わせてある。 

Kは、店を見て、

「こりゃ値が張りそうな」

と感想を。 

この店は、この都市でも有名スポットで、料理が一流なら値段も一流のレストランである。 海の海岸から、港を一望出来るように間取りがとられているという。 

「あら、解るの?」

と、ポリア。

「ま、見てからに」

Kが言うと、マルヴェリータが入り口の両開きの扉を開いて。

「さ、中に行きましょう」

扉を開いて鳴る呼び鈴に、奥からタキシード姿で正装をした中年の紳士が現れる。 スタイリッシュな体つきで、対応丁寧に。

「いらっしゃいませ」

と、一礼。

マルヴェリータは、微笑んで。

「お久しぶり、クレオさん」

紳士は面を上げて。

「これはこれはマルヴェリータ様。 本当にお久しぶりで、二ヶ月ぶりですな」

と笑う。 どうやら、マルヴェリータは知り合いらしい。

「クレオさん、5階の部屋は空いているかしら?」

クレオと呼ばれた紳士は一礼して、

「はい、あの部屋は貴女様御一家以外は遣わせませんよ」

「ありがたいことです。 今日は、友人と来たので、料理は任せますからお願いね」

「はい、お任せください」

と、クレオは、手を叩いた。

すると、クレオの後ろから二人のメイド姿の女性が現れる。

「御案内いたします」

右のメイドが、恭しく頭を下げる。 幾分勤めた、20半ばの落ち着いた女性である。

Kは、入り口のロビーの壁の絵、台と花瓶を見てスッと目を逸らした。 壁も、大理石をエメラルドグリーンに染めたものに、花や蝶に絵が描かれた細工の細やかな彩りを見せる。

メイドの一人に連れられて、5人は階段を上がって5階まで上がった。 5階には、踊り場から伸びる廊下を直進すると、行き止まりで扉がある。 メイドは、扉を開いて。

「こちらへどうぞ」

そこは、広々とした会食場のような一室である。 乳白色の美しいテーブルは、30人は楽に席に就けるだろう。 椅子の細部に亘った細工・・・、テーブルに施された模様・・どれもが一級品だろう。

Kは、中に入って直ぐにテーブルを見ては、

「は~、年代物のグラッシク家具だ。 随分と金の掛かったレストランだこと」

ポリアは、言ってる意味が解らない。

「グラ、え?」

Kは、部屋を見回して歩き出しながら。

「グラッシク・・・今から300年くらい前にいた家具職人だ。 王室なんかに家具を作って卸していたんだがな、金のある貴族や商人が好んで大金払って買った家具だ。 出身が、この国」

と、説明していたが、右奥の大きい絵を見るなり。

「おいおい、コイツは珍しい。 狂人作家、エルゴーニュールの大作だ・・・」

右奥の壁には、悪魔のような奇怪な化け物に襲われた街並みが描かれている。 油絵だが、悪魔の描き方が実におどろおどろしい。

マルヴェリータは、窓を開けるメイドの後ろで海からの風を受けつつ感心した。

「良く解るわね。 ま、私はこの絵は嫌いだけど・・不気味の一言よ」

ポリアも、イルガも同じだ。

しかし、Kは絵を指差して、

「ま、この絵だけじゃ~仕方ない。 後1枚が足らない」

「え?」

ポリアは、絵を見て。

「この絵、まだあるの?」

「ああ。 この絵は、エルゴーニュールの、【殺戮と救世】と云う題で画かれた物の片割れだ。 悪魔に襲われた街と、その悪魔を倒す女神の絵が一対の筈」

「へ~」

と、ポリアが頷くと。

「俺の記憶が確かなら、片割れの絵はこの街の王室美術館にあるはず。 絵のためにも寄贈してやればいいのに」

と、Kは絵を見て言うのだ。

そこに、奥の別の扉から。

「お待たせいたしました。」

下の階で現れた別の若いメイドの女性が、台車にて飲み物を運んできた。

「座りましょう」

ポリアが言う。

Kは、素直に椅子に向かった。

テーブルには、ワイングラスとティーカップが並べられる。

Kは座ると、先ずパチンと指を鳴らし。 メイドが向いたら、ワイングラスの飲み口を軽く手の平で塞ぐ。 “酒は飲まない”のサインであった。

メイドは、静かに一礼する。

酒を飲まないのを言わずに知らせるのは、メイドに対しての嗜みである。

マルヴェリータは、ポリアにそっと。

(かなりの知識人よ・・・随分と物知りな人ね)

ポリアも頷く。 

K本人は学者と言っていたが、その教養と知識は動く度に解る程である。

メイドが、テーブルの用意を整えて奥の扉から二人去る。

Kは、海や港を一望出来る窓を背にして座る。 その右に、イルガで、左にシスティアナ。 Kの正面にポリアで、ポリアの右にマルヴェリータが座った。

ポリアは、改めて。

「じゃ、一応はちゃんと自己紹介するわね。 私、リーダーの“ポリアンヌリファール・アルネクリス・ヴィハルト”。 剣士よ、名前は長いからポリアでいいわ」

すると、Kの視線がポリアに釘付けになり。

「“ヴィハルト”? おいおい、まさか冗談だろ?」

その言い方に、ポリアとイルガの顔色が変わった。 イルガは、探るように。

「知っとるのか?」

「・・・そうか、それで紅の剣の柄か・・・」

Kは、一人納得したようにポリアの剣の柄の紅いのを見た。

ポリアは、驚いた顔でKに呻く様に。

「まさか・・・私のサードネームを知ってる人がいるなんて・・・」

ポットに入ったティーを、自分のカップに注ぐKは。

「“ヴィハルト”の姓は、隣のフラストマド王国の公爵家にいた天才剣士の使ったサードネーム。 それを遣うなんて、その一族くらいなもんだ」

ポリアは、焦りの滲む声で戸惑い。

「だって・・・、本当の名前で旅なんて出来ないじゃない。 でも、この名前を知ってるなんて・・・わが国の学者だって、王室学術の長しか知らなかったのに」

ソレを聞いたKは、苦笑いで。

「逆に、世間の古い学者のほうが知ってるかもな。 ま~もう古くて殆ど誰も覚えちゃない話だから使っていてもバレることは無いかもしれないが、な。 もし、チーム売れば変わって来るかも知れないぜ」

そして、Kはポリアを見つめると。

「どうやら、結婚させられそうにでもなったか? その充てつけでその名前を?」

ポリアは、グッと息を呑んだ。

Kは、首を左右に振ると。

「図星かよ・・・跳ねっ返りが産まれちまったか。 オヤジさんも、苦笑いだな」

マルヴェリータは、Kを見てはポリアを見て。

「なんで解るの? ポリアの家の事を知ってるの?」

「いいや。 “ヴィハルト”の名前を遣った人は女性でね。 “マリシナ・F・ヴィハルト”と云う。 細剣を扱わせたら天才と云うか神懸り的だったらしいな。 だが、その名前が表舞台に称えられないのには訳があってね。 この女性、婚約した皇族との結婚を断り、何の名も無い市民と恋に落ちてしまった。 だが添い遂げられない事を嘆き、二人して結婚式の日に心中しちまったのさ」

ポリアは、下を向いて黙る。

Kは、サラリと一瞥ポリアを見て。

「自由が欲しかったのか、自分の相手は自分で見つけたかったのか。 飛び出したのは自分の意思だし。 ま、これ以上はな~んも言わん」

と。 そして、自分の番とばかりに。

「俺は、ケイ。 学者だ。 “パタリ病”で、自分のことの記憶がチョロチョロ抜けて名前が思い出せないから、この名前で頼む」

マルヴェリータは、横で黙るポリアを気にしながら。

「私は、マルヴェリータ・ベルバラード。 魔想魔術師(イリュージョナー)よ」

その名前を聞いたKは、いよいよ呆れた素振りでマルヴェリータを見る。

「オタクもかい。 このチームはどんな有名人の集まりだよ」

真顔に為ったマルヴェリータは、Kを見返して。

「やっぱり解るのね・・・私の家・・」

「“ベルバラード”は、この国の最高の商人である家に200年前くらいに嫁いだ王侯貴族のサードネームだ。 王位継承権があるのに、態々それを無くしてまで愛を貫いた皇女の名前だろう? 全く、なんてチームだよ」

Kは、呆れ口調だが。 ポリアの時と同じく。

「ま、どうしたいかは自分の意思だ。 こっちも、もう触れん。 面倒だ」

イルガは、Kに向かって少し声のトーンを落として、警戒したままに。

「ワシは、イルガ。 ポリアお嬢様の従者だ」

Kは、頷くだけ。

次に、天真爛漫なニコニコ顔のシスティアナが。

「わたしはぁ~、システィアナ~ユリナエフぅですぅ~。 フィリアンタ教のそ~りょですぅ~」

Kは、頷いて。 物腰柔らかく、

「背中の刺繍で解るよ。 よろしくね」

と。

この世界には、20を超える神々が崇められている。 その中で最も信仰の厚く信者の多いのが“フィリアンタ教”である。 古代の伝説に登場し、人に慈悲を与えて天界に還らなかった“優愛・博愛・慈愛の女神フィリアーナ”を信じる一派だ。 僧侶とは、神々に信仰を注いで、その神聖な力を授かりし救済の使徒である。 魔法の力は清らかで、怪我を癒したり、毒や大体の病も治せる。

一方、マルヴェリータの魔法は、想像の力を魔力と呼ばれる人の第六感に備わった力で具現化する超魔術だ。 なんでも具現化出来るわけでもなく。 解明された古代の魔法呪術語のほんの一部を操っているに過ぎない。 しかし、長けた者になれば、家一軒と同じ大岩を一撃で粉々にする破壊力はおろか、離れた所に移動したり、物を浮遊させたり、無くした物を見つけたりと万能呪術である。 このほかに、呪術には、幾つか種類があって、魔想魔呪術は、もっとも扱う者の多い呪術である。

さて、黙っていたポリアは、Kに向かって口を開いた。

「ねえ、なんで私の名前の由来知ってるの? 我が家の事は何も知らないハズなのに・・・」

問われたKは、紅茶を一口飲んでから、

「“炎剣ヴォルファリス”」

「え?」

「おいおい、知らないのか?」

Kは、いよいよ呆れて聞き返す。

「知らないわ・・・。 小さい頃にお父様から聞いたのは、悲恋の天才剣士だったってだけ・・・」

「ふぅ、自分の家の歴史だぜ? マリシナの持っていた剣は、炎の精霊の長が鍛冶屋に手を貸して出来た秘剣中の秘剣だ。 ヴォルファリスの剣は、マリシナが死ぬ前にどこかに隠したとされていて、一説には結婚を迫った皇族はその剣を欲したとも云われる。 古い古い文献には載ってる。 本当に知らなかったのか?」

ポリアは、ショックな顔で、

「知らなかった・・・何も・・・」

「ま、もう数千年前の逸話かもしれないが、な。 君の家は代々に亘って剣の名手を輩出してるから、あながち本当かもね」

Kは、ここで手をタオルで拭くと、

「自己紹介も終わったし、それじゃ~仕事の話といくか?」

ポリアは、ハッとして。

「えっ? あ、えぇ。 お願い・・」

語られ始めたKの話はこうだ。

今から4ヶ月ほど前、この王都マルタンの北にある町オガートで、一人の女性が行方不明になった。 名前は、“クォシカ”。 町娘にしては綺麗な女性で、町一番の美しさだったそうな。 依頼者の“ラキーム”とは、町の町政を司る“町史”(ちょうし)という役職で、町で一番偉いらしい。 

さて、一見すると、婚約者が居なくなったラキーム氏が、愛する女性を探そうとしている様に見えるが。 どうやら裏はそんなモノではないらしい。

このラキーム氏は、実はまだ町史といっても代行であり。 その任は、まだ父親にある。 身体の悪い父親に成り代わって、ラキーム氏が代行している訳だ。 だが、このラキームという人物の評判はすこぶる悪い。 町は、野菜や果物の生産で、春から秋の終わりまで商人が訪れて農家や地主と取引が盛んなのだが、ラキーム氏はその場に時々現れては金をせびるらしい。 しかも、女好きで女性に付き合いを迫るのも強引で、気に入れば誰とでもとか。

ポリアは、それを聞いて。

「まさか、失踪って・・・その男からクォシカって人が逃げ出したとか?」

と、呆れる。

Kは頷いて、

「町の人は、殆どがそう思っているな」

「じゃ、探さなくていいんじゃない?」

「それが、そうもいかない。 失踪しそうな女性じゃない。 聴くにしてクォシカという女性、失踪の半月以上前に、ラキーム氏との婚約を解消している。 しかも、亡くなったご両親を大切にしていて、地元の町では評判の働き者だそうな。 しかも、亡くなった父親譲りの薬草取りの名人で、町の薬剤師代わりだった芯の強いしっかりした女性らしい」

マルヴェリータは、ワインを傾けてから。

「確かに、失踪しそうな雰囲気は無いわね。 しかも、婚約を解消だなんて」

「ついでに言うと、ラキーム氏は2ヶ月後に結婚するとさ」

ポリアが、困った顔をして。

「はあ? 誰と?」

「このマルタンの街にいる伯爵家の令嬢と」

ポリア達は、訳が解らなくなった。

マルヴェリータからすれば、

「じゃ、もう探さなくていいんじゃない?」

で、ポリアやイルガも賛成である。

Kは、此処で。

「料理来たみたいだ。 食べながら続きといきましょうか」

一同が、奥の扉を見ると、

「御待たせ致しました」

と、メイド二人で、台車2つに料理を運んでくる。

Kは、その量を見て。

「なんだ、量が多いな」

すると、イルガは。

「いや、あんなもんだろう」

運ばれて来た料理が、テーブルの上に乗る。 丸鳥のグリルに始まり、サラダの大盛りのボウル。 パンは、焼きたての形のままに出てきたし。 魚のムニエルと、1メートルぐらいのスズキが姿蒸しで皿に。 6種のメインと、10種のオードブル。 10人前ぐらいのパンに、スープも似たような量。

Kは、口元を引き攣らせて。

「おいおい・・大食い大会か?」

と、小声で言う。

ポリアは、なんとでも無い顔で。

「まず、食べよっか」

仕事の話は中断した。

Kの前で、この連中ときたら食べるは呑むわ・・・・。 女性というのに、普通に食べる食べる。 食べ始めて少し、もうワインが2本は無い。 ポリアもマルヴェリータやシスティアナも呑む。

マルヴェリータは、酔い始めたやや座った瞳でKを見て。

「ケイ、“パタリ病”の原因ってなんだったの?」

すると、ポリアは、

「マルタ、お酒だってさ」

“マルタ”は、マルヴェリータの愛称である。

「へえ~。 どれくらい呑んでたの?」

Kは、魚の蒸し物を自分の皿に移しつつ。

「そうだなぁ、一番呑んでいたときは・・・一日に白ワイン20本とか」

ポリアが、ギョッとして。

「一人でっ?!」

「ああ、仲間と行って、150本くらい空けた気がする・・」

イルガは、肉を食いつつ。

「そいつは病気にもなるわな」

Kは頷いて、

「すきっ腹でも呑んでたからね・・・皆さんも気をつけたほうが。 目の下が少し充血してるし。 休肝はちゃんとしないと、こうなりますぜ。 生きていて、ね」

と、フォークで、包帯顔を指す。

すると、マルヴェリータがポリアを見て。

「明日から呑まないからいいわね」

頷くポリア。

Kは、食べつつ。

「毎朝、咽の渇きと頭痛が有るだろう。 全員」

「う゛」

4人が、咽を抑えたり、お互いを見たり。

「ま、30半ばで美容や健康に嘆きたくないなら、酒は程ほどに。 食事はしっかりと好き嫌い無く。 人は必ず老化と云う道を辿る。 それを遅らせるのは、食事・運動・好きな事をする。 そして、人を愛する事。 心の安らかな人、優しい人は、歳を取ってもいい顔をしているって訳」

すると、マルヴェリータはポリアを横目にして。

「あらあら、それじゃ~ポリアは大変ね~。 愛するは、男嫌いだから出来やしないわ」

すると、ポリアもマルヴェリータをキッと睨んで。

「だから何よ。 もう化粧しないスッピンは老化してるクセに。 ヨボヨボ顔を隠す化粧にも限界あるんじゃないの」

「なんですってっ?!」

マルヴェリータが睨み返せば。

「何よ、言って来たのはそっちじゃない! そのあっさりしない性格、魔法でどうにかなんない訳?」

イルガは、疲れた顔をして、

「お嬢様、マルヴェリータも、新しい仲間の前でもう喧嘩ですか。 止めてくだされ」

システィアナに至っては、肉をフォークに刺して持ったままに。

「ポ~リアちゃんもぉ~マルタしゃんもぉ~、お互いでだ~い好きなんですね~。 だ~から喧嘩するんですぅ~」

Kは、紅茶のカップを手にして、

(なんだこのチーム・・・曰く付きのチームとは本当だわ)

呆れるしかない。 もう、仕事の話どころではなくなった・・・。

ポリアは、酔い始めてか。 Kに絡み出す。

「ケイ、アンタも一杯くらいやんなさいよ」

「アホ、病気になったのに、やるかっつ~の」

「アホってなによ!!」

イルガが、酔っていながらに酔えてない顔で宥める。

「アンタも、苦労してるな」

Kが言えば、イルガも。

「何事も慣れというヤツか」

「な~る」

結局、Kは少食な方なのに、食わされてしまい。 明日のために宿を探すのに店を出た夕方には、ヨロヨロと腹を押さえて歩いていた。


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