「間違っているわ。この世の中は間違いだらけなのよ!」
ホントおかしい、政治に間違いが多いとは言うけれど、そんなレベルじゃありはしないわ。
世の中が根本的におかしいのよ。
「だって。だって、私はとってもとっても可愛いのよ。しかも花も恥らう19歳、ナイスバディにプリティフェイス。これはもう全世界に可愛がられておかしく無い存在なのよ。それなのに!」
私は振り上げたこぶしをPCデスクの上に叩き付けた。
液晶ディスプレイがブルブルと音を立てて揺れた。
机の上においてあった小さなクマちゃんのぬいぐるみも揺れた。
「なんで私は貧乏なのよ!」
そう言ってみたけれど実は答えはわかりきっているのよ。
だって私はニートなのだから!
「働くって言うのはあれでしょ、可愛さを持ち合わせて無い人の背負う業みたいなもんでしょ? だから私には無関係なものなのよ。なんで憲法に可愛い子は働かなくても月に100万円貰えますって書いてないのよっ」
私の怒りは間違って無いわよ。そうよ! 間違うはずが無いのよ。
なぜならば、可愛い=正義なのよ。
可愛い子は間違いを犯さないの。
もし犯したとしても『てへっ。ごめんねっ』って頭をコツンとして微笑めば全部許されるべき存在なのよ。
そうは言ってみたものの、通帳には1356円しか残っていない今の現状。
下から見ても上から見ても、笑顔でニッコリと微笑んで見つめても残高の数字は変わってはくれない。
「可愛い私が見つめてるんだから増えてくれたっていいじゃないのよっ。ああ、何もして無いのに、気がついたら預金が2億円くらいになってないかしら・・・・・・。こんぴゅうたーの誤作動とかで2億円になってくれないかしら・・・・・・」
私の切なる願いは悲しくもどこにも届きはしなかった。
天を仰いでただただ途方にくれる沙耶香19歳(美少女)なの。
「どうすればいいの、こんな事じゃネットオークションで狙っていたバックを落札できないじゃないの!」
働かざるものネットオークションするべからず。
そんな悲しい格言が私の背中にズシンとのしかかる
預金もないのについつい入札ボタンに手が伸びそうになってしまう右手を左手で必死で抑えこんだ。
とにかく今の私に必要なものは『お金』
そうよ、大金を苦労もなく楽してゲット。
これよ、これしかないのよ。
沙耶香はお空にサンサンと輝く太陽に誓うのだった。
「さぁてとぉ、そうは言ったもののどうしようかしら」
部屋にざっと目を通してみたけれど、部屋にあるのは私の可愛いお洋服とバック、靴、アクセサリー達。
それをオークションで売ってお金にすればいいのになんて思われるかもしれないけれど、それは大間違いなのよ。
『なぜなの? なぜ一度手に入れたものを手放さなければならないの? それにこの服もバッグも可愛い私に使ってもらって喜んでいるはずなのよぉー』
そんな事を思っている間にも、私の指は知らず知らずとショッピングサイトにアクセスしてしまう。
でもそれは仕方の無いことなの。なぜならネットの世界には私の物欲を刺激するものが山のようにあるのだから。
悪いのは私じゃない、インターネットなのよ!
このネット社会こそが悪なのよ!
あるのなら買いたくなるのが人の世の常じゃない。
だってだってボタンをひとつクリックするだけでそれが手にはいってちゃうのよ。
えっお金の支払い?
なぁにそれ? 私わかんない〜?
それで通る世の中ならこんなに苦労したりしないのよね・・・・・・
とくに、私はこの物欲を制御できない、むしろ制御したくなんてない。
好きなだけ購入ボタンをポチポチおしまくりたいのよぉ。
まるであのエアクッションを潰す時みたいにプチプチ押したい。
ああ、これ可愛い『ポチ』
ああ、これ絶対私に似合う『ポチ』
ああ、この犬可愛い『ポチ』
い、今のは犬の名前のポチとかけたのよ。
笑いなさいよ! 大爆笑しなさいよ!
コホン。
ともかくショッピング系サイトはまずいわ。そうよ、こんな時は個人ブログなんかを見て冷やかせばいいのよ。趣味の悪い服を着て写真なんて掲載してるネットアイドルなんかを見て鼻で笑えばいいのよ。
そうと決まれば善は急げ。
えっそれって善なのかって? バカねっ。可愛い子の言うことの95パーセントは善なのよ。残りの5パーセントは小悪魔的な悪なのよ。
とにかくテキトーにネットアイドルブログで検索してみる。
そうすると出てくるわ出てくるわ。自称ネットアイドルで微妙フェイスの女の子達のブログが。
「つまらない・・・・・・。なんてつまらない日記を書いているの! 今日可愛い服を見つけただの、ネットオークションで小物ゲットだの。ネットアイドルを自称するならばもっとエキサイティングかつデリシャスな日記を書かなきゃだめでしょ! こんなの没よ没!」
私はディスプレイを指差しながら、どこぞの漫画の編集長のように没を連呼した。
だってそうでしょ。こんなのありきたり過ぎるじゃない。
えっ、私の普段の日常と同じじゃないのですって?
いいのよ! だって私は可愛いんだもの!
「私なら宇宙怪獣の一匹や二匹撃退した日記を書いて見せるわ」
私は実際に宇宙怪獣を一体撃退しちゃっているのよね。(美少女でニートな沙耶香の日常参照)
「こんな私がブログを作れば一日に百万ヒットは軽いわね」
その時私の頭上に古典的表現で電球のマークが光った。
まさしく閃いたのよ。
そうよ、私がブログを作ればいいのよ、そしてなんだっけかしら、あの商品みたいなのをはりつけてそれをクリックしたらお金になる奴、そうアフィリエイト!
それで大儲けをすればいいのよ!
1クリック1円だとしても100万人がクリックすれば100万円! これよ! これこそが私の美少女さをいかしたお金儲けだわ。私は家で日記を書くだけでお金がガッポガッポ。更に雑誌などで取り上げられ一躍人気者になり、テレビの取材が来るわ、本を出さないかとか言われるわ、うふふふ、バラ色よ! 私の眼前にバラ色の人生への道が開かれたのよ!
「見えたわ・・・・・・」
もう走るしかない、私はこのバラ色ロードを颯爽と駆け抜けるしかない。
知らず知らずのうちに私の頬が緩む。
「うふふふふふふふふふふふっ」
取らぬ狸の皮算用なんて言葉はポイッで、私はすでに大金を手に入れた気分に浸り虚空を見ながら笑みを浮かべた。
普通なら気持ち悪いシーンなんでしょうけど、これでも絵になるからホント美少女って怖いわよね。
さて、そうなるとすぐさまブログ作成スタートしなくちゃ。
私は腕まくりでPCの前に向かう。
あれ、そういえばブログってどうやって作るのかしら?
ネットオークションにだけは詳しくなったけれど、それ以外の事はさっぱりな私だった。
「まぁなんとでもなるでしょ」
細かいことで悩んだりしない。それが私の良いところ。
適当に可愛い感じのサイトのブログに登録を済ます。
「さて、こうなると次は写真ね」
私の可愛い写真をアップすればアッという間に世の男どもが食いつくに違いない。
これはもう定められた真実なのだ。
そしてヒット数がうなぎのぼりになる事は間違いないのだ。
でも、ここで私は大きな問題にぶつかった。
「カメラが、デジカメがない!」
愕然となる私。
携帯にカメラが付いてるじゃないかって?
あなた馬鹿なの?
そんなちゃちいカメラで私の美しさが表現できる訳が無いじゃない。ありえないじゃない。
そんなカメラで撮られる私がかわいそうだと思わないの?
「デジタル一眼レフを手に入れなければならなくなってしまったようね」
しかし私の預金は1356円。
デジタル一眼って1300円で買えるかしら?
私は服なんかの相場はわかるけれど、カメラの値段なんてさっぱりだった。
「ともかく、電気製品なら秋葉原に行けばいいのよ!」
こうして私の外出は決定したのだった。
そう言えば外出するのも久しぶりだったわ。
ちなみにお出かけ準備には3時間を要した。
「よし、秋葉原といえばこの格好で間違いないわよね」
電車に乗り込んだ私に周りの視線が集中する。
ふふふ、可愛いって罪なのね。
私は純白の『メイド服』に身をつつみ一路秋葉原を目指した。
秋葉原駅前にはメイド服の女の子が数人立ってビラなどを配っていた。
『ふふ、可愛さは私の圧倒的勝利ね!』
私は心の中で高らかに勝利宣言をあげた。
さてメイドにかまっている暇なんて無いわ。私はデジカメを探さなければならないのだから。
でも一体どこに行けば安くデジカメが買えるのかしら。
駅を出てすぐさま路頭に迷ってしまう私。
実際右を向いても左を向いても、全部電気屋さんばっかりなので、どこにいっていいのかさっぱりだ。
うーん、一軒一軒入って探すのは面倒だなぁ。
そんな頭を痛めている時、不意に後ろから声をかけられた。
「あ、あのぉ、写真とってもいいですか?」
その声に振り返ってみるとそこに居たのは、ゴツイカメラを構え頭にバンダナを巻いてメガネをかけた太った男だった。
ファッションというものを全面的に否定するかのような服装。
さらにブフーブフーと荒い鼻息がここにまで届きそうな感じだ。
「えっ、写真?」
写真を撮られるのは悪い気はしないけれど、なんて言うのかしら、この人は私の写真を撮ってどうしようというのかしら・・・・・・。
いけないわ、想像したら負けよ。
考えるな、感じろ! とあのブルースリーも言っていたわ。
まぁ写真を撮られるのは可愛い女子の宿命のようなものなのよ。
「ええ、写真ですかぁ。恥ずかしいなぁ。てへっ」
私は思いっきりのつくり笑顔で答えた。
男の鼻息はさっきよりもパワーアップしてフゴフゴ唸りだしている。
そのフゴフゴっぷりにさすがの私も作り笑顔を持続するのが辛くなる。
ふとその時、男の手の中にあるカメラに目がいった。どうも見た感じ高級そうなカメラだ。
『そうよ。これはカメラをゲットするいいチャンスなのかもしれないわ』
私の心声が囁く。
「あのぉ、写真撮らせてあげたら、そのカメラくれますか?」
「えっ? あの、その、それはぁぁぁぁ」
突然の私の提案に男は口ごもった。
「あっ、あなたが使ってる奴だとなんだか汗臭い匂いが付いてそうだからぁ。新品の一眼レフのカメラがいいなぁ。ねっいいでしょっ」
私はまわりにアイドルのスカウトが居たら飛びつきそうなウルトラスマイルをして見せた。
「はい、あげます! どんだけでもあげます。新品かってきましょう。今すぐ買いに行ってくるでござるですよお!」
ビンゴ!
ふふふふ、女に免疫の無いオナクなんてチョロイもんだわ。
さすが私だわ。電気屋に入るまでもなくデジカメをゲットするのだから。
「じゃあ、私ここで待ってるのでカメラ買ってきてくださいねっ」
「わ、わかったでござるっ」
「あっ、長く待ってるの嫌いなんで、急いでねっ」
「り、了解であります、急いで行くでありますー!」
敬礼のポーズを決めると、ドタドタとお腹の肉を揺らしながら男は走り去って行った。
サービスとばかりに私は男に手を振って見送ってあげた。
さてと、待ってるあいだ暇だなぁ。
かといって秋葉原なんて全然わかんないし、ぶらついたらすぐ迷子になってしまいそう。
「アンタどこのメイド喫茶のメイドなのよ? こんなところで出しゃばられると困んのよね!」
その声に振り返ると、そこには真っ黒なメイド服を身にまとった異様に体格のいい感じの3人組がたっていた。
「えっ、メイド喫茶? いいえ、そんなの関係ないけど?」
私の返事に間違いは無いはず。だってこの服装は私が趣味でしているだけだもの。
「だったら正直邪魔なんだよ。どっか向こうに行っててもらえないかい」
3人組の中でリーダーっぽい女子が私をにらみつける。
「だってここは公道でしょ。別に居ちゃいけないって法律は無いはずですけどぉ」
「あんた、アタイら黒メイド三人衆にはむかおうって言うのかい!」
「へっへっへっ、アキバでアタイらの事を知らないとか、あんたもぐりだね!」
「アキバで黒メイド三人衆といえば知らない奴は居ないよ」
三人はなんだかわからないけれど、決めポーズをとった。
『あのポーズ恥ずかしくないのかしら・・・・・・。それ以前に自分の事をアタイとか・・・・・・。一体何時代の人なの? 室町時代?』
私はこの人達に出来るだけかかわらないようにしようと心に決めた。
「わかりました。向こうに行けばいいんでしょ」
少しはなれたところに行っても、あのオタク男子は私を必死で探してくれるに違いないだろうから、まぁ問題ないか。
「へへっ。わかればいいんだよ。このブスメイドオタクが!」
カチーン
私の心の中で何かのスイッチが入った。
「今・・・・・・・なんておっしゃいました?」
私は心のスイッチを必死で抑えながら訪ねた、
「だからブスメイドオタクって言ったんだよ」
「おいおい、そりゃアタイらみたいな美人メイド三人衆と比べたらしょうがねぇよ」
「がっはっはっは、そりゃちがいねぇや」
3人組は大声で笑いあっている。
しかし私の耳にそんな笑い声はもう届かない。
「あなたたち、この可愛い、ウルトラスーパーデリシャスプリティな私に向かってよくもそんな台詞がほざけたものね! この寸胴ブサイクデブメイド軍団!」
あたしの中で何かが吹っ切れた瞬間だった。
「寸胴!」
「ブサイク!」
「デブメイド軍団!」
多分三人組も今の私の台詞で何かが吹っ切れたことだろう。
「てめぇもう生かしちゃおかねぇ! ジェットストリームメイドアタックをかけるよ!」
「がってんでさぁ姉御!」
「げへへ、あんたもう死んだよ! 死ぬの決定だよ!」
3人組は一列に並びながら、私に向かって走り出した。
私は逃げもかくれもせずに真っ向から迎え撃つ姿勢をとる。
そして私は地面にあった石をつかむと一番前に居た相手に向かってぶつけた。
「グエッ」
黒メイドの一人はヒキガエルの鳴き声みたいな声を出して腹を押さえて倒れた。
「て、てめぇ飛び道具とは卑怯だぞ!」
「そうだそうだ。それにこっちはまだ技をかけてる最中なんだぞ」
残りの二人からブーイングが飛ぶ。
「五月蝿いわね。3対1の時点ですでにあんたたちが卑怯じゃないのよ! それに可愛い私のコブシが汚れるなんて許せないのよ」
さらに私は適当にそこらにあるものをつかんでは投げる、投げまくる。
「な、なんて奴だ。なんて嫌な奴なんだ」
その攻撃に残った二人もその場に倒れこんだ。
「うるさああい、可愛い私をブスなんて呼ぶ奴には死すら生ぬるいのよ!」
私は怒りの炎を燃やし3人組ににじり寄っていく。
その時あのバンダナオタクが戻ってきた。
「買ってきましたでござるよー。最新デジタル一眼レフカメラでござるよー」
手にはカメラの入った箱が握られている。
しかし怒りの炎に身を焦がしている私にはそんなものは目に入らない。
むしろ敵としか見えない!
「でいやああああああ」
気合一閃。私はメイド三人組にむけそのバンダナオタクを投げつけたる。
四つ巴となって絡み合い倒れる無様な姿を見て、私の胸はスーッとした。
したのはいいのだけれどっ。
最初の目的であるカメラが・・・・・・。
買ってきてもらったばかりの私のデジタル一眼レフがぁ!
投げ飛ばした時の衝撃で新品からスクラップへと変貌を飛べていた。
こ、これは保障とかきかないわよね・・・・・・。
さらに周りを見ると、私たちを取り巻くようにいつの間にか人だかりが出来ている。
「せ、正義は勝つのよ!」
私は意味不明な言葉を残してその場を走り去った。
結局骨折り損のくたびれもうけ。
秋葉原ってホント怖いところよね。
家に帰ると、もうブログなんかどうでもよくなっていた。
「はぁ、なんだか疲れちゃったなぁ」
私はベッドに寝転んで天井を見上げた。
天井はいつもと変わらない。
私は預金通帳を見上げた。
残高はいつもと変わらない。
「もぉ、バイトでもするしかないのかしら・・・・・・」
バカッ! 沙耶香のバカッ!
働くなんて言語道断だわ!
美少女は働いちゃいけないのよ!
危うく貧乏に負けるところだった。
働くなんて人として最低の行為よ!
私は窓から見える夕日に誓うのだった。
絶対に働くものかっ! と。
数日後。
謎の白いメイド、黒メイド三人衆を倒す!
そんな噂が秋葉原で伝説として語り継がれるのだった。
おしまい☆
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