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灯火妖怪伝記
作:灯宮義流



泥雀



 昔、とある農村で、大雨が降った。農作物に影響が出るほどでは無かったが、村の人々は雨のおかげで億劫な朝を迎えていた。
雨の量が量だっただけに、村にはそこら中に、大きな水溜りが出来ていた。おかげで土はぬかるみ、人々は歩くのに難儀した。
だが子ども達にそんな大人の苦労など関係なく、水や泥遊びが好きな少年少女達は、水溜りで暴れまわった。
そして、いつも着物を汚し、村の母親達は、皆頭を抱えて貧血でも起こしたような顔になった。

 さらに村ではぐずついた天気が続いた。同時にその頃、村で神隠しが起こり始めた。
突然、人が村から一人ずつ消えるのである。それは子ども、女、老人、武士、役人、家畜と、どんな年齢も、どんな生き物も、そしてどんな身分でも関係はなかった。

 その原因を探るため、一人の侍が、事件を調べることにした。
彼は大層真面目な人物で、村人からも慕われていた。弱者に味方するという精神が、人々の心を掴んでいるのだろう。
だが、本人は別に考えて守っているわけではなく、単純に自分が正しいと思ったからやる、といったような、そんな自分の性格に無自覚な、心優しい男だった。
そんな彼が、誰に言われたわけでもなく、個人的にこの神隠しに興味が沸かせたのは、当然のことだと言えよう。

 彼が、隣村との道を繋ぐ際に通る竹やぶに差し掛かった時のことだった。
ふと前の方で、バシャバシャと音がした。竹やぶの中において、とてもそれは不自然な音で、何事かと思って彼は走った。
走っていってみると、目の前にあった大きな水溜りで、小鳥が一羽溺れていた。
だが、その小鳥は丁度力尽きるところだった。哀れなことに、その小鳥は侍の助けを待つことなく、水溜りの中に沈んでいった。

 可哀想に、大雨続きの後で、さらに陽が届かないものだから、こんなところに水溜りが出来っぱなしになっていたのだろう。
その小鳥が非常に不憫に思えた侍は、せめて泥水の中から救って、どこかに埋めて葬ってやろうと考えた。
侍は早速腕をまくって、水溜りに手を差し伸ばした。

 一瞬であった。そこにさっきまでいたはずの侍は、一瞬で水溜りの前から姿を消してしまった。
それと同時に、水溜りの中から、何かが外を覗く様に、じっくりと何かが出てきた。
やがてその何かは己が形を形成していき、最終的には水浸しの『雀』となった。
水浸しの雀は、少し身体を振るったあとで、静かに空へと飛び去っていった。



 数日後、竹やぶの中で、まるで山のように積まれた村の人間達が発見された。全員窒息死だった。
家族や友人達などが悲しみに暮れながらも全ての死体をどかしたその下には、水溜りが静かに波紋を作っていた。












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