どくんどくん3 〜僕達の道標〜(6/13)縦書き表示RDF


どくんどくん3 〜僕達の道標〜
作: reY



第6話(キス)


行かないで、とさゆりさんは僕の胸に再び飛び込んできた。

振り払うことはできない。

僕には、この震える細い腕を振り払うことなんてできないんだ。


「・・・警察に、通報・・するぞって言われたの・・」

「え・・?警察?店長頭おかしいよ。さゆりさん犯人じゃないのに・・」

「水商売の・・女はこれだから、厄介なんだって・・言われた・・」

僕は、ここまで泣きじゃくる理由がわかったような気がした。

そういう言い方は、水商売で働いている人にとって、とても傷つく。


「じん・・くん。お願い・・あたし・・彼女いてもいいから・・・」

「え??何?さゆりさん・・しっかりして・・」

思わぬ発言に、動揺する僕の言葉を遮るように・・・




さゆりさんの唇が


僕の・・・唇に

重なった。




僕は、金縛りに遭ったように身動きが取れなくなっていた。

ただ、目の前にいるさゆりさんを見ることしかできなかった。


とても、短いキスだったと思う。

僕には、とても長く感じられた。

その間、頭の中をさまざまな気持ちが駆け巡っていた。


その時、頭に浮かんだこと・・・


タケとユキのこと。

ユキの言ってたことがわかった気がした。


キスをされながら、僕が思ったことは―


『ちがう』



違う。違う。全然違う。

これはキスじゃない。

ただの、肌と肌の触れ合いだ。

手が触れたのと同じことだ。


キスではない。


僕が求めているのは、ユキだけだと心から思った。

ここまで来て、やっと心から気付いたなんて遅すぎる。


さっきまで、さゆりさんにときめいていた僕は、今の僕から見ると汚れてる。


「彼女・・いてもいいから、支えになってほしいの・・お願い。」

さゆりさんは、僕の腰に手を回した。

慣れた手つきで・・・。


大抵の男は、これでさゆりさんに落ちるのかもしれない。

だけど、僕はそんな手馴れた誘惑で、過ちを犯したりはしない。

さっきのキスのおかげで気付いたよ。

「ごめん。僕、そういうのキライだから・・。浮気とか、二股とか、そんなの理解できないから。僕じゃ、さゆりさんを支えることはできないです。」

僕は、ゆっくりとさゆりさんの腕を僕の腰から離した。

「店長に、話してきます。あ・・僕バイト今月でやめるんで・・。」

さゆりさんは、呆然と立ちすくみ、僕を見つめていた。

「じん君・・お願い。今夜だけでもいいの・・」

そういうことか。

さゆりさんは、とても知的で頭も良く、面白くて人気者だけど、とても寂しい人なんだ。

たった一晩、寂しさを紛らわせてくれる男は、さゆりさんを幸せにはしてくれない。

「さゆりさん、もったいないよ!!自分の体と心、もっと大事にしてよ!」


僕は、その後店長と話した。

店長の言いたいことは伝わったが、さゆりさんが気に入らないと言うのが疑った理由だった。

今の店長が、このコンビニの店長になる前から、働いていたさゆりさんはいつもみんなのリーダー的存在で、バイトの連中も店長の言うことより、さゆりさんの言うことを聞いていた。

さゆりさんは、たまに店のタバコを吸っていたらしい。

それだけの理由で、1人の女性の生き方を否定するような発言で、傷つけた。

「わかったよ。もう・・あいつが盗んだんじゃないって。みんなの少しずつの気の緩みが原因だろう。一つくらいいいだろう、って全員がそういう考え方になってる。俺がなめられてんだよ。」

店長は、僕が辞めたいと言うと、とても残念そうな顔をした。
僕だけが、店長と唯一ちゃんと会話できるバイトだったらしい。



僕は、家に帰り、もう一度シャワーを浴びた。

こんな経験はもう二度としたくないと思った。

こんなに悲しいキスはもう嫌だ。


ユキへの申し訳ないと言う気持ち。

自分自身への苛立ち。


どうしようもないモヤモヤした気持ちでなかなか寝付けなかった。


一方的なキスだったとは言え、ユキ以外の女性とキスをしたことは消せない事実。

ユキに会わす顔がない。


迎えに行く気分にもなれない。

ユキの目を見て、謝る勇気がない。



ユキからのメールも電話もないまま、3日が過ぎた。

僕は、一日一回メールを送っていた。


ユミちゃんから電話があった。

『ユキ、ハル君の話も聞かずに飛び出したこと、すごく後悔してる。だから、もう少し待ってあげて。気持ちの整理付いたら、ちゃんと向き合うと思うから。 』

僕も同じ気持ちだった。

もう少し時間が欲しい。


ユキに会えないのは、僕への罰だ。

揺ぎ無いと信じていた僕のユキへの愛が、少しでも揺らいだ罰だ。


バイトは、結局今月と言わず、その日で辞めた。

携帯のメモリーに、『さゆりさん』はもうない。


僕は、ここのところ夜になると外へ出て、星を見ていた。

なぁ、ゆうじ。

僕の行動全部見てたんだろ?

怒ってくれよ、ゆうじ。


僕が間違っていた。


なぁ、ゆうじはどの星なんだ?

ゆうじの声が聞きたい。

ゆうじの笑顔が見たい。


ゆうじ、教えてくれ。


これから、僕はどうしたらいい?



その時、一番明るく光る星がキラキラと瞬いた。


『大丈夫だよ、ハル君』


ゆうじの声が聞こえた気がした。












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