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作:ごはんライス


 オレはもうどうしたらいいかわからない。今、沸騰した湯が入った鍋の前ですっぱだかだ。
「入れ。ぐずぐずするな」
 オレは半泣きである。
「ひっく。ひっく。やだよぅ。やだよぅ」
 春子はオレの頭を引っぱたいた。
「ぐずぐずするなボケえ。さっさと入らんかい。約束やろがアホ!」
 確かに、確かに、オレは春子が「よっくんを食べちゃいたいの」と言った時、「えへへへえ? 食べてよ。食べてちょうだいよ」とニヤニヤしながら答えたもんだったが、まさかこんなことだなんてオレは聞いてないよ。うええん。
「ごめんよぅ。ごめんよぅ。春ちゃん、許してよぅ」
「やかましわボケ。男に二言はないんちゃうんかい。男に二言はないんちゃうんかい」
 春子は普段はすごく大人しい女の子である。普段だったらこんな野卑な言葉は使わない。しかし、食がからむといけない。ものすごい食いしん坊なので困る。食を邪魔されたら人だって殺すだろう。
 鍋からの湯気は止まることを知らない。
「ひっく。ひっく。やだよぅ。やだよぅ」
「泣いたってダメだ。早く入れ。さっさと入れ」
 春子は包丁を振り回す。オレのほっぺたをかすり、血がつーと伝った。
「ひっ」
「入りやすいようにバラバラにしてくれようか」
「ひいい」
 オレは春子の目を見てゾッとした。春ちゃんのヤツ、これがギャグ小説だってことすっかり忘れてる。シリアス小説の目になってる。マジだ。マジでオレをバラバラにしてしゃぶしゃぶにして食う気なんだ。
「ひ、ひいいいいい」
 オレは恐ろしさのあまり小便をもらいてしまった。
 すっぱだかだったので春子にかかってしまった。
「くさっ。こいつ、おもらししよった」
 春子が鼻をつまんだ。
「うええん。うええん。おがあさああん。おがあさああん」
 春子はそんなオレの醜態を見て食欲が萎え我に返ったようだ。
「あ。あれ。あたい、何をやってるんだろう」
 オレは鼻水を垂らし涙を流し鍋の前でぷるぷる震えてる。
「あれ? 何であたい包丁を」
 春子はオレを眺めた。
「よっくん。何ですっぱだかなの。風邪ひくよ」
「ふえええん」
 オレは春子に抱きついた。
 湯気は立ったままだ。

 














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