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第9話 食料改善計画

メロンパン食べたいな……

「ふはははははーーー」

「び、ビリノアちゃん?」

 僕は、部屋のテーブルの前で、こみあげてくる衝動のままに高笑いを挙げていた。

「ふはははははははーーーーーーー」

「ビリノアちゃーん、帰ってきてー!」

 掃除をするつもりだったのか、部屋に入ってきたリリアちゃんの声も聞かずに、ただ高笑いを続けていたのには、訳がある。

 それは、テーブルの上にある瓶の中に入っているものである。これこそが、五日間かけて作られた、僕の努力の結晶である。

 そう、話は五日前にさかのぼる。


 ギルドマスターに『ヤバイ』奴が来る前にと、ギルド規則の本を渡され追い出された。

 中世辺りでは、紙媒体って高級品のはずなのだが、この世界では違うのだろうか?

 中身をちらっと見てみたが、手書きでなく、活版印刷で作られているようだった。

 そういえば、宿の一階の食堂兼酒場の隅に、何冊かの本が無造作に置いてあったな。異世界ということで、現実とは違うのかな。

 そんなことを、つらつらと考えているうちに、目的地である雑貨屋『猫の額』についた。

……どうでもいいが、狭そうな名前だな……


「どんな保存食があるかを確認して、あればマントを買う予定だったんだ」

「う、うん」

 リリアちゃんとベッドに腰掛けて、話をする。

 リリアちゃんの引き気味の笑顔を、ガン無視して話し続ける。

「保存食の中で、これを見つけた時は――」


雑貨屋『猫の額』は、名前とは違い結構広い店内に、いろいろな商品だろうものが並んでいた。感じとしては、田舎や島にある唯一の商店―いわゆる何でも屋といったものであろう。

「ここは、『猫の額』です」

「なんでいるんだ? クソジジイ」

 なぜか、第一村人の老人が店の中で店の紹介をしてきた。

「ここは、わしの店じゃからのう」

 不本意ながら納得した。

「で? 何しに来たんじゃ」

「……店に来て買い物以外何をしろと?」

「近所のご隠居たちが集まって話し込んでいたり、奥さん連中が集まって雑談したりしておるが……」

「普通一人で入ってきたら、買い物だろう……」

「ん? 一人で来て、延々と商品に語りかけているやつもいるからの。ためしにきいてみたんじゃよ」

「……病院紹介してやれよ」

 とりあえず、当初の予定通り携帯食とマントを見ることを伝える。

「携帯食? パンと干物、瓶詰くらいかの。マントはこっちじゃ」

 沢山の布が置いてある一角に案内される。

「衣類はオーダーメイドでのう、マント用の布地を選んでもろうてから、好きなデザインで作ってもらうことになっておる。完成まで、五日というところじゃよ」

 布地はよくわからないので、店主お勧めの生地を使うことにする。デザインは、シンプルなマントにフードを着けてもらうことにした。

「銀貨2枚じゃ」

「けっこうしますね」

「冒険者用のものじゃからな。これでも安い方なんじゃぞ」

 値引き交渉はせずに、カードで払う。

「後は、携帯食じゃな」

 こちらは、まだ買わないことにしている。出発は早くても九日後だ。今買っても荷物になるだけだ。

「これが携帯食用のパンじゃ」

 渡されたのは、ものすごく硬いパン。パンで釘が打てそうですよ。

「水やスープでふやかして食べるか、ナイフで薄く切って食べるものじゃ。そこそこの大きさで、腹持ちの方も良いから、たいていの冒険者が持っておるな。難点は水がないと食べにくいといったところかの」

 次に取り出したのは、刻んだ野菜などが入った瓶。500mlのペットボトル位の大きさがある。

「瓶詰じゃ。調理した野菜を瓶の中に密封した物じゃ。そのまま食べてもいいし、スライスしたパンに載せて食べてもよい。適量のお湯で解かせば、そのままスープになる。難点はかさばることと、瓶が割れやすいことじゃな」

 確かに味はよさそうだが、なるべく荷物が少ない方がいい冒険者にとっては、少し邪魔だろう。荷馬車を持つ商人用といったところだろうな。

「これは干物、果物を干したものじゃ」

 いくつかの袋を取り出す。

「手軽に、そのまま食べられるのが特徴じゃ。味の方も良いので人気はある。ただ、腹いっぱい食べるといった物ではないの」

 おやつ程度じゃと言う店主の言葉も耳に入らない。

 袋の中に入っていた物。それを見て、天啓のようにとある考えが浮かぶ。

「爺さん。空の瓶あるかい」

「む? あるぞ」

 無論袋と一緒に即金で買った。

 これで、計画が実行できる。


「『美味しいパン生活』計画」

 ビリノアちゃんの言葉を聞いて、私は初め呆れていた。

 少なくともビリノアちゃんのネーミングセンスは、あまりよくない。

「これで、あのパンから解放される……」

 ん? 美味しいパン生活? それって、お母さんのパンがまずいって事?

「ん? 確かにパンはまずいよ」

「な!」

「ああ、勘違いしないで。おかみさんの料理の腕が悪いんじゃなくて、パン自体がダメってことだから」

 パン自体が?

「僕がいたところのパンは、もっとふっくらしていて、種類も多くおいしかったんだ」

 確かにこの辺のパンは、固めだし種類もほとんどない。

「甘いパンもあってな、特にメロンパンが好きだったな」

 甘いパン……

「……よだれ出てるよ……リリアちゃん」

 おっと、いけないいけない。


 さて、計画の第一段階――レーズン酵母液の製作は完了した。

 レーズン酵母液――雑貨屋で買ってきた袋の中身のレーズンで作った、天然酵母だ。

 イースト菌ほどではないが、パンの発酵に使う酵母を自作してみたのだ。

第二段階。パンを作るに入るのだが、まず、おかみさんから厨房を使う許可を得ないといけない。

 まあ、これについては心配していない。あの人なら、某母親ごとく一秒で了承してくれそうだ。


「良いよ」

 本当に一秒で了承されてしまった。

「出来たら、あたしにも食べさせな」

 そう言って出ていくおかみさんは、無駄にカッコよかったです。

 さて、おかみさんに見とれてないで、作業を開始するかな。

 まずは小麦粉。この世界の小麦粉は全粒粉なので、パンを作る上で問題はない。バター、牛乳は普通にあった。塩は、岩塩だが何とかなった。

問題は砂糖だった。この辺りでは取れないらしく、かなり高級品だった。

 メロンパンが作りたかったのだけど、諦めるしかないかと思っていた所、打開策があった。村の畑の作物の中に、甜菜があったのだ。無論即座に買い取り、砂糖の精製を始めた。結果、苦労したし、ちゃんとした製法でないものの、砂糖もどきは出来た。

 もちろん、レーズン酵母液も準備完了している。

 それじゃあ、レッツクッキングー。


 結論から言うと、大成功でした。

 朝から作り始め、生地をこね、一次発酵、成形、二次発酵、焼き上げに、半日かかったかいがありました。

 ふわふわしながらも、もっちりとしたその触感は懐かしく、味の方も苦労した分いつもよりおいしく感じれる。

 おかみさんたちにも食べてもらったのだが、大好評だった。作ってみたいとの事だったので、酵母液の作り方と、パンの製法を教えてあげた。ついでに甜菜が砂糖の原料になるってことも教えておこうかな……


余談

 ワルタ村――現在は辺境都市ワルタから伝えられた独自のパンの製法と、砂糖の精製は、またたく間にシルヴィア王国に広まり、各地で食糧革命がおこった。

 作られたパンは、ワルタパンと称され、ブランド品として認識されるようになる。

 その中心となったのは、ギルドの経営する宿屋のおかみだったが、彼女自身はそんなことに見向きもしなかった。

 多くの人々が彼女のところに学びに来て、パン職人として巣立っていった。

 弟子たちは、口々にパン革命を起こした彼女をほめるが、それに対して彼女の答えは、

「これは、あたしの考えた物じゃないよ。まあ、多少工夫はしているが、これを考えたのは、小さな可愛い女の子さ」

であった。


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