番外編⑤ とある少女の独白
これが最後です。
誤字、脱字、指摘、感想お待ちしています。
槍を振るう。
槍を振るう。
槍を振るう。
同じ動作を、何回も、何回も繰り返す。
一回一回正しい動きを意識しながら、槍を何回も振るう。
私が憧れた、あの人に追い付くまで……
「――であるからして、諸君には――」
私こと、ユーリ・アルタイがあの人に初めて出会ったのは、私が新入団員としてブリジット辺境騎士団に入った時だ。
私は、ブリジット伯の長い言葉を聞き流していた。
いや、始めは真面目に聞いていたのだが、途中から話がループしてきたので聞き流すことにしたのだ。後で聞いたところ、これは忍耐力を試すものだったらしく、途中で倒れたりしたら入団取り消しになるといったものだった。
「――私からは、以上である。新入団員諸君、君たちの活躍を期待する」
聞き流しているうちに、話が終わったようなので拍手をする。
「ブリジット伯爵様のお言葉でした。続きまして、団長の挨拶です」
司会進行役の言葉に、貴賓席にいた女性が立ちあがる。
「なっ……」
誰かが驚きの声を上げる。
騎士団の団長と言えば、普通は男をイメージする。例外として白銀騎士団が挙げられるが、辺境とはいえ、女性騎士も結構いるとはいえ、最前線に近い実働部隊の兵たちをまとめているのが女の人と言うのだ。
同じ女性としては、少し気分が良い。
「初めまして、皆さん。私が、皆さんの勤めることになるブリジット辺境騎士団の団長、フランキスカ・セリーヌ・ブリジットですわ」
名乗ったその名に、さらに驚きの声が上がる。
ブリジット姓を名乗るということは、この辺境県の伯爵令嬢であるということだからである。
「……ちっ、権力を持った、お嬢様団長かよ」
どこからか、そんな声が聞こえてきた。
多分、この時は大多数が同じ思いだっただろう。かく言う、私も同じ思いを持ったことを認める。
「私は、だらだらものは言いません。ただ一言、歓迎しますわ、皆さん」
ただ、それだけを言って壇上から去っていくブリジット団長。
あまりの短さに、拍手を忘れ茫然としていた。
「団長のお言葉でした。それでは、入団式のメイン。新入団員の試合を始めたいと思います」
しばらく茫然としていたが、司会の言葉に、慌てて気持ちを切り替える。
「ルールは簡単です。一対一の対戦であること。対戦相手は、新入団員が決められるが、新入団員同士の試合は禁止。武器は、こちらで用意した武器を使うこと。以上です」
何か質問は? との言葉に、何人かが手を上げる。
「武器は、どんなものが選べますか?」
「基本的な物は、全てそろっています。マニアックな物もありますが、全て刃引きがしてあります」
「相手が使ってくる武器は?」
「基本、皆さんが使う武器と同等の物を使います。種類に関してはその人次第です」
「相手は、誰でもいいのか?」
「はい。この練兵場にいる人ならだれでも」
ん? 最後の質問の声、どっかで聞いたような……
「質問は以上でよろしいですか?」
帰ってきた沈黙を、肯定と受け取って司会者は話す。
「それから、この試合により死者が出たとしても事故として処理します。安心して戦ってください」
「「「「安心できるかーーー!!」」」」
「それでは、試合に移りたいと思います」
私たちの絶叫を無視して、司会者がことを進行させる。
「ブラゴ・アーカイン。前に」
「分かった」
呼ばれて出てきたのは、大柄な男。厳つい顔には、余裕の表情が浮かんでいる所を見ると、かなり自分の腕に自信があるようだ。
そして、声を聞いて思い出したのだが、最後の質問をした人で、ブリジット団長を批判した人だ。
「ほー。あいつが、新人の中で一番か……」
隣からいきなり聞こえてきた声に、思わず横を見るとそこに女の子がいた。
「初めまして、新人さん。僕はビリノア。団へ武器を納入している鍛冶師です」
「あ、初めまして。私はユーリです」
自己紹介されたので慌てて返したが、それよりも気になった一言があったので、聞き返す。
「あの、今、新人の中で一番って……」
「ああ。この試合は、毎回行われる恒例の物。入団試験の良かった順に行われるので、彼が一番って事」
説明を聞いているうちに、アーカインが武器を選び終えたようだ。
「槍か。しかも、一番重いやつだ」
パワータイプと言うやつなのだろう。私も槍を得意としているが、スピードと手数で対抗するタイプだ。
「誰を選びますか?」
「あんただ」
司会者の声に、アーカインは槍の穂先をその人に向ける。
「私ですか?」
「そう、あんただ」
その先にいたのは、ブリジット団長だった。
「誰でも良いんだろ。だったら、あんただ」
「良いですわ。受けて立ちますわ」
そう言って、武器の置いてある所に行き、置いてある槍の中から一本を無造作に手にしてアーカインに対峙する。
「あ? それだけでいいのか?」
アーカインが言うのも無理はない、私たち新入団員は、冑は付けてないもののしっかりと鎧を着こんでいる。しかし、ブリジット団長は、騎士服のみである。
「良いですわ。あなた方程度なら、これで十分ですわ」
「手前……よっぽど自信があるようだな。じゃあ、賭けをしないか?」
「賭け?」
「そうだ。この勝負、俺が勝ったらお前は俺に団長を譲るってのはどうだ」
アーカインの言葉に、周りがざわつく。
あまりにも、相手をなめきった提案だ。
「良いですわ。では、私が勝った場合、言葉使いを直すことと、一年間雑用係を任命して差し上げますわ」
あっさりと受け入れたブリジット団長に、さらにざわめきが大きくなる。
「けっ、良いだろう」
そう言って、アーカインは槍を構える。
それに対応して、ブリジット団長も槍を構える。
「双方、用意はよろしいですね」
司会者の言葉に、周囲の緊張感が増す。
「よ~く見てなよ」
「はい?」
「多分、勝負は一瞬で終わる」
「え?」
ビリノアさんに訊き返そうとしたが……
「始め!」
開始の合図に、慌てて試合会場の方を見る。
「ふん、権力で団ちょ――」
「ぬるい!」
何か喋っているアーカインを無視して、凄まじい速度で間合いを詰め、やはり凄まじい速度で槍を突く。
その威力はと言うと……
「嘘だろ」
新人の誰かが、ぽつりと言ったこの言葉があっているだろう。
アーカインが、地面と平行に吹き飛ばされたのだ。塀にぶつかった止まったアーカインの鎧は、突きを食らったところが大きく凹んでいることからもその威力の大きさがうかがえる。
「私の勝ちですわ。誰か、彼を医務室に」
命じられて、二人の騎士が完全に気絶しているアーカインを運んでいく。
「当たり前の結果だな」
隣でビリノアさんがそう言う。
「フランは、確かに伯爵令嬢だ。だが、それだけで団長になれるわけがない」
「そうなのですか?」
「ああ。“ブリジット”辺境騎士団と名前が付いているが、実際は国の騎士団であって、伯爵家の騎士団ではないんだ」
伯爵家が持っているのは、私兵団だけだ、と続ける。
「騎士団において、重要視されるのは力。詳しく言えば、戦闘力、指揮力、次いで魅力、即ち人を引き付ける力だ。そこに権力といったものは入れない」
騎士団内では、先輩後輩と言う上下関係と言うものがきっちりしているが、身分と言うものは全く重要視されないとのことだ。
「そんな中で、団長と言うものは一番であるやつがなるんだ。要するに、フランは騎士団の中で一番強いってことだ」
ビリノアさんの言葉を聞きながら、私は自分の体の震えを抑えることが出来なかった。
その後、試合は新人の全敗で終わった。
私は、団長を指名して挑んだが、なにをされたかもわからないうちに負けてしまった。
その日から、私は毎日槍を振るうようになった。
自身で決めた目標――アーカインとの試合で見たあの団長の勇姿、それに追い付くこと、そして、その人と肩を並べて戦うことを目指して――私は槍を振るう。
番外編の最終話をお届けしました。
今回は、フランキスカお嬢様の話だったのですが、お嬢様の一人称が難しかったので、別の人の視点でやってみました。
その結果、お嬢様があまり目立たなくなってしまいました。少し反省。
では、その後を……
フランキスカ:結婚を機に、騎士団を退団。その後、良き妻、良き母として家を支える。家の危機には、全く衰えない槍の腕前を披露することから、戦う奥様、戦う母親ともいわれる。
ブラゴ:気絶から覚めた後、フランから正式に雑用係に任命される。一年だけの予定だったが、なぜかその後も進んで雑用係をすることとなる。
ユーリ:強い目的意識があったため、騎士団の中でメキメキと実力を伸ばす。副団長まで上り詰めたが、けがのため引退。故郷に戻り子供たちに槍を教える生活をすることになる。
この話で、レムリア・オンラインは終了となります。
初めて書いた、この拙い小説に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
では、機会があったらまたお会いできることを願って挨拶とさせていただきます。