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番外編③ 騎士団員の憂鬱(中)

なんか、筆がのる。

「それで? こんな服を着て、なにをすればいい?」

 目的地の第四ガーデンに向かう途中、ようやく落ち着いたのか、ビリノアちゃんがそう尋ねてくる。

「え? 聞いてないの?」

「ああ。昨日、こちらに来る用事があったから、顔を出したんだ。一週間ほど訓練や見回りに参加するつもりだったんだが、いきなり『任務だ。明日私服で来い』と、言われて……」

 何となく分かった。おそらく、私服と聞いて動きやすい(冒険者の)服で来たのだろう。ビリノアちゃんは非常勤の団員だが、その容姿から他の団員からマスコット扱いされている。そのマスコットが、武骨な格好をしていたので、周りの女性団員が我慢しきれなくなり無理矢理着せかえたのだろう。

 文句を言ったり、恥ずかしがったりで、なんの任務か聞くのをすっかり忘れていたのだろう。

エンリコ団長もいつも誰かに命じている任務なので、説明を忘れていたのだろう。

「簡単に言えば、護衛任務だよ」

「護衛? 誰の?」

「レギーナ・カトル・シルヴィア様。この国の王妹で、王位継承者第八位の方よ」

「はあ!?」

 驚くのも無理ないだろう。

 黒曜、白銀両騎士団のおもな任務は、王族を守ること。王やその一族が何処かへ出かけるときには、護衛として行くことはごく当り前だ。

 しかし、その時はもっと多くの騎士たちが付いて行くのであって、今回のように二人、それも鎧や騎士服でなく私服と言うことは無いに等しい。

「王宮内か? それとも離宮内?」

「いえ。王宮から、十七区にあるカパタル劇場まで」

「んな!? マジか?」

 王都は、三十八区に分かれており、王城は一区。二区から九区までは高級住宅街と上流階級専門の商店などが集まっている。十区以下は一般住宅や商店街などで、高級住宅街と比べると、少し治安が悪くなる。十七区は、高級住宅街と隣り合ってはいるが、王族がほいほいと簡単に行けるわけがない。

「なんで、また……」

「芸能活動の為よ」

「はあ!?」

 レギーナ王女。第八位王位継承者兼人気アイドルグループ『ゼンガー・ラキス』の正規メンバーである。


「あら、今日はクリスティーナさんと……」

「黒曜騎士団のビリノアです」

 驚愕で固まったビリノアちゃんが再起動した後、急いできたものの、第四ガーデンにはすでに侍女――確かアニエスさん――を連れたレギーナ様がいた。

「遅れてしまい、申し訳ありません」

「良いのよ。私のわがままに付き合ってもらうのだから」

 おっとりと笑いながら、そう言うレギーナ様。

「今後気を付けます」

「姫様。そろそろ……」

「そうね、行きましょうか」

 途中まごついてしまったため、時間がなくなってきているのだろう、アニエスさんの言葉にレジーナ様は頷き、アニエスさんを先頭として歩きだす。

「クリス、どこへ行くんだ? 向こうには出入口のようなものはなかったはず……」

「この先にある、東屋。そこに、十七区にある家に繋がる移動陣があるの」

 レギーナ様専用の移動陣で、本人しか発動できないという代物だ。

「馬車とかを使うんじゃないんだ……」

「以前はそうしていたけどね」

 練習とかにほぼ毎日のように出るから、労力が少ないこちらの方がいいということになり、設置されたのだ。

「そっか……って、毎日!?」

「ほぼですよ。休んでいる日もあります」

 ビリノアちゃんの声に、こちらを振り返り答えるレギーナ様。

「自分の好きなことですから、苦にはなりませんよ」

「何となくわかる気がする」

「そう、あなたも好きなことをやっているようですね」

「レギーナ様」

 アニエスさんがレギーナ様を呼ぶ。

 いつの間にか目的の東屋に着いたようだ。

「分かったわ。皆入って」

 私、アニエスさん、レギーナ様、ビリノアちゃんの順に東屋の中に入る。

「ドアを閉めて。……転送陣発動」

 レギーナ様の声に反応して、東屋の中に魔法陣が浮かび上がる。

 次の瞬間、軽い眩暈がして、王宮の東屋ではなく、十七区のレギーナ様の別邸の一室の中にいた。

「うう、何回もしているのに、慣れない」

「大丈夫?」

「情けないですね。それで護衛が務まるのですか?」

 自分で自分を転送するのは平気でも、他人に転送させられるのは苦手なビリノアちゃんがへばっているところに、優しい言葉をかけるレギーナ様と辛らつな言葉をかけるアニエスさん。

「まあ、良いです。レギーナ様の用意が済むまでに、回復しておいてください」

 そう言って、心配そうにビリノアちゃんを見ているレギーナ様を引きずってアニエスさんは部屋から出ていく。

「……大丈夫?」

「……なんとか」

 そう言って、ビリノアちゃんはゆっくりと立ち上がる。

「なんで、自分は良くて、他人にやってもらうのはダメなんだろう?」

「良くあることなのだけど、どうしてって言われると……?」

 確かに良くあることなのだが、改めて聞かれると良く判らない。

「車の運転みたいなものか? それとも……」

「? 何の話か知らないけれど、エントランスに行くよ」

 良く判らないことを言うビリノアちゃんを引きずって部屋を出ていく。


「おーほほほほ。お待たせしましたわ」

「……誰?」

 答えは、レギーナ様なのだが、ビリノアちゃんがそう思うのも無理はない。私も、始めてみた時はそう思ったからだ。

 普段のレギーナ様は、軽くウエーブのかかった金髪なのだが、今は縦ロールにしている。目もたれ目勝ちなのだが、メイクによってつり目に見えるようにしている。口調も違うため、普段のふんわりとしたお嬢様というイメージから、高飛車なお嬢様と言う感じになっている。

「レギーナですわ。それから、私のことはレーナとお呼びなさい」

「芸名です。レーナ様は、このキャラクターで通しておられるので、合わせてください」

「は、はあ……」

 レギーナ、いや、レーナ様の答えと、それを補足するアニエスさんの言葉に、一応納得したのかビリノアちゃんがうなずく。

「おーほほほほ。納得されたようですね。それでは、参りましょうか」

 そう言って、レーナ様は後ろにアニエスさん(いつの間にか、王宮侍女服から着替えている)を引き連れ、優雅に玄関まで歩いて行く。

「ちょ、待った! 先に行かないでください! 護衛の意味がないです! ビリノアちゃんも、ぼーっとしてないで、早く!!」

 なんというか、先行きが不安です。


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