番外編③ 騎士団員の憂鬱(前)
短いですが、切りがいいので切ります。
ドアの前で、一回深呼吸して気を落ち着かせる。
服装の乱れがないかチェックして、ドアをノックする。
「クリスティーナです。入ってもよろしいですか」
「どうぞ」
「失礼します」
かけた声に、返事があったのでドアを開け、一礼して中に入る。
「休憩中に悪いわね」
そう声をかけてきたのが、この部屋の主で、白銀騎士団団長リリアーヌ・ドーラスである。
「いえ、気になさらないでください」
騎士団は、完全な縦割り社会だ。そのトップである団長の要請には、必ずこたえなければならないとされている。
「そう、それなら良いのだけれど……」
だが、この人は、頭ごなしの命令はしてこない。柔らかい態度で、頼みごとをするように言ってくる。頼みごとを受け入れてくれたなら、どんな相手でもお礼を言う。
人としては正しいかもしれないが、騎士団と言う体育会系の集団においてはなめられる存在となる。
しかし、リリアーヌ団長はなめられることはない。入ってきたばっかりの新人が、そういう態度をとることがあるが、すぐに態度を改めることになる。
理由は簡単だ。リリアーヌ団長は、黒曜騎士団のエンリコ団長に次ぐ実力の持ち主だからである。おっとりした態度からは想像できない剛剣の使い手で、両手剣を片手で軽々と振り回すことが出来る。その戦い方から『斬馬のリリアーヌ』と言う二つ名を持っている。
「今回来てもらったのは、ちょっと頼みたいことがあるからなの」
「頼みたいこと……ですか?」
任務と言うことなのだろうが、私一人が呼ばれるということは珍しい。
普通なら、最低二人で任務を行うのだが……
「特別任務よ」
「うげっ」
思わず、嫌そうな声を出してしまった。
「嫌なの?」
「い、いえ。謹んでお受けします」
「そう、ありがとう」
柔らかく笑いながら、お礼を言ってくるリリアーヌ団長に見つからないよう、そっと溜息をつく。
別に、特別任務が嫌なのではない。
それについてくるものが嫌なだけなのだ。
「それで、いつからですか?」
「明日からよ。だから、午後からの訓練は免除。用意をお願いね」
「分かりました」
「他に質問は?」
「私一人なのですか?」
「いえ、黒曜騎士団からも一人来ることになっているわ。今回は二人と言うことね」
「分かりました。それでは用意しておきます。失礼しました」
もう質問はなかったので、そのまま退室の挨拶をして部屋から出る。
「さてと、さっさと用意をしようかな」
翌日、朝六時半。王城の第一練兵場。
とりあえず、ここがもう一人の人との待ち合わせ場所だ。
「ここにこの格好は、あまり落ち着かないな……」
普段ここで訓練をしているため、騎士鎧や騎士服でいることが多いのだが、今私は私服でいる。動きやすさを重視して、スカートではなくズボン姿なので騎士服に近いものがあるが、やっぱり私服は私服なので落ち着かない。
「ん~? しかし、遅いな」
騎士団にいるのなら時間厳守が原則。六時半集合なのだから、その時間の十分前にはいないといけないのだが、まだ来ていない。
「ちょ……ま……」
「……いい……ある……」
後ろから、何処かで聞いたことがある声が近付いてくる。
その声を聞いて、後ろを振り返ると――
「帰る! かーえーるーー!!」
「似合っているから、良いじゃないか。後、任務は絶対だ」
「任務は良いよ! でも着替えさせろ」
「ダメだ。それでいけ」
「そんな~~」
そこには予想通り、いつも通り、堂々とした態度でいるエンリコ団長の後ろに隠れるように、小さな体をさらに小さくしたビリノアちゃんがいた。
「おはようございます、エンリコ団長、ビリノアちゃん」
「うむ、おはよう。クリスティーナ君」
「うう、おはよう。クリス」
恥ずかしそうに答えるビリノアちゃんも私服だが、その服装はと言うと――
「ゴスロリですか」
「うむ、似合っているだろ」
「うう、見ないで~」
白のフリル付きの大きなパニエで膨らました黒スカート。白フリル付きの黒の上着。中は白ブラウスのようだ。黒フリル付きの黒のひざ丈ハイソックス。靴は編み上げブーツ。もちろん色は黒。頭には、白フリル付きの黒カチューシャ。手に持っているのは、黒の日傘。もちろん白フリル付きである。
「似合っているよ」
「ううう、拷問だよ」
銀色の髪と、白色の羽に黒の服が良く合っていると思う。
「くっくっくっく。じゃあ、後は頼んだぞ」
「了解しました」
「ううううう~」
去っていくエンリコ団長に、私は慌てて返事をするが、ビリノアちゃんは恥ずかしそうに小さくなったままだ。
似合っていると思うけどな~。
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