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番外編② 冒険者たち

番外編その2です。

今回は、冒険者パーティー悠久の皆さんの話です。

視点はリーダーのアレスさんです。

「冒険者を辞めようと思う」

 俺の言葉に、周りがざわつく。

「辞める……って、本気ですか? アレスさん!」

 いち早く立ち直った副リーダーのネオンが聞いてくる。

「本気だ。ついでに、アルベルトとサラもだ」

「「「「なんだってー!!」」」」

 更なる情報に、セーフハウスが揺れるほどの騒ぎになる。

「やかましい! ミスりそうになっただろ!!」

 騒ぎを聞きつけて、ビリノアが下から怒鳴りこんでくる。

「「「「すみません。でも……」」」」

「でもじゃない! 邪魔するなと、あれほど……」

「あ~、すまん。俺たちのせいだ」

 際限なく文句が出そうなので、口を出す。

「なんだ? あの事を言ったのか?」

「ああ」

 初期パーティーとビリノアには話していたのだ。

「さっきも言った通り、俺とアルベルトとサラは引退する。それに伴って、新リーダーを決めるのだが、俺はネオンを推薦したいと思う」

「は? 俺ですか?」

 呆けたように言うネオンに対し、うなずいて答える。

 元々そのつもりだったから、半年前からダイが副リーダーを譲って鍛えてきたんだけどな。

「異論があるやつはいるか?」

「「「ないです」」」

「え? ちょ……」

「無いなら決定だ。副リーダーの方は、話し合って決めろよ」

「「「了解しました」」」

 混乱するネオンを放って、他の三人が答える。

 それを確認して、俺たちは下に行くことにした。


「強引だな」

「ま、良いだろ。あいつはリーダーの器だ」

 ビリノアの感想に、俺はそう答える。

 このことは、ネオン以外のメンバーが認めていることだ。あいつ自身は認めていないが、あいつは出来る能力がある。後は、甘えをなくし経験を積めばいい。

「そんなものか……」

 ビリノアは、納得したように言う。

「まあ、いいか。そういや、引退するってことだけど、何時だ」

「ん? いつでも良いけど。廃業届をギルドに出して、カードを返すだけだから……」

 サラの答えに、ビリノアは何やら考え込む。

「なあ、引退を少し伸ばしてもらえないか?」

「良いけど、なに?」

「僕からの依頼」


 ここは、廃鉱になった鉱山の跡。

 暗い坑道の中を、ダイの出した明かりを頼りに歩く。

「そろそろ休もうか?」

 少し広い所に出たところで、そう提案する。

「そうですね。そろそろいい時間ですし」

「ちょうど休むに良い場所だな」

「異存なし」

 反対意見がないので、休息準備を始める。

 まず、ダイに頼み明りを天井付近まで上げてもらう。この明りは、この辺りを明るくするだけでなく、モンスターよけになる。洞窟系に住んでいるモンスターは、明りに弱い。理由は、暗い洞窟にすんでいるため、視覚より嗅覚、聴覚に特化したものが多く、視覚が衰えており、強い光に耐えることが出来ないのだ。その為、光さえあり続ければほとんどのモンスターが近付いてこないのだ。

 続いて、その辺りに転がっている石を使い、即席のかまどを作る。

 坑道内は、ひんやりとしており、動いているのならともかく、休んでいると寒くなってくる。暖をとるのと、料理をするということでかまどを作るのだが、火は使えない。

理由は簡単だ。息が詰まるからだ。

 洞窟の中には、奥が行き止まりになっているものがあり、奥に行けばいくほど、空気の循環が悪い所がある。そんなところで、火を焚こうものなら、あっという間に息がつまり死んでしまう可能性があるのだ。

 ここは、鉱山跡の為、奥に行っても空気の循環が出来るようになっているのかもしれないが、用心に越したことはない。

 出来たかまどの中に入れるのは、ちょっと値が張るが火晶石である。熱を発生させるだけであり、温度調整も出来る。何回か使えるので、こういう場合には便利だ。


「そう言えば、久しぶりだね」

「? 何がだ?」

 食事が終わり、交互に仮眠をとる少し前の時に、サラがそんなことを言う。

「こうして、四人で仕事をするの」

「そう言えば……」

「そうですね」

 サラの言葉に、アルベルトとダイも同意する。

 確かに久しぶりだ。

県都ブリジットに腰を落ち着けてから半年。元々、少しは名の知れていた俺たちパーティーが、拠点を定め活動し始めたということが広がると、多くの依頼と共に多数の弟子入り志願者が押し掛けてくるようになった。

 最初は断っていたのだが、しつこく来る上に、一応大家であるビリノアの商売の邪魔をするような事態になってしまったため、選考の上、何人かの冒険者たちを弟子として受け入れたのだ。

「新人たちに場数を踏ませるために、パーティーに入れたり、二手に分かれてパーティーを作ったり、新人パーティーの監査、後詰め役として一人でついて行ったりしていたからな」

「弟子をとってからは、そんな調子でしたね。私も、魔法の授業と称して、あまり依頼をこなしていなかった気がします」

「俺もそうだな、新人どもを鍛えることに夢中だった気がする」

「始めは面倒くさいと思っていたけれど、やってみれば楽しかったしね~」

「そうだな、何人もの新人冒険者たちが巣立っていったしな……」

 同時に、何人もの冒険者たちの死も見ることになったがな……

「ああ……」

 同じことを考えたのか、とたんしんみりとした雰囲気になる。

「そろそろ休んだらどうだ?」

「そうだな」

 冒険者経験は長いんだ、寝て起きたら気分を変えられるだろう。


 交互に休息を取った後、少し歩くとその先が広い空間になっていることが分かる所に来た。

「この先か」

 この先が目的地、鉱石採集ポイント『大土竜(おおもぐら)の巣』だ。

 大土竜は、モンスターの中では珍しく、人を食料にしていない。代わりに、鉱石などを餌としている。そして、性質として、巣の中に食べきれない鉱石をためておくというものがある。かなり遠くまで行かないとない鉱石もあるため、鉱石採集の依頼はほとんどこの巣に行き取ってくるのだ。

「どうやら、今はいないようだぞ。運が良いな」

 大土竜は人を食料にしていないといえ、人を襲わないという訳ではない。巣を荒らすものには容赦なく襲ってくるのだ。相手の土俵で戦うため、苦戦は必至ではあるが、対策がない訳ではない。今回は使わなくてもよさそうだが。

「よし、俺とダイで警戒する。サラとアルベルトは、鉱石を出来るだけ多く『リュック』に入れるんだ。手早くやるぞ」

「「「おう」」」


「ほい、鉱石だ」

「ん、ありがとう。結構取ってきたんだ。仕分けるのが大変そうだな……」

「それは、自分でやってくれよ」

「分かってるよ」

 鉱石の入った四個の『リュック』――十種類の物なら何個でも入り、重さが変わらないという便利なもの。ビリノアから借りたのだが、どこで手に入れたものだろう? ――をわたす。

 幸い、大土竜は帰ってこなかったので安全に採集が完了した。

「代金は……」

「分かっているんだろ? あいつらの武器を作るって……」

「分かってるよ。これだけあれば良いものが作れるさ」

 嘘だろう。

 こいつは、どうやっているのか、必要な鉱石を切らしたことがない。時々、俺たちに頼んでくることもあったが、それじゃあ到底足りないはずなのだが、鉱石切れと言うのを起こしたことがないのだ。

「……で、もう廃業届出してきたのか?」

「まだに決まってるだろ。依頼完了してなかったから」

「んじゃあ、ちょうど良い。次だが……」

「いい加減にしろや」

「……冗談だ」

「間が気になるが、まあ良い」

「そういや、他の三人は?」

「出かけているが。……あいつらに何かようか?」

「いや、お前と、サラとアルベルトに渡すものがあったんだが……」

「俺に?」

 と言うか、ダイが入っていないということは、引退する奴らに……ってことか?

「ああ、二代目悠久の連中に頼まれてな。お前らに合った、新しい武器だ」

「な!」

「『引退しても、戦いから離れることはないでしょうし、離れても、護身用にはなるはずですから』だと。流石、お前らが育てただけあるな。考え方が一緒だ」

「……」

 笑いながら言うビリノアに、俺は何も言い返せなかった。

 嬉しいのか、寂しいのか、よく判らない感情の波にのまれていたからだ。

 ただ言えることは、俺だけでなく、他の二人にとっても、奴らから贈られた武器は、大切な物の一つになるだろうということだ。


番外編ですが、なぜか本編並みの長さに……二千字くらいに収めたかったのに……

では、メンバーのその後を……

アレス……冒険者を辞めた後、県都ブリジットの自警団に入る。と同時に、かねてより恋仲だったサラと結婚。万年新婚夫婦といわれるようになる。

サラ……冒険者を辞めた後、アレスと結婚。専業主婦の道を歩く。が、剣も続けていたらしく、押し入ってきた強盗を簡単に斬り伏せたという話があった。

アルベルト……冒険者を辞めた後、辺境の町ワルタに妻子を伴って移住する。そこで、急速に発展していくワルタをまもる自警団の発足と育成に力を注ぐ。

ダイ……二代目悠久の意見番として残る。多くの経験をいかして、若者たちの良き指導者として、時には自ら出ていくなどして過ごす。

……という風に考えています。


後、作中に出てきた大土竜対策。

これは、大土竜の弱点を突くもので、鼻に強烈な臭いのするものをぶつけるというものです。

大土竜は、地中で過ごしているため、五感の内視力というものがなくなってしまった。その代わり、嗅覚が大変発達しており、においを頼りに遠くの鉱石などを発見している。

そのため、においを感じる鼻を封じられると、敵がどこにいるかわからず、何にもできなくなる……という設定です。


誤字、脱字、指摘、感想お待ちしています。

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