最終話 完成、そして……
完結となります。
ここまでお付き合い、ありがとうございます。
その日、僕は朝早くから目が覚めた。
理由は簡単だ。
待ちに待った、工房兼家のリフォームが完了したのだ。
「おはようございます」
「あ、おはようございます、バクスターさん。今日は、早いですね」
朝食の仕込みをしている迷風亭のマスターに挨拶をすると、少し驚いたように挨拶を返してきた。
それもそうだろう。今は朝の五時。一般の人たちは、まだ活動をしていない時間帯なのだ。
「あ~、ちょっと早く目が覚めたので……」
「そうですか。何かいいことでもおありで?」
「ええ……って、なんで分かったのですか?」
「顔に書いてありますよ」
どうやら、にやけた顔をしていたらしい。
「実は、家のリフォームが終わったのです」
「ほぅ、それは良かったですね。おめでとうございます」
カウンターに座った僕の前に、お茶を出しながら、マスターが相槌を打つ。
「しかし、そうなりますと、少しさみしくなりますな」
「え?」
「うちを定宿とされている冒険者の方々は多いのですが、長期逗留という方はあまりおられませんので……」
まあ、少しガルバさんの所にいたこともあるが、半年以上ここで過ごしていることになる。
「同じ区内ですし、時々食事を取りに来ますよ」
「そうですか。その時は、サービスしますよ」
そう言い合い、笑顔をマスターとかわす。
……それにしても、半年か……。結構かかったな。
本来なら、改装工事自体は三カ月程度で終わる予定で、引っ越し等も含めて四カ月ぐらいで移れるはずだったのだ。
それがなぜ、半年もかかったのか?
理由は一つ、夜魔王の出現である。
それまで工事自体は順調に進んでいたのだが、王出現の報により、緊急事態宣言が出され県都の住民のほとんどが避難した。リフォームを受け持っていた業者の人々も例外なく避難したため、工事はその間ストップしてしまったのだ。
さらに、戦いの際使用した雷光球によって、人的被害はほとんど出なかったものの、街及び城壁の一部が破壊されてしまったのだ。
幸い、戦場から最も遠い南区にあったため、工房自体に被害はなかった。
だが、災害からの復旧が最優先で会ったため、業者がそちらに掛かりっきりになり、さらに工事が遅れてしまったのだ。
まあ、過ぎたことだ。
リフォームも終了したし、監査も済んだ。工房の機材の搬入も済んだし、暮らしの為の家具もすでに設置済みだ。荷物もまとめてあるため、後は引き渡しを待つばかりなのである。
「それにしても、わくわくして眠れなかった上に、朝も早くから起きるとは……子どもか、僕は……」
「楽しみなことが待っていると、誰でもそうなりますよ」
「そんなものかな?」
「そんなものです」
こんな調子で、朝食の時間までをマスターと過ごした。
「ようこそ、商工ギルドへ……って、ビリノアちゃんじゃない。どうしたの?」
工房に関してのことで、何回か来ているうちに親しくなった受付嬢のアリスさんだ。
アリスは愛称で、本名はもっと長いそうなのだが、本人が『めんどくさいから、アリスって呼んで』と周りどころか、初対面の人にも言っているので、皆愛称で呼んでいる。
「工房兼自宅の引き渡しに来ました」
「そっか。そう言えば、引き渡し可能と言う連絡がきていたっけ……」
そう言いながら、アリスさんは水晶球を操作して情報を引き出す。
「書類K-01を受け付けまで持ってきて」
必要な情報が見つかったのか、アリスさんは奥に連絡を入れたようだ。
「それにしても、14の身空で家持ちとはね~」
「始めは、借りるつもりでしたよ」
条件に合う物件がなかったため、買うことになったけど……
「結構噂になっていたわよ」
「あ~。あれは、少し後悔しています」
「一括で大金をポンだもの」
あの時は、この世界に分割支払いといった方法があった事を知らなかったため、現金一括で支払ったのだ。
「大変だったみたいだね~」
「大変でした」
他に人がいるとこで大金を持っていることがばれたため、あの後一週間ほどしつこく商人たちに『これを買え』攻撃を受けたのだ。呆れたことに、炉を買いに行き追い返された店の奴もやってきた。それらもまとめて断ったが、今度はお金を狙ってごろつき等がやってきたのだ。襲って来た奴は、全員返り討ちにしたし、部屋に侵入してこようとした奴は、罠にはめて二度と来れないくらいに脅しておいた。
「まあ、いい勉強になったでしょう」
「そうですね、そう思わないとやっていけないです」
いまだ、諦めないやつがいるからな。
「持ってきたぞ」
話しているうちに、書類の入った封筒らしきものを持った男の人が出てきた。
「ありがとう。じゃあ、書類に不備がないか見てね」
アリスさんが封筒から書類を出してきたので、確認する。
「……問題ないです」
「そう、じゃあ良かった。はい、これで引き渡し終了よ」
返した書類を、再び封筒に入れて返してくる。
何かあっけない気もするが、こんなものなのか?
「そう言えば、行動購入者として『悠久』の名前もあったけど、今日は来ていないの?」
「……いまだ、準備中です」
引越し準備が出来ておらず、いまだに宿で準備中だ。
「そう、まあ良いわ。魔法錠のパスは封筒の中に入っているわ。後で教えてあげて」
「了解しました」
その後、いったん宿に戻ったのだが、メンバーたちはいまだに引っ越しの準備が出来ていなかったので、パスだけ教えて独りで家までやってきた。
外観はほとんど変わっていない。簡単なドアだった物が、しっかりした物になっているくらいだ。
ドアを開けると、四畳半位の商談スペースと宿だった時からあったカウンターがある。要するに、店のスペースだ。
カウンターの奥には二つドアがあり、右側のドアの奥は、元厨房だった商品置き場だ。工房に続くドアと庭に出れるドアがあり、部屋の隅には、地下の資材置き場へとつながる階段がある。
その隣は元酒場だった工房スペースだ。二部屋に分けるつもりだったが、移動しやすさを考慮して鍛冶スペースと錬金スペースを一緒にした。
左側のドアの向こうは、階段となっており二階の生活スペースにつながっている。
元々は、小さな部屋が並んでいるだけだったが、階段上がってすぐのところを、広い共用スペースにした。キッチンもここにあり、大勢で騒いでもいいような所にした。
ここには、向かって左側と奥にドアがあり、左側が僕個人の部屋。奥が悠久のメンバーの部屋となっている。
「さてと、しっかり準備しないとな……」
この後、ここでお世話になった人、知り合いなどを招いて家完成パーティーをやるつもりなのだ。結構な人数を呼ぶため、今から準備を始めた方が良いだろう。
「やるか」
気合を入れて、準備に取り掛かった。
かくしてここに、伝説とも言える工房が出来上がった。
黒い旋風と呼ばれた王国最強の女騎士や、赤き神槍と呼ばれた辺境の女戦士など、伝説級の戦士たちの武器や防具を作ったと言われる、『バクスター工房』の伝説の始まりであった。
まあ、今は……
「アレス! つまみ食いするな!! とっとと運べ! って、サラ! そんなもの鍋に入れるな!!」
平和に日常を過ごしているだけである。
これにて、このお話は完結とさせていただきます。
もともと、家の完成が終了と決めていたので、このような形の完結となりました。
初めての小説で、至らぬところもあったと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
また、感想などに返事を書けなくて誠に申し訳ありませんでした。すべて読ましていただいて、次への糧とさせていただいていました。この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。
次がいつになるかわかりませんが、またいつかお目にかかるかもしれません。その時は、どうぞよろしくお願いいたします。
最後に、いつもの誤字、脱字、指摘、感想お待ちしています。