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第33話 危機(開戦前)

開戦まで書きたかったのですが、中途半端に長くなったので、ここまでで投稿します。

 今、僕は領主の館の中庭に作られた練兵場にいる。

 つい先ほど、夜魔の軍勢がこちらに向かってくるという報告が物見兵から寄せられ、館の内外で戦闘準備がされている中ここで待たされているのである。

「はあ~」

 ため息をつく僕のいる練兵場の横を、忙しそうに通り過ぎていく人たちがいるが、誰も何も言ってこない。これが僕の仕事である、ということが分かっているからだ。

「はああ~~」

「おーほっほっほ。お待たせしましたわ、ビリノアさん」

 もう一度大きなため息をつくと、既に聞きなれた声が後ろから僕を呼ぶ。

 金髪縦ロールというお嬢様キャラ全開の少女――フランキスカ・セリーヌ・ブリジット。ブリジット伯爵家の第一公女だ。

 紛れもないお嬢様なのだが、甲冑を身に纏い、手に槍をもつ姿はそう見えない。

「今日こそは、(わたくし)が勝たせていただきますわ。そして、戦いに加えさせていただきますわ」

「はあああ~~~」

 特大のため息をつく。

 なんでこうなったのかというと、数日前の会議の日にさかのぼる。


「お父様!!」

 会議が終わり、参加者が部屋を出て行ったあと、ブリジット伯、エンリコさん、ガルバさんと僕が作戦の内容を煮詰めるために残っていた所、ノックもなくいきなり扉が開けられたのだ。

「ん? フランか。何か用か? 後、部屋に入るならノックをしないか。淑女にあるまじき行為だぞ」

「申し訳ありませんわ」

 素直にブリジット伯に頭を下げるが、すぐに頭を上げ詰め寄って行った。

「そんなことより、夜魔が攻めてくるというのは、本当ですの?」

「……誰に聞いたのだ? 全く……。本当のことだ」

 軽く頭を抱えるブリジット伯に対して、フラン(本人からそう呼んでくれと言われた)の顔には喜色が浮かんでいるのが見える。……喜色?

「でしたら、お父様……」

「断る」

「……まだ何も言っていませんわ」

「言われなくとも分かる。戦いに参加させろというのだろう?」

「……その通りですわ」

「はぁ~。少しは己の立場を考えろ。お前は私の娘で、伯爵令嬢だ。さらに、第一伯爵候補だぞ。私に万が一のことがあったら、お前が後を継ぐことになっているのだぞ」

「だからこそですわ。そう言う立場である(わたくし)が、先頭に立って戦えば士気が上がり、万の敵でも蹴散らせますわ」

 いや、無理だろう。

 領主の息子であるならともかく、お嬢様ではそううまくいかないだろう。

 男女差別という訳ではない。

 主軸となる騎士団は、元々身分の高い者を守るという側面を持っている。また、騎士道というものが騎士団員にはある。その中に、『女子供など力のない者を守るべし』というものがある。

身分が高く、女性でありまだ子供の方であるフランは、守られる方なのだ。

「それに、お前の実力ではまだ実戦には耐えられん」

「なっ、そんなことありませんわ!」

「事実だ」

「なっ、なななな!」

 怒りのあまり、言葉をなくすフランにさらに追い打ちをかけるつもりなのか、ブリジット伯が余計なひと言を付け加える。

「証明したいのなら、誰でもいい。騎士団の一人でも倒すのだな」

「本当ですの?」

「ああ、誰でも良いぞ」

 その言葉を聞いて、フランはニヤリとお嬢様らしからぬ笑みを浮かべる。

「それでは、彼女を指定しますわ」

 そう言って、フランが指差したのは僕だった。


 その日から、朝晩関係なく勝負を挑まれるようになってしまったのだ。いつの間にかお嬢様対処係に就かされていて、他のことを手伝おうとしても断られる始末だ。

 ん? 勝負の結果? もちろん全勝ですが、何か?

「止めにしません? すでに敵が近付いてきているんですが……」

「それならば、戦いに間に合うようにさっさとやりますわ。用意なさい」

 やっぱりやるのね。

 そう思いつつ、槍を構えるフランに対して剣を構えた。


「どうして? どうして勝てませんの?」

 フランが両手両膝をつき、落ち込んでいる。

「当たり前です。フェイントもなしに、ただ真っすぐ突いてくるだけなら、少し腕の立つ者なら簡単に避けられます」

(わたくし)に槍を教えてくださった方は……」

 多分、彼女に槍を教えた人というのは、槍を突くということを突き詰めた人なのだろう。

 確かに、重い攻撃を真っすぐ早く繰り出せば、避けきれないし、いなすことも難しいだろう。しかし、その攻撃を習得するには、長い年月の修業が必要になる。フランもかなりの修錬は積んでいるものの、そこまでは達していない。

「……という訳で、ブリジット伯の言った、実力不足とはこういうことです。手っ取り早くという訳ではないですが、実力を上げるためには虚実というものを覚えることを勧めますよ」

「別の人からも、なんども言われたことですわ。答えは決まっています。(わたくし)は、(わたくし)のやり方で強くなって見せますわ」

 いずれ、突きを極められるかもしれないと思えるのは、このぶれないところなのだろう。

「そうですか。それなら――」

言葉を続けようとした時、遠くから『ズン』と大きな音が聞こえてきた。

「なんなのですの!?」

「……しまった」

 あの音は、作戦が開始された証拠だろう。現に、同じような音が連続して聞こえてくる。

「僕としたことが……」

 後悔しても仕方がない。指揮室に行かなければ……

「ちょ、どこへ行く気ですの? お待ちなさい!」

 後ろでフランが叫んでいるようだったが、無視して走りだす。

 目指すは、指揮室。以前、会議を行った会議室を使っているはずだ。

「僕の提案から始まった作戦だ。僕自身の目で確かめないと……」

 いざとなったら、持っているチート能力を全開にしないといけないかもな……


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