第30話 危機(個人的な) (後)
やはり、ギリギリ投稿。
「もう一回訊く、お前は僕に何をさせたいんだ?」
「ふむ。やはり、血筋の悪い者は頭も悪いのか? こんなことも分からんとは……」
おお、小馬鹿にされた。
この世界に来て、いろいろな人にされたことだが、こいつからのが一番ムカつく。
……よし、こいつは必ず一発殴ろう。
「ふん、下々の者を導くのも、高貴なる者の務めだな、説明してやろう」
「その前に、この剣をどかしてもらえると、ありがたいのだが」
ダメもとで言ってみたのだが、スパルクは寛容なところを見せたかったのか、あっさりと男を下がらせた。
「これでいいか? では、説明してやろう。そもそも……」
非常に意味のない自慢話を、延々と話し始める。
この場からの脱出はいつでも出来るので、情報収集をしようと思ったのだが、失敗だったか?
「……という訳だ」
非常に長く、そして、ほぼ無意味な時間が立ち、やっと説明(?)が終わった。
簡単に要約すると『宮廷錬金術師に選ばれたので、助手として王都にこい』といったことである。
なんというか、簡単に言えば五秒もかからないことを、二時間以上かけて話すといのはどうかと思うが……
「いくつか質問してもいいか?」
「ふん、構わんぞ」
「どうやって、宮廷錬金術師になった?」
「決まっている。わしが優秀だったからだ」
嘘だろう。スパルクの錬金術師としての力は、元弟子たちから聞いたところから推測するに、平均値よりもやや上といったところだ。いくら実家の力があってとしても、宮廷錬金術師になれるほどではないはずだ。
となると、やはり僕がわたした神鉄か。それを、自分が精製したとして提出したのだろう。神鉄の精製が出来る錬金術師は少ないため、採り立てられたのだろう。
鑑定を使えば製作者が分かるはずなのだが、どうやってかは知らないが誤魔化したようだな。
「もう一つ質問。なんで僕なんだ? お前は他に弟子がいただろう」
王都に帰る時、金魚のフンみたいについて言った取り巻きたちがいたはずだが?
「弟子たちは、まだ助手を名のる域まで達していないのだ。だから、わしより劣るとはいえ、優秀な方であるお前に目を着けたのだ」
『わしより劣る』ねえ。また、少し頭にくるセリフだ。
確かに、錬金の技術は貰い物で、苦労して手に入れたものではないが、使いこなすにはそれなりに努力はしたし、それを維持する努力も惜しんでいない。
その技術を、何の努力もしていないやつに馬鹿にされれば腹は立つ。
確かに、スパルクには錬金術師としての才能がある。ほとんど努力していないのに、平均よりやや上の腕を持っていることや、他人のオリジナルレシピを、不完全ながら再現できることからも判断できる。
しかし、その才能も磨かなければ錆びていく一方である。
スパルクは磨いていないと判断できる。理由は、スパルクの体型に在る。
錬金術師の仕事は、肉体労働であると言える。硬い鉱石を砕いたり、重いハンマーを振るったり、長時間熱い炉の前にいたりなど、作業の大半が体を使った作業である。それ故に、錬金術師が太るということはほとんどない。太って見える者もいるが、発達した筋肉がそう見えるだけである。
スパルクは、太っている。筋肉で太って見えるのではなく、贅肉であることは、すぐに分かった。ほとんど体を使わずに、良い物ばかりを食べて出来た体という風に判断できるのだ。
「良い話だろう。王宮で働けるのだぞ」
「断る」
「なに?」
「断ると言ったんだが、聞こえなかったか?」
前にも言ったが、脱出ならいつでも出来る。
出来るのだが、問題はこの場から逃れた後、スパルクがどういうことを企みしてくるかである。
それを知るために、バックになにがあるのかを確かめたかったのだ。
最悪、国と事を構える覚悟が必要とは、ね……
「なぜだ? 王宮だぞ! 王都だぞ! 誰もがうらやむところだぞ」
いや、それは人それぞれですから。
僕は、この街で工房を持つことを決めているし、その準備も着々と進んでいる。
それに――
「ゴーストになるのは、お断りだ」
「な……」
スパルクは、なぜわかったというような表情で絶句したが、そんなこと少し考えれば誰でもわかる。
スパルクが宮廷錬金術師に採りたてられたのは、神鉄の精製が出来ると思われているからだ。
しかし、本当に出来るのかというと、そうではない。
以前この家に在る工房で、僕が神鉄の精製をしたところを見て、その作業手順を盗もうとしていた。
しかし、神鉄の精製はそんなに甘いものではない。大きさや密度はもちろん、その日の気温、湿度、炉内の温度や置く位置でも時間や叩き方が変わってしまう繊細なものなのだ。
実際にやったのか、調べたのかは知らないが、自分には不可能ということを知ったのだろう。神鉄の精製が出来ないと、宮廷錬金術師の座から落ちるのは解りきっている。それならば、出来る人間を連れてきて自分のゴーストにしてしまえばいい。そう考え着き、出来そうな相手、それも自分の言うことをきかせやすい相手として選ばれたのが僕なのだろう。
「どうしても断る……と」
「断る」
「……仕方ない」
そう言って、スパルクが隣に立っていた男に何やら合図を送る。
「……」
合図を受けた男は、一つうなずくと、ポケットから何やら液体の入った薬瓶を取り出す。
「これは使いたくなかったのだが……素直に来てくれないお前が悪いのだよ」
一目見て分かった。あれは、かすかに感じる魔力から魔法薬であり、人の意思を奪い、操り人形にしてしまうものだ。
飲まされたら最後、スパルクの意のままに動く錬金機械にされてしまう。
迷っている暇はない。迷惑をかけるかもしれないが、誠心誠意謝ろう。
そう判断し、システムからアイテム欄を選択。その中から、ナイフを選ぶ。すると、ナイフが手のなかに現れる。
他の人にはないこのチート能力が、今回ここから逃げるための第一歩。
長々と、違法薬物を使う言い訳をするスパルクに気付かれないように、手早く慎重に縄を切っていく。
「……だから、わしはこの薬を使わざるおえんのだよ」
よし、切れた!
即座にナイフをしまい、後ろに飛びずさる。
「な、貴様!」
あわてたように言うスパルクに対して、周りにいた男たちは主を守るべく素早く行動を開始する。
「逃げさせてもらう」
そう言って、目をつむりその上を左手で覆う。そして、右手に持った物に魔力を込めて投げる。
次の瞬間――
「ぎいやああああ!!」
一瞬、防護しても分かるくらいの、凄まじい光が部屋のなかに広がる。
投げたものは、光晶石。前に作っていたものを、アイテム欄に入れておいたものだ。普通は、穏やかな光を発してライトとして使うのだが、魔力を過剰に加えることによって、石に蓄えられた魔力が光として一瞬で発せられるのだ。
要するに、閃光弾として使える。……かなりもったいないが。
怯んでいる隙に窓に駆け寄る。
そのままの勢いで、窓を突き破り外に出る。
二階の部屋だったが、関係ない。空が飛べるからだ。
「ま、待て!」
後ろから声が聞こえてきたが、無視して真向かいにある家に飛び込む。
「ガルバさん、アリアさん! ヘルプ、ミー!!」
「そうか、あの馬鹿はそこまで落ちたか……」
僕から話を聞いたガルバさんは、呆れたようにそう言った。
「あなた……」
「解っている。ビリノアさん、わしに任せてくれんか? 可愛い孫の友だちの為だ、一肌脱ごうじゃないか」
「その間は、ここに居るといいわ」
「お願いします」
その後、スパルクは失脚し投獄される。
ガルバさんは、黒曜騎士団の団長で前国王と現国王の護衛を長らく務めていたらしい。その上、現国王の武術指南役を務めていたということだ。
王宮への非常に太いパイプを持っていたのだ。
それを使って、スパルクの無能さと、やった事を王に直接流したのだ。
無能を証明するために、もったいなかったけれど神鉄鉱石を提出させてもらった。それくらいはやらないと、申し訳ないからな。
申し訳ありませんが、次回の投稿は少し遅くなりそうです。
誤字、脱字、指摘、感想お待ちしています。