第3話 現状確認(2)
毎日投稿出来る人って、どれだけの勢いで書いているのだろう……
確かに僕は、ネトゲー廃人だったし、半ひきこもりだった。それは認めよう。認めるけれど、異世界に行って暴れようとかは、考えてなかった。やってみたいことはあったけど、それはこちらでも出来ることであり、現状で満足していた。
「輪廻に入れると記憶が消えます」
「生き返らせることは出来ないし」
「話し合いの結果、余裕のある世界に送る方がいいと結論が出ました」
「だから、直前までやっていたゲームとそっくりな世界に送ったの。ついでにゲームのキャラクターの能力と持ち物もサービスしたんだよ」
「体の方は、私が作りました。久々の会心の出来です」
いやいや、僕の持ちキャラ『ビリノア』は、男の子ですから。女の子になった覚えはないですから。
そう訴えると、和泉は首をかしげ、レムリアは和泉を驚いたように見つめる。
「和泉……貴女が持ち込んだ資料をもとにして、容姿などを決めたのですけど……」
「え? でもゲームのキャラクターは……」
急いで、ステータス画面を開ける。
『名前 ビリノア・バクスター 種族 神人
年齢 14 性別 女 職業 鍛冶師レベル1(+57)』
名前以外の全てが、記憶にあるものと違う。種族は人間で、20才、魔術師レベル200(+56)だったはずだ。ちなみにカッコ内の数字は、転生した回数……
「! ランダム転生か!」
レベルと(+57)を見て、死の直前、自分のやっていたことを思い出す。最後だからと言って、ギャンブルのような感覚で選んだあの選択。
「そうですか……そんなことを……」
「ごめんなさい。確認しなかった、あたしも悪いよね」
こんなことになるなら、選ばなければよかったという思いもよぎったが、あの時点ではこんなこと、予測不能だったことも気付く。
「うあ、誰にも文句言えね~」
文句を言いたい奴はいるが、ここにはいないし……
ゲーム画面だけを見て、和泉が女の子のキャラを使っていると思い込んだのも、資料だけを見て、レムリアが体を作ったのも、悪気があったわけではないのだ。
「男の体に入れ替え……」
「無理ですね」
提案に対して、一瞬で否定の言葉が返ってくる。
なんでも、すでに僕の魂は、この体に定着しているとのことだ。定着した魂を無理矢理はがすと、魂に傷がつき、悪影響が出るらしい。
「最悪の結果は魂の死だよ。魂が死んじゃうと、生まれ変わることも出来なくなるんだよ」
なお、傷つけずに魂を取り出す方法は、その人が死ぬしか方法はないらしい。それも自殺じゃ駄目だとのこと。まあ、生き返れたのに死ぬつもりはさらさらないが。
もう一つ提案があったので、そっちを訊いてみることにする。
「体を男の体にすること……」
最後まで言い切ることは、出来なかった。理由は簡単。目の前にいたレムリアさんの笑みが、より深くなった……ただそれだけである。
「私の最高傑作を、作りかえろ……と?」
ただの笑顔。なのに、そこから感じられるけた外れのプレッシャー。レムリアさんの隣にいたはずの和泉が、いつの間にか少し離れ、ふるえているのが確認できた。
「和泉からの資料をもとに、私の持つすべてを詰め込んだ最高傑作が、気に入らないと……」
「いや、申し訳ないです。うれしいです。ありがたく使わしてもらいます」
あまりの迫力と恐怖に、思わず土下座してそう言葉を返してしまった。
「そう、それは良かったです」
レムリアさんの笑顔が、柔らかいのに戻っているのを確認して、ほっと息をつく。ふと視線をそらすと、和泉も同じように胸をなでおろして、息をついているのが目に入った。
『だめだよ。レムリア姉を怒らせたら』
僕にだけ聞こえるような声で、和泉が忠告をくれた。出来ればもっと早く言ってほしかったよ。と言うか、なし崩し的に僕は女の子のままが決定事項になっている。
「……仕方ないか」
少し考え、諦めることにした。人生諦めと言うか、引き際が肝心。デイトレードも、生活も、限界ぎりぎりでなく、余力を残しておく方が上手くいく。そのスタンスでやって上手くやってきたのだから、今回も上手くいくはずだ。女の子になろうが、僕は僕。せっかく生きていけるのだから、楽しまないとね。
「考えは、まとまりましたか?」
開き直り気味の僕は、レムリアさんの言葉に、うなずくことで答えた。
少し考えたようですけど、素直にうなずいたビリノアさんを見て、私は多少驚きを感じました。隣の和泉も同じく驚いたように見ています。
長く管理官の仕事をやっていますと、今回と同じような案件が出てきます。今回は特殊で、間違えて女の子にしてしまったのですが、人を異世界に送るということは過去何回もありました。
高年齢のほとんどの人は、異世界行きを断ってきます。しかし、低年齢層、特に十代後半から二十代前半の人は、行きたがります。その際、こちらに非があることをいいことに、代償として、漫画・アニメ・ゲーム等の技を使えるようにしろ、魔法のある世界なら魔力を最大にしろ、等々己の欲望に忠実な願いを言ってくることが多いのです。
出来るだけ、その願いをかなえてあげるのですが、そう言ってきた人たちのほとんどは、貰った力をうまく扱えず自滅しています。また、数少ない、使いこなせている人も、大半が世界の崩壊レベルの事件を引き起こして、私たち管理官が干渉しなければならなくなったりしています。そんなことをしてしまった人がどうなるかは、想像している通りです。
それと比べますと、ビリノアさんは、同じくらいの年代とは思えないほど落ち着いているように思います。
自分が知らないところにいて、しかも姿かたちまで変わっているというのに、パニックに陥らず、落ち着いて現状確認をしていた所からも、うかがえます。
こちらの非に対しても、特に代償を求めることもないようです。
物欲が少ないのでしょうか? それとも他に何か考えがあるのでしょうか?
諦めて、前に進むために必要な事を考えよう。
「いくつか聞きたいことがあるんだが……」
こちらをじっと見て来る二人に疑問を投げかける。
「え? はい、なにがききたいのですか?」
何か考え事をしていたのか、レムリアさんは、あわてて答える。
「レムリア姉、あたしはそろそろ戻るよ」
僕が、質問するより先に、自分の役目は終わったのだろうと判断してか、和泉がそう切り出した。
「そうね、後はこちらでの生活についてだけですから、もう良いですよ」
「ん、レムリア姉、また連絡するね。ビリノアさん、もう会うことはないかもしれないけど、元気でね」
「あ、ちょっと待った」
聞きたいことがあったので、帰ろうとする和泉を呼び止める。
「僕の財産のことなんだけど……」
「ん? 大丈夫だよ。君の望んだとおりになるよう手配したから」
望んだとおり……それは、持ち物等を全て整理し、そのお金を弱者援助に充てること。僕自身も孤児であり、つらい目にあった事も一回や二回じゃない。微々たるものかもしれないし、偽善かもしれないが、これで少しは楽になってくれればいいなと思う。
「後は良い? それじゃ」
そう言い残し、和泉は一瞬にしてこの場から消え去った。
「それでは、説明を始めましょうか。まずは……」
ざっくりとしていますが、ヒロイン(笑)のビリノアくんがここに来た説明でした。
次回は、能力の説明に入ります。
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