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第27話 お魚クエスト(前)

一話じゃ済まなかった。

 ふわりと、ラピスが石の上に降りる。

「主、これもそうだぞ」

「これもか。ありがとう、助かるよ」

「主の役に立つことが、妾のいる理由だからな。頼ってくれ」

 ラピスの乗っていた石を背中に背負ったかごに入れながら礼を言うと、ラピスがそう返してきた。成り行きでなったとはいえ、良い相棒が出来たものだ。

「うーん、便利ですね。私も使い魔を持つことを、真剣に考えましょうかね~」

「確かに便利ですけど、魔力消費量がかなり高いですよ」

「それは、冒険者としてはいただけませんね」

 雑務専門の冒険者でなく、討伐などの依頼を多く受ける悠久のメンバーであるダイさんにとっては、使える魔力の低下は大きな問題だろう。

「それにしても、なかなかありませんね、魔力石」

 半分くらいまで石が入っているかごを見て、ダイさんがそう言ってきた。

 今現在、僕たちは県都ブリジットから、馬で一日くらい離れたところに在る山の中にいます。目的は、新鮮な魚を食べるための下準備で、魔力石拾いに来ているのです。

「氷作戦が、上手くいきませんでしたからね。今度は上手くいくといいのですが……」

 前に提案した、魚を水ごと凍らせて運ぶ作戦は、鮮度を保つということでは成功したが、大量移動と言うことでは失敗したのだ。

 失敗の理由は簡単だ。凍らせた水の量だけ重さと嵩が増したため、大量に運ぶことが出来なかったということだ。

「新鮮な魚を安価で。これが目標ですからね。新鮮でも少量では意味がありません」

「ん~、今回は大丈夫だと思いたい」

「大丈夫であろう。主が考え付いたアイデアじゃから」

 いや、氷作戦も僕のアイディアなんだけどね。無条件に信頼してくれるのはうれしいが、なんだかこそばゆいのだ。

「慕われていますね」

 ダイさんからは、苦笑と生温かい視線をいただきました。

 ……畜生。


 何故、僕が新鮮な魚を手に入れるために働いているのかと言うと、話は一昨日までさかのぼる。

 その日も、簡単な雑務依頼を2件完了(本来は両方とも一日がかりの仕事だったらしい)して、宿に意気揚々と帰ってきたのだ。

 ギルドの方から、次に依頼を達成したらランクアップだと言われたのもあって、上機嫌で宿の一階の酒場で食事を取っているときに、ダイさんが見知らぬ人を連れて話しかけてきたのだ。

「ビリノア、ちょっと良いですか?」

「んあ、……うく、良いですよ」

 とりあえず、口の中の物を飲みこんでから答える。

「前に話していた魚のことについて、ちょっと……」

「早く終わりそうですか?」

「少し時間が欲しいですね」

「じゃあ、少し待っていてください」

 とりあえず、別テーブルで待ってもらうことにする。いくら元男とはいえ、食べているところを見られるのは、恥ずかしい物があるからな。

 少し残っていた食事を急いでたいらげて、ダイさんたちの待つテーブルに移動する。

「お待たせしました」

「いやそう待ってないから、気にせずに」

 言葉を交わしながらダイさんの前の席に着く。

「そう、それで、この人は?」

 まずは、ダイさんの隣に座っている男の人について訊いてみる。

「初めましてだな。俺の名は、ペイシェ。金持ち相手に魚の卸しをやっている者だ」

 と言うことは……

「そうです。魚の運搬依頼をしている人です」

 僕の考えを読んだのだろう、ダイさんが説明を加えてきた。

「そうですか。それで、魚について話があるということですが……」

 氷を使った運搬についてのことだろうか?

「回りくどいことは嫌いでね、単刀直入に言う。氷を使った運搬は失敗した」

 は?

「新鮮さは保つことが出来たが、氷の分嵩と重さが増したため運べる量が少なくなった」

「正確には半分は成功したということです」

「で、だ。俺としては、もっと一般の人に魚を食べてもらいてえ。その為には、何とかして大量に運ぶ方法が必要なんだ。大量に運べれば、商会の方が本格的に協力してくれることになっている」

 結構大きな話になっているようだ。

「だが、俺の頭の程度じゃ、考え付くことはたかが知れている。頼む、知恵を貸してくれ」

 そう言うと、ペイシェさんは立ち上がり、僕に向かって深々と頭を下げる。見た目子供である僕に、ためらいもなく頭を下げるとはかなり本気の証拠だろう。

「頭を上げてください。協力しますから」

「おお、ありがてえ」

 ペイシェさんが僕の手を取り、ぶんぶんと上下に動かす。

 ……力の入りすぎで手が痛い。

「手が痛いです。落ち着いてください」

「す、済まねえ」

 手を振りほどいて言うと、申し訳なさそうに謝ってくる。

「……はあ、次から気を着けてくださいね。それで、アイディアでしたね。実は、一つ考えていたことが……」


「……と言う訳で、アイディアを実現するために、僕たち魔法使い組は魔力石とり、ペイシェさんは大工さんを訪ねているのだ」

「主?」

「……なにをブツブツ言っているのですか?」

「言わなきゃいけないような気がして……」

 何となく、お約束と言うやつをやってみたのだが、通じなかったようだ。

「まあ、良いでしょう。それにしても、籠一杯も取る必要があるのですか? 今回の場合、実験だけですので、二、三個あれば十分だと思うのですが」

「ん~、どうせなんで、他の物も作ってみたいなと思って」

 会話しながらも、ラピスが示す石を背負った籠の中に放り込んでいく。

「ダイさんも、やってみます?」

「そうですね。良い機会です。いろいろ作ってみましょうか」

 そうと決まれば、後は早い。特に会話をすることなく、黙々と石拾いをする。

「「「!!」」」

 籠がほぼいっぱいになった時、何かが近付いてくるのを感じた。

「主!」

「解ってる」

 ダイさんは、すでに杖を構えて臨戦態勢に入っている。ラピスも、気配のする方向を睨みつけている。

「ダイ。今回は、妾が前に出る。主の守りを任せても良いか?」

「そうですね。森の中で火系統を使う訳にはいけませんし、前衛がいない状態で私が前に出てもあまり役に立ちそうにないですしね。今回は、ビリノアと荷物を守ることに集中しますよ」

 勝手に話が決まっていく。いや、荷物を下ろせば戦えるのですが、ここは従っておきますか。

「ぐるるるる……」

 茂みを割って現れたのは、体長三メートルはある人型の魔物だった。

「夜魔……」

 己の膝くらいまである長い手。体毛はなく、茶色い皮膚が全体を覆っている。全体的にのっぺりした印象を受けるが、黄色く濁った瞳からは、敵意があふれ出している。

「なんで……」

「言っておる場合か! 来るぞ!!」

「がああああああああああ!!!!」

 前をフヨフヨと飛んでいるのがうっとうしかったのか、夜魔はラピスめがけて腕を振り下ろす。

「甘いわ! そんな攻撃、当たる訳なかろう」

 地面がへこむぐらいの力のこもった攻撃を、余裕を持ってラピスはかわす。

「石弾!」

「ぐる?」

 大人の頭大の石が夜魔の頭を直撃するが、大して気にしていないように攻撃してくる。

「効いて……って、うわ!」

 夜魔の攻撃は、腕を振り回すという単純なものだが、その威力はかなり高く一撃でも貰えばラピスは戦闘不能になるだろう。さらに厄介なことに、不格好に見える長い手のせいか、ただ振り回しているだけの腕がまるで鞭のようにしなって襲いかかってくるのだ。そのため、威力、スピードが格段に高い攻撃となっているようだ。

「ふむ、厄介ですね。援護した方がいいでしょうか」

 結界魔法で、守りを固めているダイさんがそう提案してくる。

「ん~、大丈夫だと思いますよ。それに……」

「こいつは、妾が仕留める! 手出し無用じゃ!」

「……と言うことです」

 会話している間も、夜魔の怒涛の攻撃をラピスは避け続けている。

 一見、ラピスが押されているようにも見えるが、僕にはラピスが何か狙ってるのが分かった。

「があああああああああ!!!!」

「……」

 夜魔が腕を振り回す。それをラピスがことごとく無言で避け続ける。その攻防がしばらく続いたが、やがてそれも終わりくる。

「ぐ、ぐるう」

 夜魔の動きが緩慢なものになる。

「待っておったぞ、この時を!」

 ラピスの前に魔法陣が展開する。

 それを見て、夜魔はあわてて回避しようと動く。

「遅い! 千の石槍ミッレ・ラピス・ランケア

 魔法陣から何本もの石の槍が飛び出し、夜魔の体を貫く。

「ぐ……、る……」

 何本もの石の槍をはやした夜魔はしばらく立っていたが、やがて、石の槍の重さに耐え切れなくなったように倒れ、光とともに消えていった。


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