第25話 簡単(?)な依頼の行方(4)
終わらないうえに短いです。
簡易使い魔仮契約―術者の血(一滴で大丈夫)を混ぜたインクで書かれた魔法陣の上に使い魔としたいモノ(動物、植物、無機物等、何でも構わない)をのせて呪文を唱えるだけという、お手軽なものである。
しかも、仮契約なので、呪文は必要ない。ただ、魔力を流せばいいだけである。
「という訳で、魔力注入~♪」
「軽いな、おい」
実は、結構楽しみなのである。
使い魔契約というものは、ゲームにはなかった物なのだ。
つまり、この世界独自のもの。廃人だった、僕がやった事がないことなのである。
やった事のないことに挑戦する、これでわくわくしなければ男じゃない……今は女だけども……
「上がったり下がったりと、忙しい奴だな。で、これはどんなふうになるんだ?」
クラウンが、契約陣を指さして尋ねてくる。
簡易とはいえ、契約には少し時間がかかるため、話すことは出来る。
「さあ?」
「さあ……って、お前……」
やるにあたって調べたのだが、動物の場合は簡単で、元となった動物の姿になる。体の大きさや、色などが変わることがあるが、基本そんなに変わらない。
植物の場合は、擬人化、動物化する……とは言っても、リアルなものではなく、某未来的ネコ型ロボットの映画(第28作目)のような感じになる。
無機物の場合は、様々である。完全に人型になったり、おもちゃの動物のようになったり、そのままの状態であったりと色々で、統一性も関連性もなくバラバラである。
「という訳で、今回は無機物だから、何になるかは判らない」
「そうか。ま、意思疎通が出来れば何でもいいけどよ。……ん? そうだ」
クラウンが、ふと思い出したというように切り出してくる。
……結構時間がかかるな……
「使い魔ってのは、どういう役目を果たすんだ?」
「基本的に、主の護衛。後は、秘薬の材料や、貴重な鉱石などを取ってくるとか」
伝言の伝達とかにも使われたり、身の回りの世話をさせたりというのもある。
「ん~便利そうだな。魔術師でない奴でも、持つことは可能なのか?」
「不可能じゃない」
魔力を持っている人―この世界の人の大半は持っている―ならだれでも使い魔を持つことは可能なのだ。
「ただ、燃費が悪い」
一般の人の魔力なら、最低ランクの使い魔でも魔力が半分ほど持ってかれるのだ。
ちなみに、最低ランクの使い魔は、ネズミなどの小動物型だ。動物型は、燃費が良いのだ。理由としては、食物から魔力の供給が出来るため、主人の負担を減らすことが出来るのだ。続いて植物方も燃費が良いと言える。土と水と日光さえあればいいのだが、動かしたりするのには、土から出なくてはならず土からの栄養がなくなると、途端に魔力供給量が増えてしまう。一番燃費の悪いのが、無機物型。主人からの魔力供給に頼るしかないのだが、他の方と比べると強力なものになることが多いのだ。
「元にする物など他の要因もあるし、一概には言えないけど、大体こんなものだという話だよ」
「へー。じゃあ、冒険者があまり使い魔を持ってないのも……」
「常に魔力を削られているわけですし、伝達もカードを使えば出来るのですから……」
「必要性をあまり感じないってところか」
そう言うことだ。
それにしても……
「長いな」
「ん? 何がだ?」
「時間。後、注入している魔力量も多い」
簡易で仮なので、本来ここまで時間と魔力を食うはずがない。大物ならともかく、今回は石の欠片だ。そんなに力のある物じゃあ……
「……そうか、その可能性があったか……」
「ん? なんの……」
僕の言葉に、クラウンが疑問を投げかけようとしてくるが、その前に“ぼうん”という気の抜けた音とともに、陣の上に置かれていた石が煙に包まれる。
その煙は、しばらく陣の上にとどまっていたが、すぐに引いて行った。
「汝らか? 妾を呼び出したのは?」
引いた後にいたのは、体長十センチくらいの幼女だった。
長いストレートの金髪、つり目がちの青色の瞳。凹凸のない体形で、偉そうに腕を組んでいる状態は、彼女の子どもっぽさをさらに増長させている。
「おお、なんだ、この幼女は?」
「無礼者!!」
「ぐはっ」
幼女がクラウンに手を向けると、どこからともなく野球ボール大の石が頭に直撃する。
「妾を呼びだしたのは、汝か?」
イスから転げ落ちたクラウンを、見向きもせずに僕に問いかけてくる。
「ああ」
「ふむ。なれば、汝が妾の主ということかの」
「ま、仮だけどね」
「ん? 仮であろうとなかろうと関係ないぞ。妾には汝に従う義務がある。契約とはそういうものなのじゃよ」
そういう認識なのか。
「なら遠慮なく。今回は、少し訊きたいことがあって呼び出したんだ」
「訊きたいことか? 妾のわかる範囲でなら答えてやろう」
「ありがとうございます。では……」
「まて、お前ら……」
サクサクと話を進めようとすると、テーブルの下から声が聞こえてきた。
「ん? おお!」
テーブルの下をのぞくと、そこには頭から血を流してこちらを見ながら倒れているクラウンがいた。
「覗きかのう」
「てめえがやったんだろうが!!」
いつの間にか僕の肩の上にいた幼女の言葉に反応して、クラウンは立ち上がって絶叫した。どうでもいいけど、血がどくどく出ているが大丈夫なのだろうか?
「いきなり石をぶつけるとは、なにしてくれるんだこのガキ!」
「おぬしが失礼なことを言ったからじゃ」
「それでも、いきなり石はねーだろ」
「妾の身体じゃ叩いたところでダメージは与えられんからな」
「だけど……」
「なに……」
「……」
「……」
だんだん言い争いがうるさく、低レベルになってきた。ギルド併設の酒場という場所だったため、周りにいた冒険者からヤジや煽る声も聞かれる。どうやら賭けも始まったらしい。
「そろそろ止めるか」
まず用意するのは鏡。
鏡を見ながら、半眼を作る。一歩間違えると眠たそうに見えてしまうから注意。
納得がいく半眼になったら、そこから見える瞳のハイライトを消す。成功。
口元に笑みを作って、顔の完成。
続いて、手の上に魔法球を作り出す。普通の魔法球のほんの十倍ほどの魔力を込める。そのままだと大きくなりすぎるので、普通の魔法球位まで圧縮、ついでに雷の属性を着ける。
「だか、ら……」
「な、に……」
何かに気付いたように、二人がこちらを向く。
「……(汗)」
「……(汗)」
冷や汗をかきながら黙りこむ二人に対して、有名なあのセリフを口にする。
「すこし、頭冷やそっか」
「「ぎゃーーーーーー」」