第24話 簡単(?)な依頼の行方(3)
遅くなって申し訳ありません
要石について報告した次の日、ギルドから連絡があった。
連絡によると、話し合いの結果、調査は僕に任せる。そして、サポート要員を就けるので、ギルドまで来るようにとのことだった。
特に急ぐこともないので、朝食を取った後、ゆっくりと用意をしてからギルドに向かった。
「初めまして、クラウンと申します」
ギルドに到着し、サポート要員として紹介された男を見て、僕は固まってしまった。
服装自体は普通の冒険者、革の鎧と長剣という、長距離を徒歩で移動することの多い冒険者が良くする動きやすさを重視したものだ。
「道化師?」
何故か、顔に口元は笑っているのに、目の下には涙と言うサーカスのピエロのメイクを施していた。
名前自体も道化師と言うことから偽名であることが分かる。冒険者で偽名―と言うか、冒険者ネームとして別の名前を使っているやつは珍しくないが、ここまであからさまな物は初めてだ。
「えーっと、クラウンさん」
「クラウンで結構です」
「あー、じゃあ、クラウン。とりあえず、話をしようか。後、話し方も普通でいいよ」
そう僕が言うと、クラウンはニヤリと笑った。
「そうか、じゃあそうさせてもらおう。まずは自己紹介だな、俺の名前はクラウン、冒険者ネームと言うやつだ。ランクはA。このメイクは好きでやっているだけで、特に意味はない」
言いながら見せてくれたカードには、確かにランクAの文字が書かれていた。
「聞いているとは思うが、ビリノア・バクスター。ランクはF」
「ああ、今回は面倒なことになったようだな」
「面倒?」
少し手間が掛かると言うだけで、そう面倒とは思わないのだが……
「まあ、調べるだけならば、そう面倒と言うことはない。過去の記録を調べるのも、人に話を聞くのも、特に問題はない。面倒と言うのは、調べた結果何かあった時の対応が面倒と言うことだ」
「と言うと?」
「はっきり言おう。あの要石は邪神の力の欠片が封じられている可能性がある」
邪神の力の欠片とは、その名の通りのものだ。
冒険者―後に勇者と呼ばれるようになる―パーティーが邪神を封じ込める寸前に、邪神が最後のあがきと言うように、己の力の一部を切り離し世界中にばらまいたのだ。
世界中に散らばったそれらは、各地で混乱と被害をまきちらした。
邪神のものであるとはいえ、一応は神の力なため、使いようによってはかなりの恩恵があるのだが、恩恵にあずかったのはごくごく少数で、ほとんどが欲にまみれた人が自分本位で使い、力を暴走させ周りを巻き込んで破滅した。
それでもなお、力を求める人が後を絶たなかったため、欠片の大半は何処か分からない場所に封じられることになった。
「誰にも知られていない封印。良く見ないと分からないほど違和感のない要石。状況はあっているように思える」
状況だけならあっているのかもしれないけど、僕は違うような気がするのだ。
なんというか、昨日要石から感じた魔力は人が発する魔力であって、邪神とはいえ神の発するものではなかったように感じた。欠片とはいえ神の力だ。人が封じたとしても何らかの形でその力の一端は感じられるだろう。
「それも一理あるが、最悪の想像をして、それに対応することも考えるといいぞ」
「ちゃんと考えてある」
そう言って、自分専用の武器と持ってきた物を見せる。
「それが対策か? て言うかそんな棒どっから取り出したんだ?」
手ぶらだったのに、いきなり2メートル近い棒が出てきたのだ。本当の対策用に持ってきた物より、そちらの方に気が向くのはしょうがないか。
「ん? 名が彫ってあるな。なになに『如意金箍棒』……って、如意棒か! なんでお前が……」
レムリア・オンラインで、一番初めに参加したイベントで手に入れた限定10本というユニーク武器だ。
威力は高い方であったが、武器説明に書かれているだけで、伸縮自在と言う特性はなくただの長柄武器の一種として周りからは認知されていた。
なぜ、攻撃力が高いだけの武器が個数制限のあるユニーク武器足り得たのか?
その答えは、武器改造である。
通常、武器改造は10回が限界である。果物ナイフ(攻撃力最低)でもそうだし、クレイモア(剣の中でも高威力)でも同じである。
しかし如意棒は、通常改造できないユニーク武器でありながら、改造が出来、なおかつ通常の二倍の20回の改造が可能となっていた。しかも、長柄武器ではなく特殊武器扱いだったので、武器系の技ならどれでも繰り出せるという特典もあった。
鍛冶師のスキルを駆使して、魔改造をしてメイン武器として最後まで使った愛着のある武器だ。嬉しいことに、現実となった所為か記述でしかなかった伸縮自在という特性が付いていた。改造は出来なくなっていたけど……
「如意棒より、本当の対策の方に注目してほしいのですけど……」
「おお、すまん。珍しい物を見たんでつい、な」
そう言いながら、クラウンは僕が右手に持っている対策に目をやる。
「封魔のビンか……対策としては、あっているとは思うが……」
封魔のビン。その名の通りモノを封印するためのビンである。
見た目は、ただの無色透明なビンの側面に、六芒星が書かれているだけに見える。しかし、実際には透明インクで表面にびっしりと封印呪が書きこまれているものだ。封『魔』となっているが、便宜上そう呼んでいるだけであり、魔人族が使ったとしても何の問題もない。
問題は、このビンを使えば何でも封印できるということだろう。人であろうが、魔獣であろうが文字通り何でも封印できる。無論、容量の関係上封印出来ないというものはあるが、そのことさえなければ何でも封印できると言われている。
「なんつう危険なものを……」
「許可は取ってますよ」
その性能から、このビンは取扱危険物とされており、使うには上―今回は冒険者ギルド―からの許可が必要になる。許可を得ずに使用するのは犯罪とされ、罪に問われる。同時に所持、作成をしても犯罪として罪に問われる。
「割らないようにな」
「解っている」
このビンは、無類の封印力を持っていながら衝撃に弱いという性質がある。中からはどんなことをしても壊れないということだが、外部からの衝撃からはとても弱く、ちょっと物がぶつかっただけでも割れてしまう恐れがある。長時間の封印には向かないが、一時的なものなら問題ない。今回は用心のためであり、長期的なものでないためこれをチョイスしてきたのだ。
「対策をしていることは解ったが、まずどうするつもりだ? 聞き込み捜査でもするのか? それとも手っ取り早く、魔法を使って直で調べるのか?」
「魔法を使います。聞き込みをしてもいい情報は、入ってこないと思いますし……」
すでに、あの家の前の持ち主は死亡していることは確認済みだ。その子供は王都に住んでおり、聞き込みに行くのは時間がかかりすぎる。家を建てた建築業者からはすでに話を聞いており、建てる時すでにあったということしかわからなかった。あの辺りで起きた不可解な事件等の話は、すでにギルドが調べ上げており、特に何もなかったという結果が来ている。
「直で調べるのか、手っ取り早くて良いな」
「直接ではないですよ」
そんな無謀なことはしない。
ポシェットから、石の欠片を取り出す。
「なんだそれ」
「昨日取ってきた、要石の欠片」
「は?」
困惑するクラウンをよそに、僕はテーブルの上に魔法陣を書いた紙を敷き、その上に石の欠片を置いた。
「まて、なにをするつもりだ? いや、その前に、要石に傷をつけるとは、どういうことだ!」
「まず、最初の質問の答えは、簡易使い魔仮契約。傷のことに関しては、近所の子どもたちもやっていることだから問題ないと判断した」
前の持ち主が子ども好きだったのか、あの庭は近所の子どもの遊び場だったのだ。そこに在る大きな石に子どもたちが何かしないわけもなく、傷つけたり、削り取ったりということは日常茶飯事だったようだ。
「……まあ、それなら良いけどよ。使い魔契約って事は、石の記憶を直で聞こうってことなんだな」
「仮だからすぐに解約できるし、情報源としては最上級だと思う」
それじゃあ、始めようかな。
感想を書いてくれた方に、この場を借りて深くお礼と謝罪を致します。
書いてくださった感想等はすべて目を通しておりますが、返信ができずに申し訳ありませんでした。
手厳しい意見もありましたが、すべて作品の糧となるものであり、ありがたいと感じられるものです。
引き続き、誤字、脱字、指摘、感想お待ちしております。
質問のあった透過の術(6話)について。
無意識下で行っている術のため、寝ていても発動しています。
専用寝台は、神人の本能によって、これがなんとなくいいというだけであって、普通の寝台でも寝れます。羽があって云々というのは、ビリノアの勘違いに起因するものです。