第20話 鍛冶師としての腕(2)
今回は主人公でなく、別の人の視点から書いてみました。
白銀騎士団へ入団が決まった時、私は思わず小躍りしながら部屋の中をぐるぐる回ってしまった物である。
祖父母と一緒に暮らしていた時、寝物語として何度も騎士であるおじいさまと冒険者であったおばあさま、二人の馴れ初めなどの話を聞くうちに、いつしか私も二人のような出会いがしたいと思うようになっていった。
それにはどうすれば良いのか?
おばあさまみたいに冒険者になればいいのか?
実を言うとそれは無理なのだ。曲がりなりにもラインダム家は男爵家。その娘である自分が冒険者をやることは、問題がありすぎる。
それならもう一つの方、おじいさまのように騎士になればいい。そう思って、おじいさまに教えを乞うたのです。
始めは不純な動機でしたが、剣を習ったり、馬術を習ったりするのは案外楽しく、当初の目的を忘れて真剣に騎士を目指すようになっていった。
まじめに騎士を目指すこと数年、おじいさまからのお墨付きをもらい、騎士団の入団試験を受けて、見事一発で騎士団入りを果たしたのです。
白銀(女性騎士のみで構成された騎士団。主な任務は、王妃、王太子妃、王女の護衛)より、黒曜(男女身分関係なく、実力で選ばれたエリート部隊。おじいさまもここに在籍していた)が良かったなと思っていると、おじいさまから連絡があった。
入団祝いに、剣をプレゼントしてくれるというのだ。
鍛冶師に頼むため、こちらに来られないかとのことなので、すぐに行くと伝えた。久しぶりに剣の修業を着けてもらおうかな。
鍛冶師との打ち合わせの日、―前の日に届いたばかりの騎士服を着て鏡の前でポーズをとっていて遅れたのは、ここだけの話―応接室のドアの前に立つと、中から声が聞こえてきた。
『まあ、あなたったら』
『ふっ、お前こそ』
うあ、始まってる。
祖父母は、鮮烈な出会いをして、お互いの恋心が燃え上がったのだ。本来そう言うものは、冷めやすいと言われているのだが、あの二人は、今でも熱烈に愛し合っており、人がいようがいまいが関係なくいちゃいちゃするのだ。
祖父母を尊敬しているが、そこだけはどうしても好きになれない。
「はあ~」
躊躇してもしょうがない、ため息をつきながらドアをノックして開ける。
「おお、来たか」
おじいさまの声とともに、こちらに背を向けて座っていた人が、立ってこちらを向いた。
第一印象は、小さい女の子だった。
私の背は高い方だが、その子の身長は、私の胸くらいまでしかない。
鍛冶師の方がこられたと聞いていて、なおかつ応接室で、祖父母が対応しているということは、この子が鍛冶師なのだろう。
鍛冶師とは、がっちりした男の人と想像していたので、だいぶ違ったがとりあえず挨拶をしなければ。
「貴女が、私の剣を作ってくれる鍛冶師さんね。初めまして、クリスティーナ・ラインダムと申します」
「……初めまして、ビリノア・バクスターです」
まじまじとこちらの顔を見ながら、挨拶を返してくる。
何か顔についているのか?
「すみません。騎士団に入団したということと、お孫さんと言うことだけしか聞いていなかったので、てっきり男の方かと……」
ああ、私と同じ勘違いをしていたというわけだ。
「ふむ、ならお互い様だな。私も鍛冶師と聞いただけだったから、男の人を想像していたぞ」
「お互い様ですか」
「ああ」
顔を見合わせ、二人で笑い合う。
「自己紹介は済んだか? 本題に入りたいのだが」
おじいさまの言葉に、そうだったなと思いだし席に着く。
ビリノアちゃん(小さい子だし、何となくちゃん付けが似合っているからいいだろう)も、座っていた席に着いた。
「これが見本になります」
テーブルに、布に包まれたものが置かれる。
布を開けてみると、中に一本の剣があった。
「抜いてみてもいいか?」
「どうぞ、その為の見本ですから」
さやから抜いてみると、まだ新しいのか銀色に輝く刀身が出てきた。
「……」
とりあえず構えてみる。
「……普通だな」
良くもなく悪くもない、ごくごく普通の剣。それが構えた結果、私の出した結論だった。
「ふむ、まだ解らんか……」
は?
おじいさまが、よくわからないことを言う。
「そうね。クーちゃんは、まだそこまで至っていないってことかしら」
おばあさままで。
「貸しなさい」
おじいさまがそう言って、私の手から剣を取っていく。
「……良い剣だ。エルグが薦めるだけはある」
「そうね」
「おじいさま、おばあさま、どういうことですか?」
普通の剣のはずなのだが……
「ああ、普通だ。基本に完全に沿った普通の剣だ」
「ええ、基本をしっかりと守って作られた普通の剣ね」
そう、基本にきっちり沿った……きっちり沿った?
「気付いたようね。鍛鉄製の剣で、ここまできっちり基本に沿えるなんて、もの凄いことなのよ」
「ノーマルな剣は、鍛冶師の腕を如実に表すからな」
ほんとに腕が良いんだ。こんなに小さいのに……
「なんか、不愉快なこと考えてません?」
「か、考えてないよ」
「……良いでしょう。今回決めるのは、剣の形状と材質です。何か要望はありますか?」
突っ込まれなくて良かった。
それにしても、剣の形状と材質か……
「どんなものでもいいのか?」
「出来る範囲であれば」
ふむ、それならば……
「形状は、見本通りで。材質は、神鉄で」
「分かった。それじゃあ、重心と剣の長さを……」
「「「待て!」」」
三人が同時にとめる。
ちょ、なんで、承知するの?
形状はともかく、材質については冗談のつもりだったのに。
「? 値段はお安くするぞ」
「試しに聞くけど、いくら?」
「ほんの金貨150枚くらいだ」
最も安くてな、と続けるビリノアちゃん。
ほんのじゃない! 高い! もうプレゼントの値段じゃない!
「鉄か、二種合金で良いよ」
「ふむ、妥当な線だな」
おじいさまも、賛成してくれる。神鉄製の武器の値段を聞いたからであろう。
「妥当なところですね。じゃあ、今回は二種合金の黒赤鋼を使います」
「黒剣を作ってくれるの? ほんとに?」
「はい。本当ですよ」
黒赤鋼から作られる黒剣は、折れず曲がらずと言われ、きちんと手入れすれば20年30年持つと言われているものである。
二種合金製の武器の中では高めのもので、新人からしたらあこがれの武器の一つである。
「お願いします」
思いっきり頭を下げる。
「分かりました。それでは、剣の大きさとかを決めましょうか」
その後、見本の剣を片手に庭に出て、剣の長さや重さ、そして重心の位置や、グリップの太さなど細々としたことを計り、紙に書き込んで(私には読めない文字があった)いった。
計測が終わった後、応接室に戻っておじいさまとの値段交渉に入ったのだが、実にあっけなく終わった。
「鉱石代込みで、銀貨25枚と言ったところです」
「相場より安いな」
「生産者から直接ですからね。あと、基本形なので、余計な加工代と言うのが発生しないといった理由もあります」
「納得できるな。手付金として、銀貨5枚払おう。残りは完成してからと言うことで良いかな」
「結構です。それでは、契約書にサインを」
レムリアさまの名のもとに誓う、神殿発行の契約書を出してきた。
「良かろう」
書類に不備はないか良く確認して、おじいさまとビリノアちゃんがサインをして、拇印を押す。
「契約成立です」
「どれくらいで出来るの?」
「一週間ぐらいでしょうか。出来れば工房の方に来てほしいのですが」
「なにが起ろうが必ず行く。だから――」
「ちゃんと作っておきますよ」
そう言って、手付金をもらったビリノアちゃんは帰って行った。
「おじいさま、ありがとうございます」
騎士団に入るまでにはまだ間があるので、剣の完成までおじいさまの所に泊っていくことにした。
「可愛い孫娘の為だ。どうってことないぞ」
「それでも、ありがとうございます」
おじいさまをマッサージしながら、お礼を言う。
一週間後、私の剣が出来る。
「本当に、楽しみだ」
誤字、脱字、指摘、感想お待ちしています。