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第18話 錬金術師としての腕(3)

暑いと集中力が落ちます。

 反応があったのは、次の日だった。

「バクスターさん、お客さんですよ」

 少し遅めの朝食を取っているときに、宿の女将さんが僕に来客を告げる。

 後ろを振り向くと、昨日連絡先を渡した男性と、その周りにいた三人であった。

「ん? 反応早いですね」

 早くても、二三日後だと思っていたが……

「ああ、スパルクの奴は、王都に行ったからな」

 神鉄でも売りに行ったのか? そう思ったが、その予想は外れていた。

「あの神鉄を使って、本家の方に戻ると言っていたな」

「は?」

 どうやら、スパルクがここに来たのは、実戦経験を積む為だったらしい。

 腕は悪くないが、実戦経験のない三男坊のことを心配したラカトリアーヌ家当主が、実戦の場としてここ、県都ブリジットを選んだということだ。

「そして、王都に戻るための条件として、五年間お抱えをするか、ある一定以上の品質の物を作るという物が出されていたらしい」

「……あいつはバカか?」

 思わずそう言ってしまう。

 他人が作ったもので王都に帰っても意味がないだろ。

 しかも、自分が作れない品質の物を持っていても、自分の首を絞めるだけだというのに、それを解っていないのだろうか。

「だと思う。俺達の他の弟子たちを引き連れて、屋敷等を処分してさっさと出て行ってしまったからな」

 想像以上の頭の悪さ加減に、呆れてものが言えん。

「まあ、馬鹿のことはほっといて、なにをしにここに?」

 そんなことがあったのなら、悠長に質問をしに来る暇などないだろう。

「職を失った状態だろ?」

「その辺は、問題ない」

 そう言って進み出てきたのは、四人の中で一番年が若そうな男だ。

「親父に紹介状を書いてもらった。これさえあれば、どこにでも就職可能だ」

 何それ?

「ん? ああそうか、知らないのか。こいつの名前は、ネマコル・ブリジット。ここの領主の三男坊だ」

 四人の中のリーダーなのだろう、一番年嵩な男―バルスと名のった―が、ネマコルの肩に手を置きながらそう言った。

 おお、権力者の特権と言うやつか?

「本来なら使いたくなかったんだがな……まあ今回の場合はしょうがないだろう」

 あまりいい顔をしていないところから、実家の力を使うことにあまりいい印象を抱いていないようだ。

「スパルクを見ているとな……」

「うん、激しく同意しよう」

 実家の力を、自分の力と思っているやつの元にいたんだ、その辺は嫌でもわかるのだろう。

「話がずれたな。で、僕に質問に来たということで良い?」

 そう切り出すと、四人が肯定の意を示したので、亭主に許可を取りテーブルを一脚借りきった。

「なにが訊きたい?」

 まあ、大体わかっているけどね。

「まずは、どこでその錬金の腕を手に入れたかだな」

 代表して、バルスが質問をしてくる。

 予想通りの質問が来た。

「ドワーフの師匠の所だな。四歳のころから出入りしていたから、十年になるかな」

「へー、師匠の名前は?」

「言わない。言うなと厳命されてるから」

 経歴は嘘だが、こういうことはよくあるらしい。

 ドワーフは地の民であり、工夫、鍛冶師がほとんどである。金属の精錬はやるが、化合などを行わない。理由として、地の恵みである鉱石に人為的に変質させるのは好ましくないという考えがあるからだという。

加工を主とする錬金術を認めてはおり、その力を使うことを嫌っているわけではない。

 現に、ドワーフの錬金術師は何人も存在するし、加工された金属でドワーフが武器を作るといったことも頻繁に行われている。

 金属の性質を知り尽くしているドワーフは、良い錬金術師になれるが、そのほとんどがドワーフ集落を出て活動している。しかも大半が名を残すことを、不名誉と思っている節があり、めったに世に出てこない。

 技術を残すために弟子をとることもあるが、自分の名前を出さないように言い含めることがほとんどだという。

「へー……って、お前十四歳なのか!」

 眼鏡をかけた、インテリ風の男―名前はカイル―が驚いたように訊いてくる。

「……何歳だと思っていたんだ?」

「神人は、若く見えると聞いていたので、三十に近いくらいかと……」

 とりあえずムカついたので、カイルを殴っておく。

「他に聞きたいことは?」

 軽くたたいただけに見えたのに、ピクリとも動かないカイルを見つめる三人に話を振る。

「う、えっと、はい。あの、先日に見た神鉄の精製についてなんですけど」

 特に特徴のない、モブキャラを体現したような男―ジャクス―が質問してきた。こう見えても、4人の中では一番の腕だという。

「なんというか、精錬し始めた時、ちょっと違和感があったんですが、何でですか?」

「ん、気付いたのか」

 精錬を始めた時、多少戸惑ったことに気付いていたらしい。あくまで多少で、精錬に影響はほとんどなかったのだが、それに気付くとはなかなかやるな。モブのくせに。

「何か、失礼なことを考えてません?」

「いや、その違和感の理由は簡単だ。使い慣れた道具じゃなかったから、少し戸惑っただけだ」

 急にやることになったので道具を借りたのだが、酷いものだった。

 スパルクが使っているという物を借りたのだが、こちらに来てからあつらえたと言う道具は、あまり使った形跡はなく新品同様だった。その為か、整備がほとんどされておらず、高価な良いものだが使いづらいことこの上なかった。

 あれが手になじむものだったら、最高品質の物が作れただろう。

「やっぱり違うものですか?」

「ああ、違う。『名人は道具を選ばない』と言うが、それは間違っているな」

 その道を極めた人ほど、道具にこだわる傾向にある。

「使い慣れた物と使い慣れない物、作業効率から言って、どちらが上かは素人でもわかることだ」

 いまだ動かないカイルを除く全員が、理解した表情になる。

 経験があるからだろう。

「他には?」

「次は……」

 その後は、錬金術に関する質問をしてきた。

 出来るだけ答えたが、答えられない物もあった。

オリジナルレシピをさらす、馬鹿がどこにいる。

 訊いてきた馬鹿(カイル)には拳をくれてやった。

「次、馬鹿な事を訊いてきたら、そぎ落とすからな」

「「「「イエス、マム」」」」

 四人が声をそろえて答える。

 言ってみて何だが、本当にこのセリフって効果があるんだな……まあ、解らないでもないが。


 昼食をはさんで長々と話していたが、太陽が傾き始めた。あまり長い間、テーブルを占拠していたため、おかみさんの目が怖くなってきた。

「そろそろいい時間だから、終わりにしたいのだが……」

 そう切り出すと、四人は周りを見回し、時間を確認する。

「そうだな、そろそろ終わりにしよう」

 バルスとカイルとジャクスは立ち上がったが、ネマコルは座ったままだった。

「? どうした?」

「言うか、言うまいか迷ったけど、言うことにする。親父からの伝言だ『お抱えの錬金術師にならないか』だそうだ」

 なんと?

「『年は若いらしいが、神鉄を精錬できるのなら、腕は前任者(スパルク)以上だろう。歓迎するぞ』だそうだ」

 良い話なんだろう、他の三人の驚きの中にある、うらやましそうな表情からも分かる。

 ふむ、やはりここは……

「良い話だと思う、だが、断る」

 いろんな用意を、もうしちゃっているしね。

「この街で、工房を開く予定だ。したがって、受けるわけにはいかない。依頼を優先的に受けるから、お抱えの話はなかったことにしてほしいと伝えてくれるかな」

 僕がそう言うと、ネマコルは「わかった」と短く呟き、驚愕の表情を浮かべている三人を引き連れて帰って行った。

 お抱えなんて忙しそうなポジションはごめんだ。

 ゆっくり、まったり過ごしていくのが理想なのだから。


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