第16話 錬金術師としての腕(1)
ギリギリで完成
ハジメマシテorオヒサシブリデス、ビリノアデス。
……普通の口調に戻ります。
今現在、僕がどこにいるかと言うと……
「ほれ、さっさと作ってみろ」
とある錬金工房で、人を馬鹿にしたような笑い顔の人たちに囲まれ、錬金炉の前に立っているところだ。
どうしてこうなったのかは、数時間前にさかのぼる。
無事に契約を終えた僕は、その足で改装業者の所に向かった。
そこでの話は割愛するが、改装に関してはふたつ返事だった。
なんでも、久々の大型改装依頼だったらしく、必要以上に張り切っていた。最高の仕事をしてやるぜ、と良い笑顔で歯を光らせる親方(46歳・既婚・孫あり)に、少し引いてしまったが、正式に契約を交わした。
後日、詳細は詰めるということにして、次に向かったのは道具屋、鍛冶や錬金の道具を専門に扱っているところだ。
「鍛冶用と錬金用の炉を一つずつ? 嬢ちゃん本気か?」
「もちろん」
実は、このやりとり3回目である。すなわち、この店の前で3軒目と言うことだ。
商工ギルドに紹介された何軒かのうち、大きめの所3軒をピックアップしたのだが、前の2店舗は、このやりとりの後、商売の邪魔になるから子供は帰れと、けんもほろろに追い出された。
さてこの店はどうだろう。
「誰かに頼まれたのか?」
「いえ、自分で使う物ですが。こう見えても、鍛冶師兼錬金術師ですから」
僕の言葉に、店主が目をむく。
「……ほんとか? 嬢ちゃん」
「ほんとです」
そう言った僕の目をじっと見る店主。
「ふん、嘘はついていないようだな」
そう言って、何枚かの紙を取り出す。
「さてと、炉が欲しいんだったな。いくつかタイプがあるが、どれだ?」
どうやら、客として扱ってくれるらしい。よし、ここで買おう。
「両方とも設置式の炉を、大きさは……まだ、部屋が出来てないから……」
改装の打ち合わせの時に来てくれるように頼み、その時にいろいろ話し合って決めることにした。
「この街の、鍛冶師と錬金術師の顔役って誰ですか」
話がまとまった後、ふと思い出し店主に聞いてみた。
本来ならば、商工ギルドで聞くべきだったのだが、すっかり忘れていた。それならば、そういうことに詳しそうな、道具屋の店主に聞こうと思い、聞いてみた。
「顔役? 鍛冶師では、エルグだな。ドワーフ族の面倒見のいい男だ。領主お抱えの奴もいるが、そいつの師匠だから、エルグの方が顔役と言っていいだろう。錬金術師では、スパルクだな。領主お抱えでもあるし、古くから王国に仕えてきた錬金術師の一族だからな」
鍛冶屋はともかく、錬金術師の方は少しまずいな。
お抱えだとか、錬金一族だとかいうやつは、非常にプライドが高い奴が多い。ましてやその両方だ。非常に、プライドが高いと予想される。
「あいさつ回りか? 行っといた方がいいぞ。エルグはともかく、スパルクは嫌がらせをしてくるぞ」
権力を持たせると、まずいタイプの奴だからな、と続ける店主の言葉を聞き、元々低かった行く気が、さらに低くなった。
しかし、行かないわけにはいかなくなった。権力を持つ愚か者は、なにをやってくるか分からんからな、一応挨拶はして、後は係わらないそれが一番だろう。
「悪趣味だな……」
領主の館に近い高級住宅街の一等地に、その建物はあった。
周りの落ち着いた景観をぶち壊すような、派手な建物。本当に、錬金術師の工房なのだろうかと疑いたくなる外観だ。
さっき訪れた鍛冶師エルグの工房の、本当に腕の立つ職人の工房と言うオーラに満ちあふれた場所とはあまりに違う様子に、ここの住民の技術レベルが低いと判断してしまいそうだ。
「実際、低いのかもしれんな……」
道具屋の店主や、エルグの工房にいた人たちの噂話から推測するとそうなる。
曰く、基本調合の腕はそこそこ。オリジナルレシピを沢山持っていると主張しているが、そのほとんどが他の錬金術師から取り上げたものである。錬金一族である、ラカトリアーヌ家の本家の三男坊で甘やかされて育ち、金と権力のある家だったため、その二つを使うことに何らためらいはない等々。
話半分に聞いたとしても、かなり評価は低い。
錬金術師の腕前よりも、政治力で今の地位についたといった感じを、ひしひしと受ける。
だが、皆口をそろえて言うことは『あいさつに行かなければ、何らかの嫌がらせを行ってくる』だそうだ。
「一応手土産も用意したし、覚悟を決めて行くとするかな」
声に出して決心を確認し、門の所まで歩いて行った。
「ほう、貴女のようなお嬢さんが錬金術師ねえ~」
テーブルをはさんで、向かい合って座っている男がそう言う。
青年と言える年ごろなのが、少々低めの身長と肥った体つきの為、もう中年に達したように見える。
この男こそが、この悪趣味な館兼工房の主人であるスパルクその人である。
値踏みするような視線の中に、何となく嫌な視線が混じっている。
居心地の悪いことこの上ない。
「で、錬金工房を開くというわけだな」
「はい。まだ、先の話ですが、ご挨拶だけでもと思いまして……」
そう言いつつ、ポーチの中からさりげなくソフトボール大の石を出し、テーブルの上に置いた。
「んっ! こ、これは!」
評判が悪くても一応錬金術師。これのことが一発で分かったようだ。
「お判りですか、『神鉄鉱石』です」
この世界で一番の金属はと訊かれると、全員が口をそろえて言うのが、『神鉄』である。
この金属は硬く加工は難しいが、武器や防具に加工すればすばらしいものになる。神鉄製の武器を防げるのは神鉄製の防具のみと言われているのである。
神鉄を手に入れる方法はふたつあるが、確率が高いと言われるのが神鉄鉱石から精製する方法であると言われている。
神鉄鉱石は、ごく稀に鉱山から発見される。鉱脈といった物はなく、鉄鉱石の中に交じっていたと思えば、晶石の中に在るなど、発見される場所はさまざまである。また、発見されたとしても、その量はごくわずかである。その為、神鉄はもちろん、神鉄鉱石もかなりの高値で取引されている。
「こちらを差し上げます」
「な、何だと……!」
この大きさなら、そのまま売っても一生遊んで暮らせる程の額になるだろう。それをただでやろうというのだ。悪い話ではあるまい。
「それでは、これで……」
「待ちたまえ」
退出しようとすると、呼び止められる。
「何か?」
「これをどこで手に入れた」
やはり気になるか。
本来少量しか取れない神鉄鉱石が、この大きさだからな。
「師匠から譲り受けたものです。どこで取れた物かは、知りません」
ほんとのことは言えないので、適当に嘘をつく。
「ふん、まあ良い。お前、錬金術師のはずだな。なぜ、自分で精錬しない」
「必要ないからです」
そう、僕は、もう一つのやり方が出来るから、鉱石の精製をしなくても神鉄を手に入れることが出来るのだ。
その『必要ない』を、スパルクは別の意味でとらえたようだ。
「自分で扱えないというものは必要ないということか、錬金術師の腕の程度が知れるというところだな」
あ、ちょっと、カチンときた。
確かに、チートで貰った能力だが、ゲームで手に入れるのには、だいぶ頭を使って考え抜いて手に入れたものだ。馬鹿にされて少し頭にきた。
「出来ないのじゃなく、やらなくてもいいという意味で、必要ないです。少なくとも出来ない貴方より腕は良いです」
「な、なにを言う!」
妙にあわてて否定してくるスパルクの様子を見て、あの噂は本当だったようだと思った。
曰く、調合や精製は基本しか出来ない、と。
その後、売り言葉に買い言葉になり、冒頭の状況に追い込まれるのである。
自業自得と言えるかもしれない。
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