第15話 一国一城の主へ(3)
忙しすぎて、なかなか書けない……
物件見学ツアーの後、僕と『悠久』のメンバーは執事(?)さんと別れて宿屋に戻った。
宿に入り、メンバーと別れて一人部屋の中でくつろいでいると、ノックの音とともにアルベルトさんの声が聞こえてきた。
「ちょっと良いか?」
「んあ、良いですよ~」
扉を開けると、そこにはメンバー全員がそろって立っていた。
「どうしたんです? お揃いで」
「ちょっと話があってな」
ん~? なんだろう?
「工房兼店についてなんだが……」
「ん? あそこ気に入らなかった?」
自分としては、かなり気に入ったので、借りて改装しようと思っていたんだが……
「いや、俺たちも気にいってるぜ」
アレスの言葉に、さらに首をかしげる。
「簡単に言うぞ。俺たちもあそこが気に入ったから、買い取りを頼みたいんだ。もちろん、全額とは言えないが、金も出す」
金を出すとまで言うことは、相当気に入ったようだ。借りるだけのつもりだったが、買い取りをしようかな。
「あそこ、どれくらいの金額か解っている?」
「そうですね、月に銀貨6枚、買い取りは金貨20と言ったところじゃないでしょうか?」
「月に銀貨4枚、買い取りは金貨12」
「思ったより安いですね……」
郊外であるということと、ここでの酒場兼宿屋としての実入りが期待されない、というのが安い理由だ。
以前、一家四人が銀貨2枚で一ヶ月暮らせるという説明をしたが、これは正確ではない。最低限の食費としてこれぐらいであるというものだ。
国に納める税金や、持ち家でないなら家賃などの様々な出費があるために、最低限月に銀貨20枚は稼がないと、暮らしがかなりきついものになる。
この基準は、飲食店にはかなりきついものだ。中心部に店を構えている所でも、よほどの人気店でもない限り、ぎりぎりのところと言ったところであり、ましてや郊外では非常にきついであろう。
また、店舗の改装にはお金がかかる。商工ギルドでいくつかの例を聞いてきたが、そのほとんどが簡単な改装で、僕が望むような改装ではなかった。それでも結構な値段がしているので、望み通りの改装をしたらかなりの金額になるだろう。
「? どういう風の吹きまわし?」
「はっきり言えば、この街を拠点とすることを決めたってことだな」
やはり判らない。
「建物借りたら拠点として提供するというのは、保証人をしてもらう約束だったはず……」
「この街での拠点としてだ」
「だったら、お金を払わなくても……」
「聞いてなかったの? この街のじゃなくて、この街を、って言ったの」
そういうことか。
「ここを、本格的な活動拠点にするって事?」
「ああ、今まで、適当に街や国を渡り歩いていたが、そろそろ地に足を着けてやろうと思っていたんだ」
「渡りに舟ってやつね」
僕の問いに、アレスとサラが答える。
ふむ、そうなると、本格的に住むところにしたいということだな。
「まあ、良いですよ。お金の方は、そう多く出さなくてもいいですよ」
「いえ、そういうわけには……」
ダイさんが、申し訳ないという感じで言うのをさえぎって、言葉を続ける。
「定期的に、鉱石採集の依頼を格安で受けてくれれば良いです」
「そういうことなら、了解した」
アルベルトさんの返事を聞き、具体的な話に移って行った。
次の日――
「では、買い取りでよろしいですね」
「はい」
「お支払いは、どうなさいますか?」
「はい」
金貨で12枚が入った袋を、無造作にテーブルの上に置く。
話し合いの末、僕が金貨8、向こうが4だすことになった。改装代は、一階部分と地下室、二階の居住スペース分を僕が、二階の宿屋部分を向こうが出すことになっている。
「……確認しました。書類をお持ちしますので、少々お待ちください」
ちなみに、商工ギルドには登録済み。職種は、鍛冶師兼錬金術師。
「こちらになります。ご確認のうえ間違えなければ、こちらに署名をお願いします」
十数枚の書類を渡される。
チート能力の為、文字は簡単に読めるし、転生前に習得していた速読のおかげで、アッという間に読み終える。
「? 土地に関する書類がない」
「何か不備でも?」
「いえ、あの建物が建っている土地の所有権って……」
「基本的に、土地の所有権は国ですが」
なにを当たり前のことを、といった表情でおねーさん(昨日と同じ人だった)が見てくる。
どうやら、税金は土地の使用料といった形で取っているようだ。その土地を使いどのくらい儲けているかということを調べ、それをもとに税金を決めるといった形らしい。
「どうやって調べてるの……」
「神の御技です」
「えっと……」
「神の御技です」
要するに、気にするなってことだろう。
「……それでですね、良い改装業者の紹介と、鍛冶、錬金関係の道具などを売っているところの紹介をお願いしたいのですけど」
「改装業者については、専属の所へ紹介状を出します。後者の方は、いくつかあるので、地図をお渡しします」
特に問題がなかったため、署名を済ませて地図と紹介状をもらう。
「確認しました。手続きがありますので、受け渡しは五日後となります」
「解りました。連絡は、『迷風亭』でお願いします」
「かしこまりました」
用件を終えて外に出ようとすると、雨が降っていた。
にわか雨といった様子ではなく、しばらく降り続きそうな勢いである。
「どうしよう、雨具を持っていないぞ」
と言うか、この世界に雨具って何があるのだろう?
そう思って、周りを観察していると、ほとんどの人が何か布を頭からかぶっている。
? 鑑定モード開始。
『名前:防水加工布 レア度:0 備考:なるべく細かく編んだ布に、ロウを塗り込んだ物』
雨合羽の簡易版と言ったところか。となると、傘的な物があるかもしれんな。
「……そうだ」
ふと、頭に浮かんだ物があり、ポーチの中を探る。
すぐに目当ての物を発見、取り出す。
「レムリアの傘~(祝福付き)」
某青猫のまねをしながら取り出したのは、一本の赤い傘だ。
ゲーム内アイテムで、イベントをクリアすれば手に入る特殊武器である。
そう、武器なのである。
攻撃力はそう高くはないむしろ低い方だが、特典として、HP・TPの回復5%増、特殊スキル『空中浮遊』の習得があった。
その名の通り、空中に浮くだけのスキルで、自由に動けるのだが、移動速度は歩くのの二分の一と言うものである。
それでも需要はかなりあり、パーティー全員が装備して、目的地までふよふよと飛んでいく姿は、非常に笑えたものである。
……どうでもいいことだった。
とりあえず、今回は傘としての機能を使うだけだ。
広げると赤い布地に、白いレムリアの姿が描かれている。ゲーム内で見たものと全く同じだ。これで雨にぬれずに済むだろう。
「さてと、まずは改装業者。それから道具屋に行って、鍛冶師、錬金術師へあいさつ回りに行こうかな」
今後の予定を立てて、雨の中歩きだした。
閑話休題
ちなみに、傘の特典の、回復5%は付いていなかったが、空中浮遊は付いていた。
後日、ためしに飛んでいた所、スカートだったため悠久の男性陣に中身をバッチリ見られた。
無論、サラと二人で記憶がなくなるまでのO☆SHI☆O☆KIを決行した。
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