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第14話 一国一城の主へ(2)

いまだ調子が上がらず……

「ご用件をどうぞ」

 にこやかに尋ねてくる、メイドのおねーさん。

「えーっと、店舗を借りたいと思ってきたんですが……」

「身分証の提示をお願いします」

 身分証明としてはこれしかない、冒険者カードを提示する。

「ビリノア・バクスターさん、確認しました。新規の方ですね。店舗は借りるには、保証人が必要なのですが……」

「これを」

 アレスに書いてもらった、保証人証明書を差し出す。

「……確認しました。店舗を借りたいとのことですが、どのような物がよろしいのでしょうか」

「鍛冶・錬金工房と、簡単な店機能。住居付きで。あと、保証人が拠点として使いたいとのことなので、そこそこの大きさが必要なんですが」

「うーん、鍛冶のみ、錬金のみで大きめの所なら空いているところはあるのですが、同時にと言うところはないですね」

 やはり、そんな都合のいい物件はないのか。

 ちなみに、鍛冶と錬金は全く別物であり、炉や道具など全然違う物を使うのだ。

 一部を除き、道具の使い回しが出来ないし、炉を二つ入れるとなると、スペースは取るし、熱は倍どころか、二乗になる。別々の部屋にしておいた方が効率的なのである。

「方法がないわけではありませんよ」

 考えこんでいる僕に、メイドさんがいくつかの提案をしてくれた。

「まず、鍛冶工房と、錬金工房の二つを借りるという方法です」

「? 一人で、二店舗って借りれるの?」

「可能です。ただし、二店舗を持つとなると、二店舗分の料金が発生します」

 ついでに、工房同士が近くないといけないのだが、隣り合っているどころか、近くというところもないらしい。

「ダメじゃないですか……」

「どちらか片方だけ借りて、増設するという方法がありますよ」

「二部屋になるだけの広さがない」

 大きめの物件の間取りを、空間投影術で投影してもらって見ているのだが、どれも部屋を区切り、炉を置くと、作業場が狭くなるのだ。

「それならば、大きな物件を借りて、工房に改造してしまうというのはどうでしょう」

 え? そんなことして大丈夫なの?

「問題ありません。前例もありますし」

「前例?」

「はい。最近ですと、倉庫を借りて、そこをレストランに改装した方がいらっしゃいます」

「そうなんだ……」

「なんに使うかを明確に申請していただければ、どうするのも自由です。ただ、改装代等はそちらの負担になりますし、改装後の建物に対する苦情は一切受け付けません」

 これは当たり前か。元々その用途で作られたものではないのだから、何らかの問題が出てくるのは当然だろう。そのことで文句を言われても、改装したのはそちらなのだから、そちらに責任があり、うちでは対応できないということか。

「それじゃあ、何かお勧めの物件ってあります?」

「そうですね……こちらなんてどうでしょう」

 そう言って見せてくれた間取りは、一階部分は広い一部屋と台所、二階部分は広い部屋から階段で上がったところにある十二の小部屋に分かれているところと、台所の奥から行ける少し広い部屋と二つの小部屋からなっていた。後、食糧庫として使っていたのか、広めの地下室まであった。

「これ、元酒場兼宿屋ですか?」

「はい、少し郊外にあったため、あまり実入りが良くなくつぶれたところです」

「そうですか……」

 広さ的には問題ない。どころか広すぎるくらいか。酒場スペースを二部屋に分ければ、十分な工房スペースになる。

 二階の小部屋が多いというのもいい。『悠久』のメンバーが寝泊まりしても部屋が余る。台所や、居間を改装で作ってもいいだろう。

 さらに地下室があるというのもいい。鉱石や原石、作ったもの等も置くことが出来るスペースとなるだろう。出来るなら拡張したいところだ。

 郊外とのことなので、市や、ギルドからは少し離れているが、些細な問題だろう。

「料金はどのくらいになりますか?」

「毎月、銀貨4枚ですね」

 思ったより安い。

「郊外ですから、中心部よりはお安くなっていますよ。あと、買い取りたいというのであれば、金貨12枚です」

「むう……」


 とりあえず、返事は保留した。

 実際に見てみないと、決めかねると言ったら、どうぞ見に行ってくださいと言い、案内まで付けられた。

「見に行く前に、寄りたいところがあるんですけど」

「かしこまりました」

 何故か、執事の格好をした男ですよ。カイゼル髭がダンディーさを引き立てている、ナイスミドルさんです。

 とりあえず、お世話になる宿へ行く。

 『悠久』の御用達の宿だそうで、僕の分の部屋も取ってくれるそうなので、宿の位置確認と、メンバーがいたら、物件見学に付き合ってもらおう。


「ほう、ここが候補の所か……」

「その通りでございます」

「へえ~まだ結構きれいじゃない」

「築10年でございまして、酒場として営業していたのは、2年半程でございます。その後は、私どもが定期的に管理しております」

「へー、って、ここ庭付きなのか?」

「はい。郊外という条件もございまして、少々広めの庭がございます。井戸もありますので、水は使いたい放題でございます」

「井戸があるというのは、評価が高いですね」

「うふふ~、お風呂♪ お風呂♪」

「もちろんございますよ。薪で焚くタイプのものでございますが」

「おし、じゃあ中を見に行くぞ」

「「「おー」」」

「かしこまりました」

「ふう~」

 テンションの高いメンバーたちを横目に、僕は深くため息をつく。

 宿に行き、ちょうど全員居たメンバーに声をかけたところ、全員二つ返事でついてきたのだ。

 来る途中からテンションが高かったが、ここにきて最高潮になったのか、やたらとノリノリである。

 僕が借りるのであって、君たちが借りるわけじゃないんだが、と言う突っ込みは完全に無視される勢いである。

「おい、ビリノア。早くしろ」

 いつの間にか、入口にいるアレスたちが急かしてくる。

「……いや、借りるのは僕なんですがね……」

 予想通り突っ込みは、むなしく空中に消えていった。


「……」

「……」

「……」

「……なにもない……」

 ガランとした建物内の様子に、四人のテンション駄々下がりである。

「当たり前だろう」

「左様にございます。管理にもお金はかかりますゆえに、家具等を処分することは当たり前かと」

 店の設備が残っていることの方が珍しいのだ。

「安く物をそろえることが出来るところは、紹介してくれるけど……」

「設備自体は、自分たちで用意していただくことになっております」

「うわぁ」

 今更になって、設備投資に莫大なお金がかかることに気付いたのだろう、メンバーの顔色が変わる。

 そんな4人を放っておいて、確認したかったことを執事(?)さんに聞く。

「地下室あったよね」

「ございます」

「広さは?」

「さほど広くは……見ていただいた方が賢明かと」

 案内してもらう。

 元キッチンだった所の奥から入った地下室は、畳六畳分くらいの広さの部屋だった。

「鉱石等を置くには、少し狭いな……広げることって出来ます?」

「敷地内でしたら可能でございます。固形化の魔法をかけることが前提になりますが」

 ふむ、問題ないな。多分自分で出来るだろう。出来なかったら、ダイさんに頼むという方法もある。

「それでは、全体を見て回りましょうか」

 執事(?)さんの案内で、復活した四人を連れ、建物内を見て回る。

「ねえ」

「?」

 その途中で、サラが話しかけてきた。

「なんか、ものすごくお金が掛かりそうだけど、大丈夫?」

「ふ、問題ない」

「どっから出したのよ……」

 サングラスと白手袋を装備し答えると、サラから疲れたような突っ込みが入る。

 むう、解らんか。やはりデスクの上で手を組み、口元を隠さないと無理があるか?

「んなことどうでもいいわよ。で? 本当に大丈夫なの?」

「本当に問題ないぞ」

 お金は、カンストしているからな。全部使えば、世界恐慌が起こるだろう。


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