第13話 一国一城の主へ(1)
スランプ中です。
「いらっしゃいませ。ようこそ商工ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
しばらく待たされた後、通されたカウンターで待っていたのはメイド服のお姉さんでした。
「商売がしたいのですか?」
本当に何事もなく県都ブリジットに着き、アラドさんから報酬を受け取る時に相談してみたのだ『何処かに空き店舗はないか?』と。
「いえ、商売じゃなくて、本業の方をやろうと思いまして……」
「本業……ですか?」
「ええ、一応本業は、鍛冶師兼錬金術師ですから」
「え?」
アラドさんと一緒についてきた『悠久』のメンバーは、始め驚いたような声を上げたが、すぐに二通りの表情に分かれる。なにを言っているんだという表情と、なんとなく可愛い物を見ている微笑ましい表情に。
解っていたことだが、失礼な反応が返ってきた。
鍛冶師と錬金術師を両方職業としている物はそこそこいるが、そのほとんどが歳を取った人なのだ。若い人もいるのだが、僕みたいに十代、しかも見た目は十代に行っていないような子どもでは、両方はおろか片方ですら見習い以下でしかないように思えるのだろう。
それゆえに二つの表情、うそをつくことに対して顔をしかめるのと、背伸びする子どもを見る物に分かれたのである。
「証拠は?」
「これです」
腰につけていた剣とナイフを取り出し見せる。錬金の場合は、炉を使って実際に作っているのを見せないといけないため、今回は鍛冶の成果だけを見せる。
「失礼」
そう言って、アラドさんは剣を手に取る。鑑定のスキルを持っているのか、少しの間じっと見つめていたが、すぐに剣を返してきた。
「……貴女ほんとに14歳ですか……?」
「失礼な」
14歳ですよ、からだは。精神的には大人ですが。
「どういうことだ? アラド」
アレスの問いに対して、アラドさんは僕の持っている剣を渡すように言ってくる。
渡された剣を、アレスは構える。流石に室内では、振り回すことは出来ないので構えるだけである。
「うん、普通だな」
そう感想を言い、剣を返そうとしてきたのだが、横からサラが掻っ攫うようにして奪う。
そして、同じように構え、同じ結論に達したのか、一つうなずき隣にいたアルベルトさんに剣を渡す。アルベルトさんは、構えるのではなく刀身を一瞥して返してきた。
「確かに……お前14歳か?」
アルベルトさんまで……酷いですorz。
なんか落ち込んでいるビリノアの奴は置いといて、改めてアラドに聞く。
「で、この剣がどうしたって言うんだ?」
普通に売っている一般的な剣よりは、良い物ではあると思うのだが……
「解らなかったのですか?」
意外そうに聞くアラドに対して、先ほど思ったことを伝える。
「アレス、これぐらい判ってくれないと、安心できないのだが……」
ん? アルベルトは解っているのか?
「はあ~、説明しようか。彼女の武器は、ごく普通の剣だ」
それは、解っている。隣で聞いているサラも解っているのだろう、うなずいている。
「普通、店で売られている一般的な剣は鋳造だ。その方が安く作れるし、性能もほぼ同じ物が出来る」
それは知っている。
「しかしだ、あの剣は鍛鉄で出来ている」
「「え?」」
「長さ、幅、厚さ、重さ、重心の位置まで、完璧に基本に沿った造りをしている武器だ。しかも、鍛鉄って事は、鋳造製のものよりも格段に耐久性が高い」
「使いやすいと感じませんでしたか?」
「「そういえば……」」
「専用武器には劣りますが、誰でも使いやすいように作られています。品質も高く、A-という評価です」
マイナスとはいえ、Aランク武器かよ。ごく普通に使っていたぞ。つうか、本当にこいつが作ったのか?
「鑑定の結果、間違いなく彼女の作ったものだと出ました」
俺とサラは、未だに落ちこんでいるビリノアの方を同時に見る。
「「お前、本当に14歳?」」
「……」
お、さらに落ち込んだ。
なんとか持ち直した僕は、改めてアラドさんに尋ねる。
「それで、ですね。何処かに住居兼鍛冶場兼錬金場ついでに店舗になっている物件ありませんか?」
「……欲張りですね……残念ながら、その手の情報は持っていません。持っていたとしてもお教えすることは出来ないんですよ」
「え?」
「我々商会は、自分たちの持つ店舗や商隊の管理・運営をしているだけです。当然、運営しているのですからつぶれる店舗も出てきますが、そういった店舗は、商会ではなく商工ギルドが管理するのですよ」
「商工ギルド?」
「はい。ここのように大きな街にある組織です。冒険者ギルドのように統一されたものでなく、街ごとに違った組織ではありますが、この街にある商工に関係ある物を全て管理している組織ですよ」
街ごとって、不便なような気がするが、自然発生したもので、その街その街でルールがあるということを聞いて、納得することにした。
「そこに行けば、店舗が借りれるのか?」
「それは、難しいですね。まず、店舗を借りるにはそれ相応のお金がかかります」
それは、大丈夫だろう。ゲーム内通貨が使えることが分かっているため、お金は無限に近いくらいある。あまり使おうとは思わないが、今回は大いに活用させてもらう。
「買い取りだともっとお金がかかるのですが、今回は良いでしょう。もう一つの問題は、保証人が必要だということです」
「保証人?」
「ええ。せっかく貸した店舗を、犯罪に使われたりするのはごめんですから、信用できますよと言う意味で、保証人が必要なのです」
それでも、抜け穴を見つけて犯罪は起こりますが、と続けるアラドさんだが、僕は頭を抱えていた。
保証人なんていないぞ。
商人なら、商会に所属して商売をしているのなら商会主が、職人なら、その親方が保証人になってくれるのであろうが、ただ一人で転生してきた僕にはそんな人はいないぞ。
「ちなみに、私はダメですよ。商会の規則で禁止されていますから」
最初で最後の砦はなくなったようだ。
「マジでどうしよう」
どうしようかと頭を悩ませていると、アレスが肩に手を置いてきた。
「俺がなってやろうか? 保証人」
「はい?」
「だから、保証人になってやろうかって言っているんだが」
なにを言っているんだこの人は。
名無し草生活の冒険者が、保証人なんてありえないだろ。
「あり得ますよ。ある一定レベル以上の冒険者であるならば、商工ギルドでも保証人として認めています」
「で、俺とアルベルトとダイはそのレベルを超えている。そして、この場合だとリーダーの俺が保証人になることになる」
ふむ、そういうことなら頼んでも良いかな。
「で? 見返りは?」
「俺たちの専用武具と、拠点として家を貸してほしい」
マジックアイテムも作れるんだろうとの言葉に、同意を返しておく。
ふむ、条件としては悪くない。
武具を作るのなら、時間がかかるが面倒ではない。拠点として家を使いたいというのなら、大きめな家を借りれば良いだけだろう。
「保証人の件、お願いしますね」
「任せとけ」
「拠点として使うなら、お金を取りますから」
「う、安めでお願いします」
食費ぐらいは入れてもらいましょうか。武具自体は、素材さえ取ってきてくれたらただで作ってあげましょうかね。
そんなことを話しながら、商工ギルドに向かい、冒頭に戻るというわけです。
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