連載になるかもしれない、ネタ。13
兄はギャルゲーヒーローで、妹は乙女ゲーヒロイン、そして私はBLゲー主人公、だと?
が、タイトルだったりします。
まぁ、相変わらずな感じで。
世の中には、恋愛シュミレーションと分類されるゲームがある。
プレイヤーの性別によって、ソレは数種類に分けられる。
俗称、乙女ゲーはプレイヤーが女で、イケメンを籠絡していくもの。
俗称、ギャルゲーはプレイヤーが男で、美女たちを落としていくもの。
そして、俗称、BLゲーは、プレイヤーが男で、男を誑し込むもの。
共通事項は、複数人用意されている攻略対象者たちとの恋愛である。
「で、ココは、ドレだ」
鏡に映る自分を確認し、漏れたヒトコト。
さらさらの黒髪に、紫の瞳。
年齢的に可愛いが前面に出ているが、あと数年すれば、美人に成長するだろう。
「コレは、BLゲーの主人公、だが」
ちなみに、ネコ寄りのリバだった。
いや、攻略対象者やルートによってはタチかネコか選択肢が出たんだよ。
問答無用でネコにされる場合が軽く九割超えてたけど。
むしろ、タチとか違和感ありすぎだけど。
「あー、嫌な予感がひしひしと」
一風変わったゲームを数多く世に出している会社がある。
秀麗なイラストと煩悩をガンガン刺激する声優。
飽きのこないシナリオと、目新しい設定。
どこをとってもマイナス要因の無い『恋愛シュミレーションゲーム』を販売していたゲーム会社。
ソコの、代表だった私。
趣味が高じて商売にしていたという、本当に遊びの延長だった。
私のシナリオに長年の悪友がキャラクターを描き、知り合いたちが声を吹き込む。
そんなアットホームな職場とは裏腹に、業界随一の売り上げを誇っていた。
「ギャルゲーヒーローは兄で、乙女ゲーヒロインは妹だったか」
で、真ん中の私がBLゲー主人公、と。
ゲームの舞台は王道学園。
金持ちの子息令嬢が集まる私立五百蔵学園。
幼稚舎から大学部までがあり、学園の敷地が五百蔵市という一つの都市になっている。
入学には厳しい審査があり、一般人はいくら優秀でも入る事が出来ない。
寮の代わりに高層マンションがいくつも建っており、遠方の生徒たちはソコで生活している。
主人公が高校一年の入学式からスタートして、高校を卒業するまでの三年間がゲーム期間となる。
兄を選べばギャルゲーに、私を選べばBLゲーに、妹を選べば乙女ゲーになるこのゲームのタイトルは、私立五百蔵学園へようこそ、である。
「あー、もしかしなくても、全部同時進行か?」
ギャルゲーの兄と関わりのある男どもが、BLゲーと乙女ゲーの攻略対象で、乙女ゲーの妹と関わりのある女どもが、ギャルゲーの攻略対象である。
で、BLゲーの主人公はどちらとも関わってくる。
女たちの好感度を上げないと、男どもを攻略できないという鬼畜仕様。
だが、女たちの好感度を上げ過ぎても、男どもを攻略できないという罠が。
そのうえ、BLゲーの場合のみ、兄妹が好感度上げの邪魔をする。
他の場合はサポキャラなのに。
「ライバルは、王道転校生だったなぁ」
各ゲーム、高2の六月に来る転校生がライバルである。
このライバルも三人兄弟で、各主人公と同じ年。
帰国子女で日本の習慣に疎く、攻略対象者たちにガンガン迫っていく。
このライバルたちも、BLゲーの場合のみ、三人全員が敵となる。
時には兄弟たちと結託して邪魔をする。
「BLゲーだけ、なんで難易度上げたんだっけ?」
ノリと勢いだったような気がするが。
BLゲーの知識が無いままにシナリオ書いた気がする。
絵師である悪友と、深夜テンションで進めていたような。
無駄に豪華にした内容は、軽く通常の二倍のイベントがあった。
BLゲーだけアダルト規制かけて、本番もアリだった。
ギャルゲーは健全な朝チュン、乙女ゲーはキス止まりだったのに。
おかしい、どうしてそうなった。
「入園式が、明日とか」
世界でも有数の資産家でもある我が家は、幼稚舎より五百蔵学園に通う事が半ば義務付けられている。
世界中を飛び回っている両親は基本年に数回しか顔を合わせず、子供たちは教育係に預けられている。
この教育係も優秀であるため、自我がはっきりしてくる三歳前後から英才教育がはじまる。
例に漏れず、私も先日より教育が始まっているのだが。
「思い出してしまえば、ヌルゲー街道一直線、とか」
なんせ、自分で書いたシナリオだ。
一言一句まですべて覚えている。
そして、私は昔から優秀な頭脳を持っていたのだ。
普通のお勉強も余裕である。
「んじゃま、取り敢えずは兄と妹を味方につけますかね」
兄妹同士で潰し合いとか、うっかり本気になったら洒落にならない。
ならば、初めから私に逆らわないような関係性を構築するべきである。
そのうえで、勝ち組人生をおくってやろう。
かつて、悪友に『人誑し』などという渾名を付けられていたのだ。
今から関わる人間全てを誑し込んだところで問題は無い。
幸い、前世から私はバイセクシャルである。
ココがBLゲー化しても、何ら問題は無い。
そんな事を考えていた入園式前夜より時は流れ、今日は高校の入学式。
幼稚舎からの成り上がりが半数、初等部・中等部からの成り上がりを入れると九割が知り合いである。
残りの一割が、高等部からの入学者。
それでも、五百蔵学園に入学できる家柄のため、社交界では既に顔見知りになっている者が大半だ。
そんな、欠片も新鮮味のない入学式で、壇上に上がる私。
新入生代表などと言う面倒事を押し付けられた結果である。
壇上から見下ろすのは気分が良いが、決して少なくない人数の目が私を注視しているのはいただけない。
まぁ、半分以上自業自得であるわけだが。
「オマエの信者だらけじゃないか」
きっちり挨拶を終えて袖に戻れば、呆れた声音の兄に迎えられた。
「どこの教祖ですか、失礼な」
まぁ、言われても仕方がないかな、という感じではあったが。
閉鎖された空間に10年以上居れば、おのずと力関係は出来上がる。
まして、わたしは自分の容姿も性格も頭脳も正しく把握し、活用できる。
人誑しの本領発揮、とばかりに全力で関係者各位をオトしにかかり。
一大派閥どころか、兄の言うように宗教じみた関係を築き上げた。
「宗教というより、王国じゃないかしら?」
くすくすと笑いながら言葉を挟むのは、兄の婚約者。
ギャルゲーヒーローの兄と良好な関係を築くため、兄には早々に恋人を宛がった。
勿論、お互いに恋愛感情を持っていることは確認済みだ。
家柄も丁度良かったため、高校入学と同時期に正式に婚約者としてお披露目もしている。
今のところ、ゲーム補正というふざけたモノも無いようなので安心していいだろう。
まぁ、兄の攻略対象者も私が誑し込んでいるため、今更補正などかかるはずも無いのだが。
「あぁ、キングダムか」
そんな婚約者の言葉に、おかしそうに返す兄。
キングダムとは、いつの頃からか、私の周りを指して言われている言葉だ。
私を中心に、良家の令息令嬢たちが集い開いているサロン。
学園にある一番広く立地の良いサロンが、いつからか私専用となり、キングダムと呼ばれるようになった。
その、キングダムに招待されるのが、この五百蔵学園での最高のステータスとされている。
このような設定はゲームにはなかったため、既にストーリーを離れていると考えて良いだろう。
「兄さんも義姉さんも、人を何だと思っているのですか」
まったく、と苦言を呈する形で応えておく。
「ま、オマエの事だから、高等部でも上手くやるだろう」
心配はしていないが、程々にしておけ、という有難くも余計なヒトコトをいただき。
「HR始まるわよ。教室に向かいなさいな」
追い出される形で、舞台袖を後にした。
五百蔵学園に籍を置いてわかったのは、ココがゲームの設定そのままの世界であるという事だった。
学園の設定は勿論、主人公である私たち兄弟や攻略対象者、ライバルの兄弟や登場人物に至るまでそのままだった。
悪友の絵師と面白半分に描いたキャラクターが、自らの意思で生きている世界。
ゲームのストーリー以前の、私たちが設定する前のキャラクターたちが目の前で動いていた。
私が存在することによって、設定が変わってしまう事を恐れ・・・るわけもなく。
今、私は実際にココで生きているのだ、と強く実感することによって、自身の使える能力は惜しむことなく使い、この人生を満喫することにした。
ほら、後悔したくないし。
幸い、ライバルじゃなく主人公ポジションだし。
ハーレムどんとこいなエンドも用意していたから、ソレが少々早くなった所で問題ないし。
でも、邪魔されるのは勘弁ってことで、兄と妹には早々にご退場いただいた。
兄には可愛い婚約者を、妹には溺愛執着系な恋人を最高の形で宛がった。
二人とも幸せな毎日を過ごしているので、他に目がいくことも無い。
ソコは頑張った自分を褒めてやっても良いと思う。
「遅かったな」
教室に入れば、一瞬で静かになるのはいつもの事。
そして、そんな中で私に声をかける事ができる者も決まっている。
私のキングダムでは、階級が明確に分けられている。
幼稚舎からの付き合いである男女合わせて13人の幼馴染を第一階級、初等部からの付き合いの男女合わせて6人の幼馴染を第二階級とし、この計19人が私に直接声をかけることが許されている。
中等部からの男女合わせて3人は第三階級で、私から声をかけた場合の直答は許されているが、それ以外は粛清の対象となる。
高等部からの参加者は第四階級となり、条件は第三階級と同じになる事が決まっているらしい。
階級内でも家の格や社会的地位などで順位が付けられているらしいが、私に詳細は上がってこない。
本当に、何処の王国だよ、と思わなくもないが、ここまでしないと統制がとれない、と懇願されたので仕方がない。
この他にも無階級の人間が多く控え、階級持ちたちが管理しているらしい。
格式ある家ほど幼稚舎から五百蔵学園に在籍させているため、初等部、中等部と上がる毎に参加者が少なくなってきている。
なので、高等部ではさほど増えることが無いだろう。
階級保持者は、上が三年下が二年と幅があり、既に大学部に進んでしまった者や、まだ中等部二年の者も居る。
この幅でおわかりだろうが、階級保持者は全員攻略関係者である。
「兄と少々話し込んでしまって」
ざっとクラス内を確認すれば、第一階級と第二階級のメンバーは3人。
今、声をかけてきたのも、第一階級の幼馴染である。
乙女ゲーの攻略対象者で、ギャルゲーの攻略対象の弟、そしてBLゲーの攻略対象者である。
「王兄殿下は生徒会役員だったかしら?」
ギャルゲー攻略対象者で、乙女ゲーでは委員会の先輩、そしてBLゲーでは攻略対象者の幼馴染というライバルキャラの第二階級である女子が。
「今期の副会長でしたね。王義姉殿も役員補佐でしたか」
ギャルゲーでは生徒会の後輩、乙女ゲーとBLゲーの攻略対象者である第一階級の幼馴染が周りに侍る。
このクラス内では、直接会話するのはこの三人だけになるだろう。
「今日の昼食はキングダムでと要望が来ている」
入学式の今日は、クラスでの顔合わせが終われば終了となっている。
昼食には早い時間の解散となるが、キングダムでの顔合わせも行うのならば丁度良い時間だろう。
「わかりました」
高校からの参加者が何人居るかは不明だが、その面子たちの顔合わせがあるのだろう。
もともと社交界では知り合いだったりするので、まったくの初対面というわけではない。
キングダムに入りたいから、とわざわざ編入してきた者もいたらしい。
キングダムと呼ばれる専用のサロンに足を運べば、ソコには既にメンバーが勢ぞろいしていた。
出席率は100%。
入学式の今日、一般生徒は休みであるにもかかわらず、わざわざこの為だけに出てきているらしい。
口々に入学と新入生代表を祝われ、にこやかに返礼する。
玉座と密かに呼ばれている専用のソファーに腰をおろし、メンバーたちにも着席を促す。
ちなみに、このソファーは広めの二人掛けである。
私の気分で隣に座らせる者を決めるのだが、今日は今年度最初の集まりの為に指名はしなかった。
暗黙の了解として、私の隣に指名されたモノが今日のお相手となる。
特定の相手をつくらず、平等に。
女よりも男を呼ぶ率が高いのは、道徳的観点から、という事にしてあるが。
ほら、うっかり孕ませたら困るしね。
キングダムの階級持ちであれば、そのヘンの気遣いも不要であるが。
私との子であれば、将来の旦那様も快く引き受けてくれるらしいよ。
兄はギャルゲーヒーローで、妹は乙女ゲーヒロイン。
そして、私はBLゲー主人公。
難易度MAXのこのゲームの世界で、私は大きな箱庭の主となった。