第燦獣四話 ひざまくら
パレードの観客でごった返す凱旋門広場の外れに、どこかで見たことあるような、つうかグラフィックを使い回された幌馬車と四頭の馬が準備されていた。
「勇者殿、ミヅキ殿に用意していただきもうした」
オッサンは馬を慣らしながらそう答えた。
「…どういう風の吹き回しだ?」
「連れて行ってくれないから、勝手に行くの。魔王のところへ。まず最初に、東の森にある砦に行ってそれから」
「怖いから行かないんじゃなかったのか」
鉄拳が飛んでくるかと思ったが、そうではなかった。
「怖いけど、もう逃げたくない」
幌馬車は人の少ない通用門から出る。御者はもちろんオッサン。その隣では、幼女がその手綱さばきを熱心に研究していた。って、これもグラフィック使い回しか。
背後にそびえる凱旋門の周りには、時折花火が上がり、王宮騎士団の出陣パレードはまだ続いるようだった。
最初、なぜ瞬間移動能力を使わず馬車なのか、と問うと、その能力の行き先は彼女のよく知っている場所でないと通用しないという事を拳で教えてくれた。
俺は簡易ベッドを兼ねた後部席で、メアリーさんの膝枕に顔を埋めていた。首の後ろはあのイケメン騎士の最初の一撃で大きなアザになっているらしく、彼女に見てもらっている。あー、きもちええ。いい匂い。
「痛かったでしょうに…」
ゆっくりとさすってくれた。
ミヅキは、食料籠に背中を預けて、じっとこちらを見ている。
「…前から気になってたんだけど、どういうご関係?」
「俺の肉奴隷」
ぺちっと頭をおイタされる。
「縁あって、私の我が儘で勇者様に付いてきているのでございます」
「ふうん、こんな下品な奴のどこがいいんだか」
「あら、あれは照れ隠しですのよ。可愛らしいじゃありませんか」
いつの間にか、彼女の手は俺の首筋から背中、頭、耳までやさしく撫でていた。すんごいきもちいい。俺もほとんど彼女の下半身に抱きつくみたいな格好になってる。
「あー!おにいちゃんずるい!」
御者席にいた幼女がこちらを様子をみつけて、そのままメアリーさんに抱きついてきた。俺は膝枕を半分幼女に明け渡し、三人で簡易ベッドの上を占拠した。
「時には人に甘えることも、大切なことなのですよ。ミヅキさん」
角が立っていたミヅキの表情が、次第に優しいものになる。
「三人姉弟、みたいですね」
「そうやってお宿をとったこともありますのよ」
「…」
それきりミヅキは押し黙ってしまった。
「羨ましいか?」
俺はワザと意地悪に訊いてみた。
「…うん」
意外と素直な返事が返ってくる。
「代わってやろうか」
「うん」
あまりにも素直だったので意地悪する気にもなれず、俺は膝枕をミヅキに明け渡すことにした。
「メアリーさんの膝枕は天国だぜ。感謝しろよ」
俺はベッドから起き上がると名残惜しげにメアリーの手に口づけた。
「よろしく」
「はい。ミヅキさん。こちらにいらして」
遠慮がちにメアリーの隣に座ったミヅキは、そのままゆっくりと頭を膝の上にのせた。
「遠慮しないで、よろしいのですよ」
しばらく眼を閉じていたミヅキは、涙をひとつこぼすと、笑顔のまま眠った。
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