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第燦獣三話 くらやみ

 あんな格好してたから、本式の剣術試合でもするのかと思っていた。
 イケメン騎士の部下に、刃の潰された訓練用の剣をもらうと、さらに奥の扉に案内された。中に入ると、真っ暗闇。イケメン騎士の姿は見えなかった。
 
 どこからともなく声が響いてくる。
「魔王軍との戦いは、夜間戦も想定しています。お互い、首に刃を立てた者の勝ちです。よろしいですか」
 目をこらすと、そこかしこに、布をかぶせた障害物らしきものが設置されていた。
「いいね。こういうのは大歓迎だぜ」
「では、好きな場所をお選びください。ドラムがなったら、試合開始とさせていただきます」
 手近に隠れるところがないような開けた場所に陣取り、俺は開始の合図を待った。
 
 ダン、と大きなドラム音が鳴り響いた。
 
「速攻魔法発動!まずは」

 べし。
 くる。
 べし。
 
「いってえええ!!!」
 開始3秒後には、首の後ろを叩かれ、顎を持ち上げられて背負い投げされ、組伏されて最後にのど元に剣を突きつけられていた。
 
「卑怯!超卑怯!」
「これが、我らの戦い方です」
 騎士と言うより完全に暗殺者。あの鎧は表向きの飾りか?
 
「まずは相手に発見されないこと。音を立てるなどもってのほかです。魔物相手に正面切っての戦いでは勝ち目はありません。相手を倒すときは弱点を見極めて即座に倒すこと。時間をかけたなら、それだけ自分たちが消耗します。止めは必ず刺すこと。魔物の生命力は侮れません。止めを怠ったばかりに、背後から急襲される例も多々あります」
 イケメン騎士は、既存のRPGを全否定するように言い放った。

「あの鎧は、周りの者の士気を高めるために着ているのであって、私は好きではありません。古参の騎士達は、私を卑怯者と罵ります。それでも、私は正々堂々と戦って無駄に多くの命を散らすより、卑怯者の誹りを受けても、生き残って戦い続ける事の方が、大切だと思っています」

 ひょっとしてアンタみたいな人間なら、うまいこと魔王を倒せるかもしれないね。
 
 剣を仕舞ったイケメン騎士は、正しく俺に向き合うと、軽く礼をする。俺は地べたに座り込んだまま、首の周りをさすっていた。
「訊きたいことがある」
「何でございましょうか」
「なぜそこまでして、魔王を倒そうとする」
「人々が苦しむ姿を、見たくないからです。国を守る役目を預かる騎士として、当然だと思っています。勇者殿は、なぜ、魔王を倒そうとお思いですか」
「俺は、魔王なんざどうだっていい。ただゴタゴタ面倒ばかり起こすから、とっとと片付けてゆっくりじっくりナメまわすように女を抱きたい、それだけだ」

 イケメン騎士は、ぷっと吹き出すと、控えめな声で笑い始めた。

「あなたは正直な人だ。私にも抱きたい女性がいる。もし生き残ったなら、お願いしてみることにするよ」
「アンタにならどんな女だってマタを開くさ」
「どんな女でも、か…本当にそうだったらよかったのにな」
「アンタにも落とせない女がいるのか」

 イケメン騎士は、黙ったままだった。
 宮殿の扉が開かれ、光が差し込んだ。
 
「ライバッハ様、パレードが始まってしまいます。お急ぎください、まったくもう」

 騎士は、再び礼をした。
「我が儘に付き合っていただき、ありがとうございました。また、お会いしましょう」

 
 立ち去っていく騎士と入れ違いに、女が入ってきた。ミヅキだった。
 ミヅキは、騎士とのすれ違い様に立ち止まると、その後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。
 
「追いかけなくていいのか」
「うるさいな。あんたも来るのよ」
「?一体どこへ?」
「凱旋門。王宮騎士団が出る前に、私たちも出るのよ」
 
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