第廿六話 しょうじょ
ここは国境の町。
あのチャンドラセカールの軍勢に蹂躙されたのだろう。町の中は凄惨を極めていた。
倒壊した家屋。燃え尽きた木々。家畜はもちろん、中には、黒コゲの人間の死体もあった。
「ひどい…」
メアリーはあまりの場面に顔を覆った。
レイチェルは、祈りの言葉を呟いていた。
「勇者殿、貴殿の魔法で、なんとかならぬのか?」
「やるだけ、やってみる…」
側にあった、黒コゲの死体を叩くと、原型をとどめた人の形には戻った。しかし、肉体は元に戻っても、心臓が鼓動しているわけではなかった。
「クソッ、クソッ」
無駄と分かっていながら、鳩尾を両手で力強く押し、心臓マッサージしてみる。どれだけやっても、死体の眼は虚空を見上げたままだった。
ほとんど燃え尽きた家屋に、元に戻す呪文を唱える。
綺麗に復元された家の中には、糸の切れた操り人形のように倒れている姿があった。まだ小さな子供だった。ぴくりとも動いていなかった。
「そんな、バカな…」
高をくくっていた自分を呪った。自分の能力さえあれば気楽な旅だと思っていた。
「俺が、もう少し早く行動していれば…」
「勇者殿、過ぎたことを悔やんでも、仕方ありませぬぞ。死者を弔うのです。手伝ってくだされ」
死体を集める作業に入る。炭化が酷くてして運べない者は、元に戻した。
数人分の死体を運び終わったとき、まだ辺りを捜索していた仲間からの声があった。
「まだ…まだ生きている人がいるよ…!」
レイチェルだった。俺はガイアと顔を合わせると、その場所に向かった。
少女が倒れていた。俺と同じぐらいの歳だ。
泥まみれになり、右腕の付け根から血を流していた。右腕がなかった。
レイチェルは必死に癒しの祈りを捧げていた。傷が治るとは思えなかった。
「俺がやる」
呪文詠唱開始、右腕を振り上げる。
しかし、その拳は途中で止まった。
服装が、どう見ても、俺の元いた世界のものだ。緋色のブレザー、チェックのスカート、
血に染まった右袖には、この世界の文字ではない刺繍がされていた。
能力者…!
魔王の軍勢、白服の少年が脳裏を過ぎった。
「おにいちゃん、早く…」
そうだ、迷う必要があるか。相手がこちらを罠に掛ける気なら、とっくにそうしている。
俺は詠唱終了と同時に、彼女の傷口をブッ叩いた。
「いったーーーーーーーーーーー!!!!!」
素っ頓狂な声を上げて、彼女は飛び上がった。
「痛い痛い痛い痛い痛い!!なにすんのよこのバカ!!」
治った右腕で綺麗な右フックを振り抜かれた。俺の体は宙を舞った。
「なにおう!せっかく治してやったのに!父さんにもぶたれたこと無いのに!」
「あれ、ホントだ。もう痛くない。つうか、アンタ誰?」
少女は、右腕をグルグル回しながら尋ねてきた。
「勇者ノゾム、魔王を倒す旅をしている」
俺はぶたれた頬をさすりながら答えた。
「はーん、アンタが勇者ノゾム君ねえ。ウワサはいろいろ聞いてるよ」
「ああ、もうその話はいいよ。それよりこの惨状から空気読めよ」
少女は辺りを見回した。
「あぁあぁ、やられちゃったねえ」
「やられちゃったね、じゃねえだろ!」
「ま、あたしがいるからには大丈夫」
おっと、そういやコイツは能力者だ。まさか…
「ちょっと待っててね」
少女はたたたと町の中央広場付近に走り寄ると、奇妙な杖を取り出した。
あー、なんか、どっかで見たことあるような。
「あんまり見るなよ。恥ずかしいから」
少女は呪文らしきモノを唱え始めた。
「ぱすかる、ふぉーとらん、こぼる、べーしっく!!」
なんか、踊らないといけないらしい。
その天高く突き上げた杖の先から、まばゆい光がほとばしった。
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