第廿五話 こっきょう
混乱極まっていた宿場町に、平穏が訪れる。
四天王チャンドラセカールに率いられた魔王の大規模軍勢は、勇者ノゾムのきわめて下品な全体魔法によって精力を使い果たし、腰を押さえながらガクカクの足取りで撤退していった。
よからぬウワサばかり流布していたこの町に、勇者万歳の声が響き渡っていた。
「勇者殿、お礼がしたいと申す街の者から、馬車を調達したでござる」
「ありがとう、みんな。勇者ノゾム、勇者ノゾムでございます。次期国王選挙の時には、清き一票を!勇者ノゾム!勇者ノゾムでございます!」
「たくさんの食料をわけていただきました」
「ありがとう!おいしそうだね、君も旅に加わってみない?」
「おにいちゃん」
「スイマセン」
ありとあらゆる贈り物が馬車の中に詰められ、まるで魔窟のように、
誰だ、生ゴミ入れてるの。
ガイアは魔王討伐に向けて、同行する勇気のある戦士がいないか群衆に問いかけていた。
「我らに付き従う者はおらぬか!?」
(勇者様万歳!勇者様万歳!)
「これより、幾多の困難が待ち受けているであろう、勇気のある者はおらぬか!?」
(勇者様万歳!勇者様万歳!)
「魔王を倒した暁には、莫大な財宝が手に入るであろう!」
(勇者様万歳!勇者様万歳!)
「オッサン、やめとけ。俺より金玉のデカイやつなんざ、こんな所にはいねえよ」
「ふつう…」
ストップ、メアリーさん。比較対象がいるってだけで俺、複雑。
「財宝のウワサなんかもきいたこと無いしな」
「ぬう、出鱈目は通用せぬか」
「出発しよう。普通の人間が加わったところで、ほとんど戦力にはならないんだ」
三人は、自分の存在意義について自問し始めた。
余計な生ゴミなどは片付けて、快適な馬車の旅が続く。
四頭引きの大きな幌馬車で、御者はオッサンに任せた。馬の扱いは慣れているそうだ。幼女は、オッサンの隣でその手綱さばきを熱心に研究していた。
俺は戦いの疲れを癒しに、簡易ベッドを兼ねた後部席に大の字に倒れ込んでいた。
「勇者様、お疲れさまです。足の具合はいかがでしょうか」
そうか。切り飛ばされたのをくっつけたんだった。
「いや、大丈夫だよ。元通りだし」
メアリーは心配そうな顔で、俺の隣に腰掛けると、その足にそっと手を当ててくれた。
「痛かったでしょうに…」
ゆっくりとさすってくれた。
勃起した。
「…」
「あー、はー、まあ、しょうがないじゃん、健全健康な男子だし!」
「不健全です。こんな昼間から」
「夜ならいいの?」
ぷいと拗ねた顔を背けたメアリーさんをカワイイと思ってしまった。
「少し、お休みになってください」
「そうします」
少し躊躇いがちに、メアリーは言った。
「膝枕、します?」
そりゃねえ。
「もちろん」
「あー、おにいちゃんずるい!」
ああ、せっかく独り占めしようと思ったのに。
「レイチェルさんも、どうぞ」
御者席から顔を覗かせた幼女は、とととと小走りメアリーに抱きついた。
「こら、荷物が崩れるぞ」
メアリーの優しい手に撫でられ、俺は夢の世界に落ちていった。
「勇者殿、もうすぐ国境の町でござる」
「むにゃむにゃ、そんなにはげしくしたらでちゃうって」
「ベタな寝言を言ってる場合ではござらん」
オッサンの声に起こされる。と、奇妙な違和感。それは臭いだった。
肉の焼け焦げた臭い、草や木の焼けた臭い。
大慌てで御者席に向かうと、目の前の光景に愕然とした。
黒コゲで倒れている牛。炭化した広葉樹。踏み荒らされた麦畑。
さらにその先には、かろうじて倒壊を免れている程度に焼け焦げた家、完全にレンガの山になってしまった建物が見えてくる。
「急ごう」
オッサンはハイヤと手綱を繰り、馬車はその速度を上げた。
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