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とある少年の日常 第十七話
 放課後。荒木は向井と二人でさっさと帰ってしまい、一人ぽつねんと取り残される俺。
 先生は職員会議とやらで遅くなるということだった。何となく寂しい。
 
 久しぶりに、一人寂しく家に帰ろうかと改札口で定期を翳した矢先に、その脇の柱で佇んでいる一人の少女を見た。というか黎だった。
「よう。幼女。誰か待ってるのか」
 俺がそう声をかけると、
「誰を待っているかとは、酷いですね。朝駆けにクレープ屋に連れて行ってくれると約束してくれたでしょう」
 ああ。あれは一方的にお前が言い出した事であって、約束を了承したわけではないんだけどな。
「だいたいお前、いいところの中房のクセしやがって、買い食いとか許されるとか思っているのかよ。お兄さんお仕置きしちゃうぞ」
「いいえ。かまいませんよ。私の心は寛大ですから」
 いや、お前の心が寛大なのかどうかはこの際置いておくとして。
「あ、瀬織さん、電車来ましたよ。早く乗りましょう」
 誤魔化された。
 駅のホームに到着した電車は、夕時の帰宅ラッシュに見舞われ、席が空いてない。仕方なく吊革につかまる。
「背、高いんですね」
 いや、ふつう。というか、お前が背小さすぎなんだろうよ幼女。
「掴まっていいですか?」
 何故俺に。相変わらず許可も待たずに俺に掴まる幼女。こんなところ、誰かに見られたらどうするよ、とか考えながらとりあえず妹という事にしてしまえと勝手に結論を出す。
 いいね妹。
「瀬織さん、なんだか……」
 何か言いかけた彼女はそのまま口を噤むと、視線を窓の外に向けた。
 俺はしばらく無言で袖にかかる彼女の重心移動を感じながら、電車は目的地に到着した。
 
「おう、今日はまた違う女の子を連れてきてるね。まったくご同慶の至りだよノゾム君」
 なんだかキャラが微妙に違ってきているクレープ屋の主人、ジンボちゃんがそこにいた。
「なんだか最近妙に懐いてるんだ、この幼女は」
「幼女とは失礼ですね瀬織さん。私には岩津黎という立派な名前があるというのに」
 レイチェルと呼ばれているらしい。と俺は勝手に解説した。
「岩津、レイチェル、ああ、レイチェル・ワイズね。好きだよあの女優」
「一体何の話だ」
「知らないの? スターリングラードとか、コンスタンティンとか。綺麗な人だよ」
「無駄話はいいから。こいつに適当に食わせてやってくれ。ラズベリーで頼む」
 コイツ呼ばわりされた黎はふくれっ面を向けるが、こちとらスポンサーなんだ。いちいち突っかかってくれるな。
「はいよ、お嬢ちゃん。ラズベリーね。ノゾム君はいつもの奴で」
「当然だ」
 ジンボちゃんは手早く撒いたクレープを手渡すと、俺にそっと囁いた。
(……で、つまるところ、この子一体何者なのよ。とうとう犯罪にでも手を染めはじめたのかいノゾム君)
 全く持ってそんな気はサラサラない。それどころか逆に迷惑しているのはこっちだというのに。
「私は瀬織さんの恋人ですよ」
 と、ジンボちゃんの囁きが聞こえてしまったのか、意味不明な事を言い出す。
「……あのな幼女、俺にはちゃんと歴とした」
「さんざん私の体を弄んだくせに」
 サラリとそんな事を言ってのける幼女。あ、ジンボちゃん、本気にしないでね。
「……ノゾム君、それはさすがにヤバイと思うよ」
「いやいやいやいやいや、ちょっと待て幼女、俺が一体何時どのようにお前を弄んだだって?」
 幼女はそんな事はお構いなしに、ラズベリーのクレープを頬張った。まるで何事も無かったかのように。
「一体俺がお前に何をした?」
 彼女は唇にハミ出たクリームを舐めあげて、うっとりした眼で俺を見つめている。
「というかそのラズベリー、不味いでしょ」
「そんな事ありませんよ。とても美味しいです。私のいたところは、貴族でも無い限り、こんな美味しいもの、おいそれと食べる事は出来ませんでしたから」
 ……ああ。なんかそういう世界だって事は微妙に察しは付いてるけどさ。覚えてないものはしょうがない。というか、俺ってば幼女属性無かったと思うんだけど。先生なら真っ先にってのはわかる。
 幼女は俺をずっと見つめている。
 なんだか不安になってきた。勇者だった俺は、一体何人の女を手籠めにしたんだ。
「瀬織さん、えっちですからね」
 ごちそうさまと彼女は言った。
「……ノゾム君、また無茶をしているようだね」
 ジンボちゃんがニヤニヤと笑っている。
 全く身に覚えがないことで冷やかされるのもたまったもんじゃない。
「それじゃ、私は帰ります。今日はごちそうさまでした」
 それだけ言って、彼女は再び駅の方に歩き始めた。
「あれ、ありがとうございました……って、ノゾム君、なんだか、彼女、変じゃない?」
 そりゃ、出会ったときから変だとは思ってるけどさ。
「……追いかけた方がいいんじゃないの? 男として、撮るべき責任は取らないと」
 そもそも責任を取らなきゃならんような事は全く身に覚えがない。
 ……本当にそうか?
「……わかった。ありがとなジンボちゃん」
 妙な胸騒ぎがして、俺は彼女の後を追いかけた。
 
  
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