ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第珀七話 あんらくしつ

 地下牢に続く細い道に差し掛かった。背後からは、幾人もの衛兵が機会を伺いつつ距離をとって俺に続いていた。

「おにいちゃん!!」

 バカな女。レイチェルまでついてきてやがる。彼女は衛兵の制止を振り切って、俺に駆け寄ろうとしていた。
「おい幼女。何故来た。お前も捕まるぞ」
 案の定、進路を阻まれ、即座に両脇から腕を掴まれて、彼女は身動き出来なくなった。
「教会の者といえど、容赦しませんぞ」
「離して!!」
 彼女の悲痛な願いは叶わない。
「だから言ったろ。お子様はすっこんでなって」
「子供じゃないもん!!」
「これ以上俺の足を引っ張るな。殺すぞ」

 ひっ、という小さな悲鳴。
 
「メアリーさんも……ミヅキさんも……おにいちゃんをおびき寄せるための罠だよ!!行っちゃダメだよ!! 殺されちゃうよ!!」
「やかましい」
 彼女の嗚咽が小さく響いた。
「おにいちゃんが、いなくなったら、私は、どうすればいいの……」
「お前の大好きな神様に縋って生きるんだな」
 俺はかまわず目の前の騎士を急かした。
 身動き出来ない彼女は、ただ泣く事しかできなかった。
 

 
 「安楽室」と銘打ってあるのは、この時代ではあたりまえにあった拷問室だろう。半分開かれたその部屋の扉の側に、かつて見慣れたものが放置してあった。ミヅキのステッキ。真ん中から二つに折れ、宝石は見当たらず、白い羽根飾りは乱暴に毟り取られていた。そして、部屋の中から、か細い呻き声。
 あまり当たって欲しくない予想は、見事に的中した。
 様々な拷問器具が並んだ広々とした部屋の真ん中に、天井から宙づりにされている姿が二つ。ミヅキとメアリーだった。革製の鞭で攻められたのだろう、二人とも衣服が裂け、皮膚から血を滲ませている。足下には、小さな血だまりが出来ていた。その横で二人の男が、あられもない拷問器具を手に仁王立ちしていた。
 
「お待ちしておりましたよ」
 彼女らを挟んだ奥に、もう一人、豪奢なローブを纏い、鞭を手にした中年の男が立っていた。
「ユーク大公、約束通り、勇者ノゾムを、連れてきました」
 眼前の騎士は、息も絶え絶えにそう告げる。
「ご苦労。貴殿には相応の褒美をとらせる」
 俺は剣を大きく振りかぶり、名もない騎士を剣の峰でブッ叩くと同時に素早く呪文を唱えた。
「おや、無駄ですよ」
 
 俺の呪文は、完成直前に立ち消えた。
「すまない、お兄様……」
 その声の主は、部屋の奥からその手に剣を携え俺の真正面に進み出た。
 ……セバスチャン?! 何故お前がここにいる?!

 彼は倒れた騎士を踏み台に、俺に剣を向けると、淡々と語りはじめた。
「俺の母は、魔王の四天王としてこの国の村々を襲撃した。罪人引き渡し協定で、今はここに幽閉されている。そこのユーク公は、母の釈放と引き替えに、俺に協力を申し出た。断るわけにはいかないんだ」
 なるほど。あのケチケチ王め、勝ち目もなく俺を罠に填めようとした愚か者だと思っていたが、こんな隠し球を持っていたのか。
 
「勇者ノゾムよ。悪く思うな。お前はこの国を脅かす大罪人、魔王だ。この俺が、引導を渡す」
 武力でこの男にかなう自信はない。コイツにかかれば、能力を奪われた俺は、ただの人間だ。
「ついこの間まで、魔王の配下だったお前がか。母親を助けるためとはいえ世知辛いねえ」
「やんごとなき事情でな。なりふり構ってられなくなった」
「お前のマザコンぶりもあきれてモノがいえねえ。レイチェルに言いつけてやる」

 セバスチャンは、ごほっと、咳を一つすると、その掌の赤いものを着物の袖で拭った。
 
「彼女の事はもう諦めた。俺はもう彼女を幸せに出来ない。バカな男だと笑ってくれ。こんなのが、最後の親孝行になるとは思ってもみなかった」
 
 まさか……
 
小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。