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菖蒲
作:坂田火魯志



第五章


「どの剣も見事な冴えです。どれにされますか?」
「それでは私は」
 最後の剣を手に取った。そのうえで言うのだった。
「これを頂きます」
「その剣ですか」
「はい。この剣に名前はありますか?」
「いえ」
 伍子胥はその言葉に首を横に振った。
「まだありませんが」
「左様ですか。それでは」
 その言葉を受けて言う。
「これからの私の働きによって名前が決まるのですね」
「そうなります」
 こう専緒に告げた。
「全ては貴方次第であります」
「そうですか。それならば私に相応しい」
 専緒はそれを聞いてうっすらと笑った。剣の中に血を見る笑いではなかった。達観して全ての覚悟を決めた澄み切った笑みであった。
「では」
「はい、御願いします」
「是非共」
 光と伍子胥は再び専緒に対して深々と頭を垂れる。こうして彼の仕事は決まった。その日はすぐに訪れたのであった。
 王は光の屋敷に来て出陣を願った。光はそれを快く受けて宴を開くことになった。だがここで王の腹心達が自らの王に対して囁くのであった。
「王よ、御気をつけ下さい」
「お気付きだと思いますが」
「わかっておる」
 王もまたわかっていた。険しい顔でその腹心達に対して頷くのだった。
「公子のことだな」
「左様です」
「おそらく公子は」
「王の座を狙っている」
 王はそのことをはっきりと言った。既に彼も勘付いていたのだ。
「それは間違いないな」
「ですからここは」
「策があるのか」
「はい」
 腹心の一人が王に対して深々と頭を垂れて述べた。
「兵を連れて行きましょう」
「兵をか」
「それも王宮から公子の屋敷まで並べるのです」
 光は公子だ。その地位の高さは言うまでもない。屋敷も王宮からすぐそこにあった。その為兵を並べていくことも可能であるのだ。
「そうすれば公子とて何もできないでしょう」
「わかった。ではそうしよう」
 腹心のその言葉に頷いた。
「すぐに兵を置け。よいな」
「はっ」
 こうして王は宴に出ることにした。すぐに兵が並べられ王宮から光の屋敷まで物々しく武装した兵士達が立ち並んだ。それだけで唯の宴ではないことがわかる剣呑な雰囲気となっていた。
 光はそれを見て動じた。王が気付いたことを悟ったのだ。
「まずいな」
「いえ、我が君」
 伍子胥はうろたえる彼に対して言うのだった。
「御安心下さい。そうであっても何ら問題はありません」
「そうなのか?」
「予想されたことです」
 平然とそう言ってのけるのだった。
「この程度のことは」
「しかしだ」
 光は言う。不安に満ちた顔で。
「実際に今こうして兵が」
「こちらも兵を用意します」
 伍子胥はまずはこう述べてきた。
「こちらもか」
「兵には兵を」
 彼はこう主に告げる。
「それで向こうはまずは一つ手を失います」
「ううむ」
「そして」
 そのうえでまた言うのだった。
「こちらはさらに手を打ちます」
「専緒殿だな」
「そうです。我々も宴に出て安心させ」
「そして。だな」
「それで宜しいでしょうか」
 ここまで述べたうえで主に対して問うた。
「そこまでしたうえで」
「わかった。ではそれで行こう」
 光もそこまで聞いて頷いた。伍子胥をここでも信頼したのである。
「頼むぞ」
「お任せ下さい」
 こうして光も伍子胥の策に従い備えをした。こうして一触即発の状態で宴がはじまった。王も光も伍子胥も王の腹心達もそこに姿を現わし表面上は平和に宴がはじまった。







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