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財産持ちのカラス君のおはなし

作者:徒耀子
 カラス君は、森の中でもすぐ見つけられる大きな木に、巣を持っていました。おじいさんから受けついだ巣です。たくさんの枝が、みっしりと組み合わされているので、頑丈です。強い風にも、びくともしません。中はあたたかく、そして広いのです。
 カラス君は、その立派な巣の中に、宝物をいっぱい持っていました。
 森を出て、少しはなれた場所に、にぎやかな町があります。カラス君はよく町へ行き、あちらこちらを飛びまわっては、キラキラ光るすてきなものを集めていました。
 カラス君は、自分の財産を、それはそれは自慢にしていました。

 ある日のこと、はげしい嵐が森をおそいました。
 大きな雨粒が木の葉を打ちつけ、ざあざあと音がして、まるで滝の中にいるようです。
 そんなときでも、カラス君の巣は、快適でした。こんもり茂った葉の間をすり抜けてくる雨は、ほんのわずか。羽をたたんで丸くなっていれば、晴れの夜と同じくらい、あたたかです。
 真っ暗な空に、ときどき、金色の線が走ります。しばらくして、どおん、と音がします。すこしずつ、近づいてくるようでした。カラス君が不安になって首を伸ばしたとき、すさまじい光と音がしました。真っ暗に戻ったとき、向こうで、炎が見えました。木が燃えています。
 カチ、カチッと、光が空にまたたくのを見て、カラス君はあわてて、巣から飛び出しました。
 危機一髪。次の瞬間、カラス君の木に、雷が落ちました。
 あまりの明るさに目がおかしくなって、しばらくの間、何も見えませんでした。
 助かって、ほっとしたのも束の間です。燃えていく巣を見て、カラス君はうなだれました。
 何もかも、なくしてしまいました。住み心地のいい家も、たくさんの宝物も。
 カラス君は、近くの木の枝にとまって、びしょぬれの羽をおりたたみました。嵐が過ぎさるのを、ちぢこまって、じっと待つしかありませんでした。

 やがて、しずかな星空が戻ってきました。
 でも、カラス君は、しょんぼりして、枝に止まっていました。
 ほうほう、とおだやかな鳴き声がしました。
「やあ、カラス君、こんばんは」
「フクロウさん、こんばんは……」
「どうしたんだい? 悲しそうだね」
「ぼくはもう、おしまいです。家も宝物も、全部なくしてしまいました」
 それを聞いたフクロウさんは、気の毒そうに、ほうほうと鳴きました。
「それは災難だったね。だが、命が助かっただけ、よかったじゃないか。新しいすみかが決まるまで、うちへおいで」
「そんな。悪いです」
「なあに、遠慮はいらないよ」
 カラス君はとても疲れていたので、その夜は、フクロウさんの巣へ泊めてもらいました。でも、朝日がのぼると、すぐに羽を広げました。
 フクロウさんが、寝ぼけた声で「どこへ行くの?」とたずねます。
「ぼくには、もう何もないんです。親切にしていただいても、お礼ができません。ありがとうございました、フクロウさん。さようなら」

 しばらく飛んだカラス君は、梢に止まって休みました。
 大好きだった巣のことや宝物のことを思いだすと、目に涙が浮かびました。
 高くて美しい鳴き声がしました。
「やあ、カラス君。おはよう」
「コマドリ君、おはよう……」
「どうしたの? 泣いているみたいだけど」
「ぼくはもう、おしまいだよ。昨日の嵐のせいで、家も宝物も、全部なくしちゃった」
 それを聞いたコマドリ君は、
「そうかあ。ひどい目にあったね。でも、悪いことがあったぶん、いいことがあるよ。そうだ、お腹が空いているんじゃない? おいしい実がなる、とっておきの場所を見つけたんだ。いっしょに行こうよ」
「君が見つけたなら、君のものだよ。もらえないよ。ぼくにはもう、お礼できるものはないんだし……」
「なに言っているんだい。ほら! ついてきて!」
 カラス君は断ろうとしたものの、コマドリ君の言うとおり、とてもお腹が空いていました。

 実は熟していて甘く、くちばしが落ちるほどのおいしさでした。いつものカラス君なら、ぴかぴか光るガラス玉でお礼をするところです。でも、今は、そんなこともできません。カラス君は、実をほおばりながら、自分が情けなくなりました。
「じゃあ、またね、カラス君。ここの実は、いつでも食べに来ていいからさ」
 コマドリ君は、ほがらかに鳴くと、行ってしまいました。
「ぼくは、なんて、だめなカラスになってしまったんだろう。泊めてくれたフクロウさんにも、ごちそうしてくれたコマドリ君にも、何のお礼もできないなんて」
 悲しんでいると、元気のいい声がしました。
「やあ、カラス君、こんにちは」
「オオタカさん、こんにちは……」
「どうしたの? 暗い顔だね」
「ああ、ぼくはもう、おしまいです。昨日、巣に雷が落ちて、持ち物すべてが燃えてしまったんです」
「そりゃ大変だ」
 オオタカさんは、迫力のある顔で、カラス君を急かしました。
「ぼやぼやしている場合じゃないぞ。巣作りをしなくっちゃ」
 オオタカさんは、とても迫力があります。カラス君は、追い立てられるようにして、枝から飛びたちました。
 オオタカさんにおすすめされた、幹の太い木に、枝をくみ上げはじめましたが、あまりうまくいきません。カラス君は、独り立ちしたときには、おじいさんから巣をもらったので、初めての巣作りでした。
 オオタカさんは、ちょいちょい様子を見に来て、カラス君がうまくできているかどうか、見てくれました。ときどき、巣の材料もわけてくれました。
「オオタカさんは、親切な鳥だったんだなあ」
 数日して巣が完成したころ、隣の山に住んでいるおばさんがやって来ました。
「家が燃えてしまったんですって! みんなで探していたのよ」
「おばさん、おひさしぶりです。どうです、僕が作ったんです」
「まあ、よく一人でできたわねえ」
 おばさんは感心していました。
「でも、どうしてこんな遠くに……お母さんもお父さんも心配しているわよ。なんで、家族のとこへ行かなかったの」
「あんまりショックだったもので……ぼんやりしていたら、みんなが親切にしてくれたんですよ。フクロウさんが泊めてくれて、コマドリ君は果物をくれて。巣作りを手伝ってくれたのは、オオタカさんなんです」
「オオタカだって!」
 おばさんが叫びました。
「そりゃ裏があるのに違いない。あんたが油断しているすきに、食べてしまうつもりよ」
「おばさん、それは考えすぎですよ」
 カラス君は、あきれましたが、おばさんが帰ったあとも、その考えが離れませんでした。タカの一族がカラスの一族を食べる話は聞いたことがあります。カラス君はもう大人ですが、子どものカラスを、オオタカはさらって食べるそうです。カラス君が結婚して、もし子どもができたら……オオタカさんは、やがて生まれるかもしれない赤ん坊を狙っているのかも……
「ぼくはなんて悪いカラスだろう。羽が黒いのはいいが、心が黒いのはいけない。あんなに優しくしてくれたのに、うたがいを持つなんて」
 しかし、オオタカさんは、どうして、親切にしてくれたのでしょう。カラス君は何も持っていませんし、オオタカさんにしてあげられることは何もないのです。

 次の日、カラス君は、お母さんとお父さんに、新しい家のことを報告するために出かけました。その途中、血相を変えたおばさんと出会いました。
「子どもたちがいないの!」
 おばさんは、きいきいと鳴きました。
「あんたの家へ来なかった?」
「いいえ……」
 カラス君は首をふりましたが、確かなことはわかりません。タイミングがずれて、会わなかっただけかもしれません。
「昨日、あんたの新しい巣の話をしたのよ。きっと遊びに行ったんだと思うの! ああ、どうしよう、うちの子がオオタカに食べられたら!」
 おばさんは風のような勢いで飛んでいきます。カラス君もあとを追いかけました。心の中で不安がふくらんでいきます。かわいくて幼いイトコたちが、もしも……
 巣へ戻ってくると、きゃっきゃっと楽しげな声が聞こえました。
「お、カラス君。戻ってきたね」
 オオタカさんは、カラス君のイトコと遊んでくれていたのです。イトコたちは、オオタカさんがすっかり大好きになっていて、「またね、おじさん!」とうれしそうに羽をふりました。
 カラス君は、恥ずかしくなりました。
「ぼくは最低のカラスだ」
 カラス君は、よろめきながら飛びたち、いつの間にか、昔よく通っていた町へ来ていました。
 屋根に止まり、ぼんやりながめていると、若い娘さんが店から出てきました。かばんからハンカチを取りだしたときに、細い指から、指輪がするりと抜けました。
 カラス君は、考えるよりも先に飛んでいって、指輪を器用にくちばしで拾いあげました。
 高く飛びあがると、角を曲がり、建物の中へ入っていく娘さんが見えました。
 娘さんの姿は、いったん見えなくなりましたが、窓をあけて、部屋に空気をいれる様子が、カラス君の目に映りました。
「この指輪がないことに気づいたら、あの娘さんは悲しくなるだろうな」
 カラス君は、娘さんが窓辺をはなれたすきに近づいていって、指輪をすいーっと投げ入れました。そのとき、カラス君の重かった気持ちは、ふーっと軽くなったようでした。
 日暮れになり、カラス君は巣へ戻りました。
 ちょうど、オオタカさんと会って、あいさつを交わしました。
「やあ。今日はずうっと君を見かけなかったな。出かけていたのかい?」
「ひさしぶりに、町へ行っていました」
 カラス君は、また、町へ出かけるようになりました。道の入りくんだ町を飛んでいると楽しいものがいろいろ見られます。目の良いカラス君は、きらきら光るすてきなものをよく見つけます。ですが、昔のように、いっこうにお金持ちにはなりませんでした。


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