「ねえ。もういいよ。やめてよ。よっちゃん」
義彦は殴り続ける。
もう夕暮れだ。
校舎の裏側。
安太郎先生の顔はもうパンパンだ。
「くそっ。くそっ。くそう」
義彦はもはや怒りで光代の声など聞こえない。
安太郎先生はグッタリして地面に倒れた。
カラスがかぁかぁ鳴いている。
「オレの女に手ぇ出すとこうなるんだ!」
義彦は安太郎先生の頭につばを吐いた。
光代は泣きそうである。
「よっちゃん。やばいよ。先生死んでるよ」
「ふん。知るもんかい。自業自得さ。知るものか」
義彦は自転車にまたがるとものすごいスピードで逃げていった。
あとを自転車で追いかける光代。
安太郎先生は薄れゆく意識の中で思う。
教え子に手を出したオレが悪い。それはわかってる。でも本当に好きだったんだ。人はそれをロリコンという。でもオレは本当にみっちゃんのことが好きだったんだ・・・・。
安太郎先生の頭の上にカラスが糞をした。
だいぶ暗くなってきた。もう日が沈もうとしている。
安太郎先生はもうどうしようもない。動けない。あのガキ、オレがイケメンだからって顔ばっか殴りくさってからに。おかげでアンパンマンみたいになっちまった。
校舎の裏なので誰も気づかない。みな、部活が終わり帰っていく。先生たちも仕事を終え帰ってゆく。警備員さんは警備室でトランプして遊んでる。
まったくあたりは真っ暗だ。寒い。このまま、誰にも気づかれずにオレは死んでいくのか。死にはしないか。それは大げさか。しかし、この寒さ。少なくとも風邪はひいてしまう。
知らぬ間にハゲタカが群がっていた。ちきしょう。こいつらの存在を忘れていた。死んだらこいつらに食われてしまう。
しかし、体が動かない。どうにもならない。
とその時、遠くで銃声がした。
これには警備室の警備員の耳にも届いた。
「なにごとだ」
警備員のたけしとやすおはあわててトランプをやめた。そして、ウイスキーをロッカーに隠して銃声の聞こえた方向に走っていった。
なにしろ、この前、この学校でピストル自殺があったばかりだ。まさか真似しようとしてんじゃねえだろうな。
現場に到着する。懐中電灯に照らし出されたものは、なんと、超有名人の死体であった。こ、こんな大物がいったいなぜ。誰に。
「ど、ドラえもん・・・・」
ドラえもん氏はうつ伏せになりピクリとも動かない。血が流れている。
「たけちゃん。こいつニセモノだよ。だって、血ィ流してんじゃん。本物だったら」
「うるせえ。そんなことは問題じゃねえんだ。いったい誰が殺したんだ」
やすおはツッコむ。
「ちょっと待ってよ、たけちゃん。そんなことより何でドラえもんが学校にいるんだよ。それをまず不思議がろうよ。ねえ」
たけしは腕を組んでそれどころじゃない。やすおのツッコミなど聞いちゃいねえ。
「うーん。完全にこれは他殺だよな。だとしたら一体誰がどんな目的で・・・・」
教室を見渡しても誰もいない。窓も開いていない。月明かりが机を照らす。
銃声。
また、銃声だ。今度は向かいの校舎からだ。
「なんだってんだ一体!」
二人はあわてふためき、ドラえもんのケツを蹴飛ばしてしまった。シッポが揺れた。
階段を駆け下り現場へ向かった。
安太郎先生はまだ動けない。くそう。何てことだ。銃声が二発も。やばい。犯人がここまで来たらオレはどうしようもない。それどころか、ハゲタカの野郎どもが、くそ、舌なめずりしやがって。
薄目で眺めながら、安太郎先生のお腹がぐぅと鳴った。
「ちきしょう。てめえら! 焼き鳥にして食ってやろうか!」
と怒鳴ってやりたかったが、いかんせん、声が出ない。おそらく先に自分が食われてしまうであろう。何てことだ・・・・。
たけしとやすおはA校舎の三階、三年三組の教室に飛び込んだ。
「な、なんじゃこりゃ」
二人は愕然とした。
「こんなバカなことが」
またしてもドラえもんの死体が・・・・。
「たけちゃん。怖ぇよう。ドラえもんて何人もいるのかい?」
「わ、わからん。ロボットだからあっても不思議ではないと思うけど」
たけおは懐中電灯を放り投げた。泣き出しそうである。
「だって、血ィ流してんじゃん。人間やん」
「こんな短足でずん胴な人間おるかよ」
「でも、でも」
ドラえもんの死体がピクっと動いた。
「ひっ」
二人はあわてて抱き合った。
しかし、また動かなくなった。
「ひええ」
二人は恐ろしさのあまり駆け出した。
安太郎先生はその頃、校舎の裏でハゲタカに突かれていた。もう死んでるのだろうか。腐りかけているのだろうか。しかしまだかろうじて意識はある。あきらめてはいけない。がんばれ、安太郎。がんばるのだ。
やすおが階段でコケ、転がっていった。
「うおおおおおおおおおおお」
「やっちゃん!」
壁に激突した。
「ふぎゃあ」 |