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154 お次は王宮を探します

 この学園の図書室だけでも、一万冊を超える本があると図書委員長に聞いたことがある。

 小説だったり、絵本だったり、図鑑だったり、エッセイだったり、難しい学術書だったり、料理のレシピ本だったりと様々だ。

 その著者は、生きている人もいれば、もう死んでしまった人もいるだろう。

 しかし、いずれにせよ、著者が伝えたかったことが書いてあるのだ。


 顔も合わせたことのない人、生きた時代すら違う人の考えを知ることができるなんて、何と凄いことなのだろう。


「分かってきました! 一人一人にできることは小さくても、自分がやったことを本として残しておけば、別の誰かが引き継いでくれるかもしれないというわけですね!」


「そういうことよー。現に、浮遊宝物庫なんて、バラバラに向かった調査団が、あとで自分たちの情報を交換し合って、少しずつ地図を作っているもの。浮遊宝物庫がこっちの世界に現れるたび、地図が更新されていくのよー」


「何だか凄いです。格好いいです! 学長先生はきっと、その地図にもの凄く貢献しているんでしょうね!」


「……あ。そういえば前回まわったところの情報を冒険者ギルドに提出するの、忘れてたわ」


「学長せんせーッ!」


 ローラは叫んでしまった。

 あれだけ知識を共有することの大切さを語っていたくせに、自分はそれを怠っているなんて。


「今からでも遅くないです! さあ、地図を更新しましょう!」


「うーん……五十年も前のことだから、記憶があやふやだわ……現地に行けば思い出すと思うんだけど……」


「自分のしたことを誰かに引き継がせる気ナッシングですわね……」


「なにしに浮遊宝物庫に行ったのか聞きたいくらい」


 シャーロットとアンナは、大賢者に冷ややかな視線を向けた。


「なにしにって、散歩よ散歩。ふらふらしてたら浮遊宝物庫が出現したから、何となく中に入って、お腹が減ったから戦闘メイドにサンドイッチをもらって、一眠りしてから帰ったのよ」


「酷い……完全にニートですわ……」


「ニートじゃないわよ。だってちゃんとした冒険じゃない。冒険者として働いているわ」


「しかし、その冒険の記録を残していないのでは、働いたことにはなりませんわ」


「……イチゴパフェおいしい」


 シャーロットの冷静な指摘に大賢者は答えることなく、ガラス容器の底に残ったイチゴパフェをスプーンでかき集める作業に逃げた。


「まあまあ、シャーロットさん。かつてはニートだった人も、今では立派な学長先生なんですから、許してあげましょう。それよりも、学長先生が今まで浮遊宝物庫でどんなものを発見したのか聞きたいです!」


「当時から学長だったんだけど……そうね、例えば羽衣とか。それを着けると、空を飛べるのよ」


「へえ……でも私たち、それがなくても魔法で飛べますよ」


「だからタンスの中にしまってあるわ」


 絵に描いたような宝の持ち腐れだ。

 使わないなら売ればいいのに、とローラは思ったが、きっと「面倒だから」という答えが返ってくるのだろう。


「剣は見つけませんでしたか? アンナさんに似合いそうな短剣とか!」


「剣はなかったわねぇ。私もそんなに深いところまでは行けなかったし」


「そうですか……じゃあ、他には面白いものありましたか?」


「天井に星空を映し出すオーブとか」


「おお、ロマンチック!」


「あと、服がスケスケになっちゃうメガネなんかも拾ってきたわ」


「え、えっちです! まさか学長先生、それを使ったんですか!?」


「うふふ」


「学長先生がメガネをかけていたら全力で逃げないと!」


「ニートな上に変態ですわぁ!」


「勝手に裸を見るのはよくないと思う……」


 ローラたちは震えながら壁際まで逃げる。

 それを見て大賢者は頬に手を当て、楽しげに微笑んだ。


「大丈夫、大丈夫。さすがに生徒には使わないから」


 すると教師には使ったのだろうか。


「はあ……それにしても、古代文明って意外としょーもない物を作ってたんですねぇ」


 ローラの中で古代文明は、もの凄く偉大だというイメージだった。そのお宝といえば俗世を離れたものだと思っていた。

 それがまさか、スケベなメガネなどを残していたとは……。


「ま、古代文明の人も、えっちなことに興味があったのよ」


「ミサキさんのような人は昔からいたということですか……」


 考えてみれば、獣人は古代文明が人工的に作った種族だ。

 古代文明の人がえっちなら、獣人がえっちなのも道理かもしれない。


「それにしても、学長先生でも浮遊宝物庫に行く方法を知らないなら、やっぱり自然に出てくるのを待つしかないということ。諦めたほうがいい」


 アンナは淡々と呟く。

 初めからさほど期待していなかったのかもしれない。

 しかしローラは期待一杯で来たので、がっくりと肩を落とす。


「うーん……では、どこで短剣を探しましょう……」


「短剣? それって何の話? そもそも、どうしてそんなに浮遊宝物庫に行きたいの?」


「実はですね――」


 ローラたちは、アンナの誕生日が近いこと。アンナのために三人と一匹でモンスターを狩り短剣を二本買ったのだが、すぐに折れてしまったこと。そこで折れない短剣を探していることを説明した。


「へえ、アンナちゃんの誕生日なのね。あいにく私は短剣は持ってないけど……王宮の宝物庫に余ってないかしら? ちょっと陛下におねだりしに行きましょう」


「なるほど王宮に……って、いいんですか!? 野菜とか分けてもらうのとは訳が違うんですよ!」


 ローラが実家に住んでいた頃、町の人から、畑で取れた野菜をもらったりしていた。

 その代わり、ローラの家でも、モンスターの肉や油をお裾分けした。

 ご近所づきあいというものだ。

 そしてギルドレア冒険者学園と王宮は同じ王都にあるので、ご近所といえなくもないが……かなり無茶な話である。


「浮遊宝物庫で探すより、王宮の宝物庫を探すほうが現実的よ。善は急げ。早速、行きましょう」


 話が随分と妙な方向に動き出してしまった。

 やはり大賢者が絡んでくると、大賢者ペースになってしまうのだ。

 相談する相手を間違えただろうか、と思いつつ、しかし『王族のお宝なら期待できるかも』と欲深いことを考えてしまうローラであった。

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