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大魔剣教練


「はいっ。それではレイ君の班も決まったようですので、早速、授業に移りますよ」


 思惑通りレイが班リーダーになったからか、エミリアは上機嫌で言った。


「本日はこれから大魔剣教練を行います。実技教練になりますので、闘技場の方へ移動してください。すでに特別講師の方がお見えになっていますので、失礼のないようにお願いします」


 生徒たちは一斉に立ち上がり、第二教練場を出ていく。


「アノス」


 歩き出した俺に、ミーシャが声をかけてくる。


「どうした?」


「レイは知り合い?」


 妙なことを訊くものだ。


「いや。そう見えたか?」


 ミーシャはこくりとうなずいた。


「楽しそうだった」


 なるほど。


「まあ、面白そうな奴だったからな」


 しかし、知り合いか。

 俺と同じく、転生した配下も何人かいるだろうからな。

 あいつが、その一人だとしても、不思議はない。


 転生といっても色々ある。根源魔法のレベルによっては記憶や力を完全に引き継げない場合も珍しくない。とはいえ、心のどこかでは覚えているものだ。


「もしかしたら、二千年前に会っていたのかもな」


「ねえ。早く行かないと授業始まるわよ」


 遠くからサーシャが声をかけてくる。


「行くか」


「ん」


 ミーシャと並び、また俺は歩き出した。

 

 闘技場にやってくると、生徒たちがなにかを取り囲むように円を作っている。

 中心にいたのはエミリアと、それから二人の魔族だった。


 一人は常人の二倍ほど上背のある巨漢だ。肌は浅黒く、腕や足は分厚い。隆々とした筋肉の持ち主であり、あごひげを生やしている。

 もう一人の方の背丈は普通だ。黒い長髪を持ち、鋭い目つきをした男である。


「それでは、これから七魔皇老ガイオス・アンゼム様とイドル・アンゼオ様による大魔剣教練を行います」


 巨躯の方がガイオス、長髪がイドルか。

 外見は確かに俺が作った魔族とほぼ同じだな。魔力の波長も似たものを感じる。しかし、また融合魔法で根源と体を乗っ取られているのかもしれぬしな。


 それにしても、二人来るとは思わなかった。


「ガイオス様、イドル様。今日はよろしくお願いします」


 エミリアは頭を下げた後、邪魔にならないように隅の方へ引っこんだ。


「フーム。では、一つ、挨拶代わりといこうか」

 

 野太い声が発せられる。

 ガイオスが頭上に手を掲げると、空に数十もの魔法陣が浮かぶ。

 

「生徒の数と同じ」


 隣でミーシャが呟く。


「そのようだな」


 魔法陣に魔力が集まっていき、その中心から、ぬっと剣の刀身が現れる。

 

「な、なんだ、ありゃ……魔剣だぞ……」


「ちょっと待てよ、なんだあの馬鹿みたいな魔力は……。あんなのが降ってきたら……?」


 生徒たちが頭上を見上げたまま、魔法陣から覗く魔剣を恐れるように後ずさる。


「おっと。動くでないぞ、ひよっこ共」


 ガイオスの野太い声が響き渡り、びくっと震えるように生徒たちは足を止める。


「そうだ。そのままじっとしているがよい。動けば、死ぬことになるであろう」


 ガイオスがぐっと拳を握り、思いきり振り下ろす。


「ぬおおおおおおりゃあぁぁぁぁっ!!!」


 怒声と共に、魔法陣からは雨あられのように魔剣が降り注ぐ。


「う、うああぁぁぁぁぁっ!!」


「きゃああああぁぁぁっ!!!」


 闘技場のそこかしこから悲鳴が上がる。

 だが、生徒たちは全員無傷だった。

 彼らの足元には先程の魔剣が突き刺さっている。


「さあ。お前たちの足元に刺さった魔剣を手にし、抜いてみるがいい」


 生徒たちは恐る恐る魔剣を手にし、力を入れた。


「あ、あれ? 抜けないぞ……」


「なんだこれ……魔力が吸い取られる……!?」


「う、ああぁぁ、手、手が放れないっ! た、助けてくれぇぇっ!!」


 再び、そこかしこから悲鳴が上がった。


「はっはっは。喚くな、ひよっこ共。それが魔剣というものだ。真の魔剣は使い手を選ぶ。魔剣に相応しい力を見せなければ、逆に痛い目に合うことになるであろう。魔力を込め、剣をねじ伏せよ。寝ぼけておると、死ぬかもしれぬでな」


 ふむ。見たところ、魔法で作ったものではなく、どの魔剣も本物のようだな。

 魔力の波長を一瞬で見極め、ここにいる生徒全員に相応しい魔剣を選んだのだろう。


「皆も知っておろうが、近日、このデルゾゲードで魔剣大会が開催される。ディルヘイド一の剣豪を決めようという大会なればこそ、ディルヘイド全域から参加者が集う。貴様らひよっこと違い、皆、傑物ぞろいよ。使用する魔剣は自ら持ちこむことになろうが、せいぜいそのぐらいのものを用意しなければ、参加することさえ適うまい」


 生徒たちを鼓舞するように、ガイオスは声を張り上げる。


「魔剣大会にて自らの覇を見せつけたくば、そのぐらいの剣は抜いて見せよ! 見事抜けたならば、くれてやってもよいぞ」


 隣を見ると、サーシャが魔剣を抜こうと思いきり踏ん張っている。

 だが、抜けない様子だ。


「は。なんだ、サーシャ。抜けないのか?」


「……うるさいわね……」


 ミーシャも魔剣を抜こうとしているが、しかし、うまくいかないようだった。


「剣は苦手」


 まあ、魔力の有る無しにかかわらず、得手不得手はあるものだ。

 <蓮葉氷の指輪>や<不死鳥の法衣>は正直、この程度の魔剣よりは遙かに格上の魔法具だが、二人は難なくそれを身につけることができた。


 そういえば、シンの奴も剣については節操がないほど扱えたが、それ以外の魔法具はからっきしだったな。おかげで全てを剣で解決するはめになり、剣術が極まったらしいが。


「……大体、アノスはさっきから魔剣に触れようともしてないじゃない。まさか、抜けないとか言わないでしょうね?」


「く、くくく、はははは。サーシャ、冗談にも程があるぞ」


 俺は眼前の魔剣を一睨みする。

 次の瞬間、魔剣は俺に服従するようにひとりでに抜け、浮かび上がった。


「……お、おい、見ろよ。アノスの奴、手も触れないで剣を抜きやがったぞ……」


「……ちきしょう、どうやってるんだよ? こうして触っているだけで、気を失いそうだってのに……。あいつ、化け物かよ……」


 宙に浮かぶ魔剣を手にする。


「俺に抜けぬ剣などこの世に一本しかない」


「……てっきり、一本もないって言うと思ったわ……」


「神話の時代の勇者が使っていた聖剣があってな。俺を滅ぼすために人の名工が鍛え、剣の精霊が宿り、神々が祝福した魔法具だ。あればかりはさすがに抜けなかったな」


 まあ、あの聖剣を扱えるのはあの時代にも勇者カノンしかいなかった。

 もしかすれば、シンならば、どうにかすれば抜けたかもしれないが、試す機会はなかったな。

 

 そもそも魔族と聖剣は相性が悪い。それも俺を滅ぼすための剣とくれば、あの男なら抜く前に破壊しようとするだろう。


「さて」


 俺はその足でまっすぐ歩いていく。


「ちょ、ちょっと。またなにかするつもりっ?」


 ふむ。サーシャもなかなか俺のことがわかってきたな。


「なに、退屈な授業を少々盛り上げてくるだけだ」


 ガイオスの前まで歩み出ると、奴は感心したように言った。


「フーム。簡単に魔剣を抜くとは、見どころがある奴もいるではないか」


「こちらはがっかりだったがな。大魔剣教練というから、どんな大それた講義かと思えば、こんなつまらぬ遊びにつき合わされることになるとは」


 遠くでエミリアが泡を食ったような表情をしていたが、目の前のガイオスは興味深そうに顎に手をやった。


「はっはっは。なかなか面白い奴ではないか。要するに、こういうことであろう。実戦での、魔剣の使い方を教えて欲しい、となぁっ!」


 ガイオスが手を大きく掲げる。巨大な魔法陣がそこに浮かび、姿を現したのは、ガイオスの背丈の更に三倍もの長さのある、分厚く、巨大な、魔剣であった。

 奴はそれを手にすると、軽々と片手で振り回す。巻き起こる風圧に生徒たちはたたらを踏んだ。


「……やばい、やばいぞ、あれ……。ガイオス様の極大魔剣グラジェシオンだ……」


「確か……ニール山脈を真っ二つに斬り裂いたってやつだろ……もう剣なんてレベルじゃねえよ……」


「さすがにアノスでも、今度こそ死んだんじゃねえか……」


 ふむ。七魔皇老だけあって、まあまあの迫力だ。

 ただ戦うのが目的ではないのだが、少々遊びも入れておくか。


「イドル。お前も遊んでいってはどうだ?」


 長髪の七魔皇老に声をかける。

 すると、不愉快そうな視線が返ってきた。


「我々七魔皇老に2対1で戦えと?」


「なに、こちらも二人で戦いたくてな」


 そう口にすると、ガイオスが豪放な笑みを見せた。


「よかろう。お前の得意な戦い方に合わせてやる。もう一人はどいつだ?」


 俺は後ろに視線をやった。


「そこにいるレイ・グランズドリィだ」


 未だ魔剣に手をつけようとすらしていないレイが、不思議そうな視線を向けてきた。


「いいだろう。では、他の者は下がるがよい。我々が、今から、魔剣の神髄のなんたるかを見せつけてくれようぞっ!!」


 ガイオスが極大魔剣グラジェシオンを地面に突き刺す。

 闘技場の床一帯に魔法陣が浮かび上がり、俺とレイ、七魔皇老の二人を覆う魔法障壁が展開された。


「やれやれ、百年に一度は、こんな身の程知らずが現れる」


 イドルが両手を広げると、二つの魔法陣が浮かび、一対の魔剣が現れる。一つは氷の魔剣。もう一つは炎の魔剣だ。


「ほう。炎の魔剣ゼスと氷の魔剣イデスか。なかなか面白いぞ。かすれば、前者は瞬く間に対象を灰と化し、後者は凍らせ粉々にする」


 突き刺さった魔剣の前にいるレイに歩み寄り、そう話しかける。


「……そんなことより、なんだかよくわからない内に、七魔皇老と戦う羽目になってるみたいだけど、大丈夫かな……?」


「心配するな。ただの授業の一環だ。殺されることはないだろう」


「それはいいんだけど」


 レイは爽やかな口調で言った。


「勝っちゃったらまずくない?」


 ふ、くくくく。

 なにを心配しているかと思えば、そんなことか。

 やはり、面白い奴だ。

 この時代に、七魔皇老を相手取り、そんな大層な口を叩く魔族は殆どいまい。


「存分に力を見せろ。どちらの相手をしたい?」


 レイは七魔皇老の二人を見据え、魔剣を働かせる。


「どちらかと言えば、あの氷と炎の二刀流かな。剣一本じゃ不利そうだしね」


「ほう。不利な方をわざわざ選ぶのか?」


「空気を読んで、少しは苦戦した方がいいかなって」


 負ける気はさらさらないというわけか。

 そうでなくてはな。


「どちらが先に倒すか勝負といくか」


「じゃ、僕が勝ったら、アノス君の班に入れてくれるかい?」


 その言葉を聞き、俺は顔を綻ばせた。


「なんだかんだで、案外乗り気だな」


「班別対抗試験でアノス君を直接相手にするよりは、まだあっちの方が簡単そうだと思ってね」


 レイは魔剣を手にし、当たり前のように抜く。

 そして、思いきり振りかぶると、それをイドルへ投擲した。


「…………!?」


 イドルが炎の魔剣でそれを切り払うと、瞬く間に投擲した剣は灰と化した。


「先手必勝、と思ったんだけど」

 

 続いてレイは隣にあった別の生徒用の剣を引き抜く。

 そして、再び剣をイドルへ投げた。


 即座にレイは走り出し、次々と魔剣を引き抜いては、イドルへ投げつけていく。

 魔剣は持ち主を選ぶ。あれだけの魔剣を抜けるのは、並大抵のことではないな。


「フーム。戦場でよそ見をするとは、愚か者の所業よ」


 音もなく、俺の背後に回り込んでいたガイオスが、極大魔剣グラジェシオンを振り上げていた。


「うまく避けるのだなっ、ひよっこが!!」


 グラジェシオンが凄まじい勢いで振り下ろされ、その巨大な刃先が、俺の頭に直撃する。

 剣圧で床に穴が空き、粉塵が激しく巻き上げられた。


「な………………」


 息を飲むようなガイオスの声が漏れる。

 極大魔剣グラジェシオンは、俺の頭と衝突したことで刃先がぽっきりと折れていたのだ。


「狙い所が悪かったな、ガイオス。頭は硬いぞ」


「……硬……そんなレベルか、これが……。山脈を一撃で両断する極大魔剣が、なぜだ……?」


 魔剣をだらりと下段に構え、俺は言った。


「山脈を両断したぐらいで、俺の頭が割れるとでも思ったか」


 俺の殺気に怯み、ガイオスは咄嗟に後退する。

 だが、奴はその瞬間、俺の姿を見失っていた。


「いない……消えた……だと……!?」


「そう慌てるな。ゆるりと歩いただけだぞ、ガイオス」


 背後から足元を魔剣で切り裂くと、がくんとガイオスは両膝をつく。

 ちょうどいい高さにきた後頭部を俺は左手でわしづかみにした。


「さて、貴様はどこまで覚えている?」


 起源魔法<時間操作レバイド>と<追憶エヴィ>を重ねがけし、奴の記憶の表層を洗う。

 だが、やはり、ガイオスの頭にもアノス・ヴォルディゴードの名はなかった。


 魔眼を凝らし、深くガイオスの深淵を覗けば、案の定というべきか、根源が二つ存在している。一つは今、記憶を探ったガイオスのもの。もう一つが、恐らくアヴォス・ディルヘヴィアの配下の魔族だろう。とはいえ、起源がわからぬ以上、その魔族の記憶を過去に遡り調べることはできない。


 まあ、予想の範疇だがな。ここで尻尾がつかめるとは思っていない。


「続けるか?」


 手を放し、代わりに魔剣を首筋に突きつける。

 ガイオスは苦渋の表情で言った。


「……………………………………オレの負けだ……」


 七魔皇老の敗北宣言に、闘技場から大きな歓声が上がった。

一話で登場して、一話でやられる七魔皇老とはなんなのか……。

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[一言] 有象無象「あ、剣勝手に持ってく無ァ!?」
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