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自転車

作者:帚星 千日紅
 隣に住んでいる奥さんが
 雨の中、自転車を拭いていた。

 白いサドルで、青いボディの、
 ちょうど、四歳か、五歳くらいのこどもが乗るような大きさで
 後輪には補助輪がついていた。

 その日は休日で
 私の家には、妻と息子がいるはずだった。

「こんにちは」

 声をかけて行き過ぎようとすると、
 奥さんは手を止めて、顔を上げた。

 雨は霧雨で、彼女の顔の産毛を白く光らせていた。

 奥さんは私を隣人と認めると、
 カラスに気づいたハトのように顔を伏せた。
 その仕草の居たたまれなさに、
 私もつられて顔を伏せた。

 玄関のドアを開けると息子が飛び出してきて
「パパ、おかえり」
と言った。
 それから私の向こうに降る雨を見て、
「自転車、出しっ放しにしちゃった」
と言った。
 私は息子の頭を撫でて、
「後でパパが拭いて、屋根の下に入れておくよ」
と言った。

 雨の度に、奥さんは青い自転車を庭に出す。

 持ち主がまるで生きていた頃のように
 彼女は握りしめたタオルで、自転車を拭く。

「もう、ちゃんとしまわなきゃダメじゃない」
 妻が息子に言う。
「いつもそうなんだから」
 息子は「はぁい」と甘ったれた口調で返事をして
 妻の足に抱きついた。

 雨は等しく降る。
 私の家の屋根に、隣の家の屋根に、庭の自転車に。

 ひたむきに、彼女は自転車の雨を拭く。
 雨に許しを得て、
 ひたむきに、声もなく、呼びかけ続けるのだ。

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