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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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漂流者たち

80話


 パーカーが照れて黙ってしまったので、俺は人魚のほうに向き直った。
「どうも、不肖の兄弟子がご迷惑をおかけしたようだ。代わってお詫びする」
「いえいえ、ふふふ」
 なんでそんなに嬉しそうなの。
「いいですよね、兄弟弟子……」
「素敵よね」
 人魚たちが嬉しげに尻尾をぱしゃぱしゃさせているが、俺はどう答えていいのかわからなかった。


 個人的にはすぐにでも色々と話を聞きたいのだが、人魚たちはそういう事務的な会話は苦手そうだ。
 ここなら邪魔は入らないし、のんびりと彼女たちのペースに合わせよう。
 だがまずは謝罪だ。
「パーカーは悪いヤツではないのだが、軽薄で誤解されやすい。色々失礼なことを申し上げたようで、俺のほうからもお詫びしたい。申し訳ない」
 すると人魚たちは慌てて尻尾を左右に振った。
「とんでもないですよ、パーカーさんは本当に誠実な方で、色々助けていただきました」
 さすがに信じられん。
 誠実?


「だがこいつ、『上半分でいいから魔王軍に入ってよ』とか言ったそうだが……」
「言ってないですよ、そんなこと?」
 不思議そうに首を傾げる人魚たち。
「私たちが魔王軍の申し出をお断りしたのに、パーカーさんは色々と力を貸してくださったんですよ。とても真面目な方です」
 真面目? こいつが?
 俺は信じられなかったが、人魚たちは口々にこう言った。
「パーカーさんはこの辺りの霊を祓ってくださいました。おかげで私たちは、この辺りの岩礁に隠れ住むことができています」
「パーカーさんが来てくださらなかったら、私たちは数を減らしながら広い海原をあてもなくさまよい続けていたでしょう」


 彼女たちの話をまとめると、どうやら人魚たちは最近まで放浪生活をしていたらしい。とはいえ、彼女たちは回遊魚ではない。狩猟採取民族だが、特定の場所に定住するタイプのようだ。
 パーカーは彼女たちのために、幽霊たちがうろついている岩礁や小島を除霊してやったという。
「海で死んだ者の霊はね、陸地を求めて波間をさまようんだ。だから沖合の小島や浅瀬には、冥府に行けない霊が打ち上げられることが多いのさ」
 パーカーは上目遣いにそう言って、また顔を隠してしまう。
 全然戻ってこないと思ったら、そんなことしてたのか。


 俺がパーカーの顔をじっと見ると、ヤツは困ったように頭を掻いた。
「はっはっは、さぼっていたのがバレてしまったようだね! でもおかげで、除霊術の練習になったよ! もう凄い数だったからね!」
「パーカー」
「なんだい?」
 俺は笑顔で言ってやった。
「ありがとう、いいことをしたな」


 たちまちパーカーはたじろいで、船縁にもたれかかる。
「やめたまえ、褒めるのは反則だろ! 照れるじゃないか!」
「いやいや、魔族を助けるのは魔王軍の方針としても正しい。魔王の副官としては褒めない訳もいかないだろ?」
「い、いや、あれだよ? 交渉が終わった後も、ぐずぐず残ってただけだよ?」
 こいつ、意外と褒められるのに弱いらしいな。
 もっと褒めてやろう。


「いやあ、弟弟子として鼻が高いな。こんなに立派な兄弟子を持てて」
「そ、そうかい? いや、いいんだ、そんなことより、人魚族との交渉をしようじゃないか」
「徳の高い兄弟子殿だ。尊敬してしまうな」
「や、やめてくれないか……」
 ずるずると船底にへばりつき、動かなくなるパーカー。
 この方法は使えるな。
 メレーネ先輩にも教えておこう。


 面倒くさい兄弟子を沈黙させたところで、俺は人魚たちとゆっくり話をすることにする。
「実は人間たちが、君たちのことを疑っている。人間の船を襲っているのではないか、と」
 たちまちざわめく人魚たち。
 伝説では水を操るだの船を沈める呪いをかけるだのと言われているらしいが、彼女たちにそこまでの力がないことは何となく想像がつく。
 吸血鬼や犬人もそうだからだ。人間たちは想像力がたくましいから、すぐにあれこれと神秘的な設定をつけたがるのだ。


「私たちは人間の船を襲ったりはしません。『こないで』の歌で、住処から退去してもらうことはあります」
「どっちかというと、人間たちが私たちの仲間を捕まえてるんじゃないかって、みんなで噂してるんですよ」
 どういうことだ?
 するとパーカーがカタカタと起き上がりながら、こう説明してくれた。
「僕は元人間だから覚えてるけど、人魚は不老不死だと思われてるんだよ。見た目が全然歳を取らないからね」
 おまけに女性しかいないので、やたらと神秘的なイメージで見られているらしい。
 だから人魚に不老不死の秘密が隠されているのではないかと、一部の心ない人間たちが人魚を狙っているのだという。


「私たちは確かに見た目があまり変わりませんが、どちらかというと歳を取ると外に出られないのです。海の中は敵だらけですからね」
 人魚たちが悲しげに言う。彼女たちは十代半ばから二十代後半ぐらいにしか見えないが、実は四十代の人魚もこの中にいると教えてくれた。俺には見分けがつかない。
「海の中には凶暴な魔物がたくさんいます。私たちは泳ぎの速さと歌の力で敵を退けますが、どちらも通じない場合は食べられてしまうのです」
 だから歳を取ると人魚たちは早めに隠居し、岩礁の中で若手の歌唱指導や子守などを担当するのが一般的なのだという。人前には姿を現さないだけらしい。


 ちなみに男の人魚もそれなりにいるそうだが、歌よりも泳ぎの速さに特化しているので、群れの中では狩りの担当だそうだ。みんな魚や貝を獲るのに忙しいらしい。
 魔物にでも襲われるのか、狩りに出たまま行方不明になってしまうことも多く、男の人魚は常に不足気味だという。
 同じ男としては、なんとなく同情してしまう話だ。
 なんていうか、人間たちが思うほど神秘的でも優雅でもないみたいだな……。
 パーカーが人魚に同情的になるのも、わかる気がする。


「私たち若い人魚は泳ぎも速く、歌の力も強いのです。しかし前にいた海域では、同年代の人魚たちが急に何人もいなくなってしまいました」
「特に群れから孤立するような性格でもありませんでしたし、人間か魔物に襲われたとしか……」
 悲しげな表情の人魚たち。
「私たちは人間と戦う力はありませんし、あったとしても争いはしたくありません。ですから安全な海域を求めて、さまよっていたのですよ」
 なるほど。そこにこの軽薄な骸骨が来たという訳だな。
 人魚たちが前にいた海域はベルーザに近かったため、彼女たちは人間を警戒して引っ越すことにしたそうだ。しかしやっとみつけた岩礁は幽霊だらけで近寄れず、歌でも追い払えないので困っていたのだという。
 人魚たちが前にいたのは、ちょうどベルーザの東の海域らしい。ベルーザからロッツォへの航路にも近いな。


 人間も人魚も、お互いに相手を攻撃してはいないと証言している。
 どっちの証言も本当なら、両者を襲う第三の「敵」がいる可能性もあるな。
 だとすれば「敵」は人間か、それとも魔物か……。
「なあ、パーカー」
「なんだい?」
 俺は修行時代、師匠の蔵書で読んだ記述を思い返していた。
「海に棲む魔物で、人魚や帆船を餌食にできるようなのっているかな?」
「んー……どうだろうねえ。陸にも巨大生物はいるし、海にも何かいそうではあるけどね」
 パーカーは肩をすくめたが、ふと思い出したように言った。
「そういえば人魚族を求めて漂流中、深い霧に迷い込んだことがあるよ」
「霧?」


 パーカーは人魚と会うために骸骨船乗りたちと共に海に漕ぎ出したが、その航海の途中で数日間霧に閉じこめられたという。
「風も潮も止まったようで、霧がどんよりと立ちこめていたんだ。おかしな場所だなあと思って、念のために覚えたての幻術で小舟を隠したんだよ」
 それからは結局何事もなく、やがて霧は晴れてパーカーは人魚たちと出会えたという。


「確かに変ではあるけど、なんて言ったらいいか……」
 こいつ、骨なんだよなあ。
 魔物がパーカーを見つけても、食べるところがない。仮に魔物に遭遇していたとしても、あっちが素通りしてしまうだろう。
 まあ今の話は一応覚えておくか。
「とりあえず君たちの事情はわかったから、ちょっと人間たちと相談してくる。良ければ同行してもらえると嬉しいんだが」
 すると人魚たちは少し怯えたように、互いに顔を見合わせた。
 やはり無理か。
「そういえば、君たちの長は誰だ?」
「特にいないんです。私たちは戦いませんから、誰が一番かわからなくて……」
 話し合いで決めればいいのに、妙なところで魔族気質だな。


 とにかく一度戻って、ガーシュたちと相談してみよう。
 それにリューンハイトにも連絡をしたほうが良さそうだ。
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