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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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それぞれの決意

67話


 俺は魔王様の手紙を読んだ後、じっと霊廟を見上げた。
 自信満々な割に負けちゃったじゃないですか、魔王様。
 みんな落ち込んでるのに、死んじゃった本人だけ楽しそうなのはズルいですよ。
 もしかして、またどっかに転生してるんですか?
 この世界のどこかだったりしませんかね?
 それならみんなで探しに行きますよ?


 答える者はいない。
 俺は手紙を懐にしまい、目元をごしごし拭う。
 それから深呼吸して、霊廟に頭を下げた。
 魔王様が一生魔王だったように、俺も一生魔王の副官として生きていこう。
 どうやら俺は、副官を辞めるチャンスを永遠に失ってしまったらしい。
 魔王様、後のことは俺たちに任せてください。
 ただの副官が何とかいたしますので。


 城内に戻った俺は、まず最初の問題から片づけることにした。
「師匠、早く魔王になってくださいよ」
「無茶を言うでない」
 大賢者ゴモヴィロアは、自室のベッドの上でじたばたもがいていた。まるで子供だ。
「わしは王の器などではないぞ。あくまでも研究者、しかも人間じゃぞ。無理無理無理じゃ」
「いい歳して駄々をこねないでくださいよ。魔王軍をこのまま崩壊させる気ですか? 人間もたくさん巻き込んじゃってるんですから、今さら後には退けませんよ」


 師匠は枕を抱いて、ぷうっと頬をふくらませる。
「そんなに言うなら、おぬしが魔王になればええじゃろうが」
「俺ですか!?」
「真の勇者を倒した英雄、しかも魔都リューンハイトを築いた功労者じゃ。誰も反対はすまい」
「そんなこと言ったら、師匠だって魔王軍旗揚げ時の最古参じゃないですか。世界最高の魔術師ですし」


 しかし師匠は断固として認めない。
「わしは肝心なときに寝ておったのに、これではまるで簒奪みたいじゃろうが」
「そんなことないですって。肝心なときに寝てたのは俺もです」
 俺の説得にも関わらず、師匠はぶんぶんと首を横に振りまくる。
「いーやーじゃー!」
「子供か!」
「人前に出ること自体が苦手なのじゃよ。今後は人間たちの前にも出なければならぬじゃろう。わしは魔族はともかく、人間が苦手なのじゃ。無理に決まっておる」
 師匠の人見知りにも困ったものだ。
 だが俺は師匠とは長い付き合いだから何となくわかる。


 師匠はたぶん、俺に甘えているのだと思う。
 魔王軍を共に作った盟友を全て失い、周囲からは次期魔王としての活躍を期待されている。
 師匠は最強の魔術師で、優れた研究者で、熱心な教育者だが、政治家でも軍人でもない。どちらかというとそういうのには向いてないタイプだ。
 だから師匠は今、こうやって俺とぐだぐだしゃべりながら、何とか決意を固めようとしているところなのだろう。
 俺はそんな気がしたので、師匠のわがままにとことん付き合う。


「それならいい方法がありますよ、師匠」
「なんじゃ?」
 俺は師匠の部屋のクローゼットから、魔術の修行用の等身大パペットを引っ張り出した。
「こいつを魔王にしましょう」
「なんじゃと?」


 俺の説明を聞いた師匠は、ふむふむとうなずく。
「なるほど。人間たちの前に姿を現すときだけ、操り人形を代役にするということじゃな」
「はい。これならハリボテでいくらでも立派にできますし、暗殺されても困りません。師匠は物陰にでも隠れて、台本読みながら演説すればいいんです」
 前世の漫画などで、何度か見たパターンだ。
 玉座に座っているのはただの操り人形で、真の魔王は側近のように控えている美しい少女。
 うん、これだ。


 師匠も少し考える様子をみせている。
「なるほどのう。人間は怖いが、物陰に隠れていても良いのなら何とかなりそうじゃの」
「でしょう?」
 師匠はまだ少し考えていたが、やがて大きくうなずいた。
 他愛もないおしゃべりをしているうちに、どうやら決意が固まったようだ。
「魔王様たちが全人生を懸けて築き上げた魔王軍、わしのわがままで滅ぼす訳にはいかぬ。わしも命がけでやってみよう」
「それでこそ俺の尊敬する師匠ですよ!」


 師匠は俺に歩み寄ると、小さな手で俺の手を握りしめた。
「しかし、わしひとりでは心許ない。おぬしを始め、他の弟子たちにも助けてもらうことになるじゃろう。よいか?」
「もちろんです、師匠。俺たちで魔王様の遺志を継ぎましょう」
「うむ、そうしよう」
 師匠はにっこり笑った。


 新魔王ゴモヴィロア誕生。
 この報は魔王軍全体に、ごくすんなりと受け入れられた。
 先代の魔王様は常々、自分の後継者のことを口にしていた。
 そのため魔王軍の誰もが、「魔王様に何かあれば、誰かが後を継ぐ」ということをなんとなく理解していたようだ。


 師匠は魔王軍旗揚げに携わった、最古参メンバーだ。それに短時間しか本気を出せないものの、魔力切れを起こすまでは無敵に近い。
 第三師団の幹部は師匠の弟子たちだから、尊敬する師匠が魔王になることに異論はない。
 それに第二師団も、北部戦線で師匠に二度も助けられている。おかげで将兵からは聖女扱いだ。こちらも問題なさそうだ。
 そして第一師団もまた、師匠の魔王継承に賛成してくれた。魔王様の遺志を尊重したのだ。それに第一師団は古株が多いので、師匠と縁の深い者も多い。
 おかげで意見の取りまとめはびっくりするぐらい簡単だった。


 こうして魔王軍は新たな魔王、ゴモヴィロアに導かれることとなった。先王様の追悼を兼ねた戴冠式が、近日中に行われる予定だ。
 ただ、師匠が魔王を襲名することになったため、第三師団の師団長が空位になった。
「誰がやるんですか?」
「おぬしがやればよかろう」
「いや、第一師団の副官なんですが。師匠直属の副官ですよ?」
 師団長になると、やることが多すぎて俺の手には負えない。
 俺と師匠は顔を見合わせ、そしてこう言った。
「じゃあメレーネ先輩にお願いしましょう」
「決まりじゃの」
 メレーネ先輩なら、他の弟子がみんな言うこと聞くからな。


 俺は第一師団に留まり、引き続き魔王直属の副官として働くことになった。外交のことを考えると、この方が動きやすい。
 メレーネ先輩が後で文句を言ってきたが、新魔王様の勅命なので無視しておいた。
「ちょっとヴァイト、なんで勇者やっつけた張本人が副官のまんまなのよ! 師団長やりなさい!」
「嫌ですよ、メレーネ先輩の上官なんて」


 俺が断ると、メレーネ先輩はフィルニールのほうを振り向く。
「もうヴァイトったら、本当に可愛くなくなったわね! いいわよ、フィルにやってもらうから」
「ボクはもっと無理だって! お師匠様の弟子としても、魔王軍の将としても、経験が浅すぎるもん」
 あきらめておとなしく第三師団を率いてください、吸血鬼の女王様。


 まだ心の痛みは引きずってはいるものの、俺たちはこうして魔王様の遺志を継いで戦い続けることにしたのだった。
 魔族が人間と暮らせる国を作る。
 魔王フリーデンリヒターの描いた夢を、俺たちはこれからも追いかけ続けるのだ。


 ただその前に、俺は師匠から「ちょっとしたお手伝い」を頼まれることになった。
 何だろうな?
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