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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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交易都市シャルディール救援作戦(前編)

56話


「これより、シャルディールの救援に向かう!」
 俺は人馬兵と竜人騎兵、それに人狼隊を前にしてそう叫んだ。
「ただしシャルディールは表向き、ミラルディア側になっている。そのため今回は、各隊とも変則的な動きになる。十分留意してくれ」
「了解!」
 蒼鱗騎士団を率いるバルツェ副官が敬礼し、人馬隊を束ねるセイシェスもうなずいた。
「わかった……」
 魔族はすぐに勝手なことをするから心配だが、彼らなら大丈夫だろう。
「人狼隊、総員変身せよ! では出陣!」


 俺は人狼隊を全員変身させると、騎兵たちと共に出撃させた。もちろん先頭を走るのは俺だ。
「おいヴァイト、隊長なんだから一番後ろ走れよ」
 まさか脳筋のガーニー兄に言われるとは思わなかった。
 ファーンお姉ちゃんも、それにうなずく。
「そうね。ところで今週のヴァイト係は、どこの分隊?」
「ああ、俺んとこだな」
 ジェリクとその分隊員たちが手を挙げた。
 どういうことだ?


「ちょっと待て、なんだそのヴァイト係ってのは。聞いてないぞ」
「戦場でヴァイトくんが突っ走らないよう、護衛と監視をする係だよ。異議は認めません」
 俺は人狼隊の隊長だぞ。そんなことを勝手に決めるなよ。
「いいから安全な場所で指示してろよ、隊長」
「あんたが戦死したら、また隠れ里で芋掘って食う生活に逆戻りだからな」
「それに魔王様になんて申し開きすりゃいいんだよ。少しは考えろ」
 いつの間にか、俺がみんなから心配される側になっている……。


 するとジェリクが走りながら、俺の肩をポンと叩いた。
「心配するな、大将。あんたのことは、俺たちが守ってみせる」
「四人全員合わせても、隊長より弱いかもしれないけどな」
「なあに、盾になるぐらいはできるさ」
 気楽に笑うジェリク隊の人狼たち。
 俺が無謀なことをすれば、こいつらはそれより無謀な方法で俺を守ろうとするだろう。しかしそれは、部下を危険に曝すことになる。
 ああそうだった。
 だから魔王様は、前線に出ないのだ。


 今回の敵は、歩兵と騎兵が二千だ。こちらは騎兵が千。
 まともに戦えば勝ち目はないが、もちろんまともに戦うつもりはない。戦争だからな。
「ウォッド隊、北上して網を張れ。交戦は絶対にするな」
「よっしゃ、腕が鳴るわい」
 元傭兵の白い人狼が楽しげに笑う。
 そのまま四人の人狼が隊列を離れ、砂塵の中に消えていく。


 GPSもスマホもない世界なので、敵の位置を見極めるのは大変だ。しかしそれができれば、一気に優勢になる。
 同盟軍は騎兵と歩兵だから、歩兵の速度で行軍することになる。もし騎兵だけが先行していた場合は、作戦変更だ。
 一方、こちらは全員が騎兵の速度で行軍できる。一千人全員が足並みを揃えているのだ。


 ただしリューンハイトに同盟軍接近の報告がもたらされた時点で、同盟軍はかなりの距離を移動しているはずだ。リアルタイムの情報ではないからな。
 後は同盟軍がシャルディールに到着していないよう、祈るしかない。


「しかしヴァイト殿、この作戦は本当にうまくいくのでしょうか?」
 バルツェ副官が、やや心配そうに問いかけてきた。
「もしアラムという太守が裏切っていれば、挟撃を受けることになります」
 その可能性も十分にある。だが俺はこう答える。
「その場合はこちらの速度を生かして、一気に離脱するしかないでしょう。それにどのみち、やることは同じです」
「確かに」
 俺はアラムが裏切るとはあまり思っていない。
 あのときの熱弁が俺を欺くための演技だったら、大した役者だと思う。それなら最初からミラルディアとの関係ぐらい、どうとでもできたはずだ。
 だからまあたぶん大丈夫だろう。一応備えはしておいたしな。


「見えた!」
 先行していた人馬隊から、誰かの声が聞こえる。すぐに他の隊からも、同様の声があがった。
 シャルディールの城壁が、砂塵に霞む彼方にうっすらと見えている。
 まだミラルディア軍の姿はない。
 どうやら間に合ったようだ。


 少し離れた丘の上で、俺は人狼隊に命令を下した。
「人狼隊、変身を解け! ここで待機! ハマーム隊はシャルディールに進入しろ!」
 人狼たちは人間の姿に戻ると、その場にしゃがみ込んだ。
 ハマームはシャルディールに何度か来たことがあり、アラムとの顔見知りだ。
 まずはアラムと連絡を取ろう。
 魔王軍にびっくりしてるだろうからな。


「人馬隊はシャルディール東門に回れ! 蒼鱗騎士団は西門に布陣せよ!」
 シャルディールは交易都市にも関わらず、城門が東西にしかない。
 北側は湖なので仕方ないが、南門が存在しないのには訳がある。
 衛兵隊の上限を低く設定されてしまったので、門を増やすと警備や防衛ができないのだ。
 だから二つの門を包囲するだけで、シャルディールを一時的に外部から孤立させることができる。


「セイシェス、あいつらが裏切っていない限り、シャルディール兵とは交戦するなよ」
 俺の声に、寡黙な人馬族の戦士はうなずいた。
「わかっている。戦うべきときだけでなく、戦わざるべきときも見極めるのが、真の戦士の技量というものだ。過ちなく兵を率いてみせよう」
「相変わらずお前、戦いのことになるとよくしゃべるな」
「ああ……そうだな……」
 少し赤面しつつ、セイシェスは部下を率いて駆け出していく。


「では私も出撃します」
 バルツェ副官は颯爽と騎竜を操り、部下たちと駆けていった。
 噂に名高い蒼騎士殿の勇姿、拝ませてもらおう。
 俺は人狼隊と共に、ここで様子を見守ることにした。
 シャルディールの城門は閉ざされ、西門を蒼鱗騎士団が包囲している。いかにもこれから攻め込むといった具合に隊列を整えているが、その場から動かない。
 城壁側からも、特に矢などの応戦はないようだ。今のところはうまくいっているな。
 後は常備軍が来るのを待とう。


 しばらくすると、ハマームたちが戻ってきた。
「やはり、アラムには何も知らされていない様子です。驚いていました」
 やっぱりな。
 ハマームは続けて、こう言った。
「ミラルディア軍の意図について尋ねたところ、強制的に兵を駐留させるつもりではないか、と答えていました」
 なるほど、太守の意向はお構いなしか。
 しかしいきなり二千人も人間が押し掛けてきたら、食わせる飯とか寝る場所とか大丈夫なんだろうか。
 まあ俺の知ったことではないが……。


 一方、ウォッド隊の分隊員からも妙な報告が届く。
「ミラルディア同盟軍を確認。騎兵三百、歩兵五百です。敵は行軍中で、騎兵を先頭にした縦列陣でした。ウォッド爺さんによると、重騎兵と軽歩兵だそうです」
「なんか数が合わなくないか?」
 人狼たちが顔を見合わせる。
 主な可能性はふたつだ。


 ひとつめは、残り千二百ほどの兵力がどこかに存在している可能性。これは行軍の遅れという可能性もあるし、伏兵や別働隊の可能性もある。
 もうひとつは、単純に数を見誤った可能性だ。
 報告をもたらしたのは軍人ではなく、民間人の交易商だ。町中や街道を行軍する軍勢を、正確に把握できるとは限らない。


 最悪の可能性として、千二百の兵がリューンハイトに向かっているというものがある。
 だとすれば、ここでのんびりしている訳にはいかない。骸骨兵の指揮はいざとなればラシィが担当するが、彼女は軍人としては素人だ。
 戻るべきだろうか。


 俺は悩んだが、状況を整理する。
 現時点では、敵は俺たちより少ない。おまけに行軍用の縦列陣だ。このまま戦っても負けることはないだろう。
 唯一負ける可能性があるのが、アラムが裏切った場合だ。
 この場合、シャルディール兵三百ほどが俺たちを挟撃してくることになる。
 こうなると、さすがに戦いの行方はわからなくなってくる。


 ただ、アラムが裏切った場合は逃げればいいだけだ。騎兵を振り切って逃げられるように部隊を選抜したのもそのためだ。
 それよりも、ミラルディア軍が妙なことを考えていた場合にアラムを守らねばならない。ここで失敗すると、密約を破棄される可能性もある。
 ここは勝負に出るところだ。
 いざとなれば、人狼隊で大暴れしてやる。


 俺は覚悟を決めて、人狼隊に命令する。
「人馬隊と蒼鱗騎士団は別命あるまで待機しろ。人狼隊は難民に偽装してシャルディールに向かってくれ。俺はジェリク隊と共に、ウォッド隊と合流する」
「了解!」
 全員の声がそろう。
 千人以上の命を預かる重圧に負けないよう、俺は声をあげた。
「いくぞ!」
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