挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

43/415

謀略の値札

43話


 それからまたしばらく、俺はリューンハイトの魔改造に取り組んだ。
 犬人隊に数日がかりで作らせた大量の土嚢で、工事現場を取り囲む。急な敵襲でも、少しの間だけ作業員を守るためだ。数十秒でいいから時間を稼げれば、人狼隊が作業員たちを救助できるだろう。
 あとこれは誰にも言っていないが、土嚢で囲んだ陣地が敵に占領されたときは、中に火薬樽を投げ込む予定である。たぶんよく効くと思う。


 問題は、クルツェ技官が火薬に全く触らせてくれないことだな。
「ヴァイト殿は絶対に『竜の息吹』に近づいてはいけません!」
 なんであんなに険しい口調なんだ。
 みんなには内緒だが、火薬の扱いなら慣れている。
 前世では爆竹を空き缶に入れてみたり、花火で雑草を燃やしてみたり、色々と研鑽してきたのだ。
 いずれ鉄砲隊も作ってみせるぞ。


 俺は大型クロスボウの矢に爆弾を取り付ける構想を練りながら、ひとまず工事の進捗を見守ることにした。
 やることはたくさんあるが、一番気がかりなのは勇者対策だ。
 魔王様と同じぐらい強かったら、正直どうやって勝てばいいのかわからない。次元が違いすぎる。
 少なくとも、人狼隊全員ぶつけても勝てないのは確実だ。


 しかも困ったことに、勇者がどんな人物で、どういう方針で何をしているのかがわからない。
 軍隊と違って個人の行動は予測がしづらい。明日いきなりリューンハイトの城門前に現れたとしても、そう不思議ではないのだ。
 なんせここは「魔都リューンハイト」だからな。勇者が攻め込んでくるには、十分すぎる理由がある。


 そのときは一千体の骸骨兵で迎え撃つ予定だが、なんせ単騎では捕捉もしづらい。
 いざというときには、人狼隊全員で戦いを挑む可能性も考慮しておこう。隠れ里を出たときから、みんな覚悟はできている。
 とはいえ、戦いたくないなあ……。


「ヴァイト様、ただいま戻りました!」
 犬人の古参兵たちがリューンハイトに戻ってきたのは、それから数日後だった。
「おお、元気そうで何よりだ。新兵の募集はどうだった?」
「はい、五……」
 五人じゃないだろうな? 五十人か?
「五百人集まりました!」
「多すぎる!」
 そんなに養えるか。人口三千人の小さな街だぞ。先日も人馬隊五百人が駐留を開始したばかりだ。
「でも城門前に集まってますし」
「いきなり連れてきたのか」
「魔王軍が無理なら、リューンハイトへの移住でもいいそうです!」
 厚かましい連中だ。


 俺は慌てて犬人隊の下士官クラスと相談して、五百人のうち百人を新兵として採用した。工兵隊とクロスボウ隊に振り分け、工兵隊二百人とクロスボウ隊百人で再編成する。
 選考は犬人隊に一任したので、そう間違いはないだろう。彼らは仲間を選び取る嗅覚は確かだ。
 残りの四百人は、ひとまず城壁拡張の作業員として雇用する。新しい城壁が完成したら、新市街を作って住まわせることにしよう。
 とにかく今は人手が必要だ。


 こうしてリューンハイトの人口は四千人を超え、アイリアはしばらくこれらの処理に忙殺されることになる。
「魔族の移住も大歓迎ですが、少しは加減してください」
「ちゃんと納税させるから、大目に見てくれ」


 リューンハイトの外で景気のいいかけ声と工事音が響いている中、ようやく俺の待ち望んだ情報が入ってきた。
「勇者の一行は、北部のシュベルムに滞在していましたよ」
 リューンハイトの交易商人のひとり、マオがそう報告してくれた。人当たりの良さそうな男だ。
「一行? 勇者は複数いるのか?」
「いえ、勇者は一人です。名はランハルト。彼を補佐する仲間が三人いるようです。いずれも相当な手練れだとか」
 厄介だな。人間は徒党を組むといきなり強くなる。


 しかしシュベルムといえば、魔王軍の侵攻で破壊され尽くしたはずだ。今はミラルディア同盟軍によって奪還されているが、拠点にできるものだろうか。
「難民たちが戻ってきて、街の再建をしているのを見ました。勇者一行は周辺の魔王軍残党を駆逐して、治安を回復したようです」
 この野郎、さらっと第二師団を残党扱いしやがったな。事実だが。
 マオは俺の視線に気づいて、ニヤリと笑う。
「失礼しました。現在は破壊された城壁と城門の応急修理が終わり、近日中にシュベルム駐留軍五千が帰還するそうです」
 まずいぞ。


 シュベルムは第二師団が立てこもる最後の都市・バッヘンの隣だ。シュベルムに五千もの軍勢が戻ってきたら、もう勝ち目はない。
「ミラルディア同盟軍の動向はわかるか?」
「それは依頼の範囲外ですので……」
 マオは申し訳なさそうに言って、こう続けた。


「少しだけ調べてきました。北部のミラルディア同盟軍の主戦力は、そのシュベルム駐留軍五千と市民義勇兵一万です」
「おお、ありがたい」
「市民義勇兵は戦況が落ち着いてきたので、それぞれの街に戻って休息している様子でした。大規模な攻勢があるとすれば、再呼集があるでしょう」
 よし、すぐにシュベルムに誰か張り付かせよう。
「うちの隊の者が数名、商談ついでにシュベルムに滞在しています。市外で落ち合えば、いつでも市内の様子をお伝えできますよ」
「……なんか、できすぎてないか?」


 するとマオは笑った。
「誠実な協力には、誠実な見返りがあると信じております」
「本当に誠実な協力ならな」
 魔族同様、人間にも色々いる。どうやらこいつは、ちょっと用心した方がいいタイプのようだ。
 だが、役立つ情報がまとめて入ってきたのはありがたい。
 腹芸は疲れるから単刀直入にいこう。
「貴殿の求める誠実な見返りとは何だ? 単なる金品ではなさそうだが」


 マオは嬉しそうな顔をする。
「お察しの通りです。人馬族を数名、我が輸送隊に迎え入れたい」
「理由は?」
「彼らの健脚と武勇、それに魔族との交渉力は、交易商人にとっては貴重なものです。魔王軍所属である必要はありません」
 確かに人馬族は、人の知恵と馬の機動力を持っている。訓練された戦士でなくても、狼程度なら蹴散らせるしな。それに彼らがいれば、魔族の支配地域を安全に通行できる。
 数人、それも兵士でなくてもいいのなら、何とでもなるだろう。


 でも俺は、こういう美味しい話には用心することにしているんだ。
「本当にそれだけだろうな?」
「もちろんです。優秀な人材を求めているのは、魔王軍も交易商も同じですから」
 この手の狡猾そうなヤツに人脈や特権を与えるのは、どうも気が進まないんだが……。どうも裏がありそうな気がする。
 ああ、わかったぞ。
「人馬族を雇用することで魔王軍との人脈を喧伝し、商売に利用するつもりか?」


 マオは明らかにぎくりとした様子で、ぎこちない笑みを浮かべる。
「おっと、ばれてしまいましたか……」
「悪党だな」
「悪党ですとも」
 なんてヤツだ。
「ダメだ。そういう目的なら協力はできんぞ。腐敗の温床になる」
 とたんに残念そうな顔をするマオ。油断も隙もあったもんじゃない。
 少し間を置いてから、俺は彼に言ってやる。
「そういうのは、もう少し魔王軍に貢献してからだ」
「もう少し、ですか?」
「ああ、もう少しだ」
 たっぷりこき使ってやるから覚悟しろ。


 マオは溜息をついて、俺に頭を下げた。
「ではもう少し、お役に立つことにしましょう。今後はヴァイト様の個人的な密偵として、無償で情報をお届けいたします」
 こいつ、交渉の引き出しを山ほど持ってるな。
 まだ何かあるだろ。
 視線で訴えかけると、マオはまた交渉の引き出しを開けてきた。
「それと、城壁の建築資材を密かに調達できるよう、手を回しておきます。大量の建材が動けば、すぐに敵に露見しますので」
「具体的にはどうするつもりだ?」


 俺の問いに、マオは地図を広げて指で示した。
「北部から来た商人を装い、北部の都市復興に使うという名目で、南部の都市から良質な石材を買い集めます」
「おいおい、北部から重い石材を買いに来る商人がいるのか?」
 するとマオはニヤニヤ笑う。
「北部では今、復興のために大量の石材が実際に必要になっていますからね。遠くから買い付けに来ていても怪しまれませんよ」
 こいつ、同じ人間の苦境をだしに使う気か。
「悪党だな」
「悪党ですとも」
 にっこり笑うマオ。


 前世ではこういうヤツは山ほど見てきたが、魔族にはなかなかいないタイプだな。こういうのは大抵、ぶちのめされて終わりだ。
 しかし役に立ちそうなのも事実だ。
 魔王軍に役立つ限りは使ってみるか。
「いいだろう。今後もよろしく頼む。だが調子に乗ると、その首をもらうことになるぞ」
「肝に銘じておきます」
 マオは恭しく一礼した。


 彼が退出した後、俺は隣室のドアに向かって声をかける。
「モンザ」
「はぁい、隊長」
 人狼隊屈指の諜報員・モンザが、音もなくドアを開けて姿を現した。
「お前の隊で、あいつを見張れ」
 彼女は楽しそうな様子で、薄く笑った。
「裏切ったら殺しちゃう?」
「ボコボコにしてもいいが、生かして連れてこい」
「ん、わかった」
 さて、どう転ぶかな?
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ