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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

外伝

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副官の決意

外伝32話


 フリーデは砂まみれのまま平然としている父親の姿を、じっと見つめていた。
(私のせいだ……)
 お父さんがあんな危ない目に遭ったのは、私が不注意だったせいだ。
 そう思ってしまうフリーデ。
 自分の役割を果たすことに必死で、魔物に対しての注意が完全に疎かになっていた。


 そのせいで父は現場の指揮官という立場を投げ出し、自分の救助を優先した。
 父が無敵を誇る魔王軍最強の将軍だったから良かったようなものの、そうでなかったらと思うとゾッとする。
(これはやっぱり、謝っておかないといけないよね)


 他の人狼だけでなく、初対面の竜人や猫人もいる中だったが、フリーデは意を決して進み出た。
「おと……副官殿」
「ん?」
 振り向いたヴァイトの顔つきは、いつもの優しい父親だった。


「副官殿、私の不注意で……」
「何を言っている、不可抗力だろう。もっと手前で荷物を置くように指示しなかった俺の不手際だ」
 ヴァイトはそう言って頭を掻く。
「いつものことだが、戦闘を始めると細かいところに指示が行き届かなくてな。見習いを危険な目に遭わせてすまない。フリーデは少し休め」


「え、でも……」
 怒られるとばかり思っていたフリーデは、どうしたらいいのかわからない。
 ヴァイトは砂を払いながら、周囲に笑いかけた。
「俺自身の手落ちも含めて、反省会は後でゆっくりやろう。まずは周辺の安全確認だ。あの怪物の死体を確認しよう」


 すると集まった人狼たちの中から、誰かが答えた。
「あの隊長、バラバラに吹き飛んでて何が何だかわからないんですが」
「いや、あれだ、残骸だけでも見つかればいい。そのへんに牙とか皮とか落ちてないか?」
「どう、ですかね……?」
 何となく捜索の流れになり、みんなあちこちに散って、砂を掘り返したりし始める。
 フリーデの謝罪の件は、それで終わりだった。


 しばらく捜索すると、あちこちから怪物の残骸が発見された。
「見事にバラバラだな……」
 ヴァイトが腕組みをして、小さく溜息をつく。
「標本を持ち帰るか、せめて大まかな姿だけでもスケッチしておきたかった」
「自分でやっといて……」
 パーカーが呆れたように言う。


 フリーデはそんな光景をぼんやり見ていたが、いつの間にか横にロルムンド人狼のヨシュアが立っていた。
「フリーデさん、君のお父さんは凄いね」
「私のことは呼び捨てでいいよ?」
「そうはいかないさ。ロルムンド人狼の代表として礼儀正しくしろって、ひいばあちゃんがうるさくて……」
 ヨシュアが溜息をつく。


 だが彼はすぐに、目をキラキラさせて尋ねてきた。
「ヴァイトさんの戦い方、凄く新鮮だったよ! 人狼隊の魔撃銃の使い方も、ロルムンドとは全然違う! 洗練されてた!」
「そ、そうかな? そうかも」
 フリーデは軍人志望ではないので、まだその辺りはよくわからない。


 ヨシュアは今夜の給食担当なので、乾パンや干し肉の袋を開けながら続ける。
「人狼といえば変身して接近戦を挑むのが当たり前だけど、さっきは魔撃銃を使いながら遠距離で戦ってた。あれはロルムンド軍の戦い方に似てる」
「ふーん……」


「僕たちロルムンド人狼も魔撃銃は使うけど、あくまでも他に方法がないときの切り札だよ。あんな洗練された動き、とっさにはできない」
 ヨシュアは少し悔しそうだった。
「やっぱり、ミラルディアの人狼は進んでるなあ……。ヴァイトさんみたいな長がいれば、ロルムンドの人狼だってもっと進歩するのに」


 そこに幼なじみの竜人シリンがやってくる。
「フリーデ、体調はどう? 動ける?」
「あ、うん。元気元気」
 シリンが心配そうな顔をしているので、フリーデは笑ってみせた。
 とたんにヨシュアが険しい表情になる。


「フリーデは休ませてあげてくれないか?」
 だがシリンは首を横に振る。
「野営の支度をしないといけない。夜になれば砂漠は急激に冷える。十分な準備が必要なんだ。僕たち見習いの出番だよ」
 なぜかシリンはヨシュアに対して、心を許していないようだった。


 ヨシュアは不満そうだったが、シリンの言葉に反対はしなかった。
「わかった。でも手伝えることがあったら、僕に言ってくれ。フリーデはさっきまで、魔物に襲われていたんだ」
「わかってる。無理はさせないよ」
 シリンは冷静にうなずいたが、どことなくよそよそしい。


 それから彼はフリーデと共に歩き出し、少し離れてから気まずそうにこう言った。
「彼は……その、悪いヤツではないと思う」
「うん」
「あんまり好きにはなれないけど」
「うん」
 なんでだろと思うフリーデだった。


 一方その頃、砂鱗氏族の竜人たちは野営の支度をしながら言葉を交わしていた。
「驚いたな」
「ああ。我らの領域の外に、あれほどの魔物がいたとは。これまでは先祖代々の言い伝え通りに領域を守ってきたが、おかげで命拾いしていたようだな」
 すると別の竜人が首を横に振る。
「それもあるが、私が言いたいのはあの人狼の武将だ」


 彼らの視線の先には、人狼たちと何か相談しているヴァイトの姿があった。
「彼はあの大怪獣を相手に怯むことなく戦いを挑み、一兵も失うことなく打ち倒した。我らに同じことができようか?」
「無理に決まっている。我らの飛び道具は槍と弓、それに石だぞ」
 そこで一同は沈黙する。


「かつて蒼騎士殿と刃を交えたときも、この世にこれほどの達人がいようかと驚嘆したものだが」
「我らも歴戦の古強者と自負していたが、竜人が竜人に敗れるのは仕方ない。だが今回は人狼だ。しかも強さの桁が違う」
「ああ。魔王の副官と名乗るだけのことはある。そして魔王や大魔王は、副官である彼よりも強いのだろう」
 彼らは魔王アイリアや大魔王ゴモヴィロアと会ったことはないが、魔族の常識としてはそうなる。


 彼らはまた黙り込み、それから互いに小さくうなずきあった。
「どうやら砂漠の外には、途方もない猛者がまだまだいるようだ」
「我々もそろそろ拠り所を定める頃合いだな。帰ったら皆と相談しよう」
「うむ。魔王軍の一員として庇護を受けられれば、これほど心強いことはない。魔王軍はワともよしみを通じていると聞く。東の人間たちと争いになることもあるまい」
 砂鱗氏族の戦士たちはそう言うと、また黙って野営の準備を続けた。


   *   *   *


 そして俺は、ハマームたち分隊長に囲まれていた。
「副官」
「なんだ」
「なんで毎回吹っ飛ばすんですか」
 なんでって言われても。


 強いて言えば「爆発イコール勝利」という強烈なイメージが、前世の段階で既にできあがっているからだろうか。
 実際勝てたし。
 ただ問題は残る。


「魔撃銃の弾倉がもうないんですが、これからどうするんです?」
「どうしようかな……」
 まさか俺も爆薬代わりに使うとは思ってなかったからな……。
 まだ人工蓄魔鋼の開発は途中だし、今回吹っ飛ばした被害総額がどれぐらいになるか考えたくもない。
 帰ったら大急ぎで始末書を書かないと。


 いや、それよりも問題なのは今後の戦闘計画だ。
「また同じ魔物と遭遇した場合、今度は戦う方法がないな」
 というか、起爆にダメ押しの光弾を撃ち込む必要があるから、誰かがヤツの間近まで行かなくてはいけない。
 そしてたぶん生き埋めになる。
 いくら蓄魔鋼があっても、さすがにもうごめんだ。


「さすがにあんなのがそこらじゅうにいるとは思えないが、いったん出直した方が良さそうだな。我々が全滅でもしたら、報告が届かなくなる」
「いや、さすがに全滅はしないと思うけど……少なくともヴァイト兄ちゃんは平気でしょ」
 スクージがそう言い、残りの分隊長がうなずく。
 俺をなんだと思ってるんだ。


 俺は頭を掻き、こう決定した。
「いささか格好悪いが、格好のために前進するのはもっと格好が悪い。無謀な行動は慎むべきだ」
「隊長がそれ言いますか……」
 うるさいな。
「とにかく休息後に帰還しよう。消息を絶った調査隊については、魔物に捕食されたということで結論づけてもいいだろう」


 なんせ大爆発でバラバラになったもので、遺留品もほとんど見つかっていない。
 ボロボロに腐食した金属片がいくつか見つかった程度だ。これが遺品なのか、それとも溶けた蓄魔鋼なのかさえわからない。
 詳細な調査は専門家にゆだねよう。


 分隊長たちがそれぞれの仕事に散っていった後、パーカーが当たり前のような顔をして俺の横にたたずむ。
「久しぶりの本格的な実戦だったね」
 こいつ、俺の考えを見抜いてるな……。
「ああ、そうだ。久しぶりすぎて腕が鈍った。戦闘計画の立て方も雑だったし、指揮も丁寧さを欠いていた。おかげで危うく娘を失うところだった」
 今回は進歩した武器に救われたが、前線指揮官としてはそろそろ潮時だな。


 俺は溜息をつき、それからパーカーに笑いかける。
「今後はさらに後進の育成に力を入れよう。もう俺なんかの出る幕じゃない」
「そううまくいくかな? みんなはそう思ってないだろうからね」
 パーカーはそう言い、カタカタと笑ってみせた。
「もちろん、僕も思ってないよ」


「反省を促したのはあんただろ?」
「えっ、嘘!? 僕そんなことした!?」
 ちくしょう、わざとらしい驚き方しやがって。
 こうなったら絶対引退してやるからな。
 見てろよ。
※次回更新は来週後半の予定です(7巻書籍化作業中につき前後することがあります)。
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