挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

外伝

405/415

砂塵の覇者(後編)

外伝31話


 フリーデが怪物の口に呑み込まれようとしている。
 助けなければ。
 電気もネットもない世界でも別に構わないが、フリーデのいない世界は絶対嫌だ。
 失ってたまるか。
「フリーデ! 今行くぞ!」
 俺は変身と同時に命綱を引きちぎり、斜面を駆け下りる。


「おい、隊長!?」
「ヴァイト兄ちゃん!」
「長老!?」
 背後からいくつも声が聞こえるが、今はそれどころじゃない。
 うちの娘が死ぬか生きるかの瀬戸際なんだ。
 こんな魔物の餌にするために一生懸命育ててきた訳じゃないんだぞ。


 俺は強化魔法で身体能力を限界まで引き上げ、滑り落ちていくフリーデより早く駆け抜ける。
 穴の底に落ちる寸前、俺はフリーデをすくい上げるように抱き留めた。
「お父さん!」
「もう大丈夫だ!」
 大丈夫かどうかはわからないが、大丈夫にしてみせる。
 それが俺の役目だ。


 駆け下りる勢いを利用して強引にジャンプし、牙だらけの巨大な穴を飛び越える。足場が悪く、踏み切りが不十分でヒヤッとした。
 そのまま反対側の斜面を駆け上がろうとしたが、さすがに強化された人狼の力でも難しい。
「くそっ!」
 フリーデの体重程度は問題にもならないが、斜面を蹴っても勢いが吸い込まれ、必要な力が生じない。足が埋まるだけだ。


「隊長、命綱を投げます!」
 斜面の反対側で人狼たちが俺たちの救出のために駆け回っているが、投げ込まれたロープがもう砂に埋まっている。
 そもそも垂らされたロープにたどりつくには、もう一度怪物の口を飛び越えないといけない。
 間欠泉のように砂が噴き出しているから、かなり危険な賭けだ。


 どうすればフリーデを助けられる可能性が一番高い?
 俺は一瞬悩む。この瞬間も俺は猛烈な勢いで砂の奔流をかき分けているが、じりじり後退している。
 さっきと違って、この位置からだと助走が足りない。何をするにも力が不足していた。
 違う方法を考えないと。


 フリーデが恐怖を感じたのか、俺の肩をぎゅっとつかんでいる。
 そのとき俺は気づく。
 必要なことは、たったひとつだけだ。
「フリーデ」
「な……なに、お父さん?」


 不安そうなフリーデに、俺は笑いかける。
「お父さんがお前を投げるから、お前はそれに合わせて思いっきりジャンプしなさい」
「えっ!? お、お父さんは!?」
「心配するな、お前の避難が済み次第、あの魔物を片づける」
 俺はフリーデにも強化魔法をかけてやる。一回限りだが脚力を大幅に増強し、さらに体重も軽くした。


「話は後だ、時間がない。いくぞ!」
 俺が有無を言わせない口調で告げると、フリーデの目に力が戻ってきた。
「うん!」
 俺は人狼の掌でフリーデを支え、前世で見た砲丸投げのフォームに入った。


「行けええええっ!」
 俺は吼えながらフリーデを投げる。
 同時にフリーデが勢いよくジャンプした。
「いくぞおおぉっ!」
 さすが親子、合わせなくてもタイミングはバッチリだ。
 あいつが三歳ぐらいの頃、よくこうやって遊んでたからな……。


 などと腰まで砂に埋まりながら、俺は追憶に耽る。
 フリーデが俺の手を踏み台にしていったので、反動で俺は大きく砂に沈み込んだ。
 一方、フリーデの方は綺麗な放物線を描いて、斜面の上に消えていった。もう戻ってこない。やれやれ、これで大丈夫だ。
 後は俺が俺自身を救出するだけなんだが、こうも埋まってると面倒だな。


 そのときフリーデの必死な叫びが、遠くから聞こえてくる。
「お父さん、絶対、ぜったい、戻ってきてね! 死んだらダメだよ! お母さんに怒られるよ!」
 見事に見透かされていた。
 勝手に生きたり死んだりできないから、親というのは責任が重い。


 とはいえ、どうするか。
 フリーデは俺を足場にすることでジャンプできたが、俺の周りには砂しかない。
 これを踏んでも蹴ってもまともな反作用が生じないため、脱出は不可能だ。
 そもそも今は腕しか使えない。


 こうなると魔物に呑み込まれて内側から破壊してやる方が楽な気がしてくるが、そう簡単にいくなら苦労はしないだろう。
 あっちだって先祖代々、獲物を丸呑みにして生計を立てているのだ。
 大型の獣や武装した人間だって丸呑みにしてきただろうし、今だって魔撃銃のマガジンとか呑んで……。


 あ、そうか。
 俺が呑まれる必要なんか全くなかった。
 いいものがあるじゃないか。
 俺はフリーデが置いていったバッグを見る。
 魔力がフルチャージされたマガジンが、ぎっしり詰まっていた。


 ずっと前にエレオラから教えてもらったことがある。
 蓄魔鋼は大量の魔力を蓄積できるが、限界を超えると暴発するのだ。
 彼女はかつて、それを利用してリューンハイトの城門を爆破した。
 この魔物がどれぐらいタフかは知らないが、城門を吹っ飛ばす破壊力には耐えられないだろう。


 ということで、ざばざば砂をかき分けつつ、マガジンに魔力を注ぎ込む。
 蓄魔鋼がみるみるうちに膨らんできた。
 前世でスマホのバッテリーがこうなるのを見たことがある。これは怖いな。
 全ての蓄魔鋼が不気味にぼこぼこ膨らんだところで、俺はバッグを砂に流した。


 それから俺は、凶悪な牙がずらりと並んだ巨大な口を見る。
 俺も怪物の口に吸い寄せられているところだが、よっこらしょと俺専用魔撃銃を構える。
 呑み込まれる直前、ヤツの口の奥めがけてありったけの魔力を撃ち込んでやった。
 フッと体が軽く浮くのを感じたところで、俺の意識は途切れた。


 それから数秒ほどの間だろうが、俺は気を失っていたのだと思う。
「お父さーん!? お父さーんっ!」
 フリーデの声がやけに遠い。
 どうやら俺は今、砂に完全に埋まっているようだ。


 丸呑み対策で呼吸は強化魔法で確保していたが、見事に生き埋めだ。砂の圧力で全身ぎっちぎちに固定されている。
 人間なら脱出は不可能だが、人狼には重機のような馬鹿力がある。がんばって這い出すとしよう。
 そう思っていたら、声が急激に近づいてきた。


「ここ! お父さん、ここに埋まってる!」
「空気が乾いてて俺たち人狼の鼻でもよくわからないのに、どうして……?」
「だってわかるんだもん! それにほら、魔力がここに吸い寄せられてる! パーカーさんならわかるよね!?」
「……ほんとだ。僕でも気づかないぐらい微かだけど、ここに魔力が吸い込まれてるよ」
 俺の頭の上で相談してないで、掘るのを手伝ってくれよ。


 しょうがない、一気にやるか。
 声の距離から判断して、そう深く埋まっている訳ではなさそうだ。これぐらいなら何とかなる。
 俺は温存していた魔力を使い、力任せに砂の層を割る。
 よっこいしょと砂を掻き分け、俺は地上に帰還した。
 ああ、光だ。砂漠の新鮮な空気がおいしい。
 全身砂まみれでようやく脱出した俺は、狼の毛についた砂を払ってほっと溜息をつく。


 ふと気づくと、人狼隊だけでなく砂鱗氏族の竜人たちや猫人たちも周囲を取り囲んでいた。
 全員、棒やスコップを手にして呆然としている。
 なんなんだ、この気まずい空気は。
 俺は気まずさをごまかすために、もう一度肩の砂を払う。
 それから魔王の副官として、重々しく発言した。
「みんな無事か?」


 次の瞬間、人狼隊全員がほぼ同じ内容の言葉を叫んだ。
「こっちの台詞だよ!?」
 御心配をおかけしました。
※次回更新は5月12日(金)前後の予定ですがよくわかりません(書籍化作業中のため)。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ