挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

40/408

重弩と戦争の犬たち

40話


 北部戦線については、俺はなるべく関わらないことにした。
 俺を交渉の達人みたいに思ってる副官もいるようだが、俺は元人間というだけの平凡な人狼だ。
 そんなにあれこれさせられてたまるか。


 バルツェ副官が「シューレ副官を止めてほしいのですが……」と言ってくるのを丁寧に断ってから、俺は師匠の魔法でリューンハイトに帰還する。
「やれやれ……しばらくグルンシュタットに顔を出したくないですね」
「おぬしの外交手腕は魔王軍に轟いておるからのう。調略の魔術師と噂されておるぞ?」
「やめてください、恥ずかしい」
 師匠にからかわれながら、俺は執務室に帰って今後の計画を立てる。


 やはり気になるのは、ミラルディア同盟軍だ。
 北部戦線はまだ崩壊してはいないが、師団長自らが奮戦しているようでは末期といってもいいだろう。
 今は残存する兵力をバッヘンに集めるのが先決だが、いずれは撤退だろうな……。
 もしそうなると、ミラルディア同盟軍は南部に兵を回すことが可能になる。


 ミラルディアの十七都市のうち、南部の三都市は占領している。敵対しているのは十四都市だ。
 北部の一都市も占領はしているが、住民がみんな逃げてしまって他の都市にかくまわれているので、十四都市分の人口を敵に回していることに変わりはない。
 雑な見積もりだが一都市につき衛兵五百人・市民兵千人とすると、二万ほどの敵戦力が存在している計算になる。
 市民兵は練度が低いからそんなに怖くないが、この数とは戦いたくないな。


 さらにミラルディア同盟軍には有事に備える常備軍があり、これが全土に一万か二万ぐらいいるようだ。
 北部の都市シュベルムにいた五千の兵力も北部方面の常備軍で、噂によれば大半はまだ健在だという。
 普段は各地で半農半兵の生活をしているが、こいつらは官給をもらっているれっきとしたプロの軍人だから手強いだろう。
 農作業でかなり鍛えてるだろうし、こいつらとも喧嘩したくない。


 他にも小規模な戦闘集団はいくつか存在しているが、当面の敵はこいつらだ。
 さすがに四万の軍勢が押し寄せてくることはないだろうが、一万ぐらいならいつ攻めてきてもおかしくはない。
 のんびりもしていられないな。


「難しい顔をして考え込んでおるのう」
「師匠、まだいたんですか!?」
「ここは居心地がいいからの」
 イスに腰掛け、あどけない顔をして笑う師匠。仕草は子供だが、ちょっと疲れた表情をしている。
 トゥバーン攻略のときの疲れが、まだ少し残っているのだろうか。
「お茶飲みます?」
「そうじゃの」


 暖炉でのんびり湯を沸かしながら、俺は師匠と今後の相談をする。
「リューンハイトを防衛する戦力が足りませんね」
「そうじゃのう。わしがもう少し本調子なら、急いで骸骨兵を量産するんじゃが……とはいえ、万単位で揃えるとなると三ヶ月以上公務そっちのけになってしまうの」
 それは困る。暇そうに見える師匠だが、副師団長を務める弟子たちへの支援が忙しいのだ。


「それに骸骨兵は、メレーネやフィルニールのところにも送らねばならんからのう。北部からの侵攻を防いでもらわねばならぬ」
 それもそうだ。あの二都市は北面の盾だからな。
「骸骨兵はあきらめますけど、どっかにいい戦力いませんかね?」
「まだ蜂起しておらん種族を、弟子たちが説得して回っておるがの。どの種族も事情があるから、無理強いはできんのう」


 となると、可能性があるのは俺のコネで呼べる連中ぐらいか。
 人狼はもう全員連れてきてるようなもんだし、竜人はそんなに引っ張ってこられない。
 じゃあ犬人か……うーん、でも弱いからなあ。
 いや、待てよ。
「何か思いついたようじゃな?」
「はい。いいこと思いついたので、ちょっと試してみます」


「装填よーし!」
「装填よーし!」
「上下角よーし!」
「上下角よーし!」
「発射!」
 バシンという激しい弦鳴りの音がして、太矢が飛んでいく。


 俺は犬人隊の中から人員を選抜し、トゥバーン特製の固定式クロスボウの扱いを訓練させていた。
 こいつは大きすぎて持ち運ぶことすら困難だが、城壁に取り付けて使うだけなら誰でもできる。
 装填はハンドル式なので、頑張ってぐるぐる回せば犬人でも弦の巻き上げができる。
 トゥバーンでは射手と巻き上げ手の二人だけで運用していたようだが、俺は巻き上げ手を二人配置した。長期戦になると疲れるからだ。
 あとは射手、それに指揮や観測を担当する分隊長で、合計四人というとこだな。このあたりは前世の世界の戦車兵や砲兵を少し参考にさせてもらった。
 望遠鏡が量産化に成功したら観測手を独立させよう。


 せっせとハンドルを回す犬人兵に、俺は腰を低くして訊ねる。
「どうだ、楽しいか?」
「はい、すごく楽しいです!」
「撃つのも楽しいです!」
「矢を拾いに行くのも楽しいです!」
 こいつら本当に、何でも楽しそうにこなすなあ……。


 だが問題は、実戦で人を撃てるかどうかだ。
「敵が攻めてきたら、こいつで敵を殺すことになる。覚悟はできてるか?」
「はい! きっと楽しいと思います!」
「いっぱい殺します!」
 純真無垢な笑顔を見て、俺は子供に人殺しの訓練をさせているような罪悪感を覚えた。いや、こいつら大人なんだけどな。
 なるべく彼らが戦わずに済むように、俺が頑張ろう。
 しかしこれなら、もっと犬人がいてもいいな。


 俺は犬人隊の古参兵数名に、故郷の森に戻って犬人の志願兵を募ってくるよう命じた。犬人は数が多いから、若い男に限っても軽く千人以上いるはずだ。
「おやつ手当は、ササミジャーキーで支払う。それと土木工事や畑仕事があるから、穴は掘り放題だ。そう伝えてほしい」
「はい! がんばります!」
 びしりと敬礼して、彼らは西へと去っていった。
 たぶん大丈夫だと思うんだが、犬人のやる気を刺激するスイッチってどこにあるのか、まだよくわからないんだよな……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ