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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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轟く巨人

39話


 緊急の軍議には、俺も参加することになった。俺も今は第一師団の所属だからだ。
 とはいえ、実質的には南部戦線担当の第三師団なんだよな……。
 それよりも、なんで城の中庭で軍議なんだ。


 そんなことを考えていると、不意に頭上が暗くなった。
「おお、みんな集まっとるようだのう」
 のんびりした野太い声が、頭上から聞こえてくる。
 この状況はひとつしかありえない。第二師団の師団長が前線から帰還してきたのだ。
 第二師団の師団長は巨人族だ。


 第二師団長、『轟山』のティベリト。
 巨人族最大の体躯を誇る、魔王軍最大の戦士だ。禿頭に白い髭、そして恐ろしいほどの筋肉。
 大半の巨人族がせいぜい数メートルなのに対して、ティベリト師団長は十数メートルもある。巨人族の中でも特異な存在だ。


 中身の詰まった立体物は何でもそうだが、高さが二倍になると重さは八倍になる。幅と奥行きも倍になるからだ。
 師団長は人間の十倍ほどの身長だから、十倍の十倍の十倍で……千倍か。
 その一撃がどれほどの重みがあるかは、くらってみなくてもわかるだろう。
 顔の位置が六階ぐらいの高さなのだから、歩く要塞みたいなものだ。


 ただこの師団長、意外と気は優しい。にこにこ笑いながら、静かに中庭の片隅に腰を下ろした。
「みなの衆、待たせてすまんのう。人間どもがしつこくての」
 よく見ると、皮鎧や棍棒のあちこちに赤い染みがついている。
 ティベリト師団長が優しいのは、魔族相手だけだ。


 ティベリト師団長は俺を見つけて、まじまじと顔を近づけてくる。味方だとわかっていても怖い。
「お前さん、人狼じゃろうが。なんで竜人の師団におる?」
 笑顔なのに、もの凄い圧迫感だ。俺は背筋を伸ばして答える。
「第三師団から異動になりました」
「ほほう、そうかそうか」
 うんうんうなずいてるが、たぶん事情は全く理解していないと思う。
 ティベリト師団長は武勇では魔王様に次ぐ猛者だが、頭の中はだいぶボケてるからな。難しいことは考えてない。


 直後に魔王様も姿をみせて、さっそく軍議が始まった。
 ティベリト師団長の要領を得ない報告が割と長時間続き、几帳面揃いの第一師団の副官たちは相当イラついたと思う。
 俺は北部戦線とは無関係なので、比較的余裕をもって話を聞けた。


 要約すると、シュベルム市から退却した第二師団は最後の都市バッヘンの手前で陣を立て直し、追撃してくるミラルディア同盟軍と戦ったという。
 何がどうなったのかは説明を聞いても全く理解できなかったが、おおよその見当はついた。
 師団長がほとんど一人で敵を追い散らしたのだ。
 この巨体だから、攻城用の大型投石器でも使わないとまともなダメージを与えられない。
 しかしこのおっさん、投石器の攻撃ぐらいなら棍棒で打ち返して、敵陣に叩き込んでくる。


「まーあれじゃ、第二師団の底力っちゅうやつじゃな。気合いがあれば勝てる、うむ」
 そう締めくくったティベリト師団長に、第一師団の副官たちは顔を見合わせる。
 言いたいことはわかるぞ。でも言うなよ。


 そのとき、魔王様が口を開いた。
「ティベリトよ、配下の軍勢はどのようになっておる?」
 頭を掻く巨人。
「それがのう……戦っとるうちに、みんなバラバラになってしもうてのう。今は手下たちが自分の隊を集めとるはずなんで、また報告させますじゃ」
 ひどい報告だが魔王はもう慣れているらしく、うなずいてティベリトに退出を命じた。
「承知した。大儀である、しばし城内で休むがよい」
「いやいや、そうはいかんですじゃ。皆が待っとるからのう」
 ティベリト師団長は副官たちを踏みつぶさないように、そうっと静かに立ち上がった。
「すぐに戦場に戻りますじゃ。わしがおらんと、いつ攻め込まれるかわからんでの。ここに戻ったのも、うちの若い衆に食わせる飯を取りにきただけじゃ」


 魔王様は彼を見上げ、少し楽しげに挙手してみせた。
「うむ、無理をせぬようにな。武運を祈るぞ」
「ありがとう、魔王様」
 ティベリト師団長はにこにこと笑うと、専用の門からゆっくりと出ていった。食糧を満載した荷車を両手に三台ずつ抱えて。
 悪い人じゃないんだよなあ……。


 ティベリト師団長がいなくなって、やっと第一師団の軍議が本格的に始まる。
 第一師団の副官たちは、勇猛な武人であると同時に冷徹な戦略家でもある。
 今後の北部戦線について、激しい議論が戦わされた。
 俺は無関係なので、ひたすら黙って座っているだけだ。
「ヴァイト殿」
 なんだなんだ?
「南部戦線歴戦の将として、北部戦線について御意見をうかがいたい」


 そう言ったのは、「紅鱗騎士団」を率いる「紅騎士」ことシューレ副官だ。バリバリの武闘派である。
 ちなみに女性だ。
 竜人族では有名な美女らしい。
 残念なことに、俺には全く嬉しくない情報だ。


「北部戦線ですか……」
 意見と言われてもな……北部戦線は俺のやり方と違いすぎて、もうどこから手をつければいいのかわからんぞ。
 ただひとつだけ、確実に言えることがある。
「ここまで荒らしてしまった以上、南部戦線のような戦略は通用しないでしょう。人間の諸勢力を懐柔して味方に取り込む作戦は不可能です」
 するとシューレ副官は露骨に落胆した表情をみせた。
 おいおい、まさか期待してたのか?


 竜人族は感情と理屈を切り離して考えるのが得意だが、そのぶん他種族の感情に疎いところがある。
 決して情の薄い種族ではないのだが、こういうところで冷酷な種族だと誤解されがちだ。


「ヴァイト殿の調略なら、これ以上の消耗を避けられるのではないかと期待したのですが……」
「生活基盤を破壊され、多数の同胞を殺された人間に、説得はほとんど通用しません」
「そうですか……」
 バルツェたちも暗い表情をしている。
 いや、無理だろう。
 俺だって何とかしてやりたいが、ここまで泥沼化した戦線をどうにかできるのなら、前世で大統領にでもなっている。


「そうなると、もはや短期決戦しかありません。第一師団からも戦力を投入しましょう。私が参ります」
 シューレ副官は凛とした口調で告げたが、バルツェ副官が慌てて止めた。
「い、いけません、シューレ殿。あなたに何かあっては……」
 ん? こんなにそわそわしているバルツェ副官は珍しいな。
 シューレ副官の手腕は知らないが、第一師団の主戦力のひとつを率いている以上は相当な猛者のはずだ。
 ……ああ、そういうことか。
 もちろん彼らにも、愛する人を失いたくないという感情はあるのだ。
 真面目な堅物だと思っていたが、バルツェ副官もたまには私情を挟むことがあるんだな。


 そこから先は、第二師団を撤退させる案から第一師団全軍で侵攻する案まで、様々な意見が出た。
 俺はニヤニヤしながらバルツェ副官を眺めていただけだが、俺には北部戦線に回せる部隊がいないのだから仕方ない。
 結局、当面はバッヘンの防御を固めることとなり、前線は第二師団に任せることになった。


 第一師団からは、シューレ副官が紅鱗騎士団五百騎と竜人歩兵三千を率いて第二師団の援軍に向かうことになった。
「いいですか、シューレ殿。あくまでも貴殿は第二師団撤退時の支援です。決して前に出ないように」
「わかっております、バルツェ殿。第二師団の武名に傷をつけてはなりませんからね」
「いえ、そうではなく……」
 この二人のやりとりは、見てて飽きないな。
 がんばれ、バルツェ殿。
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