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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

外伝

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結成! フリーデ団

外伝12話


「あ、あった」
 フリーデは貼り出された順位表を見る。
 フリーデ・アインドルフの卒業試験成績は受験者三十二人中、三位だった。もちろん合格だ。
「三位か。……まあ、一位はユヒテに決まってるよね。で、二位はシリン」
 順当な結果だと、うんうんうなずくフリーデ。
 あの二人は頭の出来が違うから、勝てるとは最初から思っていない。


 三位以下の凡人集団は僅差の団子状態で、ゴチャゴチャにもつれあっていた。
 それでも一応、フリーデがトップだ。
 かなり勉強した甲斐があったと、フリーデは満足する。
「これはまあ、優秀な成績だよね」


 するとそこに卒業試験の首席と次席がやってきた。
 輝陽教のユヒト大司祭の孫娘、ユヒテ。
 竜人の蒼騎士バルツェの息子、シリン。
 どちらも初等科に名を轟かせた優等生で、志望する科への進級が決定している。


「フリーデ、おつかれさま」
 シリンが笑いかけ、ユヒテも微笑む。
「これでみんな、無事に卒業ですね」
「シリンとユヒテは試験受ける前から、卒業できそうなのはわかってたでしょ……」
 フリーデはぼやくが、ユヒテは首を横に振る。


「決して油断してはならぬと、おじいさまが常々仰っていますから。結果が貼り出されるまではドキドキしていましたよ」
「さすがにそれは心配しすぎなんじゃ……」
「計画というものは順調に見えるときほど、用心しなければならないそうです。おじいさまの戒めです」
「そうなんだ」


 二人はユヒト大司祭の過去についてあまり知らない。
 するとシリンが微笑む。
「ユヒト様は本当に立派な方だよ」
 彼の胸元では、輝陽教の聖印が揺れている。


 シリンは竜人族で初めて、輝陽教に入信した人物となった。
 もちろん竜人族や輝陽教司祭たちの間ではかなり議論になったのだが、最後はヴァイトとユヒト大司祭の意向が通った。
 ヴァイトは輝陽教の聖人認定を受けている上に、魔王の副官だ。
 誰も逆らえなかった。


 輝陽教にとっても、魔王軍最高幹部の子息が入信したことは大きな価値を持つ。
 すでにライバルの静月教には一部の魔族が入信を始めており、出遅れる訳にはいかなかったという事情もあった。


 そんな大人の事情を知らないシリンは、聖印をぎゅっと握りしめる。
「僕ももっと修行を積んで、この聖印に恥じない立派な騎士にならないと」
 その言葉にフリーデが素早く反応した。
「あ、今日もバルツェおじさまと稽古?」
「そうだよ。見に来る?」
「もちろん!」
 フリーデは大きくうなずいた。


 魔王軍は魔都リューンハイトのあちこちに駐屯地を設けている。
 そのうちのひとつで、シリンは父親のバルツェと剣の稽古をしていた。
「いい踏み込みだ、シリン。だが『引き』が遅い」
 ミラルディア最高峰の剣士として名高いバルツェは、二刀流で巧みに攻防を織り交ぜてくる。


「戦場において、攻撃は間断なく繰り返されるものだ。例え相手を倒したとしても、次の行動にすぐに移れるように素早く動かねばならない」
「はい、父上!」
 二人は刃引きした双剣で激しく打ち合う。鉄と鉄が火花を散らす。
 バルツェの考案した「四刃舞」は、その名の通りに四本の刃が舞い踊る激しいものだった。


 竜人の兵士たちと共に見学しているフリーデは、ユヒテとひそひそ話をする。
「凄いよね、バルツェおじさまの剣術」
「フリーデもやってみたい?」


 ユヒテの問いに、フリーデは溜息をついて首を横に振った。
「やってみたいんだけど、あれしっぽが生えてないとできないから……」
「そうなんですか?」
「しっぽでバランス取れるから、物凄く深く踏み込んだりできるんだって。しっぽの反動で素早く回転できるし、とにかくしっぽが足りない」
「フリーデに竜人のしっぽが生えていたら、とても可愛いでしょうにね」
 くすくす笑うユヒテ。


 フリーデはシリンたちの稽古を真剣な表情で見つめながら、こう続ける。
「『四刃舞』は実戦の技というよりは稽古方法でね、陽と陰のそれぞれの太刀があるの。陽が先に仕掛ける側で、陰が返す側」
「ということは、今はバルツェおじさまが陽ですね。シリンは陰?」
「うん。シリン、陰の太刀のほうが得意なんだって」
「シリンらしいですね」
「だよね」
 これが友人たちの共通認識だった。


 竜人の父子が猛烈な勢いで打ち合っていると、蒼い鱗の竜人がぴょこりと姿を見せた。白衣を着ている。
 バルツェの兄にして、魔王軍技官たちのトップであるクルツェだ。
「バルツェ、訓練しながらでいいから聞いてくれないかね。『四号』の分析結果が出たよ」


「四号というと、ああ……先日押収したロルムンド産魔撃銃ですね、兄さん」
「なんで説明するのかね。秘匿名が台無しだ」
 クルツェが渋い顔をする。
 バルツェは息子の猛攻を華麗に捌きながら、楽しげに笑った。


「フリーデたちのことなら、もう心配はいりませんよ。初等科を卒業した一人前の学生たちだから」
「学生という時点で、まだ一人前とは言えないのではないかな」
 教官であるクルツェは溜息をつくが、手にした報告書をめくった。


「まあいい、どうせここには関係者しかいない。先日のロルムンド産魔撃銃の密輸品『四号』は、おととし押収した『三号』よりも威力が低く、作りも簡素だったよ」
「意外ですね、兄さん。そこだ!」
 シリンの甘い打ち込みを払い、猛然と突きを放つバルツェ。
「うわっ!?」
 よろめいたシリンだが、かろうじて突きを受け流した。


 バルツェは何事もなかったかのような顔をして打ち合いを続けながら、思案するような口調になる。
「ロルムンドの技術や生産力の進歩は、この十年間堅実なものでした。まさか、ロルムンドの国力に陰りが生じているのでは?」
「私や大魔王陛下はそう思ったのだが、ヴァイト殿は別の意見を口にしてね」


 クルツェは眼鏡を押さえながら、こう続ける。
「四号の性能が落ちているのは生産性を重視した結果ではないかと、そう言っておられるのだよ」
「生産性、ですか?」
「そうだ。そしてヴァイト殿の提案に基づいて、四号と三号を比較してみた。製造費、蓄魔鋼の量、工程数、製作日数などだ」


 そしてクルツェは小さく嘆息する。
「ヴァイト殿の指摘通りだったよ。全ての項目で四号は三号を上回る数値を叩き出した。威力などは二割ほど落ちるが、それを考慮してもあまりあるほどに生産性が高い」
「さすがはヴァイト殿ですね」
「技官泣かせの御仁だ。ああも慧眼では、私たちの目が節穴に思えてくる」


 兄の言葉にバルツェは陽気に笑う。
「ヴァイト殿は特別です。あの方は……そう、フリーデンリヒター様と同じ気配をまとっていますから」
「気配かね。非科学的な形容だ」
 クルツェは眼鏡を外す。
「だが、私も同意見だよ。不思議と懐かしい気持ちになる」
「でしょう? もらった!」
 笑いながらバルツェは身を屈め、地面を蹴った。


「わっ!?」
 ほとんど反応できないまま両手の剣を叩き落とされ、シリンが尻餅をつく。
 その鼻先にはバルツェの剣の切っ先が向けられていた。
「ま、参りました父上!」
「上達したな、シリン。私がお前ぐらいの頃は、こんなに戦えなかったぞ。大したものだ。自信を持っていい」
 上機嫌で剣を収めながら、バルツェが笑う。


 そんな竜人ファミリーのやりとりをぼんやり見ていたフリーデに、クルツェが振り向いた。
「そうそう、ヴァイト殿が探しておられたよ。君に吉報があるそうだ」
「えっ、なんですか!?」


 そこにヴァイトがやってくる。副官のカイトと交易商のマオを伴っていた。
「やめましょうよ、ヴァイトさん! こいつは教育に悪いですって!」
「だったらあなたが引率すればいいじゃないですか」


 マオが冷たく言うと、カイトが反論する。
「人工蓄魔鋼の開発をほっといていいのならそうしてやるよ。リュッコに全部任せてみろ、またとんでもないもの作るぞ」
「ああ……いや、もう懲りました。あのときの投資額、取り返すのに半年かかりましたから……」
 マオがげんなりしている。


 後方の二人をほっといて、ヴァイトがフリーデに話しかけてきた。
「フリーデ。試験結果を見たら、まっすぐ帰宅しろと言っただろう?」
「そうだっけ?」
「そうだよ。……あれ、言ってなかったかな?」
 ヴァイトが首を傾げるので、フリーデも一緒に首を傾げた。


「まあいいか」
「まあいいよね」
 似たもの親子は笑い、そしてヴァイトがこう続ける。
「卒業試験合格おめでとう。三十二人中三位は、立派な成績だ。だから新学期が始まるまで、短期の留学を許可しようと思う」
「やった! 長期でもいいよ!」


「この留学をきちんと終えられたら考えてやる」
 ヴァイトは苦笑してそう答え、シリンとユヒテにも声をかけた。
「君たちも留学のお許しが出たぞ、良かったな」
 バルツェがその言葉を継いで、息子に語りかける。
「今の稽古でお前の腕前も確認した。これだけ基礎ができていれば、留学先で迷惑をかけることもないだろう。後は礼節を忘れないようにな」
「はい! ありがとうございます、父上!」
 シリンが目を輝かせて一礼した。


 ヴァイトはユヒテに視線を向けて苦笑する。
「ユヒト殿はあっさり許可してくれたんだが、アズール殿が心配していたよ。説得するのに時間がかかった」
「すみません、お父様は本当に心配性ですから……」


 するとマオとカイトがほぼ同時に口を開く。
「お父様は設計技師ですからね、慎重で心配性なぐらいでちょうどいいんですよ」
「この男に賛成したくはないけど、こいつの言う通りだよ。あの慎重さは尊敬に値する」
「あなたの慎重さは単に臆病なだけですけどね」
「なんだとこの野郎」


 直後にまた言い争いを始めた大人二人を放置して、フリーデたち三人は顔を見合わせる。
「やったね!」
「ああ、やったね」
「やりましたね」
 にんまりと笑い、手を重ねる三人。


 ユヒテが微笑む。
「留学生チーム、フリーデ団の結成ですね」
「なんで私の名前が!? 卒業試験は三位だよ?」
「そりゃ君が……まあいいや」
 シリンが説明をあっさり放棄したので、フリーデは首を傾げた。


「よくわからないけど……。あ、お父さん! 私たちの留学先ってどこ!? ベルネハイネン? それともヴィエラ?」
 するとヴァイトとバルツェが顔を見合わせ、こちらもにんまりと笑う。
 ヴァイトは笑いながら告げた。


「いいや、ドニエスクだ。開拓都市とか戦球都市とか呼ばれる、あのドニエスクだよ」
「いやっほぅ! 私戦球だいすき! 球技場見たい!」
「あそこは今一番活気があって、動きの激しい街だ。教科書では学べないことがたくさん学べ……こら、聞きなさい」
 ぴょんぴょん跳ねているフリーデを制して、ヴァイトが続ける。


「さて、ウォーロイ殿が早く来いと言っているから、さっそく準備しようか。早く来ないとリューンハイトまで街を拡張するぞと言ってたよ」
「大丈夫、今すぐでも行けるよ!」
 フリーデは満面の笑みを浮かべて、ガッツポーズしてみせた。
※次回「球技場の街」更新は2月10日(金)の予定です(書籍化作業中のため、更新日が前後する可能性があります)。
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